「すみませんキャプテン…俺、フィールドに立っても、何一つ役に立てませんでした…」

ベンチに戻って来るなり、天馬は肩を落としながらキャプテンである神童に謝罪に言葉を言った。役に立つどころか、先輩達に怪我をさせてばかりでボールを奪うどころかボールにすら触れていない。これならまだ南沢が出ていた方がマシだ、と天馬は密かに感じていた。
だけど、

「でも!このままサッカー部を取られちゃうのは嫌です!」

どうしても諦め切れない。交代された限りは自分のこのサッカー部を守りたい。
ボールに触れなかったらボールに触りに行く。奪えないんだったら奪いに行く。10点差はかなり痛いが、それでも諦めたくない。サッカーが出来るなら。天馬は遠回しの頑張りましょうに、神童はドリンクを飲みながら目を向けていた。

「落ち着け、俺だってサッカー部は渡したくない。…だけど、アイツ等半端じゃない。悔しいけど、俺達を凌ぐ力だ」

そう、そしてこの有り様。点数は10点差。部員達は全員ボロボロ。自分も人の事を言えない程ボロボロだ。数分前に言った自分の言葉を撤回したいくらい恥ずかしい。剣城に言われた名門校の名が廃るのは悔しいが当てはまるかもしれない。

「これが“フィフスセクター”のやり方だ」

すると神童の近くでドリンクを飲んでいた三国も二人の会話に入ってきた。思えばこの人が一番ボロボロなのかもしれなあ。最初あんなに綺麗だったユニフォームやグローブが今ではこんなにも焦げた色をしているのだ。それでもゴールを守っていたのは三国もまたこのサッカー部を渡したくないから。
すると、三国の口から出た一つの単語。天馬にとってその単語は聞き覚えがなく、疑問符を浮かべた。

「フィフスセクターって…」
「!そうか、お前まだ知らないんだな」

『…?』

階段を降りた悠那は天馬達の前に出る前に自分も知らない単語に興味があったので、静かに神童の話しに耳を傾けた。
そういえば誰かもグラウンドに居た時言ってたような?まあ、そんな事はどうでも良い。そのふぃふすせくたーというものがあの剣城にどう関わっているのかが重要だ。

「10年前、日本は少年サッカー世界一になった。それによって、サッカーの人気が高まって、サッカーで学校の社会的地位が決まるようにもなった」

10年前、円堂達のイナズマジャパン世界制覇。あの日から、既に時はゆっくりと動き出していた。
実力の無い学校経営が立ち行かなくなり、人々に喜びを齎す筈のサッカーは、社会的に大きな影を落とす存在となってしまった。
強ければ栄え、弱ければ潰されていく。今や、サッカーが学校や人の価値を決めていた。

「サッカーが…」
「お前だってサッカーが強いから、この雷門に来たんだろ?」

今の話しからして天馬がここに来た理由がそうなってしまうが、天馬は強いか弱いかなんて関係無かった。

「強いから…?い、いえ!違います!俺、雷門でずっと憧れていたんです!!」

天馬の部屋にあるボロボロのサッカーボール。そこには青いペンで書かれたイナズマのマーク。あれを蹴った人が天馬の恩人と本人が言っていた。天馬は沖縄育ちだったので、もしやとは思ったがこれ以上は何も言わなかった。

「憧れ、か…そんな事言っているのはお前だけだ。結果が全てさ。サッカーが弱ければ価値の無いものと見なされる。この時代に作られたのは、サッカー管理組織“フィフスセクター”だ」

へえ…そうなんだ。なんかスゴい世の中になったなあ、と悠那は持っているボールを見下げながらそう感心していた。神童はそれ以上は何もいわず、再び手に持っていたドリンクを飲み始めた。何も言えなくなった天馬もまた、黙ってドリンクを飲み始めた。すると今度は春奈と久遠が何やら深刻そうに話し始めた。その時悠那はワンテンポ遅れてあ、と声を漏らす。
そろそろ行くか…
そう思って、足を前にだしてローファーをコツコツと鳴らしながら雷門側のベンチを目指した。そんな彼女を黒の騎士団が見ていたのは別の話し。

『天馬は、相手の動きとボールをよく見た方が良いかもね』
「「「「?」」」」
「…ん?Σ!ユナ?!」

すっかり喉もあまり乾かなくなってしまったがそれでもドリンクを飲む天馬に、自分の後ろから知っている声が聞こえて来た。
そういえば今朝聞いたばかりの声だな、と思い振り向けば、そこには今朝置いてったばかりの悠那の姿が。

『はろ〜、天馬』

右手にサッカーボールを持ち、左手を軽く上げれば、普段発音が上手い英語が適当になっていた。そんな彼女を見た天馬は驚くように目を見開かせた。そんな天馬の顔がおもしろかったが、そこは堪えてズンズンと天馬に近付いて行った。

「あの子…」
「さっきの…」

そして、先程悠那と出会った神童と霧野もまた驚くばかりだった。だが、悠那にその二人が視界には入っていなかった為、全く気にしていなかった。天馬はこちらに近付いて来る悠那に焦りながらも自分から近付いて行った。

「何でユナが…」

ゴスッ!!

