「ライセンスカードは持っていますか?」
『あ、はいっ』

中に入るなり、受付の人にライセンスを求められる。悠那は少しだけ表情を崩した後、直ぐにポケットからライセンスカードを取り出して相手に見せた。

「では、これから聖帝に合って貰いますね」
『…っえ?!』
「女選手は自分で大会委員の所まで持って行って貰う決まりがあるので」

思わぬ事態に驚きの声を上げれば、受付の人は少し困ったような顔をし、悠那に説明する。自分の周りには女選手らしき人物は居ない。つまり、悠那は一人でその聖帝とやらに会わなければならないのだ。それを理解した悠那は少し不安そうな顔をして、自分のライセンスカードを見やる。いつ見ても憎たらしく、自分の手元にあるカード。こうなったのもこのカードの所為なのか、自分が女だからなのか、もはや自分の性別の所為にしてしまう。

「案内は私が致しますので」
『あ、はい…分かりました…』

これはやはり行かなければならないのだろう。ちょっと待ってて貰えませんか…?と悠那は内心溜め息を吐きながら言って、後ろで待っている先に受付を済ませただろう円堂達に近付いていく。

「終わったか?」
『あ、いや…』
「…どうした」

円堂の言葉に悠那は困ったように目線を外す。それに気付いた鬼道が悠那に声を掛けてきた。

『あの、何か…ライセンスを持ってる人は、自分で大会委員の所まで持って行かなきゃいけないらしくって…』
「「「?!」」」
「…一人でイシドシュウジの所に行くのか…」
『らしいです』

ははっ…と乾いた笑いを上げて頭を掻く。まさかホーリーロードでそんなルールが作られていたとは思わなかった。円堂と鬼道はお互いに顔を見合わせて何やら何かを考え始める。そこで、鬼道は口を開いた。

「会うとはいえ、道は分かるのか」
『受付の人が案内してくれるそうです』

そう言って受付の人を見る。それを見た二人は少し安心したような顔をする。一人で行くとなったら迷子やら何やらで色々と大変になるだろう。別に悠那を信じていないという訳ではないが、やはり心配だったのだ。時間もあまり無いだろう、チラチラと受付の人を見やっていた悠那は一歩足を後ずさった。

『じゃあ、行って来るね』
「あぁ」

そう言って悠那はポケットの中に入れたライセンスカードを強く握り、受付の人の所まで小走りに駆け寄っていき、そのまま歩いて行った。

「円堂監督、今の話…」
「アイツ、もしかしてイシドシュウジの所に…?」
「あぁ…っま、大丈夫だろ」
「そんな適当に…」
「…っ、」

今の会話を聞いていた神童と霧野。心配そうに表情を曇らせる。そんな二人に、円堂は受付の人と一緒に消えて行った悠那を不安そうにも笑いながら見ていた。

…………
………

「ここで御座います」
『あ、ありがとうございます』

受付の人は辿り着いた扉の前でそう言う。どうやらここからは本当に悠那一人で会う事になるのだろう。悠那はたじろきながらもお礼を言い、重そうな扉に手をかける。

『し、失礼します』

悠那がグッと扉に力を入れて開けてみれば、そこには黒スーツのSPらしき人が数人居た。一気にその人達の視線を浴びてしまった悠那は体中に穴が開きそうな感覚に襲われてしまい、思わず扉を閉じようとする。だが、扉の近くで悠那の様子を見ていた受付の人の妙な視線が刺さってきてしまい、渋々入っていく。

「よく来たね」
『…!』

悠那が扉の前でもたもたとしていれば、誰かの声が響いてくる。よくよくその声を聞けば、どこか懐かしく感じる声。
不意にそちらの方を見れば、白髪の髪に青のメッシュ。赤いスーツを見事に着こなし、耳には二つのイヤリングをしていた。

『(あれが…)』

聖帝、イシドシュウジ…
本物は初めて見たかもしれない。

「ライセンスカードは持っているね?」
『あ、はい…』

声を再びかけられて、慌てるように悠那がライセンスカードを取り出す。すると、それを合図に黒いスーツを着たSPの人が悠那の手から取っていった。

「本物…」

そう呟くと、聖帝は立ち上がり、どこかに差し込み、機械を弄りだす。ピッピッという機械音が暫くその場で響き、やがてはピーッという電子音が鳴りだした。その音と同時に聖帝はカードを片手にこちらへと振り返って歩み寄ってくる。

「キミをこの試合に出場する事を認めよう」
『は、はい…ありがとう御座います…』

聖帝はカードを悠那に渡すなりそう言う。悠那はそれを受け取りながらお礼を言い、直ぐにカードをポケットの中に入れ込もうとする。その時に、チラッと聖帝の方へと目線をやった。
聖帝は何を言う訳でもなくこちらを見ており、口角を上げたまま。今まで聖帝という人物をあまり良くは思っていなかったから何となくその笑みは自分に違和感を感じさせる。本当に、悪い人なのだろうか。

「もう戻って良いぞ」
『あ、はい…』

暫くボーっとしていた悠那はワンテンポ遅れながらも聖帝に一礼し、自分が入ってきた扉に手を掛ける。だが、出ようとしなかった。

『あの、』
「…?」

悠那は振り向き、聖帝を見上げる。聖帝は相変わらずの笑みで悠那を見ていた。

『どこかで、会いましたよね?』
「……」

遠慮がちに云われた悠那の言葉に、聖帝は少しだけ口角を上げる。

「おかしい事を聞くな。会った事は今ので初めてだが」
『あ…そうですよね…すみませんでした』

会ったのが初めてなのは、悠那自身でも実際分かっていた事。にも関わらず聞いてしまったのは、何となく恥ずかしい気分になってしまう。
羞恥心を感じてしまった悠那はそう言って重たい扉を押し、その場から出て行った。聖帝はそれを見た後、座っていた椅子に座り直した。

