ユニフォームに着替え、薄暗い廊下を歩いてると目の前には明るい光。そして、観客と思われるギャラリーの声援が徐々に音量を上げている。少し日差しが眩しかったのか、神童は目を傘にするように瞼の上に当ててゆっくりと目を光に慣れさせながら入って行く。

「!」

フィールドに入って、一番先に視界に入って来たのは左右前後ろの壁に付いている大型の扇風機のような羽が付いたいくつかのファン。ファンは会場の四方に三つずつ横並びに、そして天井に大きな物が一つあった。

「「ここは…」」

神童と天馬が天井を見ながら声を合わせた。
ファンだらけのこのフィールドの名は、王将曰わく“サイクロンスタジアム”

「何でしょう…?」
「空調……にしちゃデカ過ぎるな」
「ちゅーか、巨大扇風機?」
『これが起動したら皆吹き飛ばされそう…』

何の為に付けられたファンだろうか。夏でもこんなには扇風機を使わないだろう。
悠那はそう呟きながら、相手ベンチをそっと見やった。もうそこには、既に月山国光がユニフォーム姿で立っている。雷門もベンチに並ぼうと動き始めたので、悠那が足を踏み出そうとした。その時、逸仁と目が合った。
目が合った瞬間、再び寒気が襲ってきたが、それを覆すような笑みを浮かべてきた。

『!?』
「ユナ?どうしたの?」
『訳分かんない…っ!』
「え…?」

と、八つ当たりみたいな言い方でフィールドに向かう悠那に部員達は疑問を抱きながらも、自分達もベンチに着いたものの急いで並びに行く。

《両チームがポジションに入りましたあ!さあ、間もなく雷門からのキックオフで試合開始だあ!!》

ピ―――ッ!!

王将の実況が終わったと同時に、審判が笛を加えて片手を挙げて、長いホイッスルを吹いた。剣城からのパスで試合開始。倉間がボールを持ち込み、剣城と共に上がって行く。すると、近藤と兵頭はアイコンタクトを交わした。

「“壱の構え”!!」
「「「「はっ!!」」」」

試合が始まった瞬間、兵頭の掛け声と共に月山国光の人達が左右に分かれていく。

『え、何あれ…』

明らかにシュートして下さいと言わんばかりのフォーメーションに、倉間と剣城もさすがに不審に思ったのかドリブルを止めて左右を見比べる。

「これは…」
「行くぞ!」

不審に思いながら、何か行動を起こさなければ何も始まらないと思ったのかまだ不安はあるものの、神童が二人に声をかける。神童の声に天馬と悠那もまた動き出した。

『(…何も起こらなきゃ良いけど、)』

「そろそろか…」

ベンチで様子を見ていた近藤はパッドを見ながら呟いた。そして、近藤は再び兵頭に向かい、お互いに頷き合う。

「備えよ!」

すると全員は片膝を付き、何かに備える準備をしだす月山国光。

「これが月山国光不動の陣だぜ…」

逸仁は小さくそう呟き、倉間と剣城の方を面白そうに見やる。だが、その呟きを聞き取れる者は雷門には居ない。倉間は不審に思いつつもドリブルでゴールに向かって行く。すると、とある方向のファンがウィーンという音を立てていきなり起動し始めた。

『…まさか』
「「「!!」」」

力強く低い音と共に起動する巨大扇風機は一つの竜巻を作り、倉間の背後からゆっくり徐々にスピードを上げて襲い掛かって来た。

『危ない!』

悠那が声を上げて何とか知らせようとするが、悠那の声は竜巻の音により届かない。だが、異変に気付いた倉間は後ろを振り返った。見るとそこには大きな風の塊が近付いて来るのを見た。
逃げようにも追い付いてきた竜巻の風は絡み付くように倉間を巻き込み、足を止める。遂に動きが止められた倉間はボールごと宙に舞い上げられた。

「何だ?!…うわぁぁああ!!」
「倉間先輩!!」

倉間は竜巻に巻き込まれたままどんどん上空に上がって行く。あそこから落ちたら自殺行為だろう。だがしかし、助けようにも周りの人達がこれ以上進めば一緒に巻き込まれてしまう。

《竜巻が倉間を巻き込んだー!!恐るべしサイクロンスタジアム!!》

王将が実況するも、扇風機は急に停止し始めて竜巻が消えて行く。もちろん、竜巻が止まってしまえば巻き込まれてしまった倉間も落ちて来るに決まっている。

『あんな所から落ちたら怪我だけじゃすまないんじゃ…』

天馬と上がっていた悠那。今急いで走れば、何とか間に合う筈。悠那はいつの間にか倉間の落下地点まで走っていっていた。

「おい!」
「へぇ…」

悠那はボールよりも先に倉間を優先させる。悠那の行動に気付いた剣城は焦った声を上げ、逸仁もまた予想外の悠那の行動に思わず口笛を吹く。倉間が地面と接触する前に地面と倉間の間に滑り込んで何とかキャッチをした。

