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「――…ねえ、天馬。皆が“守りたいモノ”って結局同じだと思うんだ」
「…?ユナ、どうしたの、急に」

試合も無事に雷門が勝ち、キャラバンの中で皆が乗り、帰ろうとしていた頃だった。少しずつバスが動き始めた瞬間、悠那は何かを決めたかのように静かに天馬へ呟くように聞いてきた。車内は試合の疲れが出たのか、かなり静まっている。もちろん、天馬の隣に居た信助や、近くで聞いていた葵達や剣城も聞こえている。つまり、このバスに乗っている皆にも聞こえていたのだ。だが、悠那はそれでも構わないと、思ったのか、視線を自分の手に移した。

『…私さ、この革命の事を考えてみたんだよね。
今、私はすっごく嬉しいよ。皆とこの革命を起こして、楽しくサッカーをしてるから。でも、これはフィフスセクターには邪魔な存在。そうでしょ?』
「…そうかもな、」

悠那は自分の近くで聞いているだろう剣城にそう聞く。それに対し剣城は詳しく語る訳でもなく、曖昧な返答をした。だが、悠那にとってはそれで十分だった。

『だから、この私達が感じている感情はどうすれば伝えれるのか考えてみた』
「?…響木さんを聖帝にするんじゃないの?」
『物理的にはね、心の問題』

信助の言葉に、悠那は自分なりに考えてみた意見を言った。もちろん、心の問題とは言っても上手く伝わらない。葵もよく分かっていなかったのか、後ろから「心?」と疑問符を悠那にぶつけてきた。そんな葵に対して、悠那はうん、と頷いた。

『例えば、天馬は本当のサッカーを守る為に戦ってるでしょ?』
「もちろんっ!!」

悠那は例え話で、天馬の例を挙げてみた。そして、確かめるように疑問系で天馬の方を向いて聞けば、天馬は迷いなく力強く頷いた。そんな姿を見た悠那は安心したかのように小さく微笑んだ。そして、直ぐに視線を逸らし、再び自分の膝元へと見下げる。

『ここに居る皆は多分そうだと思う。
三国先輩だったらお母さんにまた笑って欲しい為に。守兄さんも10年前のサッカーを監督として。京介は優一さんとまた楽しいサッカーをする為。倉間先輩も、前までは自分のサッカーを守る為に、拓人先輩だって、キャプテンの重荷を背負いながらサッカーを守る為に戦う…

…他の皆も、守りたいモノがあるから革命を起こしている』
「うん」
「それがどうかしたのかよ?」

そして、今までの事を振り返って更に例として三国、神童、円堂、倉間を挙げる。相槌を打つ信助もまた、自分もサッカーを守りたい想いはあると言いたげに、頷いていた。すると、悠那の話を聞いていた水鳥が後ろから少し立ち上がり、前に座って居る悠那を座席越しに声を掛けて来た。その質問を聞いた悠那は、一度唇を紡いで、気まずそうに口を再び開いた。

『――…フィフスセクターや、シードの人達も多分、同じなのかなって。
海王学園の浪川さん達の様子を見て思ったんだよね。あの人達、よく分かんないけど、何かを誓ってフィフスセクターを必死にシードとして守ろうとしている。きっと、イシドシュウジも、何かを守る為――…
かは分かんないけど、フィフスセクターの聖帝として何かを守ろうとしてる』
「…!」

試合が海王の負けとなった瞬間に、敗北の二文字に落胆した浪川達。今まで戦ってきたシードの人達と表情が似ていたのだ。そして、ブロックを変えてきた聖帝の心中。それを伝えれば、密かに円堂の目が見開かれた。だが、それは誰も気付いていなかったらしく、円堂もまた悠那の話しを聞く事に。
すると、余計意味が分からなくなったのか、前で座っていた倉間が声を上げた。

「…何が言いたいんだよお前」
「そうだよ!イシドシュウジは俺達から本当のサッカーを奪おうとしているんだよ!?」

倉間に続き、他の部員達が悠那に振り向いてくる。天馬もまた倉間に便乗してきて、声を荒げながら悠那の肩を掴んだ。確かに、皆から考えれば聖帝達のやっている事は間違っているかもしれない。だけど、それを善悪と決めてしまうのは、何か違う気がする。

『天馬、もう少し私の話聞いて?私が言いたいのはさ、
…“皆がそれぞれの大事なモノを守る為に戦っている”って事。その“それぞれの大事なモノ”が食い違ってるから私達のやってる事は反乱になってる、と思ってるんだ』
「「「……!」」」

悠那の思わぬ発言に皆は驚きの表情を隠せないでいる。あの剣城までもがしているのだ。
いつぞや病院で出会った逸仁が自分に聞いてきた「フィフスセクターが許せないか?」という言葉は、今でもそうじゃないか、と思う。だけど、それと同時によく分からない感情が自分を責め立てるのだ。

『だから、きっと皆がお互いの大事なモノを認め合えたらこんな事、無くなるんじゃないかって。
…当たり前の事だけどね、』
「悠那、それが一番なのは分かっている。でも、それは出来ないんだ」

