何となくだった。何がだって言うと、それはサスケの散歩。何となく、天馬と一緒にサスケの散歩に行きたくなって、一緒に歩いている。
だけど、歩いている途中に士郎兄さんの後ろ姿が見えた気がして、いつの間にかその人物を追いかけていた。もちろん、天馬には言ってある。ずっと後ろを追いかけるなんてストーカーみたいで気が引けたけど、どうしても気になってしまった。よく分からない。だけど、士郎兄さんの背中が少しだけ寂しそうに見えた。こんな事を考えるのは可笑しいと思うけど、今日の士郎兄さんの話しを聞いてどうしても心配になってしまったのだ。

暫く追いかけてみれば、士郎兄さんは雷門中に入っていった。どうしてここに来たのだろうか。そんな事を考えている間にも士郎兄さんは中に入っていってしまう。夜の学校こそ不気味なものはないだろう。怖じ気づいたと言えば良いのだろうか。だけど、やはり士郎兄さんが何を抱えているのか、気になってしまう。だから私は雷門中の中へと入っていく。
怖いな、何か出そうだな、なんて思っていたそんな時。雷門中のグラウンドを通れば、吹雪がゴールにシュートをしてる姿が見えた。

『士郎兄さん』
「…え?あ、悠那ちゃん」
『?』

悠那が声を掛ければ、一瞬独り言を言った吹雪。だが、それを聞き取れなかった悠那は首を傾げる。

「改めて久し振りだね、元気にしてたかい?暫く会わない内に大きくなったよね」
『でしょ?』

話しをしようと、二人してベンチに座る。今まで忙しくて中々話せなかったが、今はこうして話せている。久々に話しが出来て少しだけ心が軽くなっていくのが分かる。不意に、頭に少し重さを感じた。見上げてみれば吹雪が悠那の頭を撫でている。

『?』
「ふふっ、10年前とはあまり変わらない大きさだ」
『士郎兄さん。それって私の背は相変わらず低いって事…?』
「まさか」

吹雪は多少苦笑しながら悠那の頭を再び撫でた。

『(貶されてるみたいだ…てか何で皆会う度頭撫でるんだ…)』

いや、撫でてくれるのは嬉しいんだけどね?
ふと、そんな事を思いながら吹雪を見上げてみれば、元々たれ眉だった吹雪の眉はハの字に垂れている。表情はどこか悲しそう。やはり、必殺タクティクスを完成させるだけでは不安なのだろう。そんな吹雪の表情を見た瞬間、先程まで感じていた嬉しさはどこかへ行ってしまい、代わりに自分の心臓に何か重いものがのし掛かったような気がした。

『ね、士郎兄さん』
「何だい…?」
『何か辛い事あった?白恋中とは別の』
「…分かるの?」
『子供の堪ってやつかな?』

あははっと軽く笑ってみせるが、吹雪の今の雰囲気の所為で消えてしまう。吹雪はそれに対して寂しそうに笑ってフィールドに転がっているボールを見つめた。

****

空は曇天のような色。
だけど、ここは雨は降らない。代わりに冷たい空気の中には白い雪が音も無くゆらゆら落ちていた。そんな静かな中でガンッガンッという鈍い音と荒い息が聞こえていた。

「はぁ…はぁ…」

荒い呼吸を繰り返す白恋中のユニフォームを着た少年が一人。

「もっと集中するんだ!雪村、キミならきっと出来る!」
「うぉぉおおっ!!“エターナルブリザード”!!」

雪村と呼ばれた少年の氷を纏ったシュートはゴールに突き刺さった。

「で…出来た!」

雪村は瑠璃色の瞳をキラキラと輝かせてシュートが決まった事を喜ぶ。吹雪は座り込んでいた雪村に手を出して立たせる。

「良くやったね、雪村」
「ありがとうございます、吹雪先輩!」

雪村は無邪気な、でもどこか柔らかな笑みを浮かべて吹雪に笑いかけた。

****

『自分の必殺技を…』
「……」

吹雪のちょっとした過去話しを聞いた悠那は少し羨ましそうに吹雪の切なそうな横顔を見る。だが、悠那自体何故そんな顔をするのか、吹雪には今一分からなかった。

「――こんな所にいらっしゃったとは」

刹那、どこからか聞き覚えの無い声が聞こえてきた。こんな夜中に誰が雷門中に入ってきたのやら、二人は声がした方を向いた。
すると、そこには雷門のジャージではない、雷門の生徒ではない男子生徒が口角を上げながらこちらへと歩み寄ってくる。ジャージの柄からして白恋中の生徒だと直ぐに分かった。吹雪の方を見てみれば、密かに眉間に皺を寄せている。

