快彦から蹴り込まれたボールは三国の居る反対側にいってしまい、三国はそのシュートを防げれる状態ではなかった。

「しまった!」
「…!

…信助君!!」
「え?」

もう間に合わない。やっと同点にまで追いつけたのにここで点を取られてしまったら、雷門は負けてしまう。もう時間がない。三国の状況を理解した狩屋はダメ元を覚悟に信助の名前を呼んだ。彼は一体何をする気なのだろうか。
それは、次の言動でほとんど理解出来た。

「飛んで来い!!」
「! うん!分かった!!」

それは昨日までの練習中までの事。天馬と信助が特訓していた二人技。確かにゴール付近に居るのは狩屋と信助しかいない。天馬を一々呼んでいたらゴールは決まってしまうだろう。この技は狩屋と信助が今、やらなければならなかった。

「(俺がやるしかないだろ…!)」

次の瞬間、信助は高く跳ねて狩屋もまた自分の体を反らせて、同時に足裏を合わせた。練習の時はこの時点でいつも失敗に終わっている。狩屋と信助は大丈夫だろうか、なんて不安げに二人を見ていた時だった。合わせた瞬間、二人の足からは稲妻が走りだし、力が溜まっていくのが分かった。

「「“かっとびディフェンス”!!」」

信助はジャンプするように吹っ飛んでいき、狩屋は空中で一回転をして着地してみせる。

「いけえっ!!」
「どっかーん!!」

飛んでいく信助の向かう先は快彦が放ったボールの方。その速度は速く、直ぐにボールの所までいき信助はそのボールを頭で止めてみせた。

「!」
『すご…』

止めた…
頭で止めた信助はそのままボールを足元に落とし、勢いよく踏んで見せる。止めてみせた信助もスゴイが、失敗続きだった必殺技を完成させてしまった狩屋もかなりのものだ。名前は練習とは違ったが、必殺技は必殺技。悠那は内心で拍手を彼等に送った。

「信助…!」

「ナイスカバー!!」
「いいフォローしてんじゃねえか」

ぶっつけ本番とはこの事を言うのだろう。息もぴったりと合っており、いきなり技を完成させてしまったのだ。心強いDF技を手に入れた瞬間だった。

「なんとか上手くいったなっ」
「うん!」

「っ…」

狩屋と信助が傍らで喜ぶ中、ボールを止められた事に悔しそうに顔を歪ませる快彦。せっかく総介が自分の為にパスをしてくれたというのに、これではまた自分は怒鳴られるに違いない。決められる筈だったシュートを、止められてしまったのだから。
だが、そんな快彦に総介は狩屋と信助を追いかけながら口を開いた。

「快彦!まだ試合は終わってないぞ!!」
「兄さん…!」

その言葉に、快彦は直ぐに顔を明るくさせた。ああ、自分はバカだ。もう、自分の兄さんがそんな事で怒鳴る筈がないのに。むしろ、自分を励ましてくれているじゃないか。
快彦は直ぐに走りだした。兄弟共にボールを追いかける。
どうやら、この二人はもう大丈夫らしい。

『うん、』

そうだよ、サッカーはやっぱりこうでなきゃ!

「(分かってくれたようだね…)」

アフロディもこれを望んでいた。前半よりもいい笑みを浮かべたアフロディは彼等を見守るように見ていた。

…………
………

残り時間はあと僅か。試合は引き分けに終わるのか、それとも雷門が木戸川にシュートを決めるのか。

「キャプテン!」
「天馬!」

ドリブルを続けていた信助は神童にパスを回す。神童もまたそれを受け止めると直ぐに天馬へとパスを回した。

「いけ!敵陣を一気に突っ切って錦に繋ぐんだ!!」
「はい!!」

そう天馬に指示を出した後、神童は大きく手を振るった。滑らかに動くと同時に、その後から光の道標が現れる。“神のタクト”は天馬にその道標を記し、天馬もまた貴志部と清水を交わしていく。

「行かせるか!!…うぉぉおお!!

…“鉄騎兵ナイト”!!」

天馬をこれ以上行かせる訳にいかない。総介は化身を出現させて天馬の行く手を阻んだ。

「負けるか!!うぉぉおお!!

…“魔神ペガサス”!!」

化身には化身と、天馬も対抗するべく自分の化身を繰り出す。出現させたと同時に、ペガサスはナイトへと思い切り振りかざした拳を叩き付けてナイトの化身を靄へと戻した。
天馬は総介をも抜いてしまった。

「!」

「よっしゃ!のってきた!」
「いけいけ!!」

「錦先輩!!」
「…おう!」

総介を抜いた天馬は直ぐに神童に言われた通りに錦へとパスを回す。だが、その錦は天馬からボールを貰う際、何故か視線を悠那の方へとやってきた。
あれ、今私見られた?なんて思った矢先、天馬から受け取ったボールを悠那に向かって蹴りだした。化身を出す訳でもなく、回された。瞬時にそのボールを胸で受け止めてしまったが、改めて錦の行動に驚きを露わにする。だが、それは指示を出した神童も、パスを出した天馬もそうだった。

『ちょ、え…錦兄さ…』
「おまんが決めるきに!!」
『え…』

そんな…悠那は困ったように眉を潜めた。確かにこのフィールドを駆けられるようにはなっている。だけど、それはあまりボールが来なかったからであり、今こうして渡されても…

『あ、ああ…』

悠那の動きはまた止まってしまった。訳の分からない恐怖がまた自分に襲ってきて、訳の分からない声を漏らしてしまう。
早くしないと、時間が…ボールが…

ピッチダウンが…

そう思った瞬間、彼女の脳裡に走馬灯のように再生されたのは前半戦の時の休憩時間の時の事だった。

――おまんが活躍出来なかった理由をこのフィールドの所為にするのか?

