空が茜色に染まった頃、悠那は近くにあった時計を見上げた。もう直ぐで17時になりそうな時計を見て、そろそろ天馬とサスケが帰って来ている時間だと気付く。それを見た後に、餌を持った秋が通り過ぎて行くのが見えたので、悠那は秋と一緒に外へと出た。
玄関のドアを開けてみれば、目に入ったのは天馬がサスケの首輪にリードを付けてサスケの頭を撫でている。だが、こちらがドアを開けた瞬間、ダルそうに体を伏せていたサスケは餌が来たのが分かったのか、勢いよく立ち上がった。サスケも年を取ってもお腹が空けば、ここまで反応するものなのだろうか。恐るべし犬の嗅覚。

「サスケ〜、ご飯よ〜」
「っあ、ありがとう!今取りに行こうと思ってたんだ」

大型の犬だから、餌の器もボール並み。餌の量もまた目の前で自分のご飯を食べるサスケを三人が見ていれば、後ろから足音が聞こえてくる。振り向いてみれば、そこには一緒に木枯らし荘に住んでいる住民達が揃っていた。ユニフォーム姿を見る限りサッカーの練習でもするのだろう。秋がそんな彼等に気付き、「あら、皆これから練習?」と声をかけた。すると、一番前に歩いていた豊田が振り向いた。

「っあ、秋さん…あ、いや監督。明日の為にひとっ走りしてきますよ」
『そっか、試合だって言ってたもんね』

悠那がそう言えば、豊田は頭を掻きながら頷く。そして、このチームの監督はこのアパートの管理人である秋。最初は秋が監督になって彼等に進めたサッカーなのだが、まさか試合が出来る程になっているとは思っていなかった。このユニフォームも秋がデザインをしたとか。その試合も、最初は断られたらしいが、許可を得てして貰える事になったのだ。やる気は十分に感じられる。

「フンッ、走り疲れて負けるわい」
「なぁーに言ってんの!絶対勝つわよ!」
「わらわには見えるぞよ、勝利の時が!」
「ドーモ!オ世話様デェース!」
「意味不明よジョニー」

渋柿を始め、その場で立ち止まったメンバー達は次々と言葉を発していく。そんな元気そうな彼等を見るなり、気合い入ってんなあ、と苦笑しながらも悠那は感心する物があった。若い人から年寄りまでの大人チーム。性格は個性的だが、力はかなりの物だという事は知っている。試合には勝って欲しい。

「皆、明日は頑張りましょうねっ」
「「おう!」」
「ふふっ…っあ」

メンバーのやる気を見て、秋が小さく笑っていれば、不意に木枯らし荘の門の方から人影が見えた。小さく声を上げた秋の視線を辿って行けば、次に見えたのはスーツ姿で、昔の悪戯なんてまるでしなさそうなあの人。

「おぉ!グットタイミング!」

彼もまたこのアパートの住民である木暮夕弥。小学生の頃、最初は木暮がこのアパートに居ると知った時の悠那はかなり驚いていた気がする。「お帰り、木暮君」と、そう秋が言えば、木暮の後から秋達にはかなり見覚えのある人物が現れた。

「何だ、秋のアパートに住んでんのか」
「はい、色々節約出来るんで」
「監督、鬼道コーチ?」
『何でここに…』
「あぁっ!」

ついさっきまで天馬と悠那がサッカーの練習で見ていた円堂と鬼道。親しそうに話し合っている以上、彼等は木暮との再開はどこかで済まして来たのだろう。あまりの二人との再開に二人が驚きにそう口にすれば、秋が目を輝かせながら三人に駆け寄って行った。秋にとってこの二人は10年前からの仲間。こうして真っ正面から会ったのは本当に久し振りなのだろう。

「二人共どうしたの?突然!」
「っよ」
「久し振りだな」

秋の言葉に円堂は嬉しそうに片手を上げながら挨拶をし、鬼道もまた言葉を交わす。とっくに大人の姿なのに、その時だけは何故か皆幼く見えてしまった。

「お帰り、木暮ちゃん」
「ぃいっ……」

そんな三人を余所に、月見は木暮を見るなり語尾にハートを付けそうな口調で木暮にウインクをする。因みに月見はこう見えても、男性である。そんな月見を見た木暮は少し引きつった顔になり、今にも逃げ出しそうな声を出し、一歩引く。
すると、円堂は彼等の着るユニフォームを見てサッカーチームだと分かったのか、疑問符を浮かばせる。

「このチームは?」
「秋空チャレンジャーズ。木枯らし荘の住民で作ったチームです」
「そうか!お前サッカー続けてたのか!」
「その人は誰かのぉ?」

嬉しそうにしながら円堂が木暮に言えば、メンバーの中で一番年上の久里山が木暮に尋ねてくる。すると、木暮は待ってましたと言わんばかりに咳払いをして、円堂の前に手を向けた。

「では、ご紹介します。雷門中学の円堂守監督です。

明日の対戦チーム」
「えぇっ?!」
『「「えぇっ?!」」』

清々しい程の笑みを浮かばせた木暮の思わぬ発言に天馬、秋、悠那どころか円堂も驚きの声を上げ出した。

…………
………

――チャリンッ…

木暮の部屋にある棚に沢山の蛙の貯金箱。木暮は大きく口を開いたその蛙に500円を入れれば、中に入っていたお金とぶつかり、音を立てる。結局あのまま豊田達は走り込みに行ってしまい、木暮もまたそんな彼等を止めずに円堂達を自分の部屋へと招き入れたなだ。椅子に座る円堂と鬼道に、近くに居た天馬と悠那は自分達も状況を把握する為に、木暮の部屋に入ってベッドの上に座り、彼等の様子を黙って見る。

「ん〜〜…対戦相手の代役かあ…」
「はい…明日は久し振りの試合だったのに、ドタキャンされたんです…」

明日の秋空の試合。
木暮が言うには、約束していたチームがいきなり、試合の事をキャンセルされたらしい。皆スゴく楽しみにしていたらしいが、木暮は今更試合が出来なくなったなんて言えなくなってしまったらしく、その場の思い付きで円堂は使われたらしい。

「お願いします!円堂さん!!」
「どうするんですか、監督?」

天馬の言葉に円堂は腕を組み、眉間に皺を寄せ考える素振りをする。
確かにいきなりあんな事を言われても直ぐに承知する事は出来ない。こちらは革命の為に一日でも早く強くならなければならない。不安そうに円堂へと縋る木暮。木暮がここまで豊田達の為にお願いをしている。悠那もまた、心配そうに木暮を見た後、円堂へと視線をやる。
そして、円堂が出した答えは――…

…………
………


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