「うーん…パスタ、ねえ…」
『錦兄さんが言ってたの?』
「「うん」」

葵と悠那は後ろを向きながら天馬と信助から錦が言った“パスタ”について一緒に考える。考えながら歩くのは危ないが、二人は転ばずに目を上に向けて答えを探っている。天馬と信助も見習って最初は一緒に考えるものの、どうも続かなくて二人の意見を待つ事に。

「で、ユナなら分かるかもって先輩達が」
『…いくら私がイタリアからの帰国子女だからって何でも分かる訳じゃ…

……?』

ん?いや、待てよ…と、不意に言葉を遮り自分の記憶を探り出す悠那。そして、自分は以前錦に天馬と似ている事を聞いて同じ事を言われた事を思い出した。だが、その答えで何を教えられたかを完全に忘れている。フィディオに聞いて納得した場面なら思い出せるのだが、肝心な時に自分の記憶というのは使えない。喉の方まで出かかっている答えだが、やはり思い出せない。答えが出ない程気持ち悪い事は無いだろうに。
完全に自分の世界に行ってしまった悠那。顎に手を当てたり、頭を両方の指で抑えたり、必死に考える素振りを見せる悠那。見た所分からないか知らないらしい彼女を天馬と信助は顔を見合わせた。

「どういう事かな?」
「パスタ…パスタでしょ?って事は長くて、柔らかくて…家じゃナポリタンが多いけど…」
『私がイタリアに居る時はミートが多かったなあ…』
「ああ!だからミート好きなんだっ」
『うん!』
「あ、あとカルボラーナとかボンゴレもあるよね!」

段々パスタの種類の話しになっていき、悠那もまたテンションを上がらせる。やはりイタリア育ちと言った所か、自分が育ってきた国の話しになるとやたら自慢げになってくるのだ。そして何よりパスタという食べ物自体が大好きだった悠那は信助の言葉にうんうん、と顔を上下に動かす。どうやらもう思い出す事を諦めた様子だ。

「うん!それに辛いヤツ!んー何だっけ?ペンペラ…じゃなくて、ペラペラ…じゃなくて…」
「ペペロンチーノ!」
「そう!それ!」
『よく分かったね葵』

悠那はもちろんパスタは大好きだったが、天馬の言うワードがよく分からなかった。だからそのパスタの種類を言い当てた葵に内心拍手を送る。あまりにもパスタに知識がある葵に苦笑しながら言えば、よくじ聞いてくれましたと言わんばかりの顔をされた。聞いてないけどね。

「私イタリア料理大好きなのっ。それにパスタの話しならユナに小学生の時かなり教えて貰ったから」

自然と覚えちゃって。と告げる葵。そんな彼女の言葉を聞いて悠那はそういえばそんな事もあったなあ…と思い出した。葵と友達になった日には日本の事を思い出す代わりに自分がイタリアの話しをしていた。今思えば自分はそんな事だけで喜んでいた気がする。本当に懐かしい。

「でもそれ、スパゲティばっかじゃない?」
「「ん?」」
「だって“パスタだ”って言ったんでしょ?だったら他にもあるんじゃない?ね?」
『うん。フェットチーネとかペンネとか』
「ペンネ?」
「ほら、先の尖ったヤツ」
「へえ〜」

確かにパスタと言っても麺の種類はたくさんある。悠那が言った通り、小さな麺だってパスタの部類に入る。葵が楽しそうに悠那へと振り返り悠那もまた名前を上げる。だが、あまり聞き覚えのない名前のパスタの種類を言われてもピンと来ない天馬と信助。だが、葵がジェスチャーで伝えれば、理解したらしく関心する。どうやら名前はあまり知らないらしいが形には覚えはあったらしい。

「他にもコンキリエとかファルファッレとか、フジッリとか、一言でパスタって言っても色々あるんだからっ」
『ちなみに、私達に一番馴染みがるのはマカロニとラザニア。これもパスタの種類なんだよ』
「へえ、そうだったんだ!」
「さすが!イタリアの帰国子女!!物知りだね!」

天馬と信助に褒められ、悠那はえっへんと威張ってみた。威張ってみただけである。
実際は自分の師匠であるフィディオからの受け売りなのだ。最初はサッカーとは全然関係ない話しをされてビックリした。それはもう引いてしまうくらいに。さすがはイタリア人と拍手を送るくらいに。
ん?…あれ、

『「あー!分かった!!」』
「え!?分かったの二人共?!」
『「え、分かったの?」』

不意に思い出された自分の記憶。思わず声を上げて言えば、まさかの天馬ともろハモり。信助の言葉を聞いて天馬に指差して言えば天馬も自分と同じ事をしており、再びハモらせてくる。
どうやら本当に自分は天馬に似ている。もうそれは小学生の時から感じていたが、今改めて感じた。すると、まずは天馬から自分の出した答えを言った。

「うん!イタリアのサッカーはパスタ!“一言では言えない”って事だよ!」
『「「え?/ああ」」』

天馬の答えを聞いた瞬間、信助は納得するように声を上げた。だが、葵と悠那の二人は彼の答えに疑問やら違和感を感じるような声を上げていた。
意外にも違う答えを出したので、やはり自分は天馬とは違うのだろうと、悠那は思った。

「そっか!そういう事か!一言では言えないからパスタ!さっすがイタリアから帰ってくると言う事が違うね!」
「うん!」

納得しだす天馬と信助。どうやら彼等は自分の出した答えで納得してしまったっらしい。だが、これはこれで錦の出した問題はあっているのかもしれない。人の感性というのはそういうもの。十人居れば十個の答えが見つかる。これぞ十人十色と言った事か。
というかキミ達。今の言い草だと私も入っているという事かな?また私が帰国子女という事は忘れていないよね?

