前半も直ぐに始まり、いきなり先制点を奪ったのは月山国光だった。

―…霧野先輩の言う通りですよ。
―何…?
―…俺…フッ、シードなんです
―なっ…!?
―…なーんて、冗談ですよ

「アイツ…どういうつもりでシードなんて…何が狙いなんだ…?」

狩屋の不意に言われた告白。あまりの事に霧野は動揺を隠しきれなかった。

「フンッ、良い様だな」
「南沢…」

霧野が狩屋を見やる傍、竜巻の力を借りてゴールを決めた南沢は三国に嘲笑うような言い方でそう言い、自分のポジションへと戻って行ってしまう。
自分達に背中を向けて走っていく南沢に「待てよ南沢!」車田が呼び掛けるが、走る足も止めず後ろも振り向かず、その代わりに戻り際で天馬と悠那を睨み付けてきた。

「…ぁ、」
『……』

今の目は、“お前達にはたっぷり礼をさせて貰うからな…”という憎しみと恨めしの籠もった目。言われてはいない。ただそんな事を言いそうな程の睨みだったのだ。走り去ってしまった南沢の背中を何も言えないまま天馬と悠那はただただ見ていた。

…………
………

「すまない…」

ゴールの中に入っているボールを持ち、駆けつけた神童、信助、天馬、悠那に言った。竜巻の所為とは言え、ゴールへと入れてしまい相手チームに得点を入れてしまったのだ。一度止められた南沢の必殺技。三国にも若干プレッシャーがあったのだろう。

「大丈夫です。必ず取り返します」

神童のその言葉に悠那もまたうん、と頷き不意に月山国光に居る逸仁を見やる。だがしかし、逸仁は相変わらず口角を上げたまま電光掲示板を見上げている。何を思ってあの電光掲示板を見上げているのか、見上げるのを止めた逸仁は直ぐに目を逸らして彼もまた自分が居たポジションへと戻っていく。

「…ユナ?」
「…ぁ、何?」
「そんなに、気になるの…?あの、逸仁さんって言う人…」

天馬の言葉に神童と信助も悠那の方を見た。

『…訳分かんない人だからね』

まるで表情を隠すピエロみたい。と悠那は口角を無理矢理上げているものの、どこか真剣そうな声で呟いた。逸仁は徒者じゃない、と悠那は感じていたのだろう。天馬達もまた思わず逸仁の方を見た。その時だった。

「霧野!!」

「「「「…?」」」」
『天城先輩…?』

いきなり天城が霧野を怒鳴るように言ってきたので、悠那達も不意に自然とそちらを向いてしまう。そちらを見てみれば、天城は物凄い喧騒で霧野を睨んでいた。

「言いたい事があるならハッキリ言って欲しいド!!」
「俺は何も…
…!」
『!』

迫力のある天城に霧野は何か言おうとする。だが、何かにふと気付き、天城の少し離れた所に居た狩屋が目に付く。悠那も何故天城が霧野に突っかかっているのかが分かった。天城と霧野から離れてフィールドの人工草を足で蹴って口角を上げている。
天城を騙す事に成功したからこそに出来た表情だった。

「狩屋に何か言われたんですか」
「狩屋は関係ないド!今度奴等が攻めて来たら俺が止めてみせるド!!」

霧野の目線には地面を足でつつく澄ました顔の狩屋。今の霧野にはあまり天城の言葉は聞こえていなかったらしく、狩屋を睨み続けている。

「俺、お前には絶対負けないド!!」
「アイツ…!」

天城の話が大体終わった頃、霧野は狩屋の所へ向かおうとする。が、それは神童により阻止された。

「霧野、らしくないぞ。狩屋が入って今までと勝手が違うかもしれないけど、お前なら大丈夫。だろ?」
「…あぁ」

霧野は神童の言葉を何も言わず、落ち着いたのか小さく返事をする。何とか大事にならなくて済んだ。それを聞いた神童はポジションに戻って行く。霧野もまた、渋々戻って行った。それを狩屋はニヤッと笑った。

