翌日…

グラウンドで練習をする一年生達。悠那はボールを持ち、天馬は彼女が所持しているボールを奪おうと必死に食らいついていた。

「天馬!ボールに食らいついていけ!悠那は相手の動きをよく見ろ!」
『「はい!」』

神童のアドバイスに天馬と悠那は防攻戦をしながらも返事を返す。
そんな光景を神童は三国の隣で見守っていた。
目の前で繰り広げられる攻防戦。悠那も天馬も一歩も引かずにボールの奪い合いをしていた。
もちろん、決してこれは二人だけでやっている訳じゃない。剣城を抜いた一年生達全員が練習していたのだ。天馬のいつこさ故に悠那は渋っていたのか、近くに居た信助にパスを出した。
パスを受けた信助はそのままドリブルをしていく。

「…あれ?」
「どうしたの信助?」

しばらくボールを奪われまいとドリブルをしていた信助が急に止まりだした。それを見た一年生達もまた自然と走るのを止めて信助へと振り返る。
振り返って彼を見るなり、信助は自分の後ろを振り返っており表情が伺えなかった。だが、彼が見る先は会話を弾ませているであろう神童と三国の姿があった。

「…何か、首筋がチリチリするんだけど…」
『虫が居るんじゃない?』

そして、後ろを向いたまま自分の首後ろをさすりだす。チリチリという感覚は分からないが、何か虫でも居るのではないか、と悠那が彼の背後へといき信助のさすっている箇所をマジマジと見やる。見られていた信助は気まずそうに視線を後ろではなく地面に落としていた。
だが、信助の項部分にはそれっぽいものは居なかった。まあ居たら居たで困るが。

『ありゃ、居ない』
「んー、まあいっか。それより練習練習!」

悠那の確認が終わったのを見て、若干気にするように唸ったが今は部活中であり、自分達は練習sている身。あまりその場に滞在しているとキャプテンやら監督やらに注意を受けてしまう。それに何より今はとても気分がいい。
木戸川の試合の時、新しい必殺技が出来た事が何より嬉しかったのだ。相手は練習してくれていた天馬ではなかったが、狩屋でも全く不満じゃなかった。
信助はそれ以上首筋を気にする素振りを見せずにボールを蹴り始めた。そんな彼を見て、天馬達もまた後を追うように追いかけた。

「そういえば、木戸川戦で溺れかけた割には風邪ひかなかったね悠那」

へっくしょん!ってたくさんくしゃみしてたのにさ、と信助を追いかけていれば狩屋がそう話しかけてきた。その言葉に耳を貸しながら木戸川戦が終わった直後の事を思い出す。確かに自分は溺れかけた、というより溺れていた。だが、もう少し早く助けてくれればあんな事までにはならなかった。…総介さんにも叩かれずに済んだだろう。

『私は体が丈夫だからねっ』

フッとクールに言ってみた。クール(笑)
とか何とか言ってみせれば、狩屋にはプっと吹かれてしまった。

「バカは風邪ひかないの間違いじゃない?」
『っな?!
そういう皆だって寒い時期に海に落ちたじゃないか!しかも、溺れている私を見るなり笑うってさ!皆して喧嘩売ってんのかと思ったよ!ていうか初めて皆に向けて怒りが芽生えたね』
「っう、そ、それは…」

そりゃもうふざけんなと心の中で皆を恨んだね。京介も天馬も皆だ皆。まあベンチに居た人達は仕方ないと思うがせめて笑ってほしくなかった。
そう思った事を狩屋に向けてぶちまける悠那。どうやらまだ根に持っていたらしく、チッと彼女らしいような彼女らしくないような感じで舌打ちをした。それを見た狩屋は図星だったのか、押し黙ってしまう。だが、次にはいつものようなあの笑みを悠那に向けた。

「ごめんごめん、あの時の悠那ってどうしてもバカらしく見えてさあ」
『それは素で言ってんのか?そうなのか?
…くそう、マサキにまでバカって言ってきてえ…輝慰めろー!!』
「え、え、ええ?」

明らかに申し訳なさそうに言うもんだから、悠那は拗ねるように自分の前を走っている輝へと一気にスピードを上げる。そして、呼ばれて挙動不審になっている彼に向かって飛びついた。
そんな彼女に輝はどうすればいいのか分からずに思わず走るのを止めてしまう。今の彼の顔を見てみれば、彼はこれでもかというくらい真っ赤にさせていた。
その様子を見ていた天馬と信助もまた、走るのを止めて天馬はムッと面白くなさそう表情をしながら悠那を見やる。

「悠那ー“ハンターズネット”食らいたくないよね?」
「“スパイラルドロー”の威力ってどのくらいか知りたくない?ユナ」
『え、ちょ、まっ?!』

普段可愛い系に入るであろう二人が本気の顔を見せた瞬間だった。

…………
………

空が完全に茜色になった頃。まだ雷門のグラウンドにはサッカーの練習をやり続けている選手達が居た。そんな中、ベンチの近くに居たのは染岡と向かい合っている春奈と鬼道が居た。天馬達がそんな彼等を気にする訳でもなく練習を続けている。
もちろん、そんな事は染岡達にとってどうでも良かった。むしろそれでいいと、染岡が言ったのだ。

「本当にイタリアに帰っちゃうんですか?錦君、がっかりしますよ?」
「チームメイトが待ってるからな。それに鬼道監督の邪魔になっちゃ困る」
「お前には助けられた…感謝している」

そう、お別れの時間が来ていたのだ。どうやら染岡が日本に来た理由は錦が心配だから、ちゃんとやっているか気になったからである。彼を弟子として認めた結果である。最終的に自分が出る幕となってしまったが、それでも雷門の為になれたのなら、錦の為になれたのなら本望だ。
それについて鬼道に改めてお礼を言われた染岡は照れ臭そうに頬をポリポリと掻きながら「おいおい、照れるだろうが」と言った。

「…まあ、それよりあれだ。
……分かっているだろうが、ホーリーロードもこれからますます大変だ。頑張ってくれよ。鬼道監督」
「フッ…お前もな」
「おうっ。じゃあな」

そう言って白いハット帽をかぶり直しながら自分の旧友に背を向けて去ろうとする染岡。
夕日に向けて歩く彼を男らしいと言わずに何と言うのだろうか。
錦にも別れを言わずに、彼は男らしくこの雷門を去った。


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