「「「「Σ!!」」」」


ここに居るの?と言おうとした時だった。鈍い音と共に皆の視界から天馬が消えた。いや、実際には消えてはいない。悠那にいきなり殴られた為、天馬は地面に膝を付いたのだ。痛そうに殴られた部分を手で抑える天馬。悠那の顔を見れば、スッキリしたような表情をしていた。

「いってえ…」

しかもグーときた。痛みに思わず涙目になる天馬。その様子を見ていた先輩達は先程のシリアスな顔はどこへやら。間抜けな顔で呆然としながら見ていた。

『何でじゃなーい!何で私を置いてったの!お陰で迷子になるわで大変だったんだから!!』
「ご、ごめんって!てかユナも俺を置いてこーとしたじゃんか!!」
『私はちゃんと待ってるつもりでしたー』

これぞ屁理屈。だが天馬を待っていようとしていたのも事実。まあ今の言葉が天馬はどう捉えるかで決まるけど。

「(友達って、コイツの事だったのか…;)」

意外なヤツだった、と神童は若干苦笑しながら喧嘩では無いが言い合っている天馬と先程出会った少女。視線をそっと外せば、霧野と目が合った。霧野もまた肩を竦め、降参と言わんばかりに両手を広げて苦笑した。その霧野の様子に神童は再び苦笑をした。
そんな中、少女を見た春奈が目を見開き、近付いて来た。

「あなた…もしかして…!」
『…?』

もう一発お見舞いしてやろうか、と思っていれば背後からの声。振り向けば赤い縁眼鏡を頭に乗せた一人の女性教師。
この声といい、この眼鏡の掛け方はどことなく10年前の誰かさんとそっくりだ。とジロジロでは無いが暫くその女性を見ていれば、天馬に不審な目で見られた。何だこの。

「悠那ちゃん…?」
『そうですけど…』

どこかで会ったっけ?と疑問符を浮かべながら一人で記憶を探ろうとする。記憶の中で思い出されるのは10年前の頃の記憶から今現在の曖昧な記憶達。若干思い出し笑いとかで顔が恐らくにやけており、近くに居た天馬に苦笑された。

「覚えてる?あたし音無春奈!」
『あ、…春奈姉さん!?』

顔と声が自分の10年前の記憶の中に出て来た自分より年上の彼女と重なった。ワンテンポ遅れて、改めてその女性を見上げる。赤い眼鏡。少しウェーブのかかった紺色の髪。今は大人だが、この人は10年前の音無春奈を残していた。悠那が目を見開きながら春奈を見上げて自分が幼い時に呼んでいた呼び方で叫べば、春奈は懐かしそうに目を細め、そうそう!と頷いた。

「大きくなったわね!誰だか分からなかったわ」
『いえ、私も…』

多分呼ばれなければ多少は気付かなかったかもしれない。春奈は懐かしそうに、悠那の頭を数回撫でる。ああ、10年前もこうして春奈姉さんや他の人達に頭を撫でられてたな、なんて再び記憶の中で遊んでいた。
記憶は所々途切れてたりしているけど、こうやってちゃんと思い出そうとすれば色んな記憶が蘇ってくる。
そうなると、時々聞こえていた女の人の声。…という事は、だ。
悠那は春奈から目を離し、奥のベンチに腰を掛ける男の人に移した。

『久遠監督…?』
「ああ、久しいな谷宮」

やっぱり…久遠監督はあまり変わっていない。左目が隠れてたり、髭が濃くなっているが、あれは正しく久遠監督。
うひゃ〜、と訳の分からない歓声を出してれば、ツンツンと悠那の背中をつつく天馬。悠那は擽ったかったのか、条件反射で天馬から一歩離れる。振り返れば少し驚き気味の天馬の顔があった。

「知ってるの?」
『え、まあ…』

知ってると言うか、知り合いと言うか、知ったと言うか…ぶっちゃけあまり関わりがないどころか、小さい頃はあの外見とかで久遠監督を怖がっていた記憶が…と、答えになっていない答えで返事をしながらあはは、と苦笑した。
不意に、視線を外せば雷門と同じくドリンクを飲む黒の騎士団。ゴクゴクと飲んでいない所を見てそんなに疲れてないらしい。何ともまあ、体力の差がここまで開くとは思っていなかった。

「谷宮」
『はい?』

声が掛けられたので、目を外し再び久遠に向けた。返事をしたと共にら目の前に黄色の物が飛んでくるのが見えた。それを悠那は反射的にも受け止めた。手触りは普通のシャツと同じ感触。飛んでくる時に香ったねはスポーツ商店とかで売られている品物。何が起こったか一瞬では分からなかったが、改めてその飛んで来た物を見た。

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