後半戦が今、始まろうとしていた。得点は2-0で木戸川清修がリードしている。雷門は果たして追いつける事が出来るのか。後半に入り、悠那は浜野と交代し更にポジションを変えてきた。FWである剣城と倉間はMFに下げてMFである錦と悠那をFWに上げてきた。

「(何で俺を出してくれないド!!)」

『……』

先程やっと震えが収まったかと思われたが、フィールドに立つなりまた震えが襲ってきた。震える左手を右手で必死に抑えてみるが、右手も右手で震えているから意味がない。むしろ増してきている気がする。

「大丈夫きに」

それを横目で見ていたのか、錦は目の前に居る木戸川の選手に目を向けながらそう彼女に励ましてみせた。悠那は錦の方を一度見て、直ぐに前を向く。
そして、深く息を吸い込み深く吐いた後、自分も木戸川の選手達に目をやり、力強く頷いてみせた。

大丈夫、自分だってそう言ってこのフィールドに立ったんじゃないか。

「(鏡である女の子を入れてきたか…10番と9番はミドルシュートを狙ってくるのか…?)」

ピ―――ッ!!

《今、キックオフです!!》

長い笛の音と共に河宮からボールを貰い、一気に上がりだす総介。

「総介!パスだ!!」
「…これで終わりだぜ!」

貴志部の言葉をまたもや無視し、そのまま総介は上がっていく。だが、今度はそう簡単にはいかなかった。

バッ!!

「!」

誰にもパスしない総介を見てチャンスだと思ったのか、剣城が総介からあっさりとボールを奪ってみせた。いきなりの事で総介は動きを止める。

「何?!」
「あんまり調子に乗るんじゃないぞ」

ボールを奪われた事により総介が驚いていれば、不敵に笑って見せる剣城。そして、そのままスピードを上げていきながらドリブルをしていく。

「!奴にシュートを打たすな!!」

貴志部の指示にDF四人が剣城のマークに付いた。だが、剣城だけがシュートを打つ事が出来ない訳じゃない。フッと剣城は再び笑って見せ、ボールを横に軽く蹴った。その先にはノーマークの錦がおり、剣城からボールを貰っていた。

「っ!…10番は囮だと!?」
「錦先輩フリーだ!!」

錦はボールを貰い少しだけ上がった後にドリブルを止めた。
迷い?いや、違う。あの真っ直ぐな瞳は、まさしく…

「これがわしの侍魂ぜよ!
うぉぉおおっ!!」

――日本の侍

「…“戦国武神ムサシ”!!」
「「「!?」」」
『うそ…』

錦の背後に宿るは、甲冑を着て、兜を被り、二刀流の刀を持つ化身。“戦国武神ムサシ”。その名の通りの化身だった。

「あいつ、化身が出せたのかよ…!」

皆が錦の化身を見て驚く中、染岡は一人誰に向かってでもなく頷いた。

「いくぜよ!どりゃぁぁあっ!!」
「うぉぉおおっ!!

っ!…うわぁぁあっ!!」

錦の化身に対抗しようと、硬山も背後から藍色の靄を出して化身を出そうとするが、その靄は具現化する間もなく、ゴールを許してしまった。

ピ―――ッ!!

《ゴ―――ルッ!!錦の化身シュートが決まったあ!!雷門一点返したぞお!!》

「やったあ!!」
「いいぞ!錦い!!」

「…はあ…はあ、」

シュートが決まった途端に喜びだすマネージャー達。天馬達もまた嬉しそうにしながら化身を出して少しだけ息を上げている錦に近付いていった。

「錦先輩!」
「錦!」
「お前いつの間に!」
「師匠のおかげぜよ!!」
「あのおっさんの?」

神童達は錦が化身を持っていた事を知らなかったのか、驚きながらも錦の方へ集まってくる。錦は染岡の方を見るなり、化身が使えるようになったのは彼のおかげだと嬉しそうに言った。それに吊られ、天馬達もまた染岡の方を見やる。

「あいつは、もうとっくに化身が出せるようになっていた。ただ、俺にも出来る。そう思える自信が必要だった」
「それで、あんな特訓を…」
「ああ、何でもいい。一つの事を成し遂げれば自信はつくからな。
後は飯でも食えばリラックスして自分の力が発揮出来るだろう」

ポジションに戻っていく錦。前半とは違って見える彼の姿に鬼道と染岡は顔を見合わせてフッと笑いあった。

「よし、あと一点!追いつくぞ!!」
「「「「おう!!」」」」

ピ―――ッ!!

