ポジションも決まり、お互いにあの板のようなフィールドへと並びだす。
ホーリーロード全国大会三回戦は去年の決勝と同じ木戸川清修対雷門となった。確か去年は2-1で木戸川が勝っていた。雷門の雪辱は今回で叶うのか。それは雷門の選手にかかっている。
「悠那」
『あ、はい?』
王将の試合開始の実況が自分の耳に入ってきている中、ベンチに座っていた鬼道が声をかえてきた。一体どうしたのだろうか、と悠那は一旦フィールドから目を離して鬼道の方へと向ける。
「後半はちゃんと出るんだぞ」
「!?」
『うぐっ…は、はい…分かりました…』
目を向ければまさかの後半は必ず出ろと言われる始末。どうやら悠那がカナヅチという事は最初から知っていたらしく、敢えて前半は出さないようにしていたのだろう。彼の横にるポジション表を見てみれば、本来自分が入っていたであろう場所には自分の名前が書いてあったが、上書きされておりそこには浜野と書かれている。つまり、今回自分はMFとして出る事になっていたのだ。
有無を言わせない無言の圧力。悠那はそれに思わず苦笑の笑みを浮かべた。
だが、そんな会話をしている傍ら、天城は悔しそうに自分の膝に置いていた拳を強く握りしめた。
『(気持ちは嬉しいんだけど…後半…後半…!)』←
「何で悠那は外されたんだ?」
「実力はある方だよな?」
『Σ!?あ、あははは…何ででしょう…』
「「?」」
一方、悠那がカナヅチだとは知らない、いやカナヅチ以上の思いを持っている事を知らない一乃と青山は外されてしまった悠那に疑問を抱く。確かにメンバーも増えてしまい、出せないというのもあるが後半出すくらいなら今出してもいい筈。
言えない…カナヅチで海が怖いなんて、恥ずかしくて言えやしない。
なんて内心訴えるものの、それでも悟られてほしくなくて、黙ってフィールドを見やる。
「行くぜよ!」
「皆!頑張って下さいね!!」
『が、頑張れ〜…』
「そんなんじゃ聞こえませんよ…?」
『すみません…』
「…?」
気合いを入れる錦。皆の表情も真剣そのもの。ベンチに座っていた輝は一生懸命皆に声をかけている。自分もただ座って見ているだけじゃなくてちゃんと応援しないと、と思った悠那は輝の真似をするように皆に向けて言う。だが、自分が予想していたよりも声は小さくなっており、速水に指摘されてしまった。
確かにこれでは聞こえないな、と悠那は内心嘆きながら何故か速水に謝っていた。
「(何で俺が外されるド?俺だって、ちゃんと鬼道監督のメニューは頑張ってやってたド…なのに、何で俺だけ…)」
落ち込んでいたのは悠那だけじゃなかった。天城は自分が外された事に疑問やらショックを感じている。もはやフィールドにすら目を向ける気力すら彼にはなかった。
そんな中、試合開始の時間は徐々に近付いていく。
貴志部は目の前に居る神童を見た。
「(勝負だ、神童!)」
ピ―――ッ!!
