悠那へと視線を移してきた青年。それを合図に、皆の視線は自然と悠那へと行ってしまい、顔を俯かせていた悠那は弾かれるかのように顔を上げる。上げたら上げたで、悠那は自分に視線がきていた事を知り、改めて目を見開き青年の方を見やる。悠那にとって彼は見覚えのある青年。な?とこちらに目線を送られており、訪ねられた悠那。正直な所自分が話しかけられるとは思ってもみなかった。
青年の方は悠那を全く笑みを崩さないまま見ている。それがどうしても居心地が悪くて仕方ない。反応に困っていれば、今度は青年は困ったように笑った。

「久し振りだな、悠那」
『…久し、振り…ですね

逸仁さん』

遠慮がちに吐かれた言葉。え?!とお互いのチームからの驚きの声が上がり、逸仁と呼ばれた青年と悠那を見比べる一同。
逸仁と悠那の言動からして、彼等は恐らく面識はある。だが、二人の様子を見てみると悠那の方は逸仁の登場に驚きを隠せないでいる。どうやら、月山国光に居る事を知らなかったようだ。だが、戸惑いを隠せない悠那とは違い、逸仁の方は悠那が雷門に居る事を知っているような言いぐさ。そして何より余裕綽々の表情を浮かべている。
皆が皆、目を見開いているが一番その表情をしたいのは悠那本人なのだ。

「いやあ、偶然だな悠那。まさか雷門が対戦相手だったとは、俺も驚いててさあ」
『…そうは見えませんけど。何で、逸仁さんが…月山国光に、』
「俺ァサッカーをしてて、ちゃんとしたチームにも入ってる。
俺と悠那のチームがぶつかってもおかしくないだろ?」
『そうじゃなくて…っ』

逸仁の尤もな言葉に、悠那は思わず下唇を噛みしめる。確かに彼はサッカーをやっており、フィフスの存在を知っていた。足を怪我していた所為かサッカーをやっている所は見た事はないが、自画自賛してしまう程にサッカーは上手いと言っていたぐらいだ。そこらへんの有名な中学に居てもおかしくないだろう。
だが、まさかよりにもよって月山国光に居たとは思ってもみなかった。

「そこの少年も見覚えがあるな」
「っ!」
「剣城を…?」

悠那に視線を送るのを止めた逸仁。次に移したのは、今まさに自分の記憶を探っていた剣城。
天馬が改めて声をかければ、剣城は少しだけ目を見開かせた。どうやら、剣城自身も彼に見覚えがあったらしく、直ぐに眉間に皺を寄せ出す。そして、改めて逸仁を警戒するように睨みを効かせる。
すると、逸仁はおっと!と惚けた表情をして自分の手を前にだす。

「んな、二人して久し振りだからってさ、威嚇すんなよ」

怖えな、と言いつつも逸仁はヘラヘラと笑うのを止めない。

「確かアンタとも病院以来だな。ぶつかってきた時は驚いたよ」
「…あの時は、すみませんでした」

睨みを効かせながら言う言葉ではないが、ちゃんと自分が悪かった事は認めて謝りだす。剣城もまた彼を思い出したらしく、遠慮がちにそう言えば、逸仁は再び笑って見せる。
そんな様子を見せる彼に、剣城も悠那も雷門の皆も調子が狂ってしまいそうになる。

『どうしてですか!あんなに、フィフスを嫌ってて…』
「どうしても何も…手紙に書いただろ?
“いつか会えるからまた会ったら、今度は一緒にサッカーやろうなっ”てさ」
『!』

これぞ言葉の綾。
まさにその通りの言葉になってしまった悠那はただただ呆気に捕らわれる。確かに自分宛てに手紙が送られたのは身に覚えがある。だからこそ、今一番悠那は驚いているのだ。まるで、逸仁はこうなる事が分かっていたみたいに言ってみせる。

「悠那との試合、楽しみにしてるぜ」

妖しく笑みを浮かべ、顔に影を差し、口角を上げてそう告げる逸仁。先程のおちゃらけた笑顔とは違ってどこか自分達に恐怖を与えてくるような笑顔に、背筋が凍ってしまうような感覚に押し潰されてしまいそうになる。
兵頭は話しが終わったところを見た兵頭はニヤリと口角を上げて南沢の肩に自分の手を置き、「行くぞ」と合図する。その合図を聞いた南沢は逸仁から視線を外して、天馬達へと視線を移した。

