それから朝練、放課後は必殺タクティクスの練習。白恋戦に向けての特訓が開始された。殆どの時間を必殺タクティクスに使い、そのたびに天馬と剣城がディフェンス相手に立ち向かった。春奈や葵はどうしたら良いか、とバインダーを見て茜はタイミングを合わせて写真を撮り、水鳥は応援。
ディフェンスに入ってくる先輩達を越す剣城。再びラインの外に出てしまう天馬。風や雨の強い日でも外で練習をしていた。
練習の甲斐があってか、絶対障壁に対する必殺タクティクスも形になってきていた。

「来たぞ!止めろ!」

天城を中心に六人が三角形を作りだす。

「今だ!」

天馬は素早く剣城にパスを回す。ボールを受け取った剣城はそのままドリブルをしながら前を向いて隙を探す。そして一番守りが薄い場所に向かって走る。

「行かせねぇ!」
「はぁぁああ!!」

剣城は車田が守りに入った瞬間に走る速度を上げていった。

「何?!」
「!?」

あの速水でも咄嗟の事に動きが鈍くなってしまい、剣城は二人を抜いた。それでも追う二人に注意しながも更に速度を上げて振り切った。

「速い!」
「剣城!いっけぇ!」

剣城はシュート体制へと入った。

「はぁぁ!でやぁ!!」

ボールを上げてからのノーマルシュート。
だがしかし、ボールは三国の伸ばされた両手でがっちりと止められてしまった。

「あぁあ…」
「惜しかったねー剣城ー!もうちょっとだったのにー」

天馬は少し残念そうに肩を落とし、信助もまたドンマイと剣城に声を掛ける。
惜しかったと、声をかけるも剣城のシュートを受けた三国だけは「いや、全然ダメだ!」と声をあげてきた。

「「え?」」
「ディフェンス陣を振り切る事に気を取られて、しっかりとした体制でシュートが打てていない。この程度じゃ、ゴールは敗れないだろうな」

毎日のように剣城やら皆のシュートを受けている三国だからこそ言えるその言葉。それは妙に説得力があって、天馬と剣城は眉をしかめて悔しそうにしていた。

…………
………

「ドリンク皆さん回りましたー?まだの人言って下さーい」

結局必殺タクティクスはあのままの状態となり完成は出来なかった。そこで、練習は一時休憩となり、天馬達は葵からドリンクを貰う。

「俊足と決定力の両立、かあ…」
「はいよ。これ飲んで元気出しな」
「あぁ、ありがとう」

中々完成しないタクティクスに悩む神童に水鳥は神童の後ろの手すりに腕を乗せながら神童にドリンクを差し出す。
そして、

「これも」
「え?」

茜が差し出したのはトリコロール柄の一通の手紙。

『(まさか、ラブレター?!)』
「エアメール」
「エアメール?」
『チッ』
「…?」

ラブレターだったらテンション上がってたのに…と、指ぱっちんをしながら惜しがる悠那。そんな彼女を見ていた輝は疑問符を浮かばせながら手元にあるドリンクを一口口に含んだ。茜からエアメールを受け取った神童。裏面を見てみれば、それは外国からであろう英語で名前が書かれていた。

「りょうま…

!まさか、錦か!?」
「「「えぇ?!」」」

神童の口から出てきた名前に倉間達は過剰反応しだし、水鳥もまた静かに名前を呟く。

『あれ』

なんか、聞いた事あるな…その名前。

「“皆の衆、まっことご無沙汰ぜよ、錦龍馬じゃ”だってよ」

何か坂本龍馬みたい。
?…あれ、やっぱり知ってるぞ…この人…

「相変わらずぜよぜよ言ってんのかよアイツー」

水鳥はどうやら錦と面識があるようで、両腕に顎を乗せて呆れながら笑って見せる。

「錦を知ってるのか?」
「龍馬とは、一年の時同じクラスだったんだ」
「“龍馬”だって〜!随分親しげ〜」

霧野の問いに水鳥は懐かしげな表情をすれば、浜野はドリンクを持ちながら唯一錦という人物の事を龍馬と呼ぶ水鳥を茶化すようにニヤニヤ笑いながら言う。どうやらその錦という人物は男なのだろう。浜野の冷やかしに水鳥の顔は段々赤くなっていき、傍で聞いていた三国もまた、何故かほんの少し顔が赤い。

「べ、別にそんなんじゃねーよ!!」
「え〜?」
「浜野!そこ動くなよ!」
「え?!あ、ごめんなさい!もう言いません!」

余りにしつこい浜野の冷やかしにキレた水鳥は追いかけ回し始める。普段男っぽい口調で喧嘩っぱやい彼女だが、意外と女っぽい面もあるんだ。顔を赤くしながら浜野を追いかける水鳥を見て悠那は密かに笑みを浮かべていた。

「あの!」
「?」
「誰からの手紙なんですか?」

一方天馬達一年は何の話をしているのか気になったのか、目を輝かせていた。

「俺達が、新入部員だった頃の写真だ」

暫くして神童が部室から一枚の写真をわざわざ持って来てくれた。そこにはまだセカンドチームのユニフォームを着ている神童達や、他のメンバーも写っており仲が良さそうにしているのが分かった。

「そしてコイツが錦龍馬。去年まで、ウチの部に居たストライカーだ」

神童が指を指したのは速水の少し前でボールを片足で踏んでいるポニーテールの男子。周りに居る選手達とは違ってどことなく雰囲気が違う。セカンドに居るというのに、何故だかファーストに居るような自信顔。
ん?て、あれ…

「才能を認められて、イタリアにサッカー留学したんだよ」
『!』

多分、思い出したかもしれない…

「「サッカー留学?!」」
「へぇ!スゴい人なんですね!」
「とんでもないキック力の持ち主でな、アイツのシュートには何度痛め付けられた事か」

三国は思い出したかのように自分の手首を回して言う。その様子を見て三国もまた彼のシュートの感じはまだ覚えているのだろう。

『まあ、確かに強かったですよね〜』
「自分の事、雷門の点取り屋って言ってたっけ」
『ああ、言ってましたね』
「そーいえば足も速かったよな」
『陸上部顔負けっスよね〜』
「付いていくのに苦労したド!」
『確かに…』
「ボールキープも上手かったですよお!奪ったボールは決して渡しませんでしたから!」
『いやあ、奪うのに苦労しましたよ〜』

浜野、倉間、天城…そして遂には速水まで三人を押し退け錦の自慢をしだす。天馬達はそんな先輩達の話しを聞いて直ぐにスゴい人だと信じ、目を輝かせる。
そして、気付いた。

「「「「って……え?!錦知ってんの悠那?!」」」」
『フッ』
「ウザッ」
『グスッ…』

悠那もまた、先輩達の自慢話に参加していた事を。目を見開きながら悠那の方を天馬達が見てくるものだから、悠那はいつぞや南沢がやっていたであろう、前髪をかき上げる。それは悠那の一種のボケであろうが、倉間にガチのツッコミを食らってしまった悠那は、鼻を鳴らす。
何だい!反応の遅かった皆がいけないんだからな!!←

「で、知ってるのか?」
『…まあ私イタリアに住んでたし』
「「「「あぁ…」」」」

…まぁ、最近イタリア語も出なくなったし忘れられるのも無理ないけど…酷くない…?ほら輝くんを見てよ、そうなの?って言わんばかりの表情だよ。って輝くんは関係ないか。

『確か去年の夏休みに久し振りに会いましたね』
「どんな人なの?!」
『……』

興奮気味の天馬に聞かれた瞬間、悠那は一旦考える素振りをする。そして、思い出したようにあ!と声を上げる。

『喋り方が土佐弁みたいで〜…
あ、後世界史の話になるといつも言い合いになってたよ』
「どんな?」
『一番格好良いのは新撰組か坂本龍馬かっていう。やっぱり新選組だよねぇ?』
「「「(すんげぇくだらねぇな…)」」」

