ー翌日ー

「このホーリーライナーで試合会場に向かいます」

皆の目の前にあるのは今まで見てきた他の電車よりも豪華そうな電車。金色に輝く電車。豪華そうな電車に、一同は目を奪われる。コレがどの試合会場に着くかは不明。これでは本当にロシアンルーレットに使われるボール玉になった気分だ。

「「スゴい!!」」
『豪華だなぁ〜…』

近くで小さい子供のように目を輝かせる天馬と信助。やはり男の子の反応だ、と改めて思わされる。悠那はそれを横目で見るなり苦笑しながら傍で電車をまじまじと見る。女子の反応なんてこんな物だろう。若干は興味はあったものの、この二人みたくハシャイだりはしない。だが、同じ男だとしても剣城や狩屋や二、三年生は天馬と信助みたく興味を抱くものの、そんなにハシャぐ事は無かった。

「これに乗って会場に行くのかあ…」
「行き先は分かりませんけどね…」
「そうだったド!」
「ちゅーかドキドキだなぁ」
「どんなフィールドで戦う事になるか」
「正にルーレットという訳か…」

どんな相手と戦うのか、どんなフィールドで戦うのか。一同は緊張感とワクワク感を感じ、ホーリーライナーという金色に輝く電車に次々と乗り始める。

「ワクワクするねぇ!」
「うん!」
『あ、』

一年を始め、ライナーに入って行けば今回雷門が戦う相手である、月山国光の選手も入って来た。
悠那の声に二人も相手を見る。剣城は横目で見るだけであまり興味を示していなかった。

「月山国光…」

相手チームの一人一人を見ていけば、見ただけでも強者だと分かる。今まで見てきた万能坂や海王とはまた違った雰囲気。これからこの人達と戦うのか、と一人一人の顔を見ていけば、一気に雷門に衝撃が走った。

目の前に居る、紫色の髪に独特な目。整った顔立ちをした人物。
そして、悠那や剣城にとってはとても見覚えのある金色のピアスを付けた黒髪の青年。

「南沢…!」
「え…?!」
「南沢さん…!」
「どうしてお前が月山国光に…!?」

『(嘘…)』
「(あの人、どっかで…)」

目の前に平然と佇んでいる黒髪の青年に、どうしても目がいってしまう悠那と剣城。自分の確かな記憶を辿りながら、目の前の男を見やる。
剣城は思い出していた。自分が兄、優一と喧嘩したあの日。看護婦さんとぶつかり、決心が付いた時に急いで病院内を走っていた剣城。患者さん達を避けながら走っていたが、一人だけぶつかってしまったのだ。その人物が、まさしくあの男。確かあの時は足に包帯をしていた気がする。松葉杖をついていない所を見るともう大丈夫なのだろう。

そして、その男と会話をしたであろう悠那は、信じられないと言わんばかりに目をどこかへやる男に向ける。確かに彼はサッカーをやっているとは知っていた。確かに怪我した足を治したと言っていた。
確かに、フィフスセクターの存在を知っており、フィフスが嫌いだと、言っていた。

『どうして…』

そんな彼が、今目の前で平然とした表情をして余所を見ている。信じられないと言わんばかりに目を見開かせて彼を見やる悠那。もちろん、南沢の事はこの場に居る皆みたいには驚いてはいる。何せ月山国光はフィフスセクターの支配下と言っていい程だから。
南沢が転校したとは聞いたが、まさか雷門と戦う学校に転校したとは思ってもみなかった。いや、南沢ならやりかねないと予想しとくべきだったか。なら、南沢だけでなく何故逸仁までもが月山国光に?あれだけ嫌いだと言っていたのに、何故そんな平然とした表情でいられる?まだフィフスを嫌ってる以上、敵だとは思っていないが、自分の中でショックを受けている。

『……』
「……」

震える拳を抑えながら、信助の隣に腰を下ろした悠那。すると、自分の目の前に座ったのは明らかに自分が気にしていたであろう人物。当たり前のように座りだした逸仁に、悠那は呆然とするも直ぐに何かに弾かれたように肩を跳ねた。
何故なら、逸仁がこちらを見てニヤリと口角を上げて笑ってきたのだから。

…………
………

ライナーがメンバー達を乗せながら会場へと走って行く。中は完全に静まり返っており、相手と向かい合わせになるようになっている。
普通の電車さえもこんなに静かではないのに、物音は電車が走る音。ガタガタという音と共に跳ね上がる自分達の体。電車の動きに合わせる体に対して自分の視線はもう相手を見るのが気まずくなってしまい、膝の方へいってしまう。それでも視線を合わせていた人達は居て、視線を受け止める人達も居た。