「探しましたよ、吹雪コーチ」
「白咲…!?」
『…誰?』

****

外は相変わらずに雪が降っており、寒さを自分達に与えてくる。唯一、その寒さを凌げるのは学校の中にあるストーブの火。確かに暖かい筈なのに、目の前の人物から告げられた言葉に、僅かに寒さを感じてしまった。

「コーチを…解任?」
「本日をもって、白恋中は我々フィフスセクターの管理下に置かれる事になった」

吹雪に向かう人物。黒いスーツに身を纏い、黒い帽子を被った黒木がそう告げた。

「(とうとう来たのか…この白恋まで…)」
「吹雪士郎。キミは反乱を起こした雷門の監督、円堂守と親友だそうだね。しかも、雪村豹牙という選手に自分の必殺技を教えているそうじゃないか。これは反乱の芽となる」
「違う!僕は本当のサッカーを教えていただけだ!」
「それこそが、我々の秩序ある美しいサッカーを乱す物だ。明日より、熊崎が新監督に就任し、白咲がキャプテンとしてチームを率いる」
「ご苦労様でした、吹雪コーチ。これからは俺達が本当のサッカー…フィフスのサッカーを皆に伝えて行きますのでご安心を」

「去らばだ、吹雪士郎…」

****

「…僕に、何の用だ」
「挨拶に来たんですよ。大切な試合の前に…」

吹雪の頭の中で苦いあの時の屈辱感。当分は忘れられる事は出来ないだろう。そんな彼を知ってか知らずか、白咲が指を鳴らしだした。すると、白咲の後ろから深い藍色の髪を持った少年が現れた。
彼が現れた瞬間、吹雪の目が見開かれた。

「我が白恋中のエース、雪村豹牙です。彼は俺達シードも認める素晴らしいストライカーに成長した。その力、試合で存分にお見せしましょう」

吹雪は白咲の言葉を聞いているのかいないのか、雪村に駆け寄って行く。
あの人が士郎兄さんが気にかけている選手だろう。だが、想像していた人物とは何となく違っていた。彼の瑠璃色の瞳はどこか黒が増している気がして、吸い込まれそうだった。

「まさかキミもフィフスセクターに…」
「触るな!」

パシッ

雪村の肩に手を置こうとした吹雪。だが雪村はそれを拒絶するように手を振り払った。

「アンタは白恋中を裏切り、俺を裏切った!」
「違う雪村!僕はキミを…」
「馴れ馴れしく呼ぶな!今のアンタは、倒すべき敵だ」
「その通りだ雪村。フィフスセクターは決してキミを裏切ったりはしない…」

彼に弁解しようと必死に自分が白恋中を去った事を説明しようとするが、雪村は話しを聞こうとしない。それどころか白咲が雪村にそう耳打ちして余計に話しを聞かせないようにしている。そして、言ってやったと言わんばかりに吹雪を嘲笑うかのように見やる。

ガシッ

「!?」
「悠那ちゃん…?」
『話しぐらい聞いたらどうですか?』

悠那は雪村の手を掴みながらそう告げる。吹雪さえ触れられなかった雪村に悠那が彼の手を掴んだのだ。雪村や吹雪どころか白咲もまた彼女の行動に驚愕の表情を浮かべる。
こんな手の力、男子である雪村には振り払う事だって出来る。けど、自分の目を真っ直ぐに見上げる彼女から逃れる事が出来なかった。