神童もまた、仕方ないと意見を出すが悠那自身も分かっていた。話し合いで解決出来る程、簡単な問題じゃない。それを聞いた悠那は神童には見えないが、小さく頷いてみせる。

『…でも、皆自分の大事なモノを守りたいだけなのにって思ったら、何かすごく哀しくなったって言いますか…
それに、その為にサッカーが出来なくなった人が沢山居るんだって思うと…』

はははっと乾いた笑いを上げながら頭を掻く悠那。なんか、変な事言ってるなぁ、と思いながら頬をひきつらせながら笑う悠那の表情はどこか切なそうだった。そんな彼女を見た天馬は、それ以上何も言わずに悠那から視線を外し、何かを考え込む。

「――俺が…

俺が、全部守る。守れるまで、何一つ、諦めない!!」

声を荒げながら言った天馬。彼の真っ直ぐな瞳が悠那の瞳とぶつかった。すると、天馬の横からうんっ!と元気よく声を上げた信助がこちらを覗き込むかのような顔を天馬の横から覗かせた。

「僕も守るよ!!」
『信助…』
「フンッ、一年が何意地張ってんだ」
「守るのは、“俺達”だろ?」
『倉間先輩、三国先輩…』

倉間や三国の言葉に、次々と頷いていく先輩達。残るは、

「剣城」
「…何で俺に来るんだよ」

天馬がそう名前を呼べば、不機嫌そうな声色を出す剣城。先程から黙り込んで話しを聞いていた剣城は、いつの間にやら彼は殆どの先輩や天馬達の視線を浴びており、どこか気まずそうに目をそらした。すると、信助は天馬に便乗したのか、ニヤニヤと笑いながら、「良いから良いからっ!!」と言い出す。普段の剣城なら、交わして見せるが、今回は先輩達の目もある。仕方ないと、言わんばかりに溜めた息を吐いた後、剣城は目を窓に映る景色に移した。

「……まあ、兄さんに頼まれてるしな」
「素直じゃないなぁ〜」

天馬の言葉に「うるせぇっ!!」と若干染まった頬を見せながらそっぽを向く剣城。そんな剣城を見て悠那は軽く微笑んだ。これは、からかい甲斐があるかもしれないぞ、なんて下らない事を思っていれば、面白そうに浜野が悠那の方を向いて来た。

「じゃあ俺から質問ねっ!悠那の守りたいモノは何なん?」
『私の守りたいモノ、ですか…』

浜野の質問に悠那は、うーん、と腕を組んで考える素振りをするも暫くして顔を上げた。

『分かりませんね』
「へ?」

分からない?と天馬は間抜けな表情をさせながら、不思議そうに悠那を見やる。それには皆も予想していなかったのか、若干、車内はザワザワッとざわめいた。悠那の方を見れば、清々しいと言って良い程の笑み。てっきり“サッカー”と何人かは予想していたが、当の本人からは“分からない”という言葉が出てきた。

『もちろん、サッカーも守りたいよ?10年前のサッカーが戻ってこれば良いなぁって。それから、応援してくれている人達の期待に応えたいとか、あと皆とか…』

ありすぎて分からないって言うか。一年の癖に何言ってんでしょうね、と若干苦笑が混じった笑いをしながら、すみませんと謝る。だが、悠那の発言により、皆の考え方が少しだけだが、変わったような気もする。すると、悠那の後ろの座席に座っていた筈の水鳥が立ち上がって、悠那の頭に手を乗せた。

「頼りにしてるぜ、悠那っ」
『うわっ!?』

ガシガシッと悠那の頭を撫でる。いきなりの事で悠那は座っているにも関わらず、体制を少し崩してしまった。

「けど、覚えとけよ?」
『…はい?』

撫でるのを止めた水鳥を悠那は乱れた髪を直しながら見上げる。すると、水鳥は悠那を見るなり、目を細めて小さく微笑んだ。その表情が今までに無かったから所為か、何となく不意打ちを突かれた感覚が出てきた。

「お前が皆を大切にするように、皆もお前を大切にしてるんだ」

な、そうだろ?と怪しく笑みを浮かばせながら、水鳥より前の座席で座って居た部員達は顔を赤くする人もいれば優しく微笑む部員も居た。

「ッチ、余計な事を言いやがって…」
「あれぇ?顔、真っ赤だぞ〜倉間」
「こ、これはっ!」

次々と話し合う部員達に悠那は呆気に捕らわれながらも小さく笑った。

「ゆ、ユナ!」
『ん?』
「一緒に戦おう!それが俺達にとってサッカーを回されたという事ならさっ」
『…うんっ』

天馬と悠那はお互い笑い合い、革命という風を起こそうとしていた。
人は皆、立場が違うだけでそれぞれ守りたいモノが違う。ただ、それだけなのにやはりぶつかってしまう。
反乱や戦争が起こってしまう。それは実に哀しい事。
早く、終わらせよう。
哀しみが増えるなら。

悠那はそんな事を思いながら、目を閉じた。

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