「イシド様、良いのですか?今の…」
「あぁ…勘の良い所は変わっていないらしい」

聖帝は手に頭を乗せ、悠那が去って行った扉を見て、不適に微笑んでいた。

…………
………

『行って来たよー』
「「「!!」」」

雷門中の控え室であろう部屋にノックもせずに入ってみれば、もちろん皆が驚いた様子で悠那を見た。

「何もされなかった?!」
『さ、されてないよ…』

入って来た悠那にいきなり天馬は悠那の肩をガシッと掴み、慌てた様子で聞聞いてくる。そんな天馬に苦笑しながら答えていれば、今度は剣城が近付いてきた。

「何か言われたか」
『言われてもないよ。
あ、ただ…』
「…?」
「どうした、悠那」

剣城の聞きたかった事は、恐らく聖帝が悠那を脅したとかそんな事だろう。生憎そんな事は言われなかったので問題は無かった。その代わりにSPの人達の威圧感が恐ろしかったが。だがしかし、そんな事はどうでも良く、悠那は思い詰めた様子をしておりその先の言葉を中々口から出さない。というより、どう表現したらいいか分かっていない様子だ。そんな悠那を見て、一同は再び静かになる。すると、円堂は気になったのか、聞いてきた。

『あ、いや…何かさ、』

懐かしい感じがしたんだよね…

その言葉と同時に頭を掻く悠那。何だそりゃ、と倉間の一言でその場の空気は和やかになっていく。だが、悠那のの言葉を聞いた円堂と鬼道が密かに眉間に皺を寄せていた。

…………
………

開会式は夜になり初めて始まった。空には色とりどりの光の柱が伸びていた。
共に聖帝選挙に立候補したイシドシュウジと、反乱軍のレジスタンスの響木のホログラムが現れている。

《中学サッカーの頂点を決めるホーリーロードもいよいよ全国大会開幕!!
この大会はフィフスセクターの次期聖帝決定にも深く関わっています!!聖帝の座に着くのは現聖帝のイシドシュウジ氏か!それとも響木正剛氏か!》

整列して行く他学校の人達。並び終えたチーム達の頭上からスポットライトが降り注いで来てより一層自分達が目立つ。

《さあ!予選を勝ち抜いて来た強者達が!“アマノカドスタジアム”に続々と集まって来ましたぁ!!》

会場中からは「フィフス」と言うコールが連発されており、反乱を起こしている身としてはこれから観客達に空き缶やらゴミやら投げられてしまうのでは、という不安が募っていく。

「スゴい…」
『人酔いしそー…』
「大丈夫?」
『うん…』

そんなコールに天馬は圧倒されながら呟く。すると、天馬の前に居た悠那が顔を歪ませながら言ってきた。確かにこれだけの人数で、観客達もコールしてばかりだと緊張や不安が募っていき、気持ち悪くなっていくだろう。悠那の後ろに居た信助が心配そうに声を掛けてみれば、悠那はそれに弱々しく笑いながらも答えた。

「フィフスセクターの力を見せ付けられてる感じです…」

速水の言葉に悠那は会場を見回す。確かに周りの空気は言わずもがな分かるフィフスコール。先程からずっと聞いていたがこれは当分鳴り止まないだろう。

《これより、大会委員長イシドシュウジ氏による開会宣言です》

女の人の声と共に選手達の前に現れたのは、マイクの前に立つ聖帝のイシドシュウジ。

イシド「全国の戦いを勝ち抜いて来た選手諸君、ここにホーリーロード本戦の開幕を宣言する。

ホーリーロードこそサッカーの頂点。これからが本当の戦いだ!選手諸君の活躍を期待する!」

その映像が消えた途端、会場中が湧き上がった。

『……』

やっぱり懐かしい感じがしたな。そんな事を思いながら悠那はボーっと宙に書かれた文字を見上げる。

《さぁ、遂に始まった熾烈な戦い!今年の舞台、ロシアンルーレットスタジアムは五つの会場に分かれており、各チームはランダムに選ばれた会場で試合を行います!!そして最終的に勝ち抜いたニ校が此処、アマノミコトスタジアムで決勝を戦うのです!!》

注目の第一回戦は明日から。王将の説明が終わると、再び会場から声援が湧き上がった。

「月山国光!いよいよ明日かあ!」
「うん!!」

目の前で意気込む天馬と信助。革命もいよいよ本格的になってきている。自分もこの二人には負けてはいられない。内心で闘志を燃やす悠那。
不意に、目の前に居た神童の後ろ姿が見えた。彼もここまで来た事をきっと嬉しく思っているだろう。にやけてくる口角。悠那はそれを抑えながらちょいちょいと、神童の裾を掴むなり引っ張る。

『拓人先輩』
「ん?何だ?」

珍しく天馬と信助の会話に入らずに、神童に話し掛ける。そんな彼女が余程珍しかったのか、神童は少しだけ驚いた表情を浮かばせながら悠那へと振り返った。悠那というと、掴んでいた裾をパッと離して、次に神童に向けていた視線を藍色の中に小さな光を入れた空を見上げた。

『この革命が終わったら、皆で楽しいサッカーしましょうね』
「…あぁ、そうだなっ」

絶対ですよ、と空から視線を再び神童に移した悠那はニコッと微笑んでみせる。悠那に言われずとも、神童自身自分から皆に言っていたかもしれない。何となく悠那から約束されたのが嬉しかった神童は、もう一度強く頷いて「ああ、絶対だ」と言って見せて、月山国光に向けて闘志を燃やす天馬と信助を見た。

…………
………


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