「――おめでとう、雷門の皆さん。

…おめでとう、谷宮悠那、松風天馬、剣城京介」

場所は変わり、雷門総合病院へ。
とある病室に居た壱片逸仁はテレビに映るチャンネルを見るなり面白そうにしながら、読み終えたであろうマンガを自分の胸に置く。だがその後、直ぐに逸仁は上げていた口角を下げて、目線を自分の足元へと見やる。そこには昨日まで巻いていた包帯が無い。それを見てから、逸仁は次に天井へと向けた。テレビには先程まで映っていたサッカーの試合が終わり、今はCMが流れている。目線を少しだけズラせば、ベッドの近くに随分デカい荷物。退屈だ、とそのまま目を瞑ろうとした時だった。

「――おい、逸仁」
「…ノックぐらいしたらどうなんだ?


南沢、」

自分以外にこの病室に居ない筈の声が聞こえた瞬間、彼の眉間には皺が寄った。そして、若干嫌そうにしながら逸仁が天井から目を反らせば、目の前に手を腰に当てて立っている人物が。そこには、ついこの前までは雷門の制服を身にまとっていた筈の南沢。その彼が今では雷門の学ランではなくブレザーの制服を身に纏う立っていた。怪訝そうに逸仁が見上げれば、南沢もまた、逸仁を嫌そうに見下すかのように見下ろしていた。

「うるせぇな。さっさと来ねえから、わざわざ来てやったんだろうが」
「ッケ、生意気だなお前。月山国光のエースストライカーになったからって調子乗んなバーカ」
「悔しいならそう言えよ」

ふんっと鼻で笑い、逸仁を見下げる。そんな表情を見せてきた南沢に若干イラッとしたのか、逸仁は片眉をピクッと動かしながら南沢から視線を外した。そして、彼に聞こえないようにボソッと呟いた。

「ッケ…だから嫌だったんだよ。コイツが迎えに来させるのは」
「良いから戻るぞ月山国光に」
「へえへえ、分かってるっつーの…」

どうやら逸仁の呟きは南沢に聞こえていたらしく、彼もまた片眉をピクッと動かした。そして、彼からの口から雷門ではなく違う学校名が出てきた。その名を聞いた瞬間、また逸仁は眉間に皺を寄せる。だが、そんな気も直ぐに終わらせ、ベッドから上半身を起き上がらせる。そして、自分のポケットから封筒を取り出し、近くにあった机の上にあった花瓶の隣に置いた。それを見た南沢は逸仁から彼が置いたであろう封筒へと視線を移す。

「何だよ、それ」
「手紙ー」

悠那ちゃん宛てのね、と笑いながら南沢に言えば、南沢はその言葉に少しだけ眉間に皺を寄せた。彼女とは、一度しか会った事は無いが、それでも自分はこの手紙を書かなければならなかった。もちろん、悠那自身、逸仁を覚えていればの話しだが、逸仁はこの手紙は必ず悠那に渡ると肯定出来た。だけど、南沢は理解出来ない。だからこそ、南沢は余計に不機嫌になっていき、逸仁を睨むのを止めない。そんな彼を見た瞬間、逸仁は「おー、怖い怖い」と、落ち着けと言わんばかりに、手を前にやる。それを見た南沢は、自分の不機嫌さに気付いたのか、ハッとしたように眉間に皺を寄せるのを和らいだ。だが、それは和らいだだけであり、睨みはまだ続いている。
この目の色は聞かなくとも分かる、自分を嫌っている目。そして、疑っている目。これはヤバいな、と思った逸仁は挽回しようと、必死に説明しようとする。

「あー大丈夫大丈夫。個人的な内容で、月山国光とは実際関係無えから。っあ、でもラブレターとかじゃないぜ」

確かに悠那は可愛いけど、と少しだけ冗談を混ぜて笑いながら言えば、南沢は余計に皺を寄せた。彼は悠那を嫌っている。天馬という人物を嫌っている。そして、逸仁を嫌っている。だが、逸仁はそんな彼を気にする事もなく、上げたままの口角を下げずに、封筒から窓へと視線を移した。もうじき暗くなりそうな空の色。半分上は暗い藍色で、半分下は茜色の空。近くの木の枝に留まっているカラスはこちらを見るなり、カァッと一鳴きして飛び立った。
こりゃあ、近い内に不幸な事が起こるかもしれないなあ、なんて呑気に笑みを浮かばせながら逸仁は、羽を羽ばたかせて飛び立ったカラスを姿が消えるまで見ていた。

「…また会えるな、悠那」

今度はフィールドの上。つまり、アンタの敵としてだけど、そう呟いた逸仁はいつまでも動かない自分に苛立っている南沢へと向いた。眉間に皺を寄せて、自分を見る南沢。一応仲間である逸仁にここまで睨みをきかせるのだ。雷門に居た頃は相当だった筈に違いない。思わず自分の頬は引きつってしまう。これから自分はコイツと雷門を潰す為に“協力”しなければならないのだ。運動をしていないのに、何故だか疲労が溜まっていくばかりだった。

「革命、か…」

彼等がやっている事はフィフスセクターにとってはかなり邪魔な存在。反乱。そして、逸仁が通っている学校は月山国光。今は地区予選で優勝して全国大会へ出場出来る事になっていた。つまり、逸仁や南沢は悠那達の対戦相手。逸仁は全て分かった上で、ニヤリと口角を上げて、パジャマから南沢と同じ制服に着替え始めた。


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