ゴール前には再び三国がキーパーに戻った。やはり、ゴール前は天馬より三国の方が何故だか、安心して任せる事が出来る感じがした。そんな安心感に浸りながら、天馬は再び自分のポジションに戻って行く。
試合は開始されようとしている。得点は依然として3ー1で海王がリードしており、雷門は点差は開いたまま。追い付けるかどうかは、このフィールドに立っている皆と三国の気合い次第だった。
すると、三国は拳を自分の手の平に叩き付けた。
「皆!逆転して行くぞ!!」
「「「おぅ!!」」」
ピ―――ッ!!
ホイッスルと共に再び緊張が走って来た。
「(化身が出たくらいで浮かれやがって…)
喜峰ぇ!!」
浪川の指示と同時に走り出す喜峰。それを見た猿賀がボールを喜峰に向かって投げた。
「ロングスロー!?」
「この一点で勝負は決まりだ!!」
ボールを上手く足で受け止める喜峰。だが、それを見逃さなかった霧野が素早くカットした。そして、十分に上がった後、霧野は自分のポジションに戻らなければならなかったので、ノーマークだった速水に目をやり、霧野は「速水!」と速水へとパスを出した。それに対し、速水はいきなりだったが、ちゃんと霧野からのパスは足で受け止めた。
「渡すか!」
「!?」
ボールを受け取り、暫く呆然とする速水に凪沢がボールを奪おうと彼に向かって走って来ていた。その気迫を見た速水は一瞬で怯んでしまい、不意に自分の過去を振り返っていた。
――こんな状況なのに入部したってね…
――お終いです。全部お終いです…
――怖いんですよ
――本気になったんです、お終いです…!
――はぁ、はぁ、はぁ、っあ!!あぁ〜…
今までの自分のサッカーに対する想い。思えば、自分は天馬や悠那みたいに前向きな思考でサッカーをしていなかった。努力もしようとしていなかった。失敗しては、諦める事しかしていなかった。
速水はそこで弾かれたかのようにハッと顔を上げた。
「(俺は今まで、何でもやる前から決めてました。やりもしないでそんなの出来ないって…でも、)」
―サッカーは、俺が守るんだぁぁぁああっ!!
「(やってみなきゃ出来るか出来ないかなんて、分からないんだ!!)」
初めて、自分の中で強い意思が生まれた瞬間だった。目の前には自分に向かってくる相手選手。速水は意を決したように目を勇ましくして、爪先を地面で軽く整え、地面が削れる程強く右足を後ろに下げ、クラウチングスタートの体制になる。
そして、思いっ切り地面を蹴った。
「“ゼロヨン”!!」
すさまじい速さで飛び出した速水は一瞬消えたかのように相手を抜き去った。
「やりぃ!!」
速水の必殺技に浜野は拳を上げて喜ぶ。速水自身も相手を抜けた事に、自然と嬉しそうにしていた。
「こっちだ!」
ドリブルで上がる速水に剣城がそう言い、剣城にパスを出す。パスを貰った剣城はその場でいきなりシュート体制を取りだした。
「“デスドロップ”!」
急に放たれた剣城の必殺技。もちろん、いきなりのシュートに深淵は自分の必殺技を出せなく、ボールの勢いに巻き込まれてしまい、海王のネットを強く揺らしてしまった。雷門がやっと奪い点を取った。
「やったぁ!!」
「よし、あと一点だ!!」
ベンチで葵と青山を始め、盛り上がっていく。海王の選手達の表情は焦っていたのか、苦しいと言わんばかりの表情。海王のキャプテンである浪川もまた眉間に皺を寄せている。勢いは完全に雷門にあった。
「神童!!」
試合はそのまま続行。海王からの攻撃で、途中から攻められたが、霧野がボールを奪い、そのまま神童にセンタリングを上げる。
「“フォルテシモ”!」
神童は走りながらボールを受け取り、剣城同様そのまま必殺技を放ち、キーパーごとゴールに押し込んだ。追加点。雷門はついに同点へと辿り着いた。
「(バカな!?この俺達から三点も…!?そんな筈ない、俺達シードと互角に戦うなど…そんな事、ある筈がない…!!)」
再び試合は海王からのキックオフ。
湾田にボールが渡り、再び“音速のバリウス”を出現させる。そして、剣城や神童みたく、そこからゴールへとシュートした。ゴール前には三国以外には誰も居ない。つまり、三国が必ずその化身シュートを止めなければならなかった。
