ホーリーロード地区予選の決勝戦。前半開始から数分もしない内に海王に一点を許してしまった雷門。その一点に早くも雷門は怯んでしまった。

「フィフスセクターの管理サッカーは俺達が守る。シードの名と、誇りに賭けて!」
「(これがシードの力…)まだまだ一点!試合はこれからだ!!」

こちらだっていくつかの困難を乗り越えて来たのだ。一点ぐらいで怯む訳にはいかない。気合いを入れ直すかのように神童は相手の力を改めて実感し、それからポジションへと戻って行った。

「所詮、俺達の敵じゃねぇって事よ」
「フンッ」

ゴールが決まり、一点を制した海王学園。余裕の表情の浮かべてこちらを見下している。だが、まだ一点。前半もまだ始まったばかりだ。点数を返すのは難しくはない筈。

「(奴等の身体能力を考えれば、一対一じゃ太刀打ち出来ない…)

剣城、天馬!パスを繋いで行くぞ!!」
「はい!!」

天馬は元気良く返事をして剣城と頷く。ホイッスルが鳴り、雷門のキックオフから試合開始。神童は倉間にボールを渡し、倉間は上がって行く。そして、少し上がった所で倉間は神童に、神童は剣城へとパスを回す。剣城の前に選手が立ち塞がり、剣城は後ろから走って来る天馬にパスを回した。ボールを貰い、ドリブルをしていく天馬の前に浪川が立ち塞がった。だが天馬は交わさずに倉間へパスを出す。そして、倉間はそのままゴール前まで上がって行った。

「行くぜっ」

ゴールとの距離を十分に近付いた倉間は両腕を勢いよく振り下ろし勢いを付けて、足にボールを挟んだ。そして、そのままバク転をし、高くボールを上げる。

「“サイドワインダー”!!」

そこから高く飛び、左右の足を交互に蹴りシュートを放った。ボールは緑色のオーラを纏い、その後ろには茶色のデカい蛇が見え、ボールがまるで蛇みたいな動きをしており、大蛇はボールの後を追うかのようにゴールへ迫っていく。
これが倉間の必殺技。かっこいい必殺技だが、練習などで殺気を立てる時に彼の後ろで幻覚として見えていた蛇はあの蛇だったのか、と悠那は若干ズレた事を思いながら見ていた。

「フンッ“ハイドロアンカー”!!」

だが、深淵はマスクの上からでも分かるような余裕の表情で、地面に拳を叩き付ける。すると、そこから溢れ出すかのように水が出てきて重そうな錨を引き上げた。そして、その勢いでボールを高く上げ、シュートを防いだ。

「何?!」
「貴様等とは格が違うんだよ!!」

少し歌舞伎が入った調子で言う深淵。深淵の弾いたボールはそのまま井出にボールが渡った。海王の怒涛の攻撃。雷門はボールに触れる事が出来ず、攻められていた。

「剣城、倉間!守りを固めるぞ!!」

倉間と剣城は神童の指示に従い、後ろに下がって守りを固めていく。ドリブルをして攻めて来る選手に浜野がディフェンスに入るが、

「マジで?!」

浜野はあっさりと交わされてしまった。

『ったあ!!』

その隙を突いて悠那がスライディングで相手からボールをなんとか奪い、上がろうとドリブルをしていく。だが、

「邪魔だ!!」
『うわっ!』

浪川が悠那からボールを奪う。そしてまたボールを村上に渡す。それを霧野と車田の二人がかりで止めに入り、神童がタッチへ交わした。天城と信助のディフェンス。天馬もボールを奪うなど、守っているがやはりどうも攻めきれていない。そして、ボールは浪川に渡り速水を抜いた。

「止めるド!!」

天城と信助も再びディフェンスに入ったが、浪川はフッと笑い、喜峰にパスを出した。「二点目」と、喜峰がそう呟いた時だった。天馬がゴール前まで上がって来ていた。

「(これ以上点はやらない!!)

