「今更復帰したいなんて、調子良い奴だって思うかもしれないけど…皆のサッカー見てたら、またどうしてもやりたくなったんだ!!」

青山の言葉にその場にいた先輩達は顔を見合わせるなり、再び顔を俯かせる二人を見る。これは一乃と青山が二人で決めた決断。だから、誰に何と言われようが、もう自分達は自分の気持ちから逃げないようここから立ち去る事はしない。皆が一度逃げ出した二人を受け入れるのは難しかったのか、数人の人達は渋い顔をする。そんな中、神童が二人の前に歩み寄って行った。

「――…待ってたぞ」

神童のその言葉で、青山と一乃は驚いたように同時に顔を上げた。

「神童、コイツ等入れる気か!?」

車田の信じられないと言わんばかりの声に、神童は何の迷いもなく「はい」と、車田にそう言った。そんな神童に倉間もまた、車田に便乗してくる。

「“はい”って…フィフスセクターが怖くて逃げ出した奴等だぜ?」
「けど、戻って来てくれた。
俺達のサッカーを見て、もう一度フィフスセクターと戦おうと決心してくれたんだ。だったらそれで良いじゃないか。それに、俺達がやろうとしている革命は正にそういう事じゃないのか?」
「どういう事だド?」

神童の言葉の意味に、若干意味が分からなかった天城は、そう疑問を飛ばした。神童は体ごとこちらへと向けて微笑んだ。

「勿論、ホーリーロードで優勝して、イシドシュウジから聖帝の座を奪う事は重要だ。けど、俺は思う。
本当の革命は、俺達のサッカーを見た人が、サッカーの素晴らしさを思い出して、それを取り戻す為に立ち上がってくれる事じゃないかって」

自分達だけじゃ革命は起こせない。革命にはサッカーを