「「「「――えぇ?!天馬をキーパーに!?」」」」

前半戦が海王が有利のまま終わり、深刻な表情をしていた頃、円堂が全員を集めた。そして円堂の口から出た思わない案に、驚きの声を上げる。円堂がキーパー経験の無い天馬をキーパーに起用すると言い出したのだ。驚かないというのが無理があるだろう。だが、円堂はそれ以上語らずに、霧野へと目を移し、天馬のポジションに霧野を入れるらしい。霧野は戸惑い気味になりながらそれを了知した。そして、次に三国へと目を移す。
天馬をキーパーに移すという事は三国は下がるか他のポジションに入らなければならない。そして、円堂が出した決断はサイドバック彼を移す事だった。

「どういう事ですか!?一度もキーパーをやった事も無い天馬をキーパーにするなんて!?」

やはり納得のいっていない車田は円堂に抗議をするが、円堂は表情は一つも変えず口を開いた。

「もちろん、勝つ為だ」

円堂が大胆なポジション替えをする時は大抵何か考えがあるかもしれない。だが、これは大胆過ぎて逆に何を考えているのか分からない。そして、皆がどうしてそんな事をするのか、と聞けば二言目にはその言葉を言うのだ。キャプテンである神童も円堂の考えが分からないらしく、ただ黙って円堂を見る。

「か、勝つ為って…」
「(監督は何を考えているんだ…)」

「(………

まさか…っ!)」

剣城もまた皆より少し離れた場所で彼等の様子を見ながらドリンクを飲もうとしていた時、ッハとした表情になる。剣城が何かに気付いた中、三国が悔しそうに強く握っていた拳から力を抜く。

「監督の言う通りやってみよう」
「三国!?」

三国はまだ言いたげな車田の前を横切り、天馬の前に行く。

「頼んだぞ、天馬」

そう言って天馬の肩に手を置き、少し離れた所へ歩いて行く三国。そんな言葉に天馬は何も答える事が出来ずにただ自分の前を横切った三国の背中を黙って見た。いつも大きく見える三国の背中だったが、今では小さく見えてしまう錯覚。

「替えのユニフォームを出してくれ」
「は、はい」

三国に頼まれた葵は急いで替えのユニフォームを取りに行った。皆の目に映るのは三国が軽くリフティングをしている姿。三国もよく分からない内に交代された身。それなのに円堂の言葉に逆らわずに自分は大人しく身を引き、こうして天馬に託しているのだ。戸惑いの表情を浮かべる天馬を横目に見た悠那は一度目線を外すと、もう一度思い切り天馬に振り返った。

『てーんーまっ!』
「うわぁっ?!」

困惑の表情を浮かべ、棒のように立ち尽くす天馬に悠那は自分の膝を少しだけ曲げそのまま天馬に膝かっくんを食らわした。いきなりの事で天馬は見事に引っかかってしまい、転ぶまではいかなかったものの、大勢は崩されてしまい、こちらを振り返ってくる。

「な、何するんだよユナ…!」
『そーんな顔しなーい!』

悠那は天馬の言葉を気にせず、容赦なく天馬の頬を引っ張り出す。「いひゃい!いひゃいよ!」と日本語にならない言葉を聞いて悠那自身それがツボだったのか笑い出しもっと左右に伸ばす。よく伸びるなあ、と十分に伸ばした悠那は改めて天馬へと目を向けた。

『三国先輩の想いを無駄にする気?』
「へ?」
『サッカー、守ろうよ』

悠那は眉をハの字にしながらヘラッと笑い、天馬の頬から手を離した。天馬と言うと、よく分かっていなかったのか、目に痛みで我慢して出来た涙を溜めながら悠那を見る。すると、そんな二人の傍にドリンクを片手に持った信助が来た。