「うーん…そういう事なのかなあ…?ユナもそう考えたの?」
『んー…私はフィディオ兄さんから“パスタが色々あるようにサッカーをする人もそれぞれ色んなスタイルがあるんじゃないか”って聞いたけど…』
「どっちにしろ紛らわしい伝え方よね…」
『確かに…』

だが、そういう問題が出される事で自分の意見とは全く違う意見を出す人が居るから面白くもあり、難しくもある。
そんな彼等は何だか今日はスパゲティを食べたくなった日になった。

…………
………

「次の対戦相手が決まったわ」

そう告げられたのは練習の中で皆が休憩している時だった。春奈が次の対戦相手の情報を手に入れてきたらしいのだが、異様に神妙な表情をして言い出してくる。一体どんな情報なのだろう、どんなチームと戦う事になるのだろう、どんなフィールドで戦う事になるのだろう。不意に皆の顔にも緊張が走った。
そして、そんな空気の中構わず春奈は口を開いた。

「相手は木戸川清修よ」
「「「「木戸川清修?!」」」」
『おー…』

春奈の口から出たのは木戸川清修。木戸川と言えば、10年前にはあの三つ子が居た場所。確か豪炎寺も雷門に来る前はその学校に居たと聞く。しかもその中学校は去年のHR戦では雷門に決勝で勝っていた。おまけに本気の勝負で、だ。
悠那も少しだけ驚きながら声を漏らした。
というか、今二人程疑問符を浮かべていたような…

「やはり来たか…」
「ああ…」

皆が緊張しながら春奈の情報をリピートしていく。やはり神童や霧野もまた去年の決勝を振り返っているのだろう。表情がどこか厳しく見える。
そんな緊迫した空気の中。一人だけ周りを見回す人物が居た。

「?…ねえねえ、木戸川清修ってそんなに強いとこなの?」

ズケッ

あまりにこの場に似合わない言葉に傍に居た天馬と信助、悠那は体を傾ける。緊張感の欠片もない言葉に三人は転びそうになるも何とか体勢を整えてその言葉を言った張本人である輝に目を向けた。そんな中輝はやはりまだ首を傾げており、三人の説明を待っている。うん、可愛い。

「ええーっ?!木戸川清修知らないの?!」
「あっ、うん…全然…」

そんな輝の反応を見た天馬は信じられないと言わんばかりに目を見開きだす。そして、それが彼にとっては熱を入れるスイッチになってしまったらしく、何も知らないであろう輝に天馬と信助は木戸川清修について語りだした。

「強いもなにもサッカーじゃ名門中の名門!」
「去年のホーリーロードじゃあ雷門に決勝で勝って優勝したチームだよ!?」
「ホントにー!?」

二人して熱くなり木戸川清修の事を説明する。簡潔だが今の輝にとっては十分の説明だったうようで、輝もまた二人の熱が移ったかのように興奮気味に聞き返していた。

『何も知らなくても可愛いければ文句なし!!』

そんな輝がどうしても可愛く見えてしまい、輝に向かって親指を立てて言ってみせた悠那。爽やかそうな笑みを浮かばせて言えば、近くに居た狩屋と剣城に殴らる。これを世の中の言葉で言うならボケとツッコミと言ったものだろう。二人に叩かれた悠那は叩かれた部分を抑える。
まあ、グーじゃなかっただけマシか。

「勝ったって、フィフスセクターの勝敗指示があったからだろ?」

悠那にツッコミを入れた狩屋はまるで何事も無かったかのように燃えている二人にそう告げる。狩屋もこのサッカー部に居たおかげでフィフスセクターの存在は段々と理解してきていたのだ。そう告げると同時に輝と天馬は大人しくなった。輝もまたフィフスの事は理解してきている身。まるで水を浴びたかのように大人しくなった二人。
その時だった。

「――あの試合は違う」

沈黙の中、三国が苦し紛れにそれでいて意外と落ち着いたような声色で狩屋の言葉を否定した。
思わず三人は三国の方へと顔を向けた。

「あの時はもう、聖帝選挙の結果が決まっていたからな。勝敗指示は出ていなかった…

俺達は、本気の勝負で負けたんだ」

その三国の言葉に神童は静かに去年の試合を頭の中で思い出していた。
ギャラリーの歓声、試合の実況をしてくれていた角間王将の声、ポーンッというボールの跳ねる音まで明確に覚えている。それほどまでに自分達に叩き付けてきた勝敗。今でもしっかり覚えているところを見て自分でも笑えてしまう。

