『…ユニフォーム?』

投げられてしまったユニフォームは少しだけ畳まれていた部分が乱れてしまった。それを広げれば、青のラインが入った黄色のユニフォーム。しかも天馬と同じ雷門のファーストユニフォーム。これをどうしろと?と悠那は疑問符を浮かべながら久遠に目線を送る。先程まで座っていたベンチに久遠は居ず、久遠は立ったまま自分を見ていた。相変わらずの目だ。あの目が今では怖くない。何故ならあの目は希望を託すような瞳に感じだから。

「選手交代だ。浜野海士に変わって、谷宮悠那!」
「「「「Σえ?!」」」」
『…は?』

呆然。悠那の顔はそんな二文字の言葉が似合う程間抜けな顔をしていた。彼等もまたそんな信じられないと言わんばかりの顔。そんな彼女を知ってか知らずか、彼等は一気に悠那の方に集まった。春奈もまた目を見開かせながら悠那を見た後に久遠を見た。そんな目で見られても自分が言った訳じゃない。久遠はそんな顔を皆にさせる程、また自分達の信じられない事を言ったのだ。

『あのー、意味が分からないんっスけど…』
「良いから着ろ」
『Σなんて無茶苦茶な!?』

なんてツッコミもしてみるが久遠は黙ったまま。大体自分が出たって変わらないだろ、と内心思ってはみるが久遠の性格は10年経っても変わっておらず、有無を言わせないこの無言の圧力と訴えかけるような目で見てくる。やはり苦手だ、あの目。だがこれ以上言っても無駄だと理解した悠那は渋々着替える為、少しだけぐしゃぐしゃになったユニフォームを持ち、ベンチから姿を消した。

「監督!一体どういう…!」
「女子にサッカーなんて…!」

神童と霧野に続き、他のメンバー達も口々に言い出した。女子にサッカーが出来る訳が無い。出来たとしてもそれが相手に通じる訳が無い。結局は体力差では無理と彼等は言いたかった。勿論それは春奈も同じだった。彼女は女の子、だから危険な目に合わせたくない。だが、そんな必死の意見も久遠はまた相手にしなかった。言うとしたら、

「見てれば分かる」
「そんな…!」

その言葉でいつも終わらせるのだ。まあ、今まで大体は見てれば本当に理解出来たが、今回は本当に全く分からない。神童は久遠のその遠回しの言葉に更に言葉を続けようとしたが、数時間前の事を思い出した。
悠那と出会った時、悠那は女子でありながらサッカーボールで上手にリフティングをしていた。あれはサッカー経験者。実力はあるとは思うが、相手が相手なのだ。普通のサッカー選手とならまだ平等に戦えるかもしれないが、相手はフィフスセクターから送られてきた人間ばかりが集うチーム。簡単には勝てない相手なのだ。

「しかし…!」
「音無、アイツは逢坂の従妹でありながら、かなりの才能があるのは知っているだろ」
「…はい、」

今はまだ埋められたばかりの種だけど、そう答えられたのは、自分の目で見て来たから。話しを聞けば悠那はイタリアに居るフィディオを師匠にして、今まで育てられて来たらしい。実力は少なくとも10年前よりかなり成長している。
久遠はそれを分かっていて彼女に託したのだ。なら、自分も彼女に託してみゃう。彼女の才能がどれだけ成長をしたのか、見物じゃないか。

すると、奥の方からカンカンッと、先程のローファーの足音ではなく、自分達が今履いているスパイクのような足音が聞こえてきた。視線をそちらに向ければ、ファーストの人達が着るユニフォームを悠那が身に纏っていた。少しだけ大きかったのか、半袖の袖が肘まで伸びていた。皆悠那に視線を向けていたのか、視線を感じた悠那は俯かせていた顔を自分達に上げて、ニッコリと笑った。

『着替えて来ました』

その姿はユニフォームが違えど、どこかもう一人の女選手を思い出させた。
逢坂由良

『天馬、何とかしよっか』

そう言って、彼女は天馬と部員達に微笑んだ。

…………
………


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