場所は再び変わり、グラウンドへ。とっくに準備が出来ていた先輩達は既にグラウンドにおり、天馬達は走らせていた足をもっと速くさせる。天馬達も準備が整った後、練習は開始された。
「よしっ、来い!!」
「行きます!!」
三国の言葉を合図に、ボールを持っていた天馬はドリブルで上がって行く。
「ここは通さないぞ!!」
そこで天馬の目の前にすかさず信助が立ち塞がった。だが、天馬は信助を敢えて抜かずに信助の後ろを走っていく狩屋を見て、パスを出す。
「狩屋!!」
『たあっ!!』
「よっと、」
天馬からボールを貰った狩屋はドリブルで上がろうとする。それを悠那がスライディングでボールを奪おうとしたが、あっさりと交わされてしまう。そして、再び上がって行く狩屋の目の前には霧野が…
「貰った!」
狩屋が不適に笑い、そのまま霧野に突っ込んで行った時だった。霧野が狩屋からボールを奪うと、狩屋が急に転倒して膝を抑えだした。
「ぅぐっ…!!」
「…え?」
「狩屋!!」
急に膝を抑えながら倒れた狩屋。小さな呻き声を上げて倒れた狩屋に、霧野自身もまた訳が分からないと疑問符を上げる。倒れたまま立ち上がろうとしない狩屋に部員達は一旦練習を止めて、狩屋に駆け寄っていく。
「どうした!」
「…霧野先輩がっ!」
その言葉で直ぐに状況が読めたのは悠那。狩屋を心配した悠那は数歩足を動かしたところで止めた。これは、かなり手が掛かる猫みたいだ…と皆が狩屋を心配する中、皆の輪の外から見ていた悠那と剣城。意味が分からずにまだ呆然と足元にあるボールを踏んでいる霧野。心配される狩屋と呆然とする霧野を見比べながら静かに息を吐いた。
「立てるか?」
「…いっ!」
車田に手を貸され、立ち上がる狩屋。だが、彼の細かい演技なのか、フラついてみせる。そんな彼に呆れるも、何故か拍手を送りたい程の演技力。まさに痛そうにする狩屋。そこで、皆は怪我をさせたであろう霧野へと目をやった。
「試合を控えてるんだド」
「怪我したら取り返し付かないです」
「!…俺は何も…」
「霧野先輩を、責めないで下さい!俺は平気ですから!」
責める部員達に霧野は自分じゃないと言おうとするが、それは狩屋に遮られてしまう。当の本人に庇われてしまった。
「よしっ、練習再開だ!!」
爪先をトントンと地面に叩き付ける狩屋を見て大丈夫だと分かった神童はそう皆に声をかける。車田は狩屋の肩に手を置き、まるで気にするなと言うように自分もポジションに戻っていった。自分はやっていないと言う前に、皆に勘違いされたまま神童に練習を開始しろと言われる霧野。誰よりも悔しい想いをしている。怒りと悔しさで頭にきている霧野は、ただただ拳を握り締める事で解消するしかない。だが、そんな彼に、狩屋が追い討ちをかけるように近付いてきて、
「先輩、俺ホント大丈夫っスから」
ニヤニヤと霧野に笑いかける狩屋。完全に狩屋に騙されてしまった部員達。完全に狩屋のペースに巻き込まれてしまった霧野。ポジションに戻って行く狩屋を、霧野は悔しそうに再び歯を食いしばってひたすら狩屋へ対する怒りを抑えていた。
確かに自分の目で見た。
霧野は例え狩屋が気に食わなくとも、決してラフプレイをする人じゃない。気に食わない相手だからこそ、真っ正面からプレイをしていたのに、こんな扱いは酷すぎる。今ここで自分が神童に言っても、狩屋を責めているみたいだし、何より女子に守られてしまった霧野のプライドを傷つけてしまう。
『蘭丸先輩…』
「ユナ」
『あ、何?京介』
悠那が心配そうに黙ってしまった霧野を見ていれば、後ろから剣城が話しかけてくる。悠那は少しだけ反応が遅くなるも剣城に振り返った。やはり、彼も狩屋の様子に気付いていたのかどことなく表情は堅い。
「狩屋をどう思う」
『どうって…』
悠那は狩屋を見やる。
狩屋は相変わらずの笑みでポジションに居る。先程の皆に向けていた優しそうな笑みとは違い、鋭い目つきをして妖しく口角を上げて笑っている。だが、あれはどこかスッキリしたと言わんばかりの笑みで、怖さは感じないものの不気味に思える。
そう、例えるなら
『うん、猫かな』
「…は?」
『気まぐれな猫だね、アレ』
しかも構って欲しいっ子ちゃん。と、悠那が笑いながら言えば、剣城からは呆れたような溜め息が盛大に吐かれた。
「聞く相手を間違えた」
『Σ!?』
「剣城!悠那!ポジションに戻れ!!」
神童の何故か若干キレ気味の掛け声に悠那は焦ったような返事をし、剣城は無言でポジションにそれぞれ戻っていった。
…………
………
一週間後、一同はバスで試合会場となる所へと移動していた。
「スタメン落ちかあ…」
「南沢さんも居ないし、イケると思ったんだけどなあ…」
バスの中で、青山と一乃は試合に出れないと言われ、二人はかなり落ち込んでいた。そこで一乃は自分達のずっと前に座っている狩屋を恨めしそうな表情をしながら見やる。
「入部したばっかの一年が出るってのに…」
「青山、一乃。気を抜くんじゃない」
落ち込んでいる二人の話しを鬼道は聞いていたらしく、少し振り向いてから口を開いた。確かにフィールドには出られないが、ベンチには居られる。そして、もしもの場合で自分達は他の選手達と交代してフィールドに立ってサッカーが出来るかもしれない。
「お前達もいつでも出られる様に準備しておけ」
「「…!はい!!」」
その言葉に励まされたのか、二人はお互い見合って返事をした。
「頑張ろ!天馬、悠那!」
「うん!」
『そうだね』
意気込む信助に天馬と悠那もまた頷く。すると、何かに気付いたのか、窓を見ていた信助が声を上げた。
「おぉ!見てっスゴいよ!!」
「うぉ〜…!」
『ほへ〜…』
信助と天馬が食い入るように窓の外を見るので、自分も見ると悠那も覗き込んだ。窓から覗いて見た光景。周りの景色が変わっていく中、ロシアンルーレットスタジアムらしき大きな建物がそこに建っていた。
「これが本戦会場のロシアンルーレットスタジアムか!」
『おっきい…』
皆が唖然とする中、キャラバンはそのスタジアムの中へと吸い込まれるように入って行った。
…………
………
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