《間もなく後半戦の開始ですが、何と雷門は霧野を下げ交代選手を入れず、10人体制で望みます!!》

「10人だと…?」
「フンッ、舐められたものよ」
「ベンチに控えを揃えながら敢えて10人、如何なる秘策があるのやら…」

「(我が月山国光相手に一人欠いて挑んで来るとは、愚の骨頂!)」

ピ―――ッ!!

ホイッスルと共に月山国光からのボールで試合は始まった。だがしかし、開始した直後に再びあの巨大扇風機が回り出す。中央には巨大扇風機から出来上がった三つの竜巻。いきなり雷門の視界を遮った。

《前半戦、この竜巻を巧みに利用した月山国光!雷門どう出る!?》

南沢、月島、一文字、柴田は竜巻の影を利用して隠れてしまい、雷門の見えない事を良い事にボールを繋いでいく。

「これじゃあ見えませんよお!」

月山国光は竜巻を今度は壁のように利用し雷門を圧倒的に翻弄している。

「(やはり、竜巻の利用は奴等の方が上か…!)」

彼等はどんなフィールドで戦うかを事前に知っていたが為、竜巻を利用する。すると、竜巻の中から柴田が飛び出して来た。そこに天城がマークをしようと走ってくる。

「行かせないんだド!」

マークしようと入るも、直ぐに柴田は月島にパスを回してしまう。狩屋もまた月島に走って行くも、月島から再び一文字に回ると直ぐに方向転換し、一文字の前に立ちはだかった。

《またも狩屋の素晴らしい機動力!》

狩屋の思わぬ運動神経に一文字は目を見開きながら狩屋を見やる。

「“ハンターズネット”!!」

狩屋は素早く自身の必殺技を繰り出した。
狩屋の爪によって作られた赤いネットは一文字に襲いかかり、完璧に捕まえてボールを跳ね返させる。ボールを奪い返した狩屋に月島がスライディングでボールを奪おうとしかけてくる。だが狩屋はそれを交わし、天城にパスをし、天城はボールを高く上げて、信助がそれに向かってジャンプをしだした。

「僕が行きます!」

信助はヘディングをする。それを見てボールが落下する場所に先回りをしていた逸仁。が、またもや狩屋が逸仁よりも前に出てボールを保った。

《またも狩屋!ディフェンス陣の連携でボールをがっちりとキープの雷門!!》

狩屋の足元にはボール。
目の前には逸仁。

「結構やるじゃんお前」
「そりゃ、どーも」

ボールを取られまいと若干体を揺らす狩屋。ボールを取ろうと狩屋の動きにあわせて揺れる逸仁。口角を上げたまま狩屋に言ってみせれば、狩屋は笑みを浮かべずに嫌味を込めた感謝を述べる。そんなやり取りをしていれば、近くから竜巻が接近して来ているのが見えた。
竜巻の風の音やら歓声やらでうるさいフィールドに、不意に逸仁の耳に近藤監督の言葉が届いた。

「壱片竜巻を使え」
「……!」

その言葉を聞いて一瞬目を逸らした逸仁だったが、次にはニヤリと口角を上げた。その時だった。狩屋は足元にあったボールを軽く上げだす。

「竜巻の使い方。散々見せて貰ったからなぁ、こっちの番だぜ!!」

ようやく、逸仁に対して笑みを浮かべた狩屋の目は獲物を捉えたようで、思わず生唾を飲み込む。だが、そんな逸仁をよそにそのまま竜巻にボールを蹴り込んでしまった。その行為は今正に逸仁がしようとしていた事だが、いざ他人にやられてしまうと驚かざるをえなくなる。まるで彼がした行為は先程までの月山国光のようだ。

「ヒュー」
「!?」
「何と…!」

これには兵頭と近藤も驚いたのか、目を見開いた。一度生唾を飲み込んだ逸仁だったが、改めて彼のした行為に余裕そうに口笛を吹きながらその様子を見やる。

「後半戦の竜巻は、雷門11人目の選手だ!」
「!」
「よしっ!」

もちろん、狩屋の行為は味方である雷門もまた驚きの声を上げる。ベンチで狩屋の様子を見ていた霧野もまたその一人だった。そして、何より彼に驚かされたのは彼の発言。確かに今の雷門には一人居ない10人でやっているサッカー。一人足りないのならば、作ってしまえばいい。利用してしまえばいい。それでサッカーが成り立つのなら。
雷門の為に言われたであろうその言葉に、霧野は思わず耳を疑っていた。
そんな事はよそにベンチで見守っていた円堂は一人だけ歓喜の声を上げた。

「そう…」
「…?」
「所詮は機械。意思が無いから使いようでは敵にも味方にも簡単になる」

自分の近くに佇む渦を巻く竜巻。ボールを巻き込んでまだ渦巻く竜巻を見上げながら逸仁はニコッと狩屋に笑いかける。狩屋本人はその意味が分からないと片眉を下げながら見ていた。

「俺ァ、こういう平等な位置であんた達と戦いたかったんだよ」

嘘を知っていた狩屋だからこそ、逸仁の今の言葉には驚愕の表情をした。嘘しか感じられなかった彼からは何故か嘘は感じれなかった。最初は負け惜しみかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