「そんなに強い学校なんだ…」
『っていうか、天馬と信助覚えてないの?結構前に部室で去年のホーリーロードの試合見せて貰ったじゃん』
「「あ、そういえば…」」

輝と共に驚いていたからもしや、と思って言えば案の定彼等は忘れていた。
そんな彼等を見た悠那ははあ…と溜めた息を吐いた。

『…春奈ティーチャーが“これは本気の試合だった”って言って、説明聞いた後に納得してたじゃん…』

そう、木戸川清修が強いというのを思い知ったのは結構前に見た去年のH.RのDVDを見たから。
悠那は呆れながら天馬と信助を見れば、あはは…と乾いた笑いを返された。まあ、これでやっと木戸川が強いという事が分かっただろう。

「よく覚えてたわね」
『記憶力いいでしょ』

と再び威張ってみた。

「でも、今年は案外楽勝かもしれませにょ」
「「「「?」」」」

ふと、皆の様子を見ていた青山が声を上げた。その青山の意味深な言葉に皆は疑問符を浮かばせる。青山の言う楽勝とは話しの流れからして、自分達は木戸川に勝てるかもしれないという可能性の事を示す。疑問符を浮かばせる皆を見た青山は一乃と一度目を合わせてから再び皆の方を見た。

「ちょっと、調べてみたんですけど…」

その内容は、驚く事で…

…………
………

一方、木戸川清修は…

「フンッ、何が革命だ。くだらない」
「“くだらない”?」

木戸川清修にある大きなテレビ。そのテレビには去年のH.RのDVDであり、それをただ黙って見ているのは快彦。彼はまだ一年生なのでH.Rには今年が初めてなのである。ここまで来るのに二試合見てきたが、直接試合には出た事がない。だけど敵を知っておく事は損ではない筈。自分と他の選手達と一緒にそのDVDを見ていた。内容は雷門対木戸川。自分達が純粋にそのDVDを見ていれば、快彦の実の兄である総介がテレビに映る雷門を見て嘲笑うかのように来る。それが気に食わなかったのか、快彦は嫌そうな顔で背後にきた総介を睨みつける。

「ああ、くだらないね。そんな事して何になる。言われた通りやってれば、俺達はプロリーグのユースへ行ける。中学サッカーなんて所詮はそれまでの繋ぎ」
「だからって、兄さんは雷門のサッカーを見て、何も感じないのかよ!?本気でサッカーしたいって思わないのかよ?!」

総介の言葉にとうとう頭にきたのか、快彦は今度は体ごと総介に向けて再び睨みつける。今の木戸川には二つのグループがあった。それはフィフスのサッカーで問題ないというグループと反フィフスのグループ。お互いに顔を見合わせれば直ぐにこんな感じに荒れてしまう。そして、そのグループには必ずリーダーみたいな人間が居る。それは総介と快彦。必ずこの二人は喧嘩をし、その二人の後ろには仲間と思われる選手達が居る。
そして、それをいつも止める事が出来ないでいる傍観者。不安そうに表情を曇らせるキャプテンである貴志部と清水。

「キャプテン…」
「……」

このままではチーム全体が駄目になってしまう。貴志部自信もそれは分かっていた。だが、どうしても止められないのだ。最初の内は何とか止めようと間に入っていった事はあったが、中々解決してくれないのだ。何も言えない。いや、言えたとしても聞く気がない以上意味がない。早く、この状況を何とかしなくては。気持ちばかりが焦っていた。
そんな事を考えていると、目の前の光景はどんどん進んでいく。

「だったら本当の事を言ってやる。

結局お前は僻んでんだよ。実力がなくてレギュラーになれない事をフィフスセクターの所為にしてな」
「!?」

総介は快彦に向けて指を差して、してやったと言うように嘲笑する。その言葉の一つ一つが快彦にとって図星だったのか、それとも思ってもいない事を変な風に解釈されてたのが腹立ったのか、目を見開かせる。兄にバカにされた事に身長が低いながらも下から睨みつけた。

「ッハ、図星だろ」
「〜〜〜っ!

言ったなあ!?」

ドダッ!!

ついにキレた快彦は小さいながら実の兄である総介に飛び掛かっていき、今にも作った拳で殴りかかろうとする快彦。だが、そうはさせないと総介もまた快彦の頭を抑えつける。

「総介!?」

「もっかい言ってみろ!!俺が何だって?!おい!言ってみろよ!!」

総介に頭を抑えつけられながらもユニフォームを掴む力も緩めず、総介に突っかかる快彦。さすがにこれはヤバいと思ったのか、兄弟喧嘩を周りに居た部員達は止めに入っていく。
だけどやはりこれもまた…

「……、」

いつもの光景に過ぎない。
総介が快彦をからかい、快彦がそんな兄に突っかかる。もう見慣れてしまったが、このままでは、本当にこのチームがバラバラもまってしまう。
もはや止めるのすら出来なくなってしまったのだ。
貴志部は、目の前で繰り広げられる総介と快彦の兄弟喧嘩をただ黙って、また不安そうに見ていた。

…………
………



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