「ここ!河川敷で行われている雷門中対秋空チャレンジャーズ!!後半に入って得点はまだ0対0!!どちらが先に試合を動かすのかあ?!」
「“サイドワインダー”!!」
練習試合もいよいよ後半となった頃。得点は未だに一歩も引かない。そんな中、ゴール前まで上がっていた倉間が持ち前の必殺技で、相手のゴールを奪おうとする。だが、必殺技がクネクネとうねっている前に、誰かが立ちふさがった。
「“旋風陣”!!」
木暮が逆様になり、そのまま回り始める。木暮を中心に徐々に竜巻が旋風のように上がっていく。“旋風陣”、10年前とは相変わらず変わっていなかったその必殺技。だが、やはり見た目は大人になっただけはある。威力は以前の木暮よりも断然上がっており、簡単に倉間のシュートを止めてしまった。
回転が止まった木暮の足の上には回転しながら浮いているボール。木暮はニヤリと口角を上げた。
「どんなもんだい!
行くぞ!ジョニー!!」
木暮はそう言い、ジョニーにボールを渡す。ジョニーがドリブルをして行くと、天馬が止めようと前に立ちふさがった。
「通しませんよ!」
「オォ!ドウ致シマシテ!!」
『(ジョニーさん、違う…日本語違う…)』
前半戦からずっとこんな感じのジョニー。最初は天馬と悠那以外の人が「日本語違くね?」と言っている人達が居たが今ではもうどうでもいいと言わんばかりに試合をやっている。だが、悠那にはやはり気になっていたのか、心中ながらもジョニーにツッコミを入れた。そんな事を悠那が考えている中、天馬はジョニーからボールを奪った。
「やったぁ!」
「!?」
「天馬!!」
「よーっし!一気に行けぇー!!」
***
時間は1日前に戻った。
「良いか皆、今日は思いっ切りボールを追って来い!革命も使命も関係ないサッカーを楽しむんだ!!」
「背負う物が無い試合か…!」
「忘れてたな、そういうサッカー!」
神童と三国が円堂の言う練習試合に嬉しそうに話していた。
「面白くなりそうだね!」
「あぁ、
好きにやって良いのか…」
目を鋭くさせて小さく呟く狩屋。
「狩屋、昨日みたいな強引なプレーは相手に付け入る隙を与える。気を付けろ」
そんな狩屋に後ろに居た霧野に言われ、狩屋は不機嫌そうに表情を歪ませた。
「……」
***
円堂は目の前に向かって来るメンバーをちょくちょく見やりながら、静かに他のDF達と一緒に待つ狩屋を静かに見守っていた。
そこで、秋空チャレンジャーズのチャンス。ドリブルで上がっていく秋山。それを止めようと、青山と一乃もまた上がっていった。
だが…
「見えるぞよ!禍々しき悪霊が!!」
「「(Σビクッ!?)」」
秋山はどこからか取り出したであろうお札を青山と一乃に見せ付けながら上がってくる。気迫にか彼女の言葉にか怯んだ二人は思わず隙を作ってしまい、秋山はそのまま抜き去っていった。
「キェェエエッ!!悪霊退散!!」
『ッヒィ?!』
いやぁぁああ!!
