三国が南沢の必殺技を跳ね返し、威力が弱くなったボールを胸で受け止めた車田。それをそのまま蹴り上げて、神童にパスをする。

「竜巻は収まっている!今の内に勝負を付けるぞ!!」
「「「おう!!」」」

神童がドリブルをしながら天馬達に呼び掛ければ、みんなは直ぐに返事をする。だが、ここでパッドを見ていた近藤とフィールドの様子を見ていた兵頭のアイコンタクト。すると、何かに気付いたのか近藤は兵頭を見る。

「“参の構え”!!」
「「「っは!!」」」

今度は皆一斉に右へと移動していく月山国光。何かをしてくるのか、それとも竜巻が来るのか。どちらを警戒したら良いか分からなかったが、神童はそのまま上がり続けている。それを見て雷門は若干警戒しながら神童に付いて行く。

「悠那!」

どちらが来るかも分かっていない状態で神童は悠那へとパスをする。悠那もまた神童からボールを胸で受け止めてそのまま何も疑わずに、左側を通った。

「構えろ!」
「「「っは!!」」」

兵頭の掛け声にDF陣が片膝を着く。この体制は…
考えるより先に、ファンが動き出した。
悠那の目の前には三つのファンが作り上げた竜巻。
敵は知っていた竜巻が出来るタイミングが。
敵は知っていた竜巻がどんな進路で来るのか。
つまり、月山国光は自分達がどこで戦うか、どんなフィールドなのか、どんなタイミングで竜巻がくるか、全て分かっていたのだ。どうりで月山国光の様子がおかしいと思った。雷門はどう見ても圧倒的にフリな状態。だが、それを何とかしなければならない。

その時、悠那の目の前に一つの竜巻が発生した。

「また竜巻!」
『…!』

悠那は竜巻の出現に一旦怯んで走るのを止めてしまう。だが、それでも固く拳を作った後、直ぐにドリブル開始させて突き進んでいく。

『(風…)』

不意に何かをイメージし、何かを決めたように悠那は何も警戒せずに、そのまま竜巻の中に突っ込んだ。それを見た敵も見方も驚かざるを得ない。
先程倉間が吹き飛ばした竜巻。そのまま真っ正面から突っ込んでしまえば、倉間以上に吹き飛んでしまうに違いない。

《谷宮!強烈な竜巻に突っ込んで行く―――!?》

「バカな!?」
「ヤケになったか!?」

風の使い方は、流れた上で利用する。

『“真空カマイタチ”!!』

竜巻の風に乗りながら、回転していく自分とボール。風が強すぎて目は開けられない。だが、自分はそれを利用させて貰おう。
ボールを竜巻の中心にし、悠那はランダムに蹴りを何度か入れていく。
白銀の刃が竜巻を切り裂いていき、一瞬だけ竜巻が消え出した。まだファンが回っている以上、再び竜巻が出来るに違いない。そこで目を開いた悠那は何とも言えない無重力を味わった後、その一瞬の隙を付いて悠那は素早くボールを保ち、鉄槌のように素早く竜巻から出た。

《何と谷宮!必殺技を利用して自ら竜巻を切り裂き、一瞬の隙からボールと共に抜け出したあ!!》

「おー…」

「よしっ」
「やったあ悠那!」
「竜巻を利用したのか…!」
「そっか!悠那も天馬と同じで風の必殺技だから!」

竜巻から逃れた悠那。地面に足を付けた悠那は雷門の方を振り向くなり、ピースを向けてきた。そんな彼女の様子に皆が驚き、納得している中、逸仁は相変わらず表情はニヤニヤとしている。これでも内心は皆程では無いが驚いていた。無謀ながらも竜巻を利用した。どうやら彼女は本当に竜巻を克服したのだろう。
地面に足を付けた悠那は次々とDF陣を抜いて行く。

「良いぞお!!そのまま上がれ上がれえ!!」
「ここは通さん!!」

DFである小早川と長船が悠那を通すまいと、走って来る。だがしかし、悠那はその二人の隣を走る倉間にパスを出した。

『倉間先輩!』
「“サイドワインダー”!!」

悠那からパスを貰った倉間はその場で必殺技を放つ。
だが、

「うぉぉおお!!我が力を見よ!!」
「!!」

そう叫んだ兵頭の背後からは地区予選の時にもう既に見慣れてしまったであろう藍色の靄。雷門が気付く時にはもう既に遅く、靄の中からは形を保ち始めた何かが、目を光らせてこちらを見やっていた。

「“巨神ギガンテス”!!」

固いレンガのような体を持った兵頭の化身。“巨神ギガンテス”

「“ギガンティックボム”!!」

兵頭が拳同士をぶつけると同時にギガンテスも同じように拳同士を間にボールを挟みんでぶつける。倉間の放ったボールは一気にエネルギーを失ってしまい、いとも簡単に防がれてしまった。
やはり、地区予選でなくとも化身を使う者はいた。その事で驚く中、天馬が目を輝かせながら悠那へと近付いてきた。

「ユナスゴいよ!あの竜巻を利用しちゃうなんて!」
『実は私もビックリだったり…』
「え、」

天馬の目の輝きは悠那に対する尊敬。確かに竜巻に突っ込んでいくのは無謀だ。だがしかし、悠那あの竜巻を克服したのだ。それは雷門にとってはかなり力になる事だ。
だが、嬉しそうにする天馬に対して悠那は苦笑の笑みを浮かべてきた。それには天馬も唖然とした。

『でもさ、天馬も出来るんじゃない?』
「え?!」

だって、私と同じ風を使う必殺技があるじゃん、と屁理屈っぽく笑ってみせる悠那。それに対してやはりあまり意味が分かっていなかったのか、頭を傾ける天馬。そんな天馬を見た悠那は今度は悪戯をするような笑みを浮かべた。

