『終わった…』
「お疲れ悠那」

試合も終わってしまい、一点が追加されてしまった月山国光。悠那が電光掲示板を見ながら静かに呟けば、後ろから聞こえる逸仁の声かけ。悠那が振り向いてみればそこには相変わらずニコニコと口角を上げたままの逸仁がこちらに片手を上げて笑ってきていた。その表情を見た悠那は再び寒気を感じてしまった。

『逸仁さん…』
「…そんな怖い顔すんなよ」

可愛い顔が台無しだぜ?とからかいながら言えば、悠那は顔を赤くしながら放って置いて下さい!と言い放つ。確かに先程までは逸仁に向かって睨み付けていたかもしれない。何を考えているかも分からない相手を目の前に、こうニコニコ返せる筈もない。まあ、全ては今の発言によって台無しとなったが、相手のペースに流されてしまった自分にも羞恥が襲ってくる。
それには負けてたまるか、と対抗心を相手に向けて目線をファンに移した。

『試合…イカサマしないと思いましたけど、やっぱりしてきましたね』
「俺はイカサマしてないだろう」
『してますよ』

フィールドまで味方に付けて…と悠那が扇風機を見ながら言えば、逸仁は片眉を下げてしまい、押し黙ってしまう。これは自分もそれを認めたという事になる。それが一番悔しくて、悠那は試合中でもずっと気にかけていた事を口に出した。

『…何で、フィフスセクターの方に付いてるんですか…』
「何で…か、何故だろうなァ…」
『…?』

逸仁の曖昧な返答に悠那は思わず顔をしかめる。確か彼はフィフスセクターを嫌っている。月山国光はきっと逸仁の本心を知っている。でなければ、こうして話しているだけなのに逸仁を睨む筈がない。彼は敵視されているのだ。ならば、何故彼は月山国光のチームに居るのだろうか。彼の言葉が全て嘘にも本当にも聞こえてしまい、矛盾さを感じてしまう。
悠那の怪訝そうな顔を見た逸仁はニコッと笑い、悠那のデコにデコピンを軽くした。

『いたっ』
「この試合で、お前達雷門が勝ったら教えてあげるよ」
『…意味分かんないんです』
「どう致しまして」

褒めてません!!と悠那が突っ込めば逸仁は笑ってそうか?と返して来た。
よく分からない事はどことなく三年生らしい大人っぽさがあるのに、こういう事をする時は何故か自分より幼く見えてしまうのだ。本当に無邪気に見えて、何故月山国光に居て、フィフスの味方についているのかが不思議だ。

「ユナー!!早くこっちに来て休まないと後半辛いよー!!」

不意に、葵が悠那を呼ぶ声が響いた。

「後半、お互い頑張るか」
『上等です』

どうやら、お互いのチームメイトが自分達を呼んでいたらしく、フィールドにはもう誰も居ない。仕舞には審判にも戻りなさいと言われる始末。この状態を観客席に居た人達はどう思っただろうか。少なくとも怪しく見えただろう。
お互いにそれだけ言い、背を向けベンチに戻って行った。