『っぅぅ…!』

一瞬とはいえ、自分と同じくらいの体重が体に乗る事になるから、庇った悠那にとって痛い行為だ。それでも倉間は地面と接触する事はなかく、小さく呻き声を上げるも怪我は無さそうだった。

「倉間!悠那!」
「おい!大丈夫か?!」
「っ!、悪ぃ悠那…!」

倉間は予想していた衝撃よりもずっと軽い衝撃だった事に驚く。だが直ぐに自分が無事だった理由に気付いた。自分の下に悠那が居る。恐らく悠那が自分を守ってくれたのだろう。自分が動く度に「うっ…」と苦しそうに声を上げて、直ぐに退き謝る。

『…大丈夫です』

あははっと乾いた笑いを上げれば、倉間は安心したように小さく微笑んで見せる。だが、直ぐに自分の口角が上がっている事に気付き、表情をいつもみたくツンツンさせ悠那にバカ野郎と言い放った。そんな倉間に苦笑するも、先に起きた倉間に手を引かれて起き上がる悠那。
立ち上がった悠那とトントンッと足を地面に叩き付ける。どうやら問題ないみたいだ。

悠那の無事が分かり試合は直ぐに始まる。だが、ボールは月山国光の月島に渡っていた。

「“弐の構え”!!」
「「「っは!!」」」

近藤のアイコンタクトで、再び兵頭が皆に指示をだす。兵頭の指示に再び返事をする月山国光の人達。
すると、今度はフォーメーションを変えて来た。少し間を空けて再び別の巨大扇風機が作動する。今度はフィールドの中央付近を横一列に三本の竜巻が並びだした。

「進めぃ!!」

兵頭の指示と共に月山国光陣はそのまま現れた竜巻に突っ込んで行く。

「抜かせるな!!」
「おう!」
「はい!」

神童の指示に浜野と速水が彼等を止めに入るが、竜巻が速水と浜野の視界と動きを封じてしまい、こちらが止まってしまった。

「か、風で近付けません!!」

月山国光は風に巻き込まれる事なく、逆に竜巻を利用して駆け上がって行く。竜巻が収まると南沢達が風の中から現れた。

「切り込め!!」
「柴田!」

逸仁の合図に天城を交わした柴田に、柴田から逸仁、逸仁から南沢にパスが繋がっていく。

「一文字!」
「一番槍は俺だ!!」

一文字は南沢から貰ったボールを胸で受け止め、そのままゴールに向かって行く。

「ここは通さないぜ!!」
「邪魔立て無用!」

狩屋が上がって来る一文字の前に立ち塞がる。だが、一文字は既にシュート体制に入っている。

「フンッ、“ハンターズネット”!!」

狩屋の必殺技。ネットが相手に張り付き、動けなくし、ボールだけを奪い取った。ボールを奪った狩屋は余裕の笑みをする。

「良いぞ狩屋!」
『ナイスプレイ!』
「助けられたなっ」

狩屋のプレイに天馬、悠那、三国は嬉しそうに言う。だが、狩屋はそんなのお構いなしにドリブルで上がって行く。

「へぇ、アイツやるじゃん」

もしかして自分は目を付ける人間を見逃してたかもしれない。逸仁がそう言えば、狩屋もフッと笑って見せた。

「狩屋!俺にパスしろ!」

一人で突っ走る狩屋に霧野も上がり、パスを要求するが、そんな事を聞く筈もなく狩屋は完全に無視をした。

「狩屋!」
「ん…?」

だがそれを一文字にスライディングで奪われてしまい、ボールを月島に渡り、柴田に巧みなパス回しをされてしまう。

「南沢!一番槍は貴様に任せる!!」

柴田はそう言い、ノーマークの南沢に渡し南沢はドリブルで上がって行く。

「行くぞ三国!お前にこれが止められるか!!」

南沢の宣戦布告に三国も身を構える。

「“ソニックショット”!!」
「でぁぁああっ!!

“フェンス・オブ・ガイア”!!」

前より高速になって見えるシュート。三国も新しい必殺技で対抗する。だが南沢のシュートは決まらず、跳ね返ったボールは車田に渡った。

「何?!」

雷門の攻撃となった。



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