『“ユニコーンブレード”!!』

ヤケクソになりながら悠那は左足で空中に高く上げる。それと同時に自分も上がり一度回ってから蹴り落とした。空中から蹴り落とされたボールは白銀の風が纏い、やがて勢いが増していく。その周りからは白銀の刃みたく輝く鎌鼬。そして、その後ろには白い体と額に一本の角を持つ馬が見えた。
倉間と同じ、アニマル系の必殺技。

「“ハイドロアンカー”!!」

深淵も必殺技で対抗してみるが、悠那の必殺技は倉間が破り切れなかった“ハイドロアンカー”を破り、海王ゴールを割った。
雷門、初のゴール。

「やったやった!!同点ですよ!!」
「良いぞ悠那!!」
『え、ウソ…入っちゃった…』

地面に足を着き、先程自分が割ったゴールを間抜けな顔をしなぎら唖然と見ていた。足が地面に着いた時、唖然としていた所為か、いきなり重力がかかったのでフラついている。ゴールの中で小さく転がるボール。割られた事に目を見開く深淵は尻餅をつきながらそのボールを見やる。そんな彼を見てから、電光掲示板に目をやれば雷門側に“1”という数字が追加された。そこでやっと今自分に置かれた状況が分かった。
化身シュートの時や葵が考えてくれた必殺技の時とはまた違った感動を感じられる。やっと完成した必殺技、自分で考えた必殺技が完成したのだ。

「天馬!悠那!二人共遂に完成したんだね!!」

そんな徐々に込み上げられてくる嬉しさを感じていた悠那の元へと、天馬と信助、浜野が集まって来た。信助のそんな言葉すら嬉しくて、頬を少しだけ染めていれば、近寄ってきた天馬が照れくさそうに頭を掻いて「うん!!」と応えた。
信助は、悠那が必殺技の時にかなり手伝って貰っていた。信助が協力してくれなかったから今回の必殺技は完成しなかったかもしれない。そう思った悠那は改めて信助を見た。

『ありがとう、信助』

練習の時に沢山協力してくれてありがとう、と言えば、信助は照れたのか、今度は信助が頬を染めながら頭を掻いた。そんな信助の口から出てきたのは「どういたしまして」という言葉だった。すると、その様子を見ていた浜野が天馬と悠那を改めて相手が後輩ながらも尊敬した。

「すげーなー、二人の今の必殺技っ」
「はいっありがとうございます!!」

天馬は浜野にそう言い、剣城の方を見る。微笑むが剣城はフイッと顔を反らした。天馬は声をかけないのか、直ぐに視線を外し信助と浜野と話し始める。我に返った悠那は剣城へと近付いて行った。そんな悠那に気付いたのか、剣城は顔をそっちに目をやる。

『ありがとう、』
「…何がだよ」
『私がシュート打てるって信じてくれたから…?』
「…別に」

悠那の控えめなお礼に惚けるかのような言葉が返ってきた。そんな彼に悠那は若干疑問系になりながらそう伝える。すると、剣城はそれに対して顔を再び反らしてしまい、次には呟くように言ってきた。これは照れているんだ、と分かった悠那は面白そうに小さく笑った。

「アイツ、喜峰からボールを奪いやがった」
「少しは出来るみたいだな」

点を決められた海王。同点に追い付かれたにも関わらず、村上と浪川は天馬を見ながらそんな事を話していた。全員がシード。そんな自分達相手によく取れたな、とバカにするも褒める二人。そして、そんな二人の視線は次に剣城の隣を歩いている悠那に注がれた。あの無防備な程に笑う彼女。あんな女一人にシュートを決められた屈辱。

「(ただの女かと思ったが、かなりやるらしい…)」

だが、あれくらいの必殺技痛くも痒くも何とも無い。
そう呟くように言った浪川はキックオフの為、ボールを少し乱暴に置いた。

「よし、このまま一気に逆転だ!」

一乃がベンチで嬉しそうに言う。

「フンッ、ちょっと点を入れたからってはしゃぎやがって」
「行くぞ野郎共!!」
「「「おぅ!!」」」

浪川のかけ声に海王の選手達が勇ましく答える。それと同時に試合開始のホイッスルが鳴り響く。倉間と剣城が喜峰からボールを奪いに行こうとするが、湾田という人へとパスを繋ぐ。湾田は剣城と倉間の頭上を軽く跳んでボールを貰い、二人を抜き、そのまま上がって行った。いきなり仕掛けて来た。
ベンチからでも分かる彼等の動き。先程の動きと今の動きの違いに、ベンチで見ていた青山が声を荒げながら全然違うじゃないか!!と言う。先程までのプレイはこちらの実力を調べる為の仕業。湾田をこれ以上上がらせまいと、天馬と神童が彼に向かって走って行く。だが、湾田は余裕の表情のままだった。

「遊びは終わりだぜ」

湾田は首を左右に揺らしながら骨をポキポキッと鳴らす。そして、脇を引き締めて前に構え出した。

「うぉぉおおっ!!