『てやっ!』
「うわ!?」

そんな狩屋に悠那は狩屋の頭をチョップで軽く叩く。不意打ちでいきなり叩かれた狩屋は転びそうになった。

「な、何するんだよ悠那…」
『悪戯をした猫ちゃんに軽くだけどお仕置き』

悠那は両手を腰に当てながら真顔でそう言う。そんな悠那に狩屋は「は?」と間抜けな声を出す。

『あんまり悪戯しちゃダメだよ』

自分は遊び半分で言ってると思うけど、相手にもプライドっていうものがあるから。それだけ言い、悠那はその場から立ち去る。残された狩屋は間抜けな顔をしながら悠那を見ていた。

「…似てる」

―逢坂さんに…

「ユナ」
『ん?何?』
「風の攻略はアイツとお前に任せるからな」
『アイツ?…あ、天馬ねっ分かった!』

悠那は剣城の目線を見て、天馬だと分かった悠那はそう返事をし、自分のポジションへと戻った。

…………
………

ピ―――ッ!!

試合開始のホイッスル。先攻は雷門から。
剣城から倉間へ倉間から神童にボールが渡った。それと同時に天馬と悠那も上がり出した。

「悠那、行けるか?」
『はい!』
「よし、行くぞ!」

神童が悠那と並びドリブルで上がる。その時、兵頭と近藤がアイコンタクトをとっていた。

「“壱の構え”!」
「「「っは!!」」」

兵頭の指示で返事をする月山国光。すると、その時ファンが回り出し、上がっていた神童と悠那の目の前に竜巻が起き出す。「天馬!」と悠那は即座に天馬にパスを出す。何故自分に来たのか、と天馬は少し焦りの表情を見せていた。

『風!風に乗れー!!天馬なら出来るからー!!』

悠那は成るべく天馬に聞こえる位の大声で言った。

「風に……

…!そうか!」

天馬は悠那が言いたい事が分かったのか、目の前の大きな竜巻を見上げてそのまま加速していく。

「何だと…?」
「……」

悠那だけではなく天馬も同じように竜巻に突っ込んで行った。

――行く手を阻む向かい風でも、乗ってしまえば追い風になる!

悠那の言葉が天馬の脳裏で繰り返されていた。

「“そよかぜステップ”!!」

天馬は竜巻の流れと孤に沿って自分の必殺技を使った。

「よしっ!!」
「へぇ〜…」
「スゴい…!」
「“そよかぜステップ”にこんな使い方があったなんて!」
「良いぞー天馬ー!!」

逸仁は近くまで来た天馬を見て驚くような声を出し、天馬を見やる。

「ユナ!!」
『ナイス天馬!』

悠那は天馬にボールを貰い、天馬を褒める。そして悠那は上がって行った。
だがしかし、「させねえよ…!」と悠那の目の前に逸仁が立ち塞がった。お互い目が合うなり、ニヤリと笑い合った。

「お互い、サッカーをやり合うのは初めてだな」

そう言い、逸仁はボールを奪おうとするが、悠那はそれを交わす。逸仁は楽しそうに笑い、悠那を見た。

『そうですねっ、だけどイカサマは出来ませんからどっちが勝つから分からないですよ』
「あれっ、確か悠那は勝つって言ってなかったっけ?」
『勝ちますよ…絶対に!!』

その言葉を合図に悠那は一気に逸仁を交わした。
――いや、交わさせた…?

『(どういう事…?)』

悠那はいきなり手を抜いた逸仁に違和感を感じ、上がって行く。その時だった。

『!!』

目の前に正宗と月島が走って来た。一瞬怯んだ悠那だったが、そのまま突っ込もうと走り続ける…が、

ッザ!!

『…え?』

二人は悠那の目の前で急ブレーキをかけ、不意に二手に分かれる。その時、上から風を感じた。

ビュオォォ―――ッ!!

