「…悠那の動きが鈍いな」

錦の話を聞く悠那達。
錦がこちらに向かっていると分かった瞬間、先程よりも皆の表情は和らいでいる。そしてまた、直ぐに練習に戻った。そんな彼等の様子をギャラリーから見ていた逸仁。寒さに耐えて白い吐きながら見やる逸仁。
雷門の皆が頑張って練習する中、悠那の動きが鈍い事に気付き眉を潜める。そして、その理由が直ぐに分かった。

「左足を庇ってんのか…?」

シードだったおかげか、沢山の特訓をしたおかげか、何となくそういう事が分かってしまう。左足を怪我したとしたら悠那はあの円堂や鬼道に何か言われこのフィールドに立っていない。きっと、このフィールドに入る前に怪我をしてしまったのだろう。

「…よりによって今怪我をするとはなあ…」

それだけフィフスセクターは必死って事か――…

「さて、悠那はどう出るか…」

生憎今の自分の立場だと、試合終了までは動けない。ギャラリー側に居る以上、何も言う事もできない。というより、自分が出て行ってはいけないのだ。
あの悠那の性格だ。きっと怪我をしたまま最後まで自分や他人に嘘を吐き続けるつもりに違いない。

「悠那…」

笑みを浮かべながら体を解している悠那。痛そうにしていないものの、内心はかなり痛がっているのだろう。女は男と比べて痛みに強いと聞いたが、ここまで自分に嘘を吐けるのは自分からしても上出来過ぎる。
お前には頼れる仲間が居るんだ。頼ってやれよ。
ギャラリーが声援で騒いでいる中、逸仁はフィールドに並びだした選手達を見やった。

「雷門のホーリーロードはここで終わりだ」
「ぶっ潰す」

目の前に居る白恋中。彼等がこちらに向ける目は今までの敵みたく鋭いもの。その中で一番鋭かったのは、やはり雪村だった。何より彼の目には恨みやら何やらが混ざっており、まるで獣みたいになっている。

「潰されてたまるか。俺達は最後まで戦い抜く!」
「(本当のサッカーを取り戻すんだ!絶対に負けられない!)」

だが、こちらも革命を起こしている以上潰される訳にもいかない。そして、絶対障壁に対抗出来る必殺タクティクスも出来ているのだ。勝てない筈がない。天馬もまた神童に便乗するように、白恋中を見た。
両チームポジションに着き、間もなく試合開始。円堂監督率いる雷門中と熊崎監督率いる白恋中。凍てついた氷のフィールドでどんな戦い方をするのか、どんな戦いになるのか。

「(雪村…気付いてくれ。今の白恋は、間違った道を進んでいるんだ…)」

吹雪は雪村を見て、只ひたすら思う事しか出来なかった。

「(見せてやるよ、俺が信じて来たサッカーを!)」

雪村もまた、吹雪を睨み付けるように見ていた。

『……』

大丈夫。冷たさで痛みも無い。上手く走れる筈。例えこの足が壊れようとも、大切なモノの為なら。

ピ―――ッ!!

それぞれの想いを胸にやがて、試合開始のホイッスルが鳴る。
攻撃は雷門から。剣城から倉間にボールが渡る。倉間はいつも通りにドリブルをしようと走ってみるが、地面が凍っていて滑り易く走りにくい為、いつも通りに走れていなかった。

「っ、走り辛いな…」

これなら寧ろまともな地面をしていたサイクロンスタジアムの方がまだマシだった。
DFを避けようにもスピードが思うように出せないでおり、遂には足が滑って滅多に無いドリブルミスをしてしまった。ボールも倉間の足から離れて行ってしまい、相手にもボールを渡してしまう。

「くそっ!」

その後直ぐにスライディングでボールを奪い返そうとする。もといボールを押し出して動きを止めた。だが、試合の動きは止まっただけで、正確には白恋からになった。

「速水!」
「はい!っ、うわぁっ!」

スローインのボールを何とか神童が奪い取り、速水にパスを回すも、速水はそれに追い付く事が出来なかった。
速水の反応が遅い訳じゃない。足場が悪いのとタイミングが合わないのが見事なまでに重なっている。その上、滑り易い為ボールのスピードが上がってしまうのだ。

「足場が悪くて対応しきれていないようだな…」

円堂の言葉に後ろに居た鬼道も同意しているのか、頷いていた。

「これが、ホーリーロードの戦いか…」

輝は初めての試合を目に焼き付けるように見ていた。

「何とかしなくちゃ!」

何とかしなくちゃとは思うものの、想いと反していつものようなドリブルが出来なくなってしまいいつもより遅くなっている。

「そんな走りじゃ!何も出来ないぜ!」

対する雪村の走りは上手く、全く足場を取られていなかった。

「っ、取られるもんか!」

天馬はいつものようにグッと足に力を入れる。しかし力を入れたのが悪かったのか、足をズルッと滑らせてしまった。

「うわぁ!?」
『天馬!?』
「貰った!」

その隙を見逃す筈もなく、雪村は足場を取られた小動物に襲い掛かる肉食獣の如く、天馬からボールを奪い去っていった。

「(あいつ、一段と早くなっている…)」

これがフィフスから教わった事なのか、吹雪は雪村の成長に内心ただ驚くしかなかった。
雪村はDFに走って来る速水を一瞥する。やはり速水はこの氷のフィールドの所為でまとまな走りさえも出来ていない。

「…ふんっ!」

雪村はそんな彼の様子にふっと笑みを浮かばせて体を揺らしフェイントを掛ける。氷を使って加速し、一瞬で速水を抜き去った。

『行かせない!』

悠那のスライディングで雪村からボールを弾き飛ばした。走るのではなく、滑るよりも滑りを利用した素早いスライディング。雪村は交わす事が出来ずにボールをフィールドの外に出してしまう。

「チッ…」
『雪村さん、どうしてそんなに士郎兄さんを嫌うんですか…?』

悔しそうに舌打ちをした雪村を見て悠那は覚束ない足取りになりながらも立ち上がりそう聞く。すると雪村は一度悠那を見てくるが、また俯いてしまった。
答える気が無いのか、雪村はポジションへ直ぐに戻って行ってしまった。

『……』
「(…あの時、俺はあいつと出会った)」

****

「行ったぞ!」
「止めろ王鹿!」

寒い季節。雪も積もっている中、グラウンドに響くのは白恋の選手達の練習に励む声。王鹿と呼ばれた少年はボールをキープする雪村に近付く。しかし、雪村は左肘で王鹿を押し、シュートをした。

「よしっ!」
「“よしっ”じゃねぇよ!」
「何?」

シュートした事に喜ぶ雪村に対し、他の選手達は不満そうに雪村を見る。王鹿は右腕を抑えながら雪村を睨んできていた。

「やり過ぎだろ、練習なんだぞ」
「それがどうした?」
「何だと?」

雪村の言葉に伊富は今にもキレそうな声色で雪村に聞いてきた。

「練習だって関係ない!どんな時だって本気でやらなきゃ、先へは進めない!」
「…そうかよ、勝手にしろ」

そう吐き捨て、雪村から離れて行った。そんな彼等を悔しそうに顔を歪ませる雪村。

―どんな時だって、本気でやらなきゃ、先へは進めないんだ!

「はぁぁああっ!!」

雪村は思いっ切りゴールにシュートを放った。周りに仲間が居なければ、ゴールを守る人も居ない。勢いを無くしたボールはゴールの中で力無く転がっていく。
その時、誰かがそのボールの動きを足で止めた。

「…?」
「キミ、スゴいシュートを打つねっ」
「……」

白髪の髪を持った青年、吹雪士郎。

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