上がりながら信助と天城を怯ませた秋山。その後ろに居た悠那は秋山の見事な演技(?)にハマってしまい、直ぐ傍に居たであろう誰かにしがみついた。
「お前な…」
『あれ、倉間先輩?』
怖さに思わずしがみついてしまったのはどうやら倉間だったらしい。視線を徐々に下にズラせば、自分の顎に倉間のツンツンとした髪が刺さってくる。倉間が震えている所為かチクチクと顎を擽ってきて段々痒さを主張してきた。倉間の方を改めて見てみれば、耳まで真っ赤にして拳を強く握り締めてワナワナと震えている。明らかに秋山にではなく自分に対して震えている倉間を見た悠那は少しずつ顔を青くしていく。
「おー倉間良いなー」
「離れてよユナ!!」
「っ〜〜!離れろ!!」
『す、すみません!』
浜野に羨ましがれ、天馬と倉間に離れろと言われる悠那。抱き付いた本人は倉間に対して申し訳ないとは思うものの、微妙な虚無感を感じていた。そんな事をしていれば、秋山はというとお札を貼ったボールをゴールに向かってシュートをした。三国はすかさずそれをキャッチ。
それからも、お互いに一歩も引かない激しい攻防戦が続いた。
「皆ー、頑張ってー!!」
秋がジャージ姿で応援の声を上げれば、こちら側のマネージャー達や春奈もまた応援の声を上げている。
「ハァ、ハァ…流石に大人のチームだ、手強いな…!」
「あぁ、でも楽しいよ…!」
「…アイツ等、イキイキしてるな」
息切れをしながらもこの試合が楽しいと笑いながら言う青山と一乃を見て神童も汗を垂らしながらそう嬉しそうに呟く。そして、自分も負けてはいられないと目の前の試合に集中しだす。
豊田のキックオフで月見がボールを貰い、上がって行く。
それを見た霧野がすかさず月見に向かって走り出した。暫く霧野と月見がボールを奪い合っていると横から狩屋が現れ、二人の間にあったボールを奪い、フィールド外へと蹴った。
ピ―――ッ
「何と!狩屋が隣のポジションから走り込んでクリア!!」
クリアした本人は右手を胸の所まで持って来て、小さくガッツポーズ。上手くクリアが出来て本人も嬉しそうにしている。そんな狩屋にいかにも不満そうな表情を浮かばせた霧野が近付いていく。
「深追い過ぎだぞ!お前のポジションがガラ空きになっているじゃないか!!」
狩屋のポジションは霧野の隣の筈。先程まで自分が居た場所を横目で見れば、確かに空いている。月見が他の選手にボールを渡していたらシュートされていたかもしれない。だが、霧野にわざわざ指摘されたのが嫌だったのか、狩屋は一瞬不機嫌そうにしていたが、直ぐに元に戻らせ苦笑の表情を浮かべる。
「すみません、雷門の弱点は霧野さんだって相手の選手が話してたの聞こえちゃって」
「っ!何だと…」
『ストーップ!』
今にも仲間割れをしそうな狩屋と霧野の間に入り、二人より更に大きな声を出す。それに驚いたのか、二人は肩をビクつかせ、自分達に大声を出した悠那へと振り返った。
『マサキ、ナイスクリアだったけど、それはちょっと言い過ぎかな』
ニコッと笑って言っているが、どこか目が笑っていなく狩屋自身も今のを聞いて更に苦笑の表情を浮かべる。狩屋が何を考えて霧野達の間からボールをクリアしたのかは分からないが、今は試合中。霧野にも狩屋にも集中してこの自由なサッカーを楽しんでほしい。すると、霧野は怒りを静めたのか一度顔を俯かせて狩屋を改めて見た。
「試合中に余計な事を言うな」
「…余計なお世話だったみたいですね」
狩屋は霧野の言葉に若干苛立ちを感じながらも、自分のポジションへと戻って行く。
「…すまないな」
『な、何ですか急に』
「気を遣わせたみたいだからな」
『い、嫌だなあ、してませんよ!私はマサキが…』
マサキの言った事が信じられなかっただけです…
霧野に微笑まれながら言われ、悠那は焦ったように言う。悠那の言葉を聞いた途端、少しだけ霧野の表情が曇った。
「俺が心配だからって事は流石に無いか」
『!?…ああ、えと…と、とりあえず…あの、何かあったら言って下さい。何でも聞きますから』
焦り過ぎて思わずそう吐き捨てるように言ってそっぽを向く。そして自分のポジションへと戻って行く悠那。そんな悠那を見て、霧野は少し顔を赤くしながらも自分もまた戻って行った。
後半戦も残り僅か。
速水から赤井がボールを奪い、ドリブルで上がって行く。
「行くぞっ!!」
「おぉ!!」
赤井は有働にパスを出し、有働はドリブルで上がって行く。それをDFである信助、悠那、霧野、狩屋が向かう。だが、霧野がいきなり走る速度を速める。そして、霧野は赤井から素早く綺麗にボールを奪い、上がって行く。
「フンッ」
『…?』
狩屋は霧野に向かって一気に近付いていき、後ろから狩屋がぶつかって来る。倒れる間際に狩屋は笑みを浮かべて、霧野の右足を踏んだ。
「うあっ!!」
『あれって…』
狙ってた…?
