そしてピッチには三年生と交代した一人の一年生がフィールドに立つ事になった。ピッチに立っていた先輩達の目はやはり信じられないと言わんばかりの目を天馬に向けていた。これで何も言わないのは監督の言う事に従っているからだ。だが言わないと言っても不満は誰だってある。そんな視線を天馬は浴びているのだからかなりのプレッシャーだろう。

「お?雷門のユニフォームを着ているが…どうやら新人を起用するようです。大丈夫でしょうか!?果たして久遠監督の意図はどこにあるのかあー!?」

「俺に下がれって?…ッチ」

舌打ちをしながら監督の指示なので素直にベンチへ戻ろうとする南沢。少しだけ申し訳ないが、先輩達へのプレッシャーを浴びながらグラウンドの中へと天馬は南沢がフィールドから出た後に足をフィールドの中に入れた。

「(何で、俺なんですか…?)」

天馬は未だに久遠の考えが読めなかった。そんな疑問を持ちながらもひとまずこのチームのキャプテンである神童の元に向かった。

「あ、あの!さっきは助けて貰ってありがとうございました!!宜しくお願いします!」

先程のお礼とこの試合での挨拶。頭を下げて、神童の横を通り過ぎ先程南沢が居たポジションまで走って行った。
神童も分からなかった。彼のプレイを直接見た事は無いが、どこか冴えないのだ。サッカー部に入りたいと言うからにはサッカーの経験はあるだろうが、どうも期待出来ない。

「(…監督は、何でコイツを…)」

そう疑問を抱いてるのはきっと自分だけじゃない。他の部員達だって思った筈だ。そして顧問の先生である音無春奈も。
久遠の考えている事は部員である自分達でも未だに分からないまま。
一方部員達が疑問を浮かべている中、彼のプレイを見た春奈はベンチで久遠に抗議をしていた。

「何を考えているんですか!?彼はまだ入部手続きも終わってないんですよ?!」

いくら天馬を試してみたいとは言え、入部もしておらずそして先程のプレイ。彼自身ドリブルの一人練習はした事あるという事。つまり彼はドリブルしか出来ないのだ。ドリブルはボールが自分の元にあるからこそ出来るもので、相手にボールが渡ってしまってはドリブルは出来ない。そしてドリブルの才能すら自分達は見ていない。

「音無、お前はさっきのアイツを見ていて、何も感じなかったか?」
「え…?」

さっきと言われれば、理事長の指示により天馬が無理矢理勝負に参加する事になった時だった。サッカー部を救おうと必死に不良君に突っかかって行くあの姿。それが何なのかと言わんばかりの目をすれば、久遠はそれが通じたのか再び口を開いた。

「剣城に一人立ち向かった松風の目は、どこか似ているんだ…アイツに」

そこで自分の頭の中に浮かんで来たのは世界相手にも立ち上がって、立ち向かって行った。誰もが尊敬する人。

「…円堂さん、ですか…?」

円堂守、彼は強豪相手にも挑み続け、己を鍛え、仲間を信じ、サッカーを愛する宇宙一サッカーバカと呼ばれた雷門のキャプテンだった人。
その存在は今でも色褪せる事無く、存在し続けていた。

「彼の実力を見たい」
「……」

これは、納得をしても良いのだろうか…春奈はそれ以上何も言えなくなってしまい、黙ってグラウンドを見た。
不安そうな表情の中から僅かだけ何とかしなくちゃ…というのが天馬から読み取れた。


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