「もー!遅い!!」
『すみません…』

ベンチに戻れば葵にいきなりの説教。試合の疲れに逸仁の謎に葵の説教はかなり精神的にこたえる。悠那は申し訳なさそうに顔を俯かせ謝った。

「しょうがないわね…はい、ユナのドリンク」
『ありがと』

葵の説教は直ぐに終わり、悠那は葵からドリンクを貰い、ゴクゴクと喉を潤していく。

「後半、車田は信助と交代だ」

皆が集まった数分後に、円堂から後半についての発表が言われた。

「俺ですか?」
「竜巻を利用する月山国光からボールをカットするには、西園のジャンプ力が有効だからな」
「分かりました」

鬼道の最もな理由に車田は直ぐに承知する。そして車田は信助に笑いかけ、「頼むぞ信助!」と声をかけた。信助もまた「はい!頑張ります!!」と車田に返す。

「それから霧野!」
「はい!」
「後半、お前もベンチに下がれ」
「!?」
『!』

円堂の思わぬ発言に霧野の目は見開かれた。

「霧野はディフェンスの要です!それを、下げるなんて…!」
「良いな、霧野」

神童が霧野を庇いながら言うが、有無を言わせない円堂の目に霧野の表情は愕然としていた。

「…はい」

だが今は返事するしかなかった。

「では、監督。誰と交代を?」

神童の言葉に一乃と青山の顔に緊張が走る。
が、円堂は…

「後半はこの10人で行く!」
「「「「えぇっ…!?」」」」
「10人?!」
「10人…ですか?」

まさかの10人で来た円堂。部員達は声を上げるが、意見は変える気がないのか円堂は「以上だ!」と告げた。

「皆、後半に備えろ」
「…っ、」

霧野は悔しそうに顔を俯かせた。

「はい、後半頑張ってね」
「ありがとう」

葵に渡されたドリンクを飲もうと蓋を開ける狩屋。その時、霧野の声が聞こえた。

「監督、狩屋は残すんですか!?」

「?」
『……』

霧野と円堂達が話しているのが聞こえた葵は不思議そうな顔をして三人に目を向けた。天馬は何か神妙な面持ちでそれを見る。

「そうだ」
「どうして…!」
「人の事は良い。前半のお前のプレイは、かなりムラがあった。結果としてそれはチームの連携を乱す」
「乱しているのはアイツの方です。アイツは、シードかもしれないんですよ?!」

狩屋本人は冗談と言ったものの、自分はシードだと一度でも言ってしまえば疑わざるをえない。

「どうしてそう思う」
「…アイツは、嘘を吐くんです。嘘でチームの内部崩壊を狙ってるんです」

その言葉を聞いた円堂はハァと小さく溜め息を吐いた。

「……頭を冷やせ」

必死に訴える霧野に円堂は霧野にとって無情な言葉を言い渡した。それを言われてしまった霧野は拳を握り締めて湧き上がってくる怒りに堪えるしかなく、力なく「…分かりました」と、霧野は一礼をしてベンチに座り込む。そんな彼に天馬は霧野に近付こうとする。

『天馬…』
「あ、何?」
『…あの…あまり、蘭丸先輩を責めないでね…』

不意に悠那は天馬の手を掴むなりそう言う。天馬はそれを見て、悠那に微笑んだ。

「大丈夫だよ」
『……』

天馬のその言葉を信じ、悠那は渋々手を離した。自由になった天馬は霧野に近付いていく。

「霧野先輩。俺、狩屋はシードじゃないと思います。アイツ、プレイで証明するって言ってました」

天馬は狩屋を庇うよう、そしてあまり霧野に刺激しないように自分の本心を言う。霧野はそれを聞き、少し挑発的な言葉を言った。

「それなら証明して貰おうじゃないか、俺はここから見ているからな…

…少しでも怪しい素振りがあれば、許さない」

これはチームを思った事での発言だった。霧野は狩屋に敵意を隠さずに睨み付ける。狩屋はそんな霧野を知ってか知らずか、ニッと笑ってみせた。

「如何に思う、古巣との戦いは」

近藤は南沢と兵頭に雷門中を見ながら話し掛ける。

「奴等は敵です。それ以上でもそれ以下でもありません。
ただ倒すだけです。」

その目の前でドリンクを飲んでいた兵頭もまたその会話に入り込む。

「左様、彼奴等の敗北は自明。特にディフェンスはガタガタだ」
「ありゃあザルよ」
「しかり、あれではゴールを決めてくれと言わんばかり」
「うむ、後半更に追い詰めろ」

近藤は選手達の感想に否定をする箇所が無いのか、それだけを命令した。南沢は少しだけ振り返り、雷門のベンチへと目を向ける。そこには今まで自分も居た居場所。しかしもうそこは自分の居場所ではなくなった。

「(俺は俺のやり方がある…)」

南沢がそう思ったと同時だった。

「――どうだろうな」
「「「…?」」」
「どういう事だ壱片」

不意に聞こえた南沢や月山国光にとっては嫌な声。声の主が直ぐに分かった近藤は眉間に皺を寄せ、直ぐに逸仁に問い質す。

「雷門は地区予選を勝ち残って来た連中だぜ?そう簡単に諦める訳ねえよ」

ディフェンスの連携だってその内に再生して来る。と嫌に確信付いた事を逸仁が言えば、南沢は眉間に皺を寄せる。

「手強いぜ、雷門は」

逸仁はニコッと笑い、タオルで顔を拭いた。

「……」

そういえば、コイツもフィフスセクターが嫌いって言ってたな…俺が入部した時も直ぐに言ってきたし。
気に食わねえ…
コイツの言葉は松風と谷宮が言う事と似てて…

嫌いなタイプだ

…………
………


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