転んだ霧野を狩屋は見下すように笑みを浮かべて、直ぐに上がって行く。悠那もまた直ぐに転倒した霧野に駆け寄っていく。ボールは狩屋に任せて大丈夫だろう。
『…大丈夫ですか?』
「あぁ…」
悠那は手を貸し、霧野を立たせる。あまり仲間を疑いたく無いが、狩屋のさっきの動きはわざとだったように見える。悠那は上がって行く狩屋を心配そうに見やった。
「こっちだ!」と、天馬が手を上げて狩屋に言うが、狩屋は聞こえていないのか、それとも聞こえない振りをしているのか、一人で上がって行ってしまう。
「…?」
「舐めるなよ!」
一人で上がって行く狩屋を見て、天馬は疑問符を浮かべるしかなかった。木暮は上がって来た狩屋を見て、必死にディフェンスに付いていく。
「どうだ!」
「まだまだ!」
『…、』
狩屋は笑みを浮かべたままコーナーギリギリでシュートを打つが豊田にパンチで弾かれてしまった。
「ッチ」
弾かれてしまったのが気に食わなかったのか、狩屋は静かに舌打ちをした。
『……』
気のせい、だとは思うが
彼は確かにサッカーを楽しんでいた…
プレーには少し問題はあるが、サッカーが好きというのには代わりないのだろう。
『……』
「…悠那?」
『あ、いえ…』
後で、守兄さんに聞いてみようか…さっきからマサキの事見てるし。そう思っていれば、試合では浜野が上がっていた。
「俺だってシュートしちゃうもんね!」
そう言って楓野を抜く浜野、そのままシュートを打つがやはりシュート経験があまりない浜野のシュートは簡単に止められてしまった。
「あっちゃ〜、ダメか」
「そろそろ大人の本気見せてやれ!」
豊田からジョニーへとボールが渡る。
「イエース、オ陰様デース!」
ジョニーが間違った日本語を言いながらも青山がディフェンスに入るが、
「させるかぁ!」
「“フージーンノマーイ”!!」
“風神の舞”ですジョニーさん。にしても懐かしいな…一兄さんを思い出したよ。
風神の舞で青山を抜いたジョニーはすかさず秋風にパスを出す。
「ヨネサン、オ控エナスッテ!」
「任しといておくれよ!」
秋風は口笛を吹いた瞬間、地面から紺色の毛並みをしたペンギンが顔を出す。
「“皇帝ペンギン…」
秋風が蹴り、秋山と楓野がそれを続けて蹴った。
「「…2号”!!」」
これはまた懐かしさを思い出させる必殺技に、三国が止めようと構えるが、その前にマサキが出てきた。すると、爪で引っ掻くように空中を引っ掻き出す。
「“ハンターズネット”!」
引っ掻く事で出来た赤紫色のネットが“皇帝ペンギン2号”の威力を殺して三国が触れる前に防いだ。
「何?!」
「スゴい必殺技だ!!」
あの皇帝ペンギンを防ぐなんて、かなり強力な必殺技かもしれない。
「天馬!」
「あぁ!!」
タイムアップはもう僅か。
ボールを天馬に渡し、そのままドリブルをしていく。そんな天馬を信助が呼びかけ、ボールを上げてもらう。
「“ぶっとびジャンプ”!!」
「決めさせるもんか!!“旋風陣”!!」
信助の必殺技に木暮も必殺技で防ごうとしたが、破られてしまい、シュートが決まった。試合は1ー0で雷門の勝利となった。
「やっぱりスゴい、雷門は!!」
…………
………
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