「――つまり、仲間割れって事か?」
「……」
『?』

一乃と青山から木戸川の今の状況を聞き終わり、三国がそう確信したように言った。その言葉に何故か神童は不安そうに顔を曇らせている。そんな神童に気付いた悠那は疑問符を浮かばせる。だけど、別に悠那は気にしなかった。何故なら個人的なものだと思ったから。

「っまあ、いずれにしろこれで次の試合は楽勝だド!」
「いくら木戸川でも、それじゃ勝てっこないからね〜」

確かにこのままうまくいけば、雷門の勝利は勝てるかもしれない。一度は負けたからこそ三年生や二年生は今の木戸川と戦いたかった。
次々と表情を明るくしていく雷門の皆。
だが、一人だけ表情を曇らせたままの人物が一人居た。

「――…そう上手くいきますかね」

皆がテンションを上げている中、剣城は一人だけ静かにそう言った。
静かと言っても、ちゃんと皆には剣城の言葉は聞こえていた。だからこそ、彼の言葉に違和感を覚えた。

「どういう事だ?」


意味が分からないと言わんばかりに、三国が剣城に尋ねる。すると、その問いに答えたのは剣城ではなく皆の会話を黙って聞いていた鬼道が難しそうな表情をさせながら唸った。

「…皆も知っている通り、木戸川清修はフィフスセクターの力が特に働いている学校だ。その木戸川清修に俺達が勝つような事があれば…」
「革命が一気に勢いづく…!」
「「「「!」」」」

つまりフィフスセクターがこのまま放って置く訳がないという事になる。
これはどちらに転んでもこちらに置かれた状況は始めから変わらないのだ。
いや、例えそうだとしても…そうならなかったとしても…

『…私はそんな状態の木戸川に勝っても嬉しくないなあ…』
「…!」
「どうして?」

不意に呟いてみた言葉。そんな言葉を言ってみれば、神童には肩を揺らされるは、天馬に何故と聞かれてしまう。そんな彼の言葉にあくまで勝つのが前提なんだねとツッコミを入れてほしかったと悠那は思った。
だが、自分は何故そんな事を思ったのか…悠那自信も分かっていなかった。

『どうしてって…』

よく分かんないけど…
と呟いてみれば、誰かがプっと笑った気がした。そちらを見てみれば、そこには肩を震わせながら笑いを堪えようとしている倉間の姿があった。

「よく分かんないって…!」

お前らしいというか…っと言う倉間。どうやら笑っていたのは倉間らしい。こちらを見るなり、小さく笑う倉間。彼が悠那自信の事について笑うという事は今までには一度としてなかった。まあ、今までが今までだったが、こうして見ると彼もまた可愛いものだと思わず茫然としてしまう。これを直接本人に言ってしまったらもう二度と自分の前では笑ってくれないので出かけた言葉を飲み込んだ。
だが、どうしてあそこまで笑っているのだろうか?笑う要素なんてあっただろうか?と悠那は変な所で悩んでいた。
とりあえず珍しく笑ってくれた倉間も堪能出来た事だし、と悠那は自分の考えていた事を続けた。
木戸川がそこまで荒れているのはその兄弟が中心なのだろう。

『(兄弟かあ…)』

いいなあ、兄弟ってどんな感じだろう。確かに私は血の繋がっていない兄さん姉さんなら居るが、皆の印象は優しいだけだ。(あと面白い)
確か、逸仁も妹が居ると言っていた。彼も兄妹喧嘩というのをした事がるのだろうか。自分もまた喧嘩は京介や天馬など、幼馴染みの喧嘩ぐらいしか経験した事がない。
兄妹…兄弟が、羨ましい…

『…よーしっ』
「「「「?」」」」

突然意気込んだ悠那。
そんな悠那を不思議に思った部員達。彼女の方を見れば、悠那は俯かせていた顔をバッといきなり上げだす。何かを閃いたのはいいが、彼女の行動はいつも突然過ぎる所がある。そんな彼女の行動に驚いたが、一番驚いていたのは近くに居た天馬と信助である。

『天馬!練習しよ!』
「え、いきなりどうしたの?」
『ほら、信助も!』
「あ、ちょっと待ってよ悠那!」

ドリンクを飲んでいた天馬の腕を引き、信助も呼ぶ悠那。今考えていた所のどこに彼女のやる気を燃やす部分があったのか。それは悠那自身も分からなかった。だが、分かるのは何故かそういう気分になった。ほかの皆をベンチに残してグラウンドの隅っこへと移動する。すると少し遅れた所で狩屋が「えっ、ちょっ、待ってよ!」と焦ったように言い、後からこちらの練習に参加しだした。
ぶっちゃけキャプテンや鬼道の指示は丸無視だ。

「…いいのか?神童」
「あ、ああ…俺達も練習するか」

彼女の行動に巻き込まれていく天馬達。そんな彼等を見て、霧野は呆れながら神童に聞けば、神童も唖然としながらも皆に指示を出し、悠那達に遅れを取るまいとグラウンドに入っていき、練習を再開させた。

…………
………

-次の日-

「信助!」
「おお!」

バシッ!

今日もまた天馬達は必殺技の練習。最初は抵抗していた悠那だったが、今では何故かやる気になったおかげか、何とか協力してくれている。
二人の威勢を見て、狩屋がボールを蹴り上げる。それと同時に二人は走り出し、信助は高く跳び上がった。

「うぉぉおおっ!!」
「はぁぁああっ!!

ドッカーン!」
「ジャ――ンプっ!!」

グッ…!

『!』
「いったか?!」

グキッ!

「ぅう?!」
「「うわぁぁああっ!?」」

空中で一瞬だけ止まった気がした。ここまでは昨日と同じ。だが、やはり向きが逆転してしまい、二人は地面に落ちてしまった。

「くぅ〜…っ」
「「いたたたた…」」
『昨日あれだけ練習したのにまだダメかあ…』

当分はこの状態が続きそうだ、と悠那と狩屋は顔を合わせるなり溜め息を吐いた。

「今の、途中までは良かったんじゃない?!」
「うん!」
『「Σ!?」』

何ともまあ…どこまでも前向きな二人だった。確かに前回よりも空中に滞在している時間が少しだけ長かった。本当に少しだけだけど。
だが、これでやっと進歩した段階であろう。これで狩屋や悠那の苦労も少しは報われるだろう。そういう部分では狩屋もちょっとは嬉しそうだ。お互いに顔を見合わせて苦笑の笑みを浮かべた。その時だった。

「「よーっし!狩屋!もう一回!!」」
「お、おお…」
『は、はははは…』
『「はあ…」』

二度目となる溜め息が出た狩屋と悠那だった。

…………
………

-試合当日-

『「行ってきまーす!!」』

勢いよく木枯らし荘のドアを引き、そのまま勢いで走り出す天馬と悠那。外に出て木の葉をホウキで集める秋に一言言い、向かおうとする二人。

「天馬ー悠那ちゃーん!頑張ってねー!」
『「うん!」』

器用に振り向きながら応援してくれた秋に振り向きながら返事をし、二人は走るスピードを速めて、学校へと目指した。

…………
………



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