「くぅ〜ん…ぁおぉ〜ん…」

その日の夜。天馬は木枯らし荘の玄関でサスケにブラシを掛けていた。それがサスケにとって気持ち良かったのか、喉を鳴らして天馬にもっとしろと訴える。だが、それを知ってか知らずか天馬の口から出てくるのは今日のサッカー部についての話しだった。

「でさ、輝って結構やるんだよ!直ぐにドリブルもシュートも覚えてさっ」
「あぅっ」

サスケは気持ち良さそうにブラシを掛けられながら、天馬の話を聞いていた。興奮気味に話す天馬だが、手を休める事はなくちゃんとサスケの毛を解かす。

「六人も居れば、いつか一年生だけで必殺タクティクスを作れちゃうかもな!」
「わふっ」

一年生も最初と比べて人数も増えてきている。これなら、必殺タクティクスも出来るかもしれない。そんな楽しみまでこのサッカー部に出来た。これから先、サッカーの楽しみが増えていくに違いない。
そこまで想像した天馬。だが、ふとサスケの毛を解かすのを止めて今日の事を振り返った。

「…でもさ、ちょっと悠那と一緒に居た輝が羨ましかったんだ…」
「わふ?」
「輝の事必死に応援してる悠那。あの応援が、俺だけの物になれば良いのになあ…」

なんてね、と困ったように笑みを浮かべて再びサスケのお腹を解かし始める天馬。だがしかし、彼の独り言は、サスケ以外、聞く者は居なかった。

…………
………

「皆さん!次の対戦相手が決まりましたよ!!」

翌日の朝。葵が次の対戦相手が決まったという事で部員全員を部室に集まらせた。部員達もまた、次の対戦相手が気になっていたらしく、葵から紙を貰った瞬間に直ぐに目を通した。

「ホーリーロード全国大会。二回戦で戦うのは…白恋中です!」
「白恋中か…」

神童は相手チームの選手名簿を見て呟く。

「あの北海道の名門ですよね?」
「知ってるの天馬?」

名簿を見るなり、天馬は嬉しそうに声を上げる。だが、その名門を知らなかった信助は紙から目を離して天馬を見上げてそう聞く。
OFもDFもすっごくレベル高いし、何よりもプレイがフェア。胸を張りながら説明してみせる天馬。そんな彼に目から鱗。ここまで詳しい情報を天馬が持っていたとは。

『ヤケに詳しいね』
「それいつの話だよ。どんな名門も今じゃフィフスセクターの息が掛かってるっての」
「ま、そうだろうなぁ…」

悠那に尊敬され、天馬がえっへんと再び胸を張ればそんな彼に狩屋は呆れたように言い放つ。更に浜野も同意されてしまい、天馬の情報は無意味となってしまった。
だがしかし、一年生のやり取りを横目にしながら再び紙へと目線を移した神童が何かに気付いたように小さく笑みを浮かべた。

「いや、希望はあるぞ。ここに白恋中のコーチの名前が書いてある。

…吹雪士郎とな」

士郎兄さん。

「吹雪って…」
「イナズマジャパンのあの吹雪さんですか!?」
「あぁ、円堂監督や鬼道コーチと一緒に戦った親友だ」

あの吹雪士郎ならフィフスセクターに屈していない。それだけじゃない。もしかしたら雷門と同じく革命を起こしている可能性だってあるかもしれないのだ。
もちろん、彼もまた円堂や鬼道みたくサッカーが大好きだった。性格は少し変わっているが、強さもかなりのもの。悠那は再び紙に目を移した。名前だけでも、どことなく安心出来るからスゴい。

でも…

「じゃあ、今度の試合は楽しくサッカーが出来るかもしれないですね!」

確かに嬉しい筈なのに…

「そうだ。だが、強力な相手だ。皆、気を引き締めて行くぞ!」
「「「おぅ!」」」

何でだろう。
嬉しく、ない…?

『……』

嬉しい筈なのに、嬉しくない。

…………
………

「皆ー!頑張って下さいねー!!」

輝がベンチで応援してる中、他の部員達でミニゲームが始まっていた。
天馬がドリブルで上がり、倉間にパスを出す。ボールを受け取った倉間はそのまま上がって行く。だが、彼の目の前に天城が立ち塞がってしまい、倉間はドリブルを止めてしまう。

「打たせないド!」

だが、倉間はボールを天城の肩辺りまでに上げ、その隙にボールの落下地点へ回り込む。

「負けるかよ!」

その状態から放ったシュートはクロスバーの上を通り過ぎてしまう。それだけならまだ良いが、運悪く土手に居た人に向かって行ってしまった。ノーマルシュートだとはいえ、雷門のFWである倉間のシュート。威力は強い。当たってしまう。だがそのシュートはあっさりとした動きでトラップされた。

「――うん。気持ちの籠もった良いシュートだったね!」

弾んだボールを手に持ち、倉間のシュートを褒める。天馬達はもちろん目をぱちくりさせていた。
だが、大人達はその人物に気付いた。あの声といい、あの動きといい…あれは、

「…吹雪?」

皆がその人をジッと見ていれば、円堂がその人物の名前を呼んだ。逆光からで顔などがあまり認識出来なかったが、自分達がベンチの影から出て近付いて行けば、自分達の予想は確信へと変わった。

「吹雪じゃないか!」
「久し振りだね、皆!」

吹雪士郎。
かつてのイナズマジャパンのDF&FWの役割を果たした、円堂達の親友。

「「あぁ!/はい!」」
「吹雪士郎…って、えぇ?!」
「この人が吹雪士郎さん?!」

声は昔とあまり変わってはいなかったが、髪型や雰囲気などは確かに昔とは違い、大人になっていた。最初こそ天馬達は気付かなかったものの、その反面かなりの反応で驚いていた。

「心配していたぞ。白恋中のコーチを外され、行方が分からなくなったと聞いたからな」
「「えぇ!?」」
『!』

鬼道の口から明かされた事実。円堂も春奈もその事を今聞かされたのか思わず声を漏らしていた。そして、それは天馬達もそうで鬼道から再び吹雪へと視線を移す。表情は先程よりも曇っており、切なそうにこちらを見下げている。どうやら、鬼道の話しは本当の事らしい。
嫌な予感は、してたんだ…

「何があったんだ」
「白恋中は…

白恋中は、フィフスセクターの手に堕ちた」
「「えぇっ?!」」

唯一のチームにもフィフスセクターは侵食していた――…

…………
………


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