『士郎兄さんは人を傷つけるような人じゃない。
一番信頼してた貴方なら、分かるでしょ?』
「…っ!」

雪村は顔を歪ませ、不意に悠那の手を振り解いた。
そして、雪村は吹雪を睨み付ける。

『……』
「アンタはまた人を傷付けるんだな。この子も何れ裏切るんだろ?」
『!』
「…!?」
「可哀想なヤツ」

雪村は悠那を同情するような顔で見て、足を運ばせる。

「では、後日フィールドで」

そう言って二人は雷門中から去って行ってしまった。止める事も出来ずに、吹雪の手は行き場を無くしてしまう。

「雪村…」
『……』
「悠那ちゃん、ごめんね…」
『何が…?』
「雪村に…」
『あぁ…』

悠那が大丈夫だよ、と笑って返せば吹雪は複雑そうに顔を歪ませた。

『士郎兄さん。大丈夫、雪村さんは戻って来る』
「…え?」
『私が士郎兄さんの代わりに、フィールドで証明するからさっ』

と、悠那は両腕を頭に上げてニカッ笑ってみせる。そんな悠那を見た吹雪は少しだけ微笑んで見せた。

…………
………

ザシュッ!!

試合当日。雷門中のゴールには勢いよくシュートが突き刺さっていた。

「ふぅ」
「「やったぁー!!」」

満足げに息を吐く剣城。
決まった事に喜ぶ天馬と信助。不意に彼等は剣城に向かって駆けて行った。

「スゴいよ剣城ー!天馬ー!」

右に天馬、左に信助を確認した剣城は直ぐに歩き出して抱き付こうとしてきた二人を綺麗に交わした。勿論、天馬と信助は互いに真正面から抱き付く結果となったが。

「必殺タクティクスが完成したんだ!」
「うん!」
『お疲れっ』
「あぁ…」

「何とか間に合ったな」
「あぁ…どうしたんだ?吹雪」
「…いや、何でもない…」

あの後、吹雪から詳しく話を聞いた。まさか黒木が話しに出て来るとは思わなかった。いや、雷門にも現れたのだ。どこか予想付いていた。理由は何であれ、今は試合に集中しなければならない。
そんな事を思いながら皆と一緒にキャラバンへと練り込んだ。

「ギリギリ完成したわね!必殺タクティクス」
「うん!これで“絶対障壁”なんか怖くない!」
「初めての試合…ドキドキします…!」

葵が目を除かせ前にいる二人に話し掛ければ天馬は自信満々に言う。輝は胸が高鳴っているらしく両手を胸に押し付けていた。そんな輝を見て悠那は頬を緩ませた。

「あ、そういえば名前付けなくて良いのかな?必殺タクティクスに」
「そういえばそうね」

先程完成させたので名前がまだ無い。その事に気付いた天馬は自分の前に座っている狩屋に振った。

「狩屋!何か無いの?」
「また俺かよ!?」
「うんっ」

何の悪びれなく狩屋に聞く天馬。隣では悠那が既に口に手を当てている。笑う準備だろう。何はともあれ、この二人は確信犯だ。
そんな天馬達を知ってか知らずか対応に困ったのか、狩屋は応えようと考え始める。

「…二人で一緒に駆け抜ける、訳だから…

ラ、

“ランランランニング”とか…?」

ブ―――ッ
………。

「「「「「だっっさぁ―――!!」」」」」

数秒後、キャラバン内に一年の爆笑の渦が響き渡った。

「ラ、ランランランニングって…!アハハハっ!!」
「アッハハハハ!っ素晴らしくダサいですねっ!」
「無い無い、絶対無い!」
「アハハハハハハ!!」
『そ、そんなの試合中に叫んだら敵味方関係なく笑い転げる!』
「た、確かに!俺笑わないで試合出来る自信無いよ!」
「僕も!」

剣城を除く一年は笑いながらネーミングに付いて感想を言いながら笑いだす。それを見た恥ずかしさに狩屋は顔を徐々に赤くしていった。

「だったらどんなのが良いんだよ!?」

狩屋の言葉に輝が額に指先を当てて考え始める。

「両サイドから駆け上がる疾風…あ!“ダブルウィング”とかどうですか!」

天馬達は笑うのを止め、暫くキョトンとした後、狩屋の案より輝の案の方が良く思えた。

「かっこいい!」
「うん!」
「それ!それで行こう!」
「チッ…」

輝の案で満足でしたらしく、天馬は直ぐに決定した。
そんな会話をしているキャラバンの頭上を飛行機が走っていた。

…………

空港には飛行機が着陸し、浅黒い肌で長い黒髪を高く結い上げ大きな荷物を持った少年。

「いやぁ、さっすがイタリアからは時間が掛かるがて」

手に持つ大きな荷物をドサリッと地面に置いた。

「ひっさしぶりの日本ぜよ!」


etc………

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