「…お互いベストを尽くそうぜ」
「そんじゃ悠那と剣城京介くん。フィールドでまた会おうぜ」

南沢と逸仁は雷門にそう言葉を置いて行き、いち早くその場から立ち去ってしまう。残された雷門はただただ黙って見送るしかなく、三年生は悔しそうに奥歯を噛みしめる。
剣城は剣城で、逸仁が自分の名前を知っていた事に多少驚いたものの、直ぐに平然を保つ。雷門がこんな反乱を起こしているから彼等が知っていても当たり前なのだろうが、やはり動揺は完全に隠せてはいなく心拍数は上がっていき、冷や汗も出てきてしまう。

「三国先輩達、大丈夫でしょうか…」
「南沢さんとはずっと一緒だったからな」

明らかに三年生の怒りに触れてしまった南沢。反論しようとすれば、兵頭と名乗るキャプテンに遮られてしまい、挙げ句の果てには逸仁という男には話しを変えられるは、バカにされるはで散々だ。天馬が心配そうに三年生を見やれば、先に行ってしまったであろう月山国光の後ろ姿を見るなり、悔しそうな表情を浮かべている。もちろん、自分達も悔しいが、神童の言う通りずっと一緒に居たからこそショックや怒りが大きい。

「フンッ、南沢さんのスタイルなら分かってるし、むしろやり易いさ」
「でも…っ」
「それより、アイツが問題だろ」

皆が南沢の事でショックを受けている中、倉間はそれ程ショックでは無かったのか、両手を頭にやる。前までは南沢が抜けてショックを受けていた倉間。練習の度に悠那や天馬を睨んでいたが、今ではそんな姿が無かったかのように平然としている。むしろ相手を鼻で笑う程になっているではないか。そして、倉間は肩を落とす悠那に目をやってきた。
それを合図に、天馬は悠那に目をやった。

「ユナ、さっきの人と知り合いなの?」
『…うん』

遠慮がちに聞かれた天馬の問いに、悠那は曖昧になりながらも応える。知り合いというより、どちらかというと知り合ったばかりの仲だ。親しくもあまり仲良くも無い。知り合い以上友達未満という普通の位置にいた。
それを聞いた浜野は、わざわざ悠那の所までくるなり天馬の肩に手を置いた。

「へえ〜、じゃあ悠那はさっきの人のスタイル知ってるん?」
『…いえ、』

病院で会っただけですから…とそう付け足して言う悠那。
そう自分が出会ったのは病院。優一の見舞いに行って、リハビリから戻ってくるのを待っていた時に話しかけてきた青年。それが壱片逸仁。
今思えば、彼は全て知った上で自分に話しかけてきたに違いない。そう考えると、何故だか寒気が収まらなくなり鳥肌までもが立ってくる。出会った時からどことなく不思議というか、人をあまり寄せ付けないようなオーラを感じていた。だが、本当に訳が分からなくなってしまう。思わず生唾を飲み込めば、不意に円堂が視線に入ってきた。

「――ベストを尽くせ!!」

不意に円堂のその言葉が皆の間に響いた。不意に皆は円堂を見上げる。悠那もまた視線を円堂に移した。

「円堂監督…」
「そして、南沢にも分かって貰うんだ。俺達のサッカーを!!」
「「「はい!!」」」

確かに南沢達が言うに自分達は無謀な事をしているかもしれない。だがしかし、自分達がやってる事が間違ってるなんて思えない。ここまできて引き返す事も出来ない。
南沢が変わったのなら、自分達も変わっている筈だ。仲間も増えて、強さも増している筈。サッカーを素直に楽しいと言えた日から、自分達は変わったのだ。
悠那は円堂へと目線を上げた。

『守兄さん…』
「お前も、知り合いがあっち側に居るのがショックなのは分かるけど、ベストを尽くさないと伝わらないぞ?」
『…うん』

そんな円堂の励ましに、悠那もまた、元気ではないが皆みたいに返事をする。そんな悠那の様子を見て円堂はニカッと笑ってみせた。

「よーっし!行くぞ!」

…………
………


prevnext


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -