場所は再び移り変わり、一同は今後の試合の為にグラウンドへと移った。
練習の内容は、二対二で攻撃と守備の練習。攻撃側はシュートを狙い、守備はそれを阻止するといういつも通りの練習だった。円堂の練習内容を確認した皆は直ぐに返事をし、まず誰と誰が先に攻撃と守備をやるのか指示を待った。

「最初の攻撃は…天馬と神童」
「「はいっ」」

攻撃として呼ばれた二人は直ぐに返事をする。

「守備は、霧野と…

狩屋だ」
「…?」
「はいっ」

そして、守備は霧野と先程入部したばかりの狩屋。その円堂の選択に、狩屋本人もまた驚いていた。そして、それを聞いていた倉間達もまた、「いきなりかよ」や「どんだけ出来るんかね、」と驚いていたものの、サッカー部に入りたいと言った狩屋の実力が気になっていた。いきなりの指名に戸惑う狩屋だったが、そのパートナーとして選ばれた霧野はそれに気にせず返事をし、グラウンドへと入って行った。

「大丈夫かぁ?入部したばっかなのに」
「入部したばかりだから試すんじゃないかしら」
「チームに馴染ませようとしてるのかも」

疑いの眼差しを送る水鳥に、円堂の行動を見て予想する春奈、そして葵もまた予想している。円堂の考えはどうであれ、狩屋がどれだけやるかが問題。茜はカメラを狩屋の顔の位置に持って行った。

「始まる」
「攻撃も守備も全力を出せ!!」

その円堂の言葉と共に、神童は天馬に声を掛け、上がり出した。そんな彼等に円堂もボールを神童の少し先の方に蹴り上げる。ボールを貰った神童はいきなり霧野とボールの取り合いになった。

「行かせないぜ!」
「っ…天馬!」
「はい!」

暫くの攻防、霧野からボールを奪われないよう神童は直ぐに天馬へパスを出した。ボールを貰った天馬はそのままドリブルをしていき、すかさず狩屋が天馬を止めようとするが、直ぐに交わされてしまう。だが、狩屋は直ぐに切り返し、遅れずに天馬を追い掛けて来る。先程抜かれたと思われた狩屋はあっという間に天馬の横まで追い付いて来ていた。

「!…振り切れない…っ!」

自分と同じスピードで横を走る狩屋。天馬のパートナーである神童は近くには居ない。
苦しい表情で天馬が言ったその時だった。

「ヘッ…」
『…?』

ドンッ!!

「うあっ!!」
「「「!!」」」

急に勇ましく笑ったと思われた次の瞬間、狩屋は天馬に勢いよく肩を天馬の体にぶつけてきた。走るのに夢中で上手く避けきれなかった天馬はその反動で転んでしまい、それを見た狩屋はボールをフィールドの外へ蹴り、天馬へと近寄って行く。

『気のせいか否か…』
「…?」

うーむ、と顎に手を当てながら唸る悠那。目線の先は天馬に近寄って行った狩屋の姿。天馬に手を伸ばしてあの柔らかそうな笑みを浮かべる狩屋は、先程のプレイをするとは思えない程の優しそうな笑みだった。そんな狩屋を悠那が難しそうに見ていれば、傍に居た剣城は視線だけを移し、疑問符を浮かばせる。だが、相変わらず読めない表情をしており、剣城は片眉を下げた後、再び視線を狩屋達に移した。

「やられたよ、スゴいね!」

狩屋が手を貸し、天馬はその手を掴み立ち上がるなり、狩屋にそう言う。転ばされた割には天馬はそれ程気にしていなかったのか、笑みを浮かべては狩屋を褒めた。そんな天馬を起こした狩屋は照れたように頭に手を持っていく。

「練習だから止められたんだ、まぐれだよ」
「いや、あのスピードとボディバランスは中々の物だ」

天馬達の所へ神童と霧野も近寄って行く。初めて練習するにはかなりの運動神経を持ち、それを生かしている。キャプテンである神童も分かっていたのか、そう頭を掻く狩屋の才能を褒めた。褒められた狩屋は「…どうも」と、そう下を俯きながら言う。表情こそ俯いていたから見えなかったが、ニヤリと口角を吊り上げた。

「(チョロいモンだぜ)」

「実力は認めるけど、ちょっと強引だったぞ」

下を向いて怪しく笑う中、同じく霧野もまた狩屋達の方に来るなり、狩屋にそう伝える。神童とは違い、霧野はDFの要として、意見は厳しかく、そのままグラウンドから出よう背を向ける。狩屋は、そんな霧野の背を納得のいかなそうな、敵意の籠もったような目付きで睨んでいた。

『…うーむ』

自己紹介の時のあの優しそうな表情とは裏腹に、あの表情はかなりのギャップがある。あれが狩屋の本性なのだろうか、と思ったがそれはそれで彼の実力はスゴいに越した事はない。

「結構やるじゃねぇか、あの新入り」
「えぇ、驚きです!」
「でも何か…怖い、感じ…」
「え?」

ベンチで彼等の様子を見ていたマネージャー達。水鳥達が狩屋のプレイを見るなり、スゴいと感心している。だが、一人だけカメラから目を離した茜の言葉に葵が疑問符を浮かべる。そんな葵達の疑問も余所に、茜は再び狩屋へとピントを合わせ、シャッターを切った。その時の狩屋はもう、鋭い目ではなく、自己紹介の時の彼へと戻っていた。

「よぉーし。次の組、行くぞ!!」
「「「「はいっ」」」」

次の組である攻撃側の倉間と速水。守備側の車田、天城の番となった。円堂が攻撃側の倉間にボールを蹴ると、そのボールを誰かがトラップする。あまりの速さに、一瞬影しか見えなかったが、ちゃんとした人。
ボールを奪ったその正体は…

「鬼道さん!?」
「兄さん!?」

帝国学園の総帥、鬼道有人。

「何でお前がここに…?」

ボールを蹴りながらこちらへ歩み寄る鬼道に皆が思っているだろう事を円堂が思わず尋ねる。円堂や春奈もこうして驚いている以上、何も知らせて貰っていないのだろう。そんな彼等の様子を見た鬼道はフッと口角を上げた。

「俺が雷門のコーチをする事になった」
「「「えぇ?!」」」

さも当たり前だと言わんばかりにあっさりと自分がここに来た理由を言う鬼道。そんなあっさりと言い切った鬼道の言葉には誰もが驚かざるを得なかった。

「本当か鬼道!!」
「兄さん、どういう事?!」
「これから戦いは更に厳しくなる。俺も力を貸したいんだ。響木さんからも頼まれていた」

そう言って足元のボールを軽く蹴り、円堂へ渡す。円堂はそのボールを足で止めてそのままボールが逃げないよう上に足を乗せた。これからの戦いが厳しくなる事は地区予選を何とか突破した雷門には十分分かっている事。事実、決勝戦だってシード全員と戦わせてきたぐらいだ。次だって、何かを仕掛けてくるに違いない。鬼道はきっと、そんな可能性にかけて革命を起こしている雷門に力を貸そうとしているのだろう。

「そうか。よし、また一緒にサッカーやろうぜ!」

円堂の言葉に鬼道は表情を緩ませながら頷く。この二人の様子を見て、やはり10年前と同じように見えた。

『有人兄さん』
「…遅くなったが、大きくなったな悠那」
『でしょっ』

話しの区切りがついた所で鬼道へと近寄って行き、声をかければ、鬼道に頭を撫でられた悠那。改めて成長したと言われた悠那は悪戯をするかのような笑顔を浮かべて鬼道を見上げた。悠那の頭をポンッと軽く叩いた後、直ぐに難しそうな表情に戻して、皆を見渡す。

「雷門の初戦の相手は“月山国光”だ」
「月山国光…」

そして、次に出てきたのは初戦の相手チーム。天馬と信助曰わく去年のベスト8らしく、全国大会でも指折りの強豪チームらしい。
へえ、そうなんだと、名前や学校こそ知らなかった悠那は心中で若干感心しながら、天馬と信助の話を黙って聞く。話しの内容からして、かなり強いチームらしい。

「フィフスセクターは真っ正面から雷門を潰しに来たって事か…」
「恐らくな…」
「でも、俺達は負けない!」

いきなり強敵を目の当たりにした雷門だが、それでも勝つと決めた神童の言葉に、霧野も横目でうん、と頷いて見せる。それを聞いていた天馬と信助もまた頷き合う。これは、気を引き締めないとなあ、とゴクッと唾を呑んだ悠那もまた、剣城に振り返ってニッと笑って見せた。
雷門の一人一人がそう意気込む中、狩屋は一人またあの勇ましい笑みで笑っていた。

…………
………

練習は再び再開され、剣城がボールを貰う。それを霧野が剣城からボールを奪おうと競い合う。

「…革命かあ」
「うん、だから雷門は勝ち続けなきゃいけないんだ」

誰に言った訳でもない狩屋の呟き。だが、それは隣に居た天馬は聞こえていたらしく、簡単に説明した。そんな天馬の説明を横目にふと、狩屋は競い合いをしている二人を見やる。

「良いぞ剣城!」
「俺も頑張らなきゃな…」

霧野を見て呟く狩屋の目を獲物を定める獣のような目だった。

…………
………


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