『っう…!?』

真上からの強風。
悠那は目を瞑りながらも足元のボールを抑えながら強風に耐える。だが、強風の竜巻はジッとしてる訳もなく、動き出し、悠那の足元にあったボールを奪い出した。流石の悠那もこんな竜巻に突っ込む事は出来ず、唖然とする。
逸仁達が狙っていたのは“コレ”だったのだ。

「今の、月山国光の二人、明らかに天井から竜巻が来る事を分かっていたな」
「相手選手の動きに注意を向けると、竜巻のパターンが読み切れない…厳しいな」

三本の竜巻は数秒で消えてしまい、ボールは逸仁の元に落ちていき逸仁はそのまま上がって行った。

『しまった…!』

悠那も逸仁の元に行こうとしたが、浜野が逸仁のマークに付こうとする所を見て、走るのを止め、様子を見る。

「“クレイモア”!」

浜野の目の前へとボールを叩き付ける逸仁。だが、そこにはボールは無く、代わりに地面から鋭い針の山が突き出て来た。

「正宗!」

逸仁は正宗へとボールを回し、ボールを貰った正宗はそのまま上がって行く。

「止める!!」

霧野がDFから上がり、正宗のマークに付こうとしたが、前に天城も走り出していた。

「っな?!天城さん!?」
「お前は引っ込んでるんだド!」

明らかに狩屋の言葉を真に受けていた天城。霧野は何とか弁解しようと天城の隣まで走るが…

「狩屋の言葉に惑わされちゃダメです!!」

天城は耳を傾けず、そのまま走る速度を上げて行った。

「どうしたディフェンス…」
「霧野と狩屋、だな…」

円堂と鬼道も異変に気付いており、顔を険しくした。すると近藤の持つパッドが鳴り出した。中央に三つの逆三角形。近藤は兵頭とアイコンタクトを取る。それと同時に竜巻が中央に発生し出した。兵頭は手を上げて次の指示を出した。

「“弐の構え”!!」
「「「「っは!!」」」」
「だぁぁああ!!」

しかし天城は頭に血が上っているのか、気付いていないのかそのまま突っ込んで行く。だが、竜巻が再び現れてしまう。

「たぁっ!!」

正宗はボールを竜巻に蹴り込んだ。

「「!?」」
「うぇ!またかよ!?」
「ディフェンス!零れ球を抑えろ!!」
「よし!」

霧野、狩屋、車田はそれぞれ南沢に付く。
竜巻を中央にして三点を抑えるも、マークがしっかりしていた為、思うように動く事が出来ない。

「マークが外れない…ッ!!」

暫くしていれば、竜巻が消えた。竜巻が消えた瞬間、誰にもマークされていない逸仁がボールに向かって跳んだ。

「しまった!」
「南沢先輩!」

逸仁はボールをヘディングして南沢に渡そうとする。

「俺がやります!」

マークを振り切った狩屋が南沢に向かって走る。が、それを読んでいたのか南沢は一文字に渡そうとする。ボールは狩屋の頭の上を通過した。

「野郎!」

しかしそこで狩屋はその勢いのまま両手を地に付けて軽やかに体制を変えると、直ぐに一文字の元まで戻っていった。

「実に機敏。敵ながら天晴れ!」

「!(…また褒めた…やはり狩屋はシードなのか…?)」
『スゴい…』
「見たか?今の狩屋の動き!」
「あぁ、あの体制からよく出来るな、あんな方向転換…!」

一乃と青山もまた同じような事を言い、狩屋を見て言った。実力は確かだ。

「西園」
「?」
「後半出るぞ」

鬼道はあくまで冷静に試合を見て、信助の返事を待つ。

「はい!!」

信助は自分の出番だと分かり直ぐに返事をする。後半頑張れるよう意気込み、後半に意識を備えた。

フィールドを見れば、狩屋は柔軟な動きで敵からボールをカットしていた。

「ナイスカットだ狩屋!!」

ピッピ―――ッ!!

しかし、そこで前半終了のホイッスルが鳴った。0対1で月山国光にリードされたまま、後半戦を迎える事になった。

…………
………


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