再び試合が始まった。
今度もまた木戸川から攻める番。ホイッスルと共にボールを貰う総介。そのまま先程と同じように上がり出していた。

「そんな事させるかよ!!」

ポコッ…

『ッ!!』

またきたピッチダウンの合図。殆ど自分の目の前ぐらいだ。悠那は怯むように足を一歩ずつ下げていく。すると、その直ぐ後総介の目の前でピッチダウンが起こり、総介の行く手を阻んだ。

「くっ…」
「“ハンターズネット”!!」
「うわっ!」

ピッチダウンに気を取られた総介の隙を付いて狩屋がすぐさま上がり出して必殺技でボールを奪って見せる。
ボールを奪った狩屋は天馬に向けてパスをする。天馬はそれを胸で受け止めて、そのまま上がっていく。が、目の前には和泉が立ち塞がった。

「行かせないよ!」
「“そよ風ステップ”!!」
「うわっ!」

マークに付かれる前に和泉を必殺技で交わし、勢いを殺さないままドリブルで上がっていく。

「ユナ!!」
『…!』

まさか、自分に来るとは思っていなかった。天馬に呼ばれ拍子抜けた表情をさせるものの、ボールは零さずにちゃんと受け取った悠那。だが、上がっていた足は止まってしまった。

「ユナ!!」
『錦兄さん…』

私には、やっぱり無理だ…!動いたらきっとまた…
悠那はその場で固まったまま動こうとしなかった。雷門の皆が「早くパスを!」と言っているが、悠那はそれがまるで聞こえていないのか、動く所かボールも渡そうともしない。木戸川のメンバーは何故だか分からないがチャンスだと思ったのか数人で彼女からボールを奪いに行こうとする。
その時…

ポコッ…

『えっ…』

バシャァァンッ!!

「「「「!?」」」」

突然、悠那の足元が揺れ、それと共に大きな水飛沫が彼女を包み込むように勢いよく現れた。
ヤバい…これじゃ、水の中に…
海独特のしょっぱい匂いが悠那の鼻に入ってきた。それと同時に靴の中に水が浸りだし、足首まで水の中に入ってしまった。

あ、これ死亡フラグ?なんてここまでくると、他人事みたいに思えた。
ああ、全てがスローモーションに見えてくる。もう周りが見えない。

ああ、もう…
嫌になっちゃうなあ…

バッ!!

『えっ』

水が膝まで浸った時だった。誰かが自分の腕を掴んできて勢いよく引きだす。一気に水の中から引き上げられた。目の前の視界が青から色鮮やかな風景に変わった。誰だろう、私を助けてくれたのは…

「おいっ!!」

ぼやける視界をよくよく凝らして、起き上がった。すると、自分の直ぐ下から随分と乱暴な声が聞こえた。京介か倉間先輩か、はたまた欄丸先輩だろうか、と顔を下に向ければ、茶髪の少し長い長髪。
滝総介の怒った顔があった。
…え?総介さん?

「いつまで乗ってるつもりだよ!」
『(ひいっ!)す、すみません!!』

彼の睨み+乱暴な口調、おまけに怒った表情にすっかり怯んでしまった悠那は直ぐさま彼の上から離れた。どうやら自分は総介の上に乗っていたみたいだ。すると、周りには雷門と木戸川のメンバーが数人集まってくる。

「ッチ…」
『(ひえ〜…)』
「ユナ大丈夫?!」

顔を見上げれば顔を青くしながらこちらを見やる天馬と信助の顔。心配そうに自分を見る雷門。
試合は一時中断したらしく、審判もこちらに来ていた。

「大丈夫かいキミ達!」
『は、はい…』
「はい」

総介は立ち上がると直ぐに審判にそう言う。そして、何事も無かったかのように自分の陣地へと戻ろうと足を動かした。

『あの!』
「…何だよ」
『た、助けてくれてありがとうございました!』

そんな彼を呼び止めれば先程と同じような睨みを効かしてくる総介と目が合う。それを見た瞬間、再び怯んでしまった自分が居たが、どもりながらも悠那がお礼を言う。お辞儀もなるべく深く下げれば総介は少しだけ顔を振り向かせる。悠那を見た後、直ぐに顔をそらした。