「まあ、いいや…天馬君!任せたぜ!」

訳の分からない奴だからこそあまり関わりたくない。狩屋はそんな彼を放っておき、天馬の名を呼ぶ。天馬もまた、自分が今何をすべき事かを察知したようで直ぐ走り出しており、天馬はそのまま竜巻に走って行く。

「“スパイラルドロー”!!」

天馬の必殺技は、悠那の時と同様に直線竜巻の中へと突っ込んで行く。

「これは如何にした事か!?」

ボールを持っている竜巻と一体化した天馬を止められる者は、現時点では敵にも味方にもいない。

「(ここまで使いこなすようになったか…!)」

『よし!!』
「天馬!行けー!!」
「11人目の選手とはな!」

竜巻の自由自在な動き。これはどこからボールが出て来るか、松風がいつ飛び出してくるか分からない。いつどのタイミングで竜巻から出て来るのかも、もちろん天馬本人しか分からないのだ。月山国光はそのタイミングの時に備えなければならない。雷門は有利な立ち位置となった。

「はぁぁああ!!“マッハウィンド”!!」

天馬が出たと同時に竜巻は収まり、そのまま勢いに任せ必殺技を繰り出した。

「うぅぉぉおお!!“巨神ギガンテス”!!」

だが、それは兵頭の化身にとっては普通のシュートにはなんら変わりない。兵頭は天馬の行動に驚いたものの焦らず化身を繰り出した。

「貰ったあ!!」
「!シュートチェインか!?」

マッハウィンドの軌道は確かにゴールに向かっていた。だが、僅かばかりにズレており、天馬の放った必殺技はシュートではなく、倉間へと通じるパス。倉間は持ち前の技術でボールを掴み、マッハウィンドの威力を自分の必殺技と合わせて放った。

「“サイドワインダー”!!」

シュートチェイン。
そのおかげでボールの軌道は見事に変わり、息ぴったりなシュートチェインは兵頭に必殺技を使わせる暇も与えずに、後ろのゴールネットを揺らした。

ピ―――ッ!!

ホイッスルと共に電光掲示板は雷門側に“1”が追加される。
天馬から倉間のパスで雷門の同点。竜巻を利用したシュートチェインが決まったのだった。何より倉間の初得点。喜びもかなりあった。決まったと共に盛り上がる観客の大歓声。マネージャー達もまた手を取り合って喜んでいた。

「……」

傍らで喜び合うマネージャー達の中、霧野は黙って狩屋を見やる。

「同点とはな…」
「だから言っただろ?」

南沢の呟きに、近くに居た逸仁は嫌味っぽく笑いかけた。勝ち誇ってみせる彼の表情を見た南沢は余計彼に対する苛立ちを感じ、不機嫌そうに顔を歪める。
南沢は苦手だった。逸仁の何を考えているかを。
南沢は苦手だった。逸仁の全てを見透かすような態度を。
南沢は苦手だった。自分と同じ中学生なのに、人に寒気を与える程の冷めた笑みを浮かべる逸仁を。

「…うむ、これは倒しがいがある」

逸仁の言葉に兵頭はうん、と小さく頷きちらりと近藤の方を見やる。近藤は兵頭が見たと同時に上げていた右手を横に振るった。

「監督の承認は降りた」

「狩屋!さっきのプレイ凄かったね!」
「そっちこそ!竜巻の使い方上手くなってるぜっ」
『てゆーか、どっちも凄いよ!アドリブでしょ?!アイコンタクトであそこまで出来るなんてスゴいよ!マジ神!!』

ポジションへと戻っていく狩屋に天馬が声をかける。そして、お互いに相手のプレイを褒めていれば、不意に天馬と狩屋の手を握りブンブンと振る悠那。二人はいきなり過ぎて呆気に捕らわれていた、が。

「前半は霧野先輩がDFのバランスを崩してた…監督が下げて正解だったな。
このチームに誰が必要で誰が必要でないか、ハッキリしたよな」
「「…え」」

手を離した瞬間に、狩屋は優しそうな顔でそう言い出す。二人はその狩屋の発言に目を見開かせた。
霧野にシードと疑われた狩屋。優しそうな笑みを浮かべては何を考えているのか分からない程に冷めた笑みを浮かばせる。天馬もどこかそんな狩屋の様子に気付いていた。だけど、天馬は彼の言葉を直ぐに反対するのではなく、

「――そうなのかな」
『!』

真っ正面から受け止めて自分の意見を言う。

「誰かがいらないなんて、誰にも決められないよ…色んな奴が居るからチームなんじゃないかな、何だかサッカーが寂しそうだよ」
『天馬…』
「お前達」

定番のごとく天馬がそう言えば、キョトンと呆気に捕らわれる狩屋。そんな事を三人で話していれば、神童が「ポジションに戻れ」との事。神童に言われ、三人は返事をした後急いで自分のポジションに戻っていった。

「(寂しい?何でサッカーが寂しがるんだよ…)」

いち早くポジションに戻った狩屋はポジションに付いた天馬を横目に見ながら彼の言葉に疑問を感じる。
そんな彼に竜巻の風でもない優しい風が髪を揺らした。

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