「どういうつもりだ、狩屋」
「何がですか?先輩」

学校の校門近く。そこらには学校に通っている生徒達が友達などに「おはよー」と挨拶を言ってどんどんと入っていっていく。そんな朝早くから霧野と狩屋は校内に入ろうとせずに何やら漂わせる空気はどこか重くしていた。その理由はお互いがお互いに分かっている。だが、狩屋は敢えて気付かずに惚けた表情で眉間に皺を寄せて明らかに狩屋に対してキレている霧野へと笑ってみせた。そんな彼に、霧野の腹はどんどん煮えていく。もう一度分からせようと、霧野は昨日の試合の事を順に話していった。

「あの時、お前はワザと突っかかって来た。もう少しで俺は、足を痛める所だった。大事な試合の前に何であんな事をした!」
「言いがかりですよ」

あの時、とは秋空チャレンジャーズの試合の時。あの時、狩屋は霧野に体当たりをし、おまけに足まで踏んだ。わざとらしい狩屋の行為に霧野が気が立つのも無理もないだろう。だが、そんな霧野に狩屋は相変わらず余裕の笑顔で言放った。

「雷門に何しに来た!お前は…っ、」

その後の言葉がどうも喉元で突っかかってしまい、言葉が続かなくなってしまう。

「…言いたい事があるなら、ハッキリ言って下さいよ」

何も言わなくなってしまった霧野に対して狩屋は笑みを崩さず、どんどん霧野に突っかかてくる。

「…シード、なのか?」

本当はそう思いたくない。だが、確かに自分は足を潰されかけた。以前、万能坂で悠那と天馬が足を潰されかけた事を思い出した霧野は狩屋を睨むように見やる。シードという単語を出した瞬間、狩屋は惚けるように首を傾げた。

「シード?」
「お前はこの雷門を混乱させる為にフィフスセクターから送り込まれたシードだ。俺はそう思っている。
どうなんだ、答えろ!」

と、霧野は自分の推測を言い、次に狩屋に詰め寄っていく。だがそんな二人の間に、「霧野先輩!」という葵の声がした。二人がそちらを振り向けば、そこには天馬、信助、悠那、葵、水鳥、茜の六人が居た。

「「「おはようございます!!」」」
『マサキ、おはよ』
「え、あ、うん…おはよ」

六人が霧野に挨拶をし、悠那が目の前にいる狩屋を見て挨拶すれば、狩屋はそんな彼女に少し驚きながらも悠那に挨拶をする。その後、天馬も狩屋に挨拶をした。

「どうしたどうした、深刻そうじゃん」
「狩屋?」
『(…先輩)』
「…っ、」

水鳥が二人の空気をいち早く察したのか、二人に問い詰める。それを聞いた天馬は狩屋の方を改めて見て、悠那は急に表情を変えた霧野を心配そうに見やる。すると、霧野は自分が見られていると察したのか、悠那と目が合った霧野は目を見開くも直ぐに気まずそうに目を逸らしてしまう。それを横目で見ていた狩屋は目を鋭くさせた後、元の優しそうな目に直した。

「俺、先輩にホーリーロードの事教えて貰ってたんだ」

笑顔でそう言う狩屋に水鳥はやはり納得のいかないような表情で二人を見ていた。

…………
………

『んー…ああ、居た居た』

ユニフォームを身に纏った悠那は誰かを探すように走っていた。そして、その人物を見つけたのかその人物の肩を軽く叩いた。

「っあ、悠那」
『どうしたの、部活後少しで始まるよ?』

と笑いながら狩屋の隣に立つ。そして、狩屋の目線を追っていけばそこには木の下で何かを話している霧野と剣城の姿。何を話しているのだろうか、彼等の様子を見る限りに深刻そうな表情をしている。一体何をしているのだろう、いや、大体は予想は出来る。だけど、敢えて黙って彼等の様子を見やる。すると、横目で悠那の様子を見やった狩屋は再び視線を彼等にやり、静かに口を開いた。

「悠那は、俺の事嫌いになった?」
『何で?』

というかいきなりどうしたの、と若干苦笑気味に狩屋の方を向けば、狩屋の目線はこちらを向かずに霧野達の方へと目線をやったまま。チラッとこちらを見られたが、視線は長い程合わずに再び霧野達の方へと向け、そして再び口を開いた。

「…昨日の俺の吐いた嘘、とか」
『あぁー…』

狩屋の言葉に悠那は呆気に捕らわれるものの、頭を両腕に乗せて狩屋とは間逆の方を向いて思い出したように呟いた。そんな間抜けな声を上げた彼女に呆気を捕らわれたが狩屋は「どうなの?」と改めて聞いてきた。

『んー…嫌いにはならないかな』
「え?」
『まあさ、』

豊田さん達に対して言った事と蘭丸先輩に言った事はちょっと言い過ぎかな、とは思った。そう言いながら、狩屋の方を横目で見てみれば狩屋は気に食わなさそうな表情をしてこちらを見ている。怒らせてしまっただろうか、なんて考えてみるもその狩屋の姿が可愛らしく見えてしまう自分は空気が読めないのだろう。