「何で、南沢先輩が…」

不思議そうに天馬がそう疑問を抱きながら呟く中、やはり皆は黙ったまま。まるで南沢の存在を確かめるように、そして自分達に現実を叩き付ける為に。もちろん、お互い厳しい形相をして見やっている。

やがてはホーリーライナーはとある駅へ着くと同時に止まりだした。それを合図にライナーから一同は妙な緊張感を持ちながら降り、ライナーは全員降ろした所で再び走り出し、次にはお互いに線路越しに対面となる。

「貴殿等が雷門か」

最初に口は開いたのは、月山国光の監督であろう近藤。彼の言葉に円堂は何も言わずに静かに頷いて見せる。
それを見た近藤もまたフッと笑っただけで何も言わなかった。

「南沢さん…雷門と戦うって知っていて、月山国光に入ったんですか」
「お前達に現実ってモノを教えてやろうと思ってな」

皆が一番気になっていた事。皆を代表して神童が聞けば、南沢からは嘲笑いの笑みが浮かんでおり、三年生達に戸惑いの表情が見える。

「お前…!」
「何考えてんだ!」
「訳分かんないド!!」

一番南沢と戦ってきて、今まで仲間として慕っていた存在。動揺を隠せずに、過剰反応してしまう三年生。そんな彼等に、南沢は追い討ちをかけるように口を再び開いた。

「大きな流れに逆らって叩き潰される…雷門も哀れなモノだな」
「貴様っ…!」
「許さないド!」

「やめぇい!!」

両手を上げてまるで呆れて参ったと遠回しにバカだ、と言わんばかりに言う。完全にナメられている雷門に、サッカーの試合をやる前から戦いの火蓋が開けられそうになったその時、南沢の言葉に車田と天城達が声を荒げた時、南沢の隣から大声が上がった。
そんな声に若干怯みながらも、車田は「何だ、お前は…」と訪ねる。

「兵頭司。月山国光のキャプテンを務めている」

大声を上げた人物に尋ねてみれば、それはもうあっさりと兵頭は名乗ってくれた。どうやらキャプテンをやっているらしい。両腕を腰に当てて胸を張り、こちらを見やる姿はキャプテンと自ら名乗らなくとも理解出来ていただろう。

「南沢は素晴らしいサッカーセンスを持っている。
その才能は月山国光…そして、フィフスセクターのサッカーを実りあるものにするだろう」

そして、次には南沢のべた褒めときた。
確かに雷門のエースナンバーを背負っていたくらいだ、ここまで褒められてもおかしくはないだろう。だが、それと同時に雷門を侮辱したまのも事実。皆の眉間には皺が寄っていくばかりだった。

「それは、俺達のサッカーとは違うという事か!」
「どっちが正しいかは、明らかだがな」
「くっ…!」

南沢の言葉に三国は悔しそうに顔を歪めるしかなかった。いや、三国だけではない。他の部員達も悔しそうに奥歯を噛み締めている。もう少し早く、自分達のやっている事が理解出来ていたら、南沢も少しは変われただろうか。そんなちょっとした後悔。
すると、再び静かになったその場に似合わない呑気な声が響いた。

「別に、俺ァどっちでも良いんっスよね」

この声は一体どこからか、一同の視線が不意に聞こえてきた声の方を向かれた。声は南沢や兵頭とは違い、かなり端っこの方から聞こえてきており、視線をそちらにやれば黒髪の青年が両腕を頭の後ろにやっている人物が目に写った。恐らく彼も月山国光の仲間なのだろう。ジャージの裾を肘まで捲っており、目はこちらに向いておらず他人からしたら上の空のような感じ。

「…?」

そんな彼に気を取られていた所為か、最初は気付けなかった。
雷門のキャプテンである神童は気付いた。あの青年へと向ける視線。もちろん、自分達雷門は不思議そうな表情で彼を見ていたが、月山国光の人達はどこか違っていた。いや、自分達とは違って見えるのは仕方ないとは分かっている。
だが、どこか違うのだ。
彼等があの男を見る目は“仲間”や“信頼”ではなく、相手を“敵視”する目である。

「(どういう事だ…?)」

訳が分からなかった。

神童がそんな違和感を感じながら再び彼へと視線をやった。

バチッ

「(っ!)」

視線が、合った。
さっきまで上の空のように視線を自分達に合わせて来なかった男が、今神童と目を合わせてきたのだ。いつの間に、と神童が内心焦りながらゴクッと唾を飲み込めば、男は上げていた口角を小さく上げた。特に何を言われた訳でもないのに、彼はまるで神童に目で訴えてきた。
“お前、勘鋭いな”

なんて、

すると、男はふいっと神童から視線を外して次に誰かに目線をズラした。

「な?悠那」

男に向けられていた視線は、悠那へと向けられた。


prevnext


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -