試合当日。試合会場に向かうホーリーライナーの中。雷門の向かいには白恋。やはり車内は相手校同士が向き合っているが為に静かだった。本当は円堂や剣城みたく眠りたかったが、眠っている所を見られたくない。何より目の前に座っている雪村に目がいってしまい、眠気なんて冴えてしまう。

「(白恋中の絶対障壁。どれだけスゴいタクティクスなんだろう…)」

あのアルティメットサンダーすらも上回るぐらいのタクティクス。かなり手ごわいタクティクスなのだろう。ダブルウィングを完成させるのに何日か掛かったし、苦労もした。
だけど、

「(ダブルウィングがあれば必ず何とかなる!)」

完成したばかりだけど、実戦で使うのはこれで初めてだけど。

「(…雪村、倒すべき相手は僕じゃない)」
『……』

このライナーに乗るのはまだ二度目だが、相変わらず目のやり場に困ってしまう。だから、ちょくちょく目を自分の膝やら相手の足元にやらに移してしまう。相手側からしたらきっと変なヤツだと思われているに違いない。ふと、雪村の方に目をやってみる。そちらの方を見れば、彼の目線は自分ではなく吹雪の方に行っていた。
吹雪もまた、彼を気にしているのだろう。吹雪はまるで目で訴えかけるように雪村を見ていた。
“可哀想なヤツ”か…
悠那は雪村の方を見てから顔を俯かせた。

『…っ、』

悠那は密かに下唇を噛んだ。
そんな気まずさの中、ホーリーライナーは有無を言わずに目的の試合会場に着いていた。その会場に着いた瞬間、空気が冷たくて遂には氷山が見えた気がした。

…………
………

ユニフォームに着替えた選手達。彼等は、試合会場の扉の前に並んでいた。

『(…何か、既に寒い…)』

両腕を摩擦熱を出すように擦り付ける悠那。そんな事を思いながら寒さを感じていた時だった。目の前の重い扉が開くと同時に、隙間からとても冷たい風が溢れ出てくる。今は春だが、こんな冷たい風を浴びるのは冬以来だ。風は普段見えない筈なのに、白色を身に付けて改めて寒さを思い知らせる。

「寒い…」
「エアコンの設定間違ってません…?」
「そういうレベルじゃねぇよ、コレ…」
『…うん』

マネージャー達と悠那はあまりの寒さに体を抱いていた。膝も寒さで笑うように震えている。そんな中で視界がくっきりして選手達の前に現れたのは…

「えぇ?!何だここ?!」
『ひぇ〜…』

天馬が叫ぶのも無理はない。会場はどこを見ても氷。会場は全て凍り付けにされていた。

「凍ってるド…」
「これが、今日のフィールド…」
「フッ…」

今回の雷門対白恋、試合会場は“スノーランドスタジアム”という場所。正にこのフィールドにぴったりの名前だった。もはや自分達が歩く所やベンチも凍っている。信じられないと声を上げる雷門だが、白恋中の表情は涼しそうだ。
色々と言いたい所だが、進まないと試合も開始されない。選手達がフィールドに向かおうと足を運ばせた時だった。

グサッ

『痛っ…!』

急に誰かに足を踏まれた。いや、あの痛さは踏まれたというより刺されたと言った方が近かった。
いきなり足に痛みを感じた悠那は直ぐにしゃがみ込んだ。

『…?』

足を二度、三度スパイクの上からさすりながら誰に踏まれたかを確認しようと周りを見渡す。だが、それらしき人物が見当たらない。
さっきの痛みは気のせいなのか…?と、思ってみるものの、足は痛みを脳に訴えかける。すると、前に居た信助が不思議そうに悠那を見て来た。

「どうしたの悠那?」
『え?あ…』

悠那は抑えてた足を見る。痛みは感じるものの足に大した外傷はない。
悠那は直ぐに立ち上がり、ニコッと信助に笑いかけた。

『何でも無いよ、ちょっとそこに虫が居て』
「そうなんだ!」

もちろん、嘘だけど。だが、そんな嘘を信助は信じたように笑みを見せてくるのを見て少し罪悪感が出てきたのが分かった。だが、足に痛みを感じたと言ったら円堂や鬼道に試合に出るなと言うだろう。そしたら吹雪との約束が果たせない。

「今日の試合、頑張ろうね!」
『…うんっ』

だから痛くないと思えば、何とかなる。

はず…

…………
………

『…っ、』

思い込んでみたもののやはり、足の痛みは段々痛くなってきている。だが体が冷えて来たお陰で痛さは感じなくなっていた。こんな時の冷え性万歳。

「おい」
『え、何?』
「アップはどうした」
『…あ、』

なんて下らない事を思っていれば剣城に声をかけられる。彼に言われ、悠那は直ぐに周りを見やった。
周りを見れば雷門どころか白恋中も、もう既にアップをしている部員達。これはヤバい。乗り遅れた。

「お前冷え性だろ、体動かしとけ」
『おー。さすが幼馴染み!私の事良く分かってるや!』

と、悠那が笑いながら言えば剣城は不意打ちを食らったように少しだけ頬を染め、うるせぇと吐き捨てるように言った。

『先にアップしててもいーよ』
「は?」
『私トイレに行って来るーっ』

と剣城に言い、走って行く悠那。残された剣城はキャプテンにこの事どう言おうか、と悩んでいた。

…………
………

『うわあ…』

悠那は更衣室に戻り、念の為足を見ていた。案の定、足は靴下をしていても分かるくらいの血で汚れている。何ともグロテスク。こういう時の自分は何ともまあ引くぐらいの冷静さ。他人のを見たらきっと目を背けてしまいたいぐらいになるだろうが、今すぐにでも人に見せたくなってしまう。もちろん、手当てではなく自慢気にという意味で。

『どーしよ…』

包帯持って来れば良かったかもしれない。でも、勘の良い有人兄さんや守兄さんは足を怪我した事で私を試合に出してくれないだろう。そんな事になってしまったら士郎兄さんとの約束が果たせなくなってしまう。

『…!』

すると閃いた悠那。自分の鞄から真っ白いハンカチを取り出した。そして、それを足に巻き付けて血を少しでも止めようとする。
ハンカチは少し小さいので足全体には巻けないが、止めるに越した事はない。しかし、真っ白のハンカチは巻いた瞬間、少しずつ赤くなっていったが。

『よしっ』

これで、試合まで持たせなきゃ。
悠那はスパイクを履き、フィールドへと向かった。

…………
………

『お待たせ〜!』
「あ、ユナ!気を付けて!」
『え?』

フィールドに戻った悠那。戻ると同時に天馬が悠那に何かに注意しろと言う。だがしかし、悠那は気にせずフィールドに足を置いてしまった。
そして――…

ツルッ

『おわっ!?』

ドテッ

何ともまあ、綺麗に後ろから転んでしまった。

「だ、大丈夫ユナ?!」
『だ、大丈夫大丈夫…』

フラつきながらも悠那に近付いてくる天馬。
フィールドに入った瞬間に転んでしまった悠那。ベンチに行く時はあまり滑らなかったが、フィールドに入った瞬間滑りが更に良くなっていた。

『このフィールド…』
「うん、凍ってるんだ。これじゃぁサッカーがまともに出来ない…」
『へぇ……冷たっ!?』

悠那が天馬の説明を座りながら聞いてれば、お尻から冷たいのがくる。その冷たさから逃れたくって直ぐに立ち上がった。そんな彼女を苦笑しながら、立つのを手伝う天馬。

『でも、白恋はそうでもなさそうだよね…』
「…?」

悠那は天馬に支えて貰いながら視線を白恋に移す。天馬も吊られてそちらを向いた。

「雪村」
「おうっ」

動き難い雷門に対し、白恋は何事も無いように普通に練習をしていた。パス、ドリブル、シュート。どれも完璧にこなしていた。

「すげ〜」
「奴等は滑り易いフィールドに慣れているな」
「あぁ、さすがは北国のチームだ」

このフィールドなら白恋の実力は120%以上に引き出せるだろう。雷門にとってこの試合、フィールドはかなり痛い所だった。
今回の試合はかなり厳しくなるだろう。

『天馬、もう離しても良いよ』

悠那は左足を少しだけ地面に叩き付けながら天馬にそう言う。

「でも…」
『これじゃ、天馬も私も練習出来ないじゃん』

それに皆の視線が痛いし…と付け足せば、部員達はジトッ目を二人に浴びせていた。

「良いじゃん。見せ付けちゃえば」
『!?』

天馬がニコッと笑いながらスパンッと直球に言う。そんな彼の不意打ち過ぎる発言に悠那は顔を赤くしていくしかなかった。

「良い訳ねえだろ」
「あ」
『京介…!』

いつの間にか来ていた剣城が悠那の腕を掴み、天馬から離す。悠那を挟み、二人の睨み合いが始まったその時だった。

「皆ー!」

春奈が全員へ声を掛けた事により一旦練習は中断され、二人も睨み合うのを止めてベンチに集まった。

「良いニュースよ!錦君が戻って来たわ!」

春奈が自分達を呼び出した理由は錦が日本に戻ってきた事の報告。もちろん、二年、三年生達は驚くように声を上げていた。

「えぇ、さっき空港に着いたんですって。今こっちに向かってるそうよ」

春奈の言葉に先輩達は嬉しそうに、そして懐かしそうに懐かしい友の名前を口に出す。もちろん、悠那もまた笑顔になっていた。
でも、あれ…?

『やっぱり何かを忘れてる気が…』

悠那が不思議そうに頭を捻っている中、傍らでは神童達が興奮気味に喜んでいた。

「驚いたな。突然帰ってくるなんて」
「彼が居れば心強いです!」
「あぁ!またあの力強いシュートでゴールを奪ってくれるぞ!」
「イタリアで鍛えたプレイが見られるんだね!」
「うん!ワクワクするよ!」

天馬達もまたどんな選手なのか先輩達とはまた違った思いでとても楽しみにしていた。
そして、円堂もまた春奈に追加の選手登録は可能かどうかを聞いている。どうやら、追加の選手登録は良いらしく春奈も嬉しそうに頷いた。

…………
………



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