「勘違いするな。俺は借りを返しただけだ」
『(借り…?)』

何の事だ?と悠那は頭をフル回転させた。そういえば、試合の最初の方で私が叫ばなかったら総介はさんは海の中だった気がする。なるほど、これが自画自賛というものなのか。少し気分がいいかもしれない。悠那はそこで考えるのを止めた。

『はい!』
「!」

悠那がそう返事を遅れながらもすれば、総介は驚いたのかこちらを振り返ってくる。何も疑わない彼女を見て、総介は目を見開かせるが顔を徐々に赤くしていく。
思えば、自分はこんな性格だからあまりお礼なんて言われた事がない。久しぶりにお礼を言われたのかもしれない。慣れない。総介はどう反応すればいいのか分からなくなってしまい、顔をそむけた。

「次は助けねえからな!!」

総介はそう怒鳴りつけるように言うと、自分の陣地に戻っていく。その姿を見るなり冷や汗を垂らしながら貴志部達も戻っていく。

『…ごめんなさい!!』
「「「「え?」」」」

総介達を見送った後、悠那は意を決したように天馬達に振り返り思いきり頭を下げた。それはもう清々しいぐらいにだ。そして、彼女の口から出てきたのは謝罪の言葉。いきなりの事で天馬達は唖然
とする。

『私の不注意でボールを水の中に落としてしまい、すみませんでした!』

悠那は頭を下げながらそう自分の失敗を言う。天馬達は顔を見合わせて、頷きあった。

「気にするな」
「ただし、ボーっとしてた理由は後でたっぷり聞かせて貰うからな」
『Σ!?…あ、はははは…』

許して貰ったというのに霧野の言う事に乾いた笑いしか出きなかった。

…………
………

試合は再び再開し、ボールは最初と同じく木戸川から。
河宮から再び総介の方にボールが渡され上がり出す総介。

「今度こそ…!」
「パスをしろ!総介!」
「うるせえんだよ!」

やはり貴志部の指示は聞かずに、総介は雷門へと攻め込んでくる。だが、目の前に今度は倉間が立ち塞がった。

「させるかよ!!」
「くっ…」

スライディングでボールを奪った倉間。総介をそのまま抜き去り、ドリブルで上がっていく。

「行かせるか!」
「錦!」
「おう!」

倉間は横を通った錦にパスを出し、ボールを貰った錦は先程と同じように上がっていく。そして、これもまた先程と同じように十分な距離で止まり、再び背後から藍色の靄を出した。

「うぉぉおおっ!!
“戦国武神ムサシ”!!」
「硬山!!」

「さっきは油断したが今度はそうはいかないぜえ!!」

そう宣言した硬山の背後から溢れだしているのは先程出し切れなかった藍色の靄。今度は化身を出す間があり、硬山は自分の化身を繰り出した。

「うぉぉおおっ!!
“重機兵バロン”!!」
「はぁぁああっ!“武神連斬”!!」

錦が蹴ると同時に侍の化身は刀を大きく振るう。その瞬間赤いオーラを纏いだしたボールはそのまま硬山の化身の化身は錦の化身と力では負けてしまいボールは再び吸い込まれるように再びゴールした。

《ゴ―――ル!!雷門!とうとう同点に追いついたあー!!試合は振り出しに戻ったぞー!!》

「よしっ」
「「やったあー!!」」

何とか流れは雷門の方にも流れてきて振り出しに戻った。逆転のチャンスを掴み取った雷門は盛大にそれに喜ぶ。錦も清々しい顔で得点版を見上げる。

「…くっ」

「(…これでこそ雷門)」

今度は木戸川が悔しがる番。総介も渋い表情をさせながら悔しがる。そんな中、木戸川のベンチではアフロディは一人だけ、その状況を楽しむように笑みを浮かべていた。

『…大丈夫』


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