『ほら、行く手を阻む向かい風も乗ってしまえば追い風になる、ってね』

信じてるよ、と悠那が笑顔を浮かべて言えば考える素振りをする天馬。
不意に悠那は逸仁を見た。その瞬間、小さく肩を揺らした。何故なら逸仁もこちらを見ていたから。口角を上げてはいるが、顔の半分の表情は見えない。先程の不適な笑みとどこか違って見えるが、やはり彼からは感じるのは妙な寒気を感じる。だが、今は試合中。悠那は直ぐに目を逸らした。

ボールはゴールを止めた月山国光から。
兵頭がボールを持ったその数秒後に再び三つのファンが動き始め、竜巻が起こり出す。

「フフッ、良き風だ」

そう言って、兵頭はボールを竜巻に向かって蹴り上げた。

「竜巻にボールを蹴り込んだ?!」
「“弐の構え”!!」

兵頭の行為に信じられないと言わんばかりの神童。あの竜巻に蹴り込んでしまったら、どこにボールが落下してしまうか分からない。だが、月山国光はそんなのなんか気にもせず、南沢を含めた四人が返事をした。

「進めぇい!!」
「「「「っは!!」」」」

「ダメだド!コースが読めないド!!」

竜巻の付近に居たであろう天城と車田。しかし、竜巻に巻き込まれたボールをどう取れば良いか分からなくなったらしく、ただただ風が自分達を邪魔してきて行く手を阻まれてしまう。

「どこに向かってるんだ?!」
「(月山国光は竜巻の動きを知っている…という事は…)」

何かに気付いたのか、神童は走って行く四人に目をやる。

「皆!相手の動きを良く見るんだ!!」

相手の動き…?
悠那は神童の言われた通り、こちらに上がってくる南沢を見やる。

「ボールが来るのは…あそこだ!!」

誰よりいち早くボールが来る場所を察知した神童は直ぐに“神のタクト”で示した。

「“神のタクト”!!」
『あれ、でもあそこって…』

光の道は天城の目の前を超えていき、霧野と狩屋の方へ飛んでいく。

「っう!くそ、動けないド!!」

神のタクトで示された方へと向かおうとする天城。竜巻の風が強過ぎて、目も開けれずに上手く動けない天城。

「俺が行きます!!」

霧野が天城のカバーに入ろうと声を上げ、向かうが、その後ろからは狩屋も走って来た。

「!狩屋!俺に任せろ!!」

だが、先程と同様…狩屋は霧野の言葉を聞かない。竜巻に巻き込まれているボールは竜巻から隣の竜巻へと移動していく。そしてそのボールは月島がやって来たボールを確保しようと跳ぶ。そして霧野、狩屋もほぼ同時にボールに向かって跳んだ。

『あちゃぁ…』

悠那が思っていた事が当たってしまい、同時…しかも同じ標的に向かって跳んだ狩屋と霧野は一人で向かう月島とは違い…

「「うわっ!!」」

お互いに避ける事が出来ずにぶつかってしまった。
狩屋の体でぶつかり、跳ね返ったボールを月島がヘディングで南沢にパスを出した。

「“ソニックショット”!!」

パスを貰った南沢はそのまま本日二度目のシュートを放った。三国はタイミング良く跳んだが、まだ消えていない一つだけの竜巻がゴール前に現れ、“ソニックショット”の軌道を変えてしまった。

「なにっ!?」

大きく軌道を変えたシュートはそのままゴールに入ってしまい、雷門は先制点を許してしまった。

ピ―――ッ!!

長いホイッスルと大歓声と共に実況の王将の声が会場中に響き渡った。

《ゴォ――ル!!月山国光先制点を奪取したぁ―――!!』

唖然としたままゴールに目を向ける神童達。愕然とする車田や天城達。
悔しそうにゴールに入ったボールを見る三国。全ては月山国光の作戦通りだった。電光掲示板にはいつの間にか1という数字が相手に入っていた。

「ッフ、この得点…15番の手柄だな」

月島はそう吐き捨てるように言い、自分のポジションへ戻って行く。今の言葉に霧野はハッとしたように狩屋を睨む。狩屋の背番号は15番。つまり月島は狩屋のおかげだと言った。

――お前の所為で…!

霧野は今にもそう言いそうにしていた。その視線に気付いた狩屋は霧野をただ見上げた。霧野は立ち上がり、狩屋を睨んだ。

「狩屋…!」
『ちょっと待って下さい、蘭丸先輩』
「悠那…!」
『待って下さい』

二人の間に入る悠那。
だが、今の霧野は虫の居所が悪い。そんな霧野に悠那はもう一押し声を掛けた。

「今のボールは俺が取るべきだったんだ!それを、狩屋が邪魔をしたんだぞ!?」
「……」

霧野の言葉に狩屋は構わず黙って膝に付いた泥を払い出す。それを横目に見ながら悠那は視線を外す。霧野の荒れように悠那も苦笑しながらいつまでも狩屋を睨み付ける霧野を再び見上げた。

『次、もし同じような事があったらフィールドからどちらも出て行って下さいね』

悠那はなるべく笑みを浮かべてそう言い、そそくさと自分のポジションへと戻って行った。
そんな悠那の後ろ姿を見た狩屋は、面白くなさそうに横目で見やり、その後に表情を曇らせて眉間に皺を寄せる霧野へと視線を移して、口角を上げた。

「…霧野先輩の言う通りですよ」
「…何だと?」
「俺…ッフ、シードなんです」
「っな?!」

二人のそんなやり取りが繰り広げられているとは知らず試合は続いて行くのだった。


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