「「「三国さん!/先輩!」」」
神童、天馬、悠那が止めてくれと、声を上げた。
「雷門のゴールは俺が守る!!」
そして、三国もまた皆の気持ちを無駄にしないかのように、そう言う。その時、三国は飛び上がり空中で激しく回転した。
「“フェンス・オブ・ガイア”!!」
両拳を合わせて握って衝撃波を地面に叩き付ける。すると、地面から先が丸まったいくつもの岩が叩き出された。風を纏ったボールがその岩に勢いよく当たって、ゴールへ入ろうと回転している。だが、三国のその新しい必殺技はそんな化身シュートを力強く抑えて、やがではそのボールを勢いよく弾いた。そのボールはトラップし、神童の元に行った。
「天馬!!」
そこから、神童が天馬にパスを出し、天馬はドリブルしていく。
「行かせるか!!“海王ポセイドン”!!」
「はぁぁああっ!!“魔神ペガサス”!!」
化身なら化身、と天馬も先程習得した化身を繰り出した。先程出したばかりなのにも関わらず、天馬は使いこなしており、そのまま突っ込んで行こうとする。
「貴様の化身など、この俺が葬り去ってやる!!」
「いっけぇ―――っ!!」
浪川の化身が三叉槍で天馬の化身に攻撃を仕掛けるが、ペガサスはそれを自分の拳で抑えて、もう片方の拳でポセイドンを殴り浪川の化身を消し去った。
「ぐぁぁああっ!!」
「浪川の化身が負けた…!?」
信じられないと言わんばかりに今度は井出が自分の化身“精鋭兵ポーン”を出す。だが、天馬の勢いは止まらずに、ペガサスは一気に化身二体を消し去り、彼等を抜いた。
「信助!!」
化身使いを二人抜き去った天馬はセンタリングを上げ、信助へとパスを回す。
「“ぶっとびジャンプ”!!」
「“ハイドロアンカー”!!」
高い場所からの必殺技に、深淵が必殺技で止めようとした。だが、あの錨が信助の必殺技を止めようと現れた時にはもう既にそのシュートはゴールに入っていた。
鳴り響くホイッスル。電光掲示板に目を移せば、雷門側の点数が点滅し、“3”から“4”へと数字が変わった。これで雷門は逆転。そして、この試合に終止符を上げるかのように、シュートが決まった瞬間、試合終了のホイッスルがこのフィールドに大きく鳴り響いた。雷門は見事な逆転勝ちとなった。
「――勝った…勝ったんですね…」
雷門の勝利に、呆気に捕らわれる速水へ浜野が背中を軽く叩き、お互いに笑い合う。何やかんや言って、浜野は自分の事は分かっていたかもしれない、と速水は肩を組んで人懐っこそうな笑みを浮かべてくる浜野を見てそう思った。
「信助!ユナ!」
『「天馬!!」』
天馬の元へと信助と悠那が近付いて行き、三人は手をパチンと叩き合って、雷門の勝利に喜んだ。天馬と悠那と三国の必殺技完成と化身の習得により、勝つ事が出来た雷門。だが、それ以上に皆の諦めない心が雷門を勝利へと繋げたのだ。ふと、悠那は速水へと視線を送った。
「…あ、」
『?』
先程まで浜野と笑い合っていた速水が悠那の方へ向いていた。すると、悠那と目が合った速水は慌てたように目を逸らす。逸らされた悠那は若干虚しさを感じながら、次に近くで膝を付いている浪川に視線を落とした。
「俺達が、負けた…」
『……』
声も肩を震わせて落胆する浪川。その姿を見た後に、自分の周り居た海王の選手達を見た。肩を落として顔を俯かせる選手が殆どの彼等。そんな姿を見た悠那は何故か居たたまれなくなったかのように眉を落とした。何かを考え始めた。別に勝利が不満な訳ではない。もちろん、同情なんかも…
表情が似ているのだ。
天河原や万能坂や帝国のシード達みたいに。
「やった、やった!!」
悠那がそんな事を思っている中、葵と茜は水鳥に腕を回されながら喜んでおり、ベンチで座っていた一乃と青山もまた試合にこそ出てはいないが、心から喜んでいた。
「円堂監督!!」
「あぁ!」
勝ったんだ。
――ホーリーロード関東地区予選優勝。全国大会出場は雷門となった。
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