「……」
『…マサキってさ』
「ん?」
『猫みたいだよね』
「ね、猫…?」

狩屋が目を見開かせながら自分の事を指差して悠那に聞けば、悠那は面白そうにうんっと元気よく頷いて見せた。そんな彼女の自信たっぷりの頷き具合に狩屋はまた呆然とする。

『蘭丸先輩に指摘されて不機嫌になったマサキとか、注意されて落ち込むマサキとか』

不機嫌になったのは褒めて貰えなかった猫。霧野に対する態度。
落ち込んだのは嘘がバレて注意された猫。悠那に対する態度。

『拗ねてるみたい』
「拗ねてるって…別に拗ねてないよ、俺は…」

何で俺が拗ねなきゃ…と狩屋は面白くない、と言わんばかりに唇を尖らせる。そんな狩屋をお構いなしに狩屋の頭をまるで猫を撫でるかのように撫でる悠那。まるで本当に猫を撫でているみたいだ。

「な、何で撫でるの」
『んー、猫みたいだから?可愛いよ』
「悠那、俺男だから可愛いって言われても嬉しくないんだけど…」

嫌だと言う割には少し頬を染めながら言う狩屋。嬉しくないとは言っても振り払わない所を見てやはりマサキは面白いな、と思った悠那。

「ユナ!狩屋!」

そんな事をしていれば、天馬が自分達を呼ぶ声が聞こえる。呼ばれて振り向いてみれば天馬と信助がユニフォームを着てこちらに手を振ってきていた。

「な、何?」
「…霧野先輩と何かあったの?」

天馬は悠那に撫でられていた狩屋を見て少し不機嫌そうになるも、狩屋に冷静に聞く。狩屋は少し髪を整えながらすぐに悩む素振りを見せた。何故だろう、こんな素振りすら演技にしか見えない。そして、髪を整え終わったと同時にっあ、と声を上げた。

「霧野先輩にお前はシードだって言われた」
『っえ?!』
「えぇ?!シード!?」
「霧野先輩がそんな事を?!」

これにはさすがの悠那も驚いていた。目を見開く三人に対して、狩屋はヘラッという顔で三人を見やっている。そして、素晴らしい笑みで言い放った。

「で、シードって何?」

ズコッ

狩屋のまさかの発言で三人はよく漫画やアニメみたいにコケかけてしまった。どうりで何事も無かったかのように言ったものだ。「知らないの?」と、信助が思わず聞けば狩屋は素直に頷いた。

『って、私達も最初は知らなかったから人の事言えないよね…』
「そうだね…」
「シードはフィフスセクターが要請したエリートだよ。心技体共に超一流のプレイヤーで、フィフスセクターに忠誠を誓ってる」

自分達も最初は知らなかったものの、自分達の目の前で起こる出来事に徐々に理解していった。だが、狩屋にはそんな余裕がない為、信助が胸を張りながら狩屋にシードについて説明をした。

「霧野先輩はシードの事をスゴく警戒してるみたいだったけど…」
「雷門はフィフスセクターに革命を起こしてるからね〜、シードは僕等を潰そうとしてるかも、だよね」

信助の説明に、何となく納得したであろう狩屋は次に三人を見て、口を開く。

「じゃあ、俺がもし本当にシードだったら…天馬君はどうする?」

もしもの話し。狩屋のその言葉に天馬は右手拳を顎に当て、うーん…と考えるように唸り始める。そして、いつもと変わらない笑みを狩屋に向けてきた。

「別にどうもしない」
「は…?」

天馬の言葉に狩屋も思わず不思議そうに声を漏らす。隣に居る信助もまたニコニコと笑っており、より狩屋は二人を不思議なものを見るように見やる。

「狩屋はチームの仲間だし、それにシードだって敵とは限らないもん」
「剣城もシードだったけど、今は仲間だもんねっ」

信助は頭の後ろに両手を上げ、自慢そうに言う。二人の言葉に悠那もまた感動するも直ぐに微笑んだ。そんな彼等の純粋な思いに、「ふぅ〜ん、そうなんだ」と、納得した狩屋がそう呟いた。その言葉に天馬と信助はお互い見合って笑い合う。そして、狩屋は次に悠那へと視線を移した。

「悠那、は?」
『もちろん私も天馬と同じだよ。それにシードだったら私達がキミを助けてあげるし』
「え?」

またもや意外な答えに狩屋はまた声を漏らす。

『私は、皆と一緒にやるサッカーが大好きなんだ』

そう悠那が言えば、狩屋は呆然としたように悠那を見やる。

『だから私はマサキを助ける』

あ、でも“もし”だからそれはないっか!とあははっと声を上げて笑う悠那。狩屋はまたふぅ〜ん…と声を漏らし、下にまだ居るであろう霧野と剣城を睨むように見た。

…………
………


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