「動きが止まっている今がチャンスだ!!」

跳沢の言葉に、和泉、清水が動き始めた。こちらに向かってくる木戸川の選手達。
彼女の耳に、雷門の焦りの声が響いてきた。
その時、

「――おい!何してんだてめえ!!」
『――!』

不意に、総介の言葉が雷門の焦りの声よりも響いてきた。思わず俯かせていた顔を彼に向けた。だが、驚いているのは悠那だけではなかった。雷門どころや木戸川の選手達も目を見開かせている。
それもそうだろう、自分達は敵同士というのに、彼は悠那に向けて声を上げてきたのだから。

「お前、それで革命を起こしてる様かよ!?違うだろ!?お前の起こしてる革命はそんなんじゃねえだろうが!!」
「兄さん…」
「総介…」

今の総介は、まるで自分の弟を叱るかのように悠那に言っている。悠那ももちろんその言葉に目を見開かせているが、快彦や貴志部もまた彼を見るなり目を見開かせていた。
ああ、これで自分が怒られるのは二回目だな。

「俺がムカついた雷門は、そんなんで終わらねえんだよ!!」

…錦兄さん。私は、もう逃げないよ。フィフスセクターからも、このフィールドからも!!
ありがとうございます、総介さん。

『“旋風天翔”!!』

自分とボールを軸に風を纏わせた片足を回す。一回転すれば強力な風が旋風のように彼女の周りに出現させた。そしてボールを持ちながらジャンプをして空中からボールをその強力な風に蹴り込んだ。風はボールの衝撃波で数人の選手を吹き飛ばした。

「「「「!」」」」
『…え、』

今、私…
状況が上手く掴めない悠那。周りも周りで目を見開かせている。だが、まだ試合は終わっていない。悠那は自分の行動に唖然としながらも、キープしたボールを木戸川の陣内へと持っていった。

「今度こそ止めてやるぜえっ!!うぉぉおお!!

“重機兵バロン”!!」
『止めさせない!革命を終わらせるまで、私達の勢いは…止めさせない!!

はぁぁああっ!!』

DF陣を一気に抜き去り、GKと向き合う形となった。硬山は彼女が化身使いとは知らないのか、化身を繰り出してきた。
それに対抗しようと、悠那もまた両手を思い切り下げて化身の靄を背中から出現させる。

『“大空聖チエロ”!!』

彼女の背後から現れたその女性の化身。彼女の背中から見えるクリスタル状の翼が、いつにも増して煌めいて見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

『“ウーラノス”!!』
「“ガーディアンシールド”!!」

炎なのにも関わらず、氷を纏っているその必殺技。それに対抗しようと硬山もまたここで化身の必殺技を繰り出してきた。一度は硬山が押したように見えたその必殺技。
だが、

『負けるかぁぁああ―――っ!!』
「なに?!」

パキッ…

シールドになっていた盾は、チエロの必殺技でどんどんと凍っていく。そして、その盾は完全に凍ってしまいバロンはゴールを許してしまった。

ピ―――ッ!!

三点目は錦ではなく、悠那の化身が取った。

『やっ…たの…?』

《ご…ゴ―――ルッ!!谷宮、新しい必殺技を生み出し三点目を取ったあ―――!!》

再び茫然とする悠那。目の前には悔しそうにする硬山とゴールの中にあるボール。そのボールは悠那の化身の必殺技の所為か、少しだけ氷が付いておりボールを太陽の光で一層輝かせて見させている。
そして―――…

ピッピッピ―――ッ!!

《おっと、ここでホイッスル!3対2。雷門の勝利で試合終了だあ―!!》

「「!?」」
『勝った…?』

初めての勝利って訳じゃないのに、どうしてこんなにも清々しいのだろうか?きっとそれは、このフィールドでも皆と一緒に対等に戦えたからだろう。そして、自分はこのフィールドで、少しだけ水や海を克服出来たのだ。

『勝った…!勝ったんだ!!』

やったー!!と、両手を挙げて、大雑把にも雷門の勝利を喜んでいた。不意に視線を変えてみれば、悔しそうにしながらもこちらを見て微笑んでいる総介の姿が。実際、あの人にも助けられた。お礼を言わなきゃ…そう思い、足を前に出そうとした時だった。

ガタンッ!!

「…!?」
「「「「うわあっ!?」」」」
『――え、』

下からはすっかりその音に慣れてしまったあの音。何が起きたのかは分からない。だって試合は今さっき終わったばかりなのだから、誰もこんなの予想していなかったから――…

バシャッ!!

気付けば、フィールドに立っていた雷門の皆が、水の中。



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