「大丈夫だよ、天馬!僕達も絶対守るから!シュートなんて打たせないよ!」

信助もまた、悠那みたく笑顔でウインクをして天馬を元気付ける。そして、信助に便乗するかのように悠那はうんうんと頷いた。

『それに、例えシュートが打たれても、私は天馬が止めてくれるって信じてるよ』
「信助…ユナ…」

信助と悠那に励まされ、天馬は不安は薄れたらしく、先程よりも十分楽な表情をしていた。

…………
………

そして後半戦が開始されようとしていた。雷門は三国をサイドバックに、天馬をキーパーにして試合に挑もうとする。今までに見た事の無い光景に天馬は悠那と信助に励まされたとはいえ、いざフィールドに立ってみると、どこか緊張してしまう所がある。だが、決められた事はもう変えられない。

「(こうなったらやるしかないんだ…サッカーを守る為にも…!)」

サイドバッグに下がってしまった三国の想いの為にも天馬は心中で気合いを入れていた。

「アイツがキーパーだと?俺達も舐められたもんだぜ」

予想外の出来事に、湾田もまた呆れた、とでも言うくらいに両手をお手上げとやっている。

「野郎共、遠慮はいらねぇ。ぶっ潰してやれ!」

だが、そんな事に構わなかった浪川はポジションに着いている選手全員に言う。元々遠慮なんてしてないだろう。選手達はそれに勇ましく答えた。

「終わりだ…天馬君にシードのシュートが止められる訳ないじゃないですかぁ…」

気合いを入れて今にも襲いかかりそうな海王の意気込みを見るなり、速水は頭を抱えながら嘆いた。速水もまたシュートを打たれなければ天馬はまだ大丈夫だが、あの三国ですら止められなかったシュート。そして、前半戦までの攻められ具合。攻められないという事はまず無理だろう。つまり、またゴールを割られてしまう確率が大きい。

ピ―――ッ!!

そんな不安を抱えていれば、試合開始の長いホイッスルが鳴り響き、雷門からのキックオフとなった。開始と共に、神童は倉間にパスを出し、少し上がって行ったところで再び神童にボールを渡す。

「(この試合、必ず勝つ!)」
「(貴様一人で俺達のディフェンスを崩せるのかぁ?)」

浪川が凪沢を呼び、指示を出す。凪沢は神童にスライディングを仕掛けるが、神童はそれをジャンプして難なく交わす事が出来た。

「よし、抜いたぞ!」

交わす事に成功した神童に霧野は軽くガッツポーズをして喜ぶ。それには驚いたのか、浪川は直ぐに猿賀に指示を出して、神童の方へDFに向かわせる。だが、

「“プレストターン”」

神童は自身の必殺技で猿賀を抜いた。前半とは違い、雷門はパスが繋がっており、試合を優位に進めている。

「喜峰!」

党賀が喜峰にパスを出した所をジャンプが得意な信助がカットした。

「スゴい!」
「いっけぇー!!」
「風が一つになり始めている…」
「(皆頑張ってる…絶対ゴールを守るんだ!!)」

パスが繋がっていく雷門。前半戦より良い動きをする皆の勢いを見た天馬はフィールドに吹いた風を髪に靡かせて目の前で行われている皆の勢いに更に気合いを入れる。そんな天馬を見た円堂は、少し微笑んで頷いた。勢いに乗る雷門を見てさすがの浪川もヤバいと感じたのか、焦りの表情を浮かべてくる。

「どうした野郎共!!お前等それでもシードか!?シードの誇りはどこへいった!!」
『…?』

浪川が選手達や自分に言い聞かせるように言う。その言葉で選手達の顔つきが変わった。そんな浪川の言葉に、湾田はシードの誇り…と、小さくそう呟いから、その直後ボールを持っていた浜野からボールを奪った。そんな湾田をこれ以上行かせまいと車田と悠那が二人がかりで止めに入ろうとする。

「俺達はシードだ!!テメェ等なんかに負けるかよ!!」

だが、湾田は勢いを止めず再び“音速のバリウス”を繰り出した。そして、またあの音波で二人を抜いて行く。やがて誰も守る人が居なくなってしまい、天馬が守るゴールへと来た。

『「「天馬!!」」』

神童、悠那、信助が声を上げた。このまま行くとシュートが打たれてしまう。キーパー経験がない天馬や自分達にとってはかなりヤバい状態だった。そして、湾田はボールを横回転させ、足の甲の上に乗せ、腰の位置まで上げると、風がボールを包む。
先程まで感じていた不安が襲って来て、天馬は小さく息を呑んだ。

「(と、止められるのか…?)」

ゴールは自分がフィールドで走って見ていた時より、意外と緊張感がある。三国はいつもこんな体験をしているのだろう、と尊敬出来る程だった。天馬に不安が徐々に募って行く。
その時だった。

「――怯むなっ!!」

剣城が不安に追い込まれていた天馬に怒鳴るかのように大きな声を出した。ハッと我に返った天馬は今目の前で打とうとしている湾田から結構後ろに居る剣城の方へと目を向け、「え?」と小さく呟いた。

「サッカーを守るんじゃなかったのか!?お前の好きなサッカーを!!」
『京介…』

剣城は悠那に言った時と似たような事を天馬にも言った。その言葉を聞いた天馬はハッとした表情になった。
ここで点を入れられてしまったら、今まで皆でやって来た事が全部無駄になってしまう。それだけは絶対に避けなければならないのだ。

「絶対止めてやる!!」

天馬は拳を握り締めて、先程までの不安そうな表情はどこへ行ったのやら、意を決した表情で声を上げた。そして、湾田がシュートを放った。

「サッカーは、俺達が守るんだぁぁぁああっ!!」

天馬がそう叫べんだ時だった。すると、そんな天馬の想いにに答えるように背中から今までのモノとは比べ物にならない量の靄が現れ、そこから雄叫びを上げながら具現化した天馬の化身。風を渦巻くボールから天馬が打ち返そうとそのボールへと足を伸ばした。

「これが…」
「天馬の化身…」
『It cool…』

信助、神童、悠那は天馬の化身を見て、呆気に捕らわれている。可能性を感じていた剣城と円堂は満足げに微笑んだり頷いていた。皆が様々な反応をする中、天馬はシュートを手ではなく足で蹴り返して、フィールドの外へと出した。会場はもちろん、フィールドの選手達も呆気に捕らわれていた。天馬は息を切らしながら自分の化身を消した。

「(やったな、天馬…!)」

円堂は密かに喜んだ。そして、天馬は少し戸惑ったような、表情をしながらも嬉しそうに両手を見つめる。

「天馬!!」
『天馬!』
「信助!ユナ!俺、今…」
「あぁ、化身を出したんだ!!」

霧野に改めて言われ、天馬の表情はどんどん明るくなっていく。

「やった…やったぁー!!ついに、ついにやったんだぁ!!俺も化身を出せたぁ!!」

化身を出せた事にはしゃぐ天馬。それを見ていた神童と剣城も雷門の危機が無くなった事もあるだろうが、天馬の化身が出た事に、どこか嬉しそうだった。これでまた戦力が増えた。

「天馬君がシュートを止めた…」

喜び合う天馬達を見ながら速水はその光景を信じられないと言わんばかりに呆然と眺めていた。ベンチにいたマネージャー達や春奈も驚きの声を上げている。そんな彼女達に円堂は天馬の化身を出す条件を言った。
ドリブルを得意としている天馬は、これまでボールを前から受けた事は殆ど無かった。だから、化身の力を出すには意識を前に集中して、気を膨らます事を学ぶ必要があったのだ。
その説明を聞いた水鳥は納得したのか手を叩いた。

「(全ての気をボールにぶつけるあの動き…ボールに向かって行くあの気持ち…アイツには教えられてばっかりだな…)

監督!俺にもう一度キーパーをやらせて貰えませんか!!」

キーパーをやり続けてすっかりキーパーの意味を理解した三国。天馬の勇姿を見た三国は天馬から視線を外して円堂へと目を向けた。そして、もう一度自分にキーパーをやらせてくれ、と申し上げれば、円堂は親指を立てて、もちろんだと言う風に許可を出した。

…………
………


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