“スパイラルドロー”!!」

二点目を入れさせまいと、天馬が勢いよく両足で踏み込めば、風がその場で竜巻のように渦巻いていく。やがて、それは天馬の姿を隠した。

「何?!」

相手の背後で天馬は風を纏ったまま敵に突っ込んで行く。数秒、相手を巻き込んでそこに滞在するが、敵を吹き飛ばし、ボールを奪い取った。
天馬、完成させたんだ。悠那は天馬の出来上がった必殺技を見るなり、嬉しさを感じたが、少しだけ虚しさも感じていた。練習では上手くいっていなかったあの必殺技。剣城も根を上げかけた程の必殺技が、二点目を入れさせまいと強く思った瞬間に完成したのだ。どうやら天馬は本番に強いらしい。そんな事を思いながら、無意識に作られた拳が痛く感じる。
必殺技を完成させた天馬は「よしっ」と嬉しそうにガッツポーズをしながら上がって行く。そんな姿を見た剣城は天馬から目線を外し、悠那へと移す。睨む訳でも、皆のように嬉しそうにする訳でもなくただ黙って天馬を見る悠那。剣城は半分呆れるようにしながら悠那へと向かって声を上げる。

「ユナ、上がれ!」
『え、何で』

惚けた顔をしながら、声を上げてきた剣城へと目を移す悠那。そんな彼女に剣城はまた呆れるような表情をして、走り始めた。そして、振り向き様に悠那へと再び口を開いた。

「さっさと上がれアホ女」
『…何、バカの次はアホ?』

拗ねるぞコラ、と言えば今度は無視と来た。さすがの悠那も意味が分からないまま、“アホ女”と言われた事に少し拗ね、言われた通り、剣城の所まで上がって行く。一体自分は何のために上がっているのだろう、と思いながら上がっていれば、剣城は近くに悠那が来た事を確認すると、次に上がっている天馬へと目を移した。

「…松風!」

名前を呼ばれた天馬は「剣城!」とパスを回した。剣城は天馬からのパスを受け取ると、直ぐにカウンター攻撃に入った。すると、行く手を阻むように「行かせるか!!」と、向かって来る猿賀を踵で軽くボールを上げ、もう一度蹴り相手の頭上を通過する。身体を捻らせ、相手を交わていった。さすがは元シード。ちゃんと相手の動きに付いていっていた。
そして、剣城の視線は自分の少し後ろで走る悠那へと目を向けた。

「ユナ!!」
『え?…うぬわあ!?』

いきなり名前を呼ばれたと思えば目の前にはボールが。変な声を上げながら反射で何とかボールを胸で受け取める事が出来た悠那。だが、やはり状況が掴めないが為に、悠那の頭の中には疑問符で埋め尽くされており、頭が上手く働いていない。

『な、なななっ?!』
「お前が打て」
『……………



Σはあ――――っ?!」
「「「「!?」」」」

まさかの展開に悠那は思わず随分と長い間を持ちながら思い切り剣城へと顔を向けて叫んだ。もちろん、叫んだだけありかなりの大声だったが為、敵も味方も肩を震わせてこちらへと目を向けて来る。悠那はボールを受け取ったまま、動けずにただ黙って剣城を見ていた。
無理無理無理無理っっっ!!
やっと状況が掴めた悠那は首を振るついでに手を左右に振って自分には無理だと剣城に伝える。

「お前、サッカーを守るんじゃなかったのか!?」
『でもシュートなんて…!』

化身の時は勢いで打っており練習の時も緊張無しで何となく打っていたが、さすがに今は勢いも何も無い状態だ。無理だと言い続けている悠那は近くで自分の様子を見ていた剣城へとボールを返す。
そして、剣城はそんな悠那に構わず、悠那にパスを出し続けた。悠那はそれをまた返すが、どうしても戻って来てしまうボール。それを見計らってか、海王のDFがボールを奪いに来るが、ワンツードリブルでパスをし続けていた所為か、ちゃんと交わしていた。そんなやり取りを敵も味方も、そして先程交わしたDFも関係なく呆れながら見ている。
再び自分の足元に戻ってきたそのボールを見て、悠那は走るのを止めた。悠那の額にはうっすらと怒りマークが見えてきている。

『〜〜〜っ!

あーもうっ!どうなっても知らないからね?!』

もうこちらを見なくなった剣城。その様子からしてやはり決めろと言いたいに違いない。そんな彼を見た悠那は半分ヤケクソになりながらそう言い、空中へと思い切りボールを蹴り上げた。


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