あっははと笑って見せる悠那。そこで「新撰組はかっこいいよね!」と熱弁しだして対応に困り出す一年達。喧嘩の内容が内容なだけに、悠那も錦龍馬もまた性格が性格なだけに実にくだらない。胸を張って言われてもこちらとしては苦笑すらも出来ないのだ。

「……」
「?」
「Σ!?」
「見たいんでしょ?」
「〜〜っ!」

話しが勝手に盛り上がっている中、狩屋は葵の手の中にある写真を気になっていたのか後ろからそっと覗こうとするが、それは葵に気付かれてしまう。図星を言われてしまった狩屋は顔を赤くしていく。
その様子を悠那は横目で見て密かに笑った。

「ホントにスゴい人だったんですね!錦さんって!」

話を聞いた天馬は錦龍馬という人物は結果、誰もが認めるスゴい人という結論を見つける。そんな人とサッカーが出来ればそれこそ素晴らしかっただろうが。

「アイツが居れば、このタクティクスも完成したのかな〜…?」
「あぁ!」

足も速くてキック力もあり、ボールのキープも上手い。きっと、この必殺タクティクスにはもって来いの人材だっただろう。浜野のちょっとした言葉に、速水もまた納得したように手の平に拳をパンッと軽く叩く。

「居ない奴の事を言っても始まらない。
休憩は終わりだ!やるぞ、皆!」
「はい!今度こそ必殺タクティクスを成功させよう!」
「言われなくても」

神童の指示に一年生達はビシッと背筋を伸ばし、フィールドの中へと入っていく。天馬もまた剣城に意気込むように言えば、剣城も当たり前だと言いお互いにフィールドへと向かって走る。

「よぉし!僕も新しい必殺技頑張らなきゃ!狩屋ー!行くよー!」
「え、俺?!何でだよ…」
「いーからいーから!」

信助もまた天馬と剣城に負けないよう気合いを入れて同じDFの狩屋の手を引いてフィールドに入っていった。気合いの入っている天馬達。悠那もまた彼等の気合いが移ったかのように胸の中に湧き上がるものを感じながら葵の持つ写真を横目に見た。

『錦先輩…』

確かにこの人ならやってくれるかもしれないな。今この場に居たらの話しだけど。そういえば、錦先輩の事で何か重要な事を忘れているような…いや、重要だったかも忘れてしまっている気がする。
さっきまで錦自体を忘れていた自分が直ぐに全て思い出せる筈もない。うーん、と考えようとしたが無駄だと分かった悠那は「っまいっか!」と笑みを浮かべて、次に突っ立っている輝へと目を向けた。

『輝くん!行こ』
「え?僕も?」
『当たり前でしょ!輝くんだって雷門の一員なんだから』
「!はい!」

輝も雷門の仲間に変わりない。今は初心者並みでも、いつかは皆が彼を必要する日が来る筈だ。その為には皆との練習、自分に負けないくらいの特訓をしなければならない。悠那は輝の手を掴み取って、信助みたく一緒にフィールドの中へと入っていった。

―あ、輝くんの事呼び捨てで良い?
―え、良いですけど…何でですか?
―呼び捨ての方が言いやすいからねえ
―あ、そ、そうですか

「さぁ!俺達もやるぞ!」
「よっしゃ!やりますかぁ!」

一人一人が違う気合い。だが白恋中に勝ちたいという気持ちが十分にある一年生達を見た先輩達は、彼等に負けられないと言わんばかりに急いでフィールドの中へと入っていく。
そんな彼等の様子をギャラリーから見ていた吹雪達。彼等がどことなく昔の雷門、14歳だった自分達と被って見えてしまい、頬が自然と緩んでしまう。

「うん。変わらないね、雷門は」

強くなる為に互いに努力し、強さを高め合い絆を強くしていく。

「…円堂君。僕に出来る事があったら、何でも言って欲しい…」
「え?」
「僕も協力したいんだ、皆が起こしている革命の風に」
「吹雪…」
「あぁ!」

フィールドで戦えないからこそ、自分達にしか出来ない事がある。円堂達も円堂達で天馬達みたく気合いを入れる。吹雪の強い気持ちを受け取り、昔のように笑って見せた。

…………
………

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