「松風天馬」
「はい…」
「予備のユニフォームを着ろ」
「えっ」
何を言い出すのかと思えばユニフォームを着ろという言葉。天馬はその監督の言葉に間抜けな声を出した。ユニフォームを着ろという事は試合に出ろという事になる。天馬はそれがまだ分かっていないのか、頭に疑問符を浮かばせていた。
「入部希望じゃなかったのか?」
「はい、そうですけど…」
「お前を試す」
未だに分かっていない天馬にそう一言顔を後ろにやりながら告げ、フィールドに向かって片手を上げた。
それは観客席に居た悠那にも見えていた。
「選手交代!南沢篤志に代わって、松風天馬!」
監督の言葉を聞いて選手達の目が一気に天馬の方へと来た。先輩達から来た目線は何も言わずとも直ぐに分かった。
何でアイツが?しかも選手交代に選ばれたのは三年生でこのチームのエースストライカーである南沢。
「…え、えぇぇええーーー?!」
混乱する頭の中。状況がやっと理解出来た頃には気付けば天馬はワンテンポ遅れながら声を上げた。
無理も無いだろう、天馬自身まさかここで自分が試されるなんて想像もしていなかっただろうに。自分が出てこの試合の流れが変わるのだろ?監督を不安そうに見上げれば、有無を言わせない瞳。天馬はその目を見て何も言えなくなってしまい、仕方なくベンチに置いてあったユニフォームを着る事にした。
「無茶です!こんな試合で彼を試すなんて…!」
サッカー部の顧問の先生であろう女の人が監督に訴えかけるが、監督は顔色一つ変えずに反応しない。
近くにあったユニフォームを渡して、天馬は着替える為にその場から立ち去った。
「しっかりやりなよ、天馬」
OK,if it is you.キミなら大丈夫。
観客席越しに掛けた言葉はキミには届いてないけど何とかなる。悠那は着替えに行った天馬をみながらそう呟いた。
…………
………
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