“音速のバリウス”!!」

湾田の背後からは藍色の靄。その靄を自分から吹き払うように腕を振るえば、突如現れたのは、白い羽が背中に付いており、青と白の色が印象的な化身が現れた。

「化身!?」

バリウスが腕を前で交差させれば、腕に付いていたスピーカーのようなモノが動き出した。すると、そこから何かが渦を巻いて吹き出す。それをブースターのようにして、物凄い速さで天馬と神童を抜いた。

「「うわぁぁああ!?」」
「神童!」
『「天馬!!」』

二人を抜いたのは一瞬で、まさに音の速さだった。あまりの速さに天馬と神童は対抗出来ずに、突破を許してしまった。

「浪川!!」

ボールを守った湾田は浪川へとパスを出す。すると次にはボールを片足に乗せた浪川の背後から大量の藍色の靄が、

「出て来やがれ!!

“海王ポセイドン”!!」

双眼を鋭く光らせながら浪川の背後から現れたのは今の浪川の化身の大きさまである巨大な三叉槍を持つ化身。化身使いが二人目となってしまった。

「アイツも化身を使うのかよ…!」
「うぉぉおおっ!!喰らいやがれ!!」

現れた二体目の化身に唖然としていれば、いきなり放たれたシュート。それはゴール前で構えていた三国に必殺技を出す暇を与えず、ゴールを許してしまった。点数は2ー1と再び海王にリードされてしまった。ゴールを割られた事に悔やんでいたのか、三国は自分の傍で転がっていたボールを持ち上げるなりただ黙ってそのボールを見る。

「(ついに本気を出して来たか…!!)」

剣城は苦しそうな表情で顔を歪めた。全員が化身使いではないとは言え、これでは少しキツいかもしれない。それに、いくら化身で体力を少しずつ奪われていくとは言っても、彼等はシード。特別な訓練をしてきた彼等はそんなの痛くも痒くも無い筈だ。その証拠に息切れをしていた浪川は靄を終うと同時に笑みを浮かべている。こちらにも化身を扱える人物は居るが、鍛え方がまず違う。このままでは負けてしまうだろう。

ピ―――ッ!!

そんな不安を知ってか知らずかホイッスルが鳴り響き、試合開始となった。

「(この試合、絶対負けられねえ…!!)
フンッ、“ダッシュトレイン”!!

シュポ―――ッ!!」
「うぁ、うぁぁああ!!」

試合が開始され、ボールは村上に。こちらへと攻め込んでくる村上を車田は持ち前の必殺技で相手を吹き飛ばし、ボールを奪った。

「神童!!」

車田は神童にパスを出そうとするが、浪川にマークされている。

「剣城!」

ならば剣城に、と思った車田は目を剣城に向けるが、生憎剣城にもマークが入っていた。

「悠那!」

まさか、と車田は神童、剣城と来て悠那へと視線をやるが、やはり悠那も井出のマークが付いており、三人は中々抜け出せそうになかった。

「お前等が化身使いだって事は分かってる」
「化身の力、使わせないぜ」
『!?』

って事は、この人も…
自分の目の前に居る体格のいいこの人物も化身使いとなる。まさか、三人も化身使いが居たなんて。
パスが出せずにドリブルも止まってしまった車田。このまま自分が上がっても奪われるが落ち。さあ、どうしたものか、と冷や汗を垂らした時だった。

「車田先輩!」

車田を呼ぶ声。そちらへと目を向ければ、そこには既に上がり始めていた天馬だった。天馬はパスを求めている。車田は直ぐに天馬へとボールを蹴り、天馬もまたそのボールを胸で受け取め、走る速度を上げていく。すると、悠那のマークに付いていた井出が即座に離れて行き、天馬の前に立ち塞がった。どうやら悠那へのマークは一時的らしい。

「お前なんかに行かせるかよ!おぉぉおおっ!!

“精鋭兵ポーン”!!」

胸を叩きながら現れたのは白い鎧を纏った化身。

「三人目の化身使い!?」
「負けるもんか!!」

皆が驚く中、天馬は怯む事もなく、こちらへと近付いてくる井出へと突っ込んで行く。その時、天馬の背後から黒い靄が見えた。

「(あれは…!)」

―ズキッ

『…っ、』

また、痛みが…っ
その靄が出てきたのはほんの数秒。つまり、天馬と井出が衝突する一瞬。その数秒にまた悠那の心臓は痛くなり、何事も無かったかのように脈を打ち始める心臓。そんな痛みを疑問に思いながら天馬の方を見れば、また吹き飛ばされてしまい、天馬から出ていた靄は直ぐに消えてしまった。

『「天馬!!」』
「喜峰!!」

ボールは雷門から一点をもぎ取った喜峰に回され、彼の足元からは大量の水。また“フライングフィッシュ”が放たれてしまった。

「はぁぁああっ!!

“バーニングキャッチ”!!」

それに対し、三国も再び自身の必殺技で対抗するが、抑える事は出来てもやはり止めるまではいけなく、またもや決められてしまった。3-1と、追加点。雷門にとってかなり痛い所だった。

ピッピ―――ッ!!

喜峰のシュートが決まった所で、前半戦終了のホイッスルがフィールド中に鳴り響いた。

「(くっそおっ…どうしたら、止められるんだ…っ!!)」

また追加点を入れさせてしまった三国。あまりに強い必殺技だったらしく、三国の手はまるで痙攣を起こしたかのように震えだしていた。

「だから無理だって言ったんですよ…化身使いが三人も居るなんて、勝てる訳ないじゃないですか…」

速水は誰に言う訳でもなく、小さく呟いた。

…………
………


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