試合開始の合図が鳴り響いた。
雷門からのキックオフで試合は動く。剣城は足元にあったボールを隣に居た倉間に渡した。
「お前等なんかに負けるかよ!…神童!」
倉間は直ぐにドリブルをせずに、神童へとパスを回す。神童もまたドリブルをせずに錦へパスをし、錦もまた天馬へとパスを回した。
いいぞ天馬、その調子だ。悠那は声に出すのを諦めて心の中で彼を応援の言葉をかける。だが、そう思ったと同時に、ボールを奪おうと木戸川の選手である跳沢が向かってきた。
「行かせるか!」
「「「「!?」」」」
『あっちゃあ…』
天馬のドリブルは中々奪い難い。何故ならドリブルは天馬の得意分野であり、あの神童をも抜かした。それは一緒に練習してきた自分達だからこそ分かっていた。今までの試合の中で天馬のドリブルは通じている。だから仲間割れをしている木戸川は絶対に奪えないと思っていた。さっきまでは。跳沢は天馬の勢いを止めずにボールを奪って見せたのだ。さすが実力で優勝しただけはある。
それにはさすがの皆も驚きを隠せない。
「天馬のドリブルからボールを奪うなんて、やっぱりスゴイや…!」
「けど、所詮バラバラチームよ!貰い〜!」
「和泉!」
こちらへと上がってくる跳沢。そんな彼からボールを奪いに行こうと浜野が動くが、跳沢はボールが奪われる前に和泉にパスを出した。
「行かせないぜよ!」
「大磯川!」
錦がボールを奪いに行くが、和泉は次に大磯川へパスを回す。大磯川を始め、雷門が最初パスを繋いでいたように木戸川もまた、奪われまいとパスを繋げていった。他の人から見たらきっとこの連携は当たり前の事なのだが、雷門にとっては驚かざるをえない光景だった。バラバラと聞いていたチームが、皆一丸となって連携をしている。
「どういう事だ!?仲間割れをしてんたんじゃなかったのか…?」
そう、一乃と青山の話しから木戸川は今仲間割れをしているという情報しか聞いていなかった。たった一日二日で直る訳がないと思われていた。
なのに、今の光景は何だろうか?まるでその面影は最初からなかったようにパスが繋がっている。仲間割れをしていたのならこんな的確にパスは繋がらない筈。
「ああ、してたさ。けど、今は違う!」
『(…もしかして、照美兄さんが監督になったから何かが変わったって事…?)』
神童の言葉を肯定し自身があるように今を否定した。その言葉を聞いて悠那は不意に視線を照美に移した。相変わらず立っているだけで綺麗に見えてしまうが、やはり表情は崩さず黙って選手達の様子を見ている。
まるで彼等を見守るかのように。
「今の俺達はフィフスセクターの為でも革命の為でもない。
俺達自身の為に戦ってるんだ!!」
「!」
『は…』
はははっ!すっごいや照美兄さん!これなら何も気にせず、本気のサッカーが出来る。今は試合出来ないけど、出来るなら彼等とサッカーをやってみたい。悠那はそう期待を抱きながら目の前で繰り広げられる試合を見た。
「……」
――僕は聖帝に頼んで、木戸川清修の監督を引き受けた時は、チームは崩壊寸前だった。
****
「退けえ!」
「!…やりやがったなあ?!」
このままでは皆サッカーに潰されてしまう。
フィフスセクターでも革命でもいい。僕は彼等を救いたいと思った。
「雷門を倒せ!」
「「「「!!」」」」
「そうすれば、キミ達の進むべき道は見える!」
****
「貴志部!」
跳沢からのパス。貴志部は直ぐにそのボールを受け止めて、そのまま勢いよく雷門へ上がってきた。
だが、そんな彼を「行かせるかよ!」と狩屋と信助が貴志部に近付いていき、ボールを奪おうとする。だが、やはりここで奪われる程甘くはなかった。貴志部は持前のドリブルで二人を勢いよく抜き去った。
『スゴイ…!』
「「「「!?」」」」
「ふっ…!」
「ぁ、!」
貴志部が狩屋と信助を交わした事に気を取られていた天馬。その天馬にマークをされていた総介には好都合な訳で、総介はあっさりと天馬のマークから外れる。
天馬が驚く間に、どんどんと上がって行く総介。そんな彼を見つけた貴志部は直ぐに彼へとボールをパスを回した。
「総介!」
総介には今誰もマークが付いていない。それどころか雷門のゴール前にはキーパーである三国以外誰も居ない。狩屋と信助が唯一のDFだったが、ああも簡単に抜かれてしまうと雷門はピンチになってくる。シュートチャンスを相手に渡してしまった以上、あとは三国を信じるしかない。
「三国さん!」
「貰ったぜ!!」
三国は総介と一対一という状態。いつシュートが放たれてもいいよう、三国は目の前の状況に集中する。総介はシュート体勢に入り、早くも一点を取ろうとしていた。
だが…
ボコッ…
『え…』
総介が決めようとした時だった。
何か小さな音が悠那の耳に届き、それと同時に自分の真下、つまり海の水に違和感を覚えた。
この感覚は知っている。何年か前に自分の記憶に叩き付けてきた苦しいそんな思い。
この感覚は嫌だ…ダメだ…!
怖い…!
『――嫌だあっ!』
「「「「!?」」」」
「何…?」
ザパァァアアンッ!!!!
「「「「ッ!?」」」」
「何?!」
バシャァァ…
フィールドの木面の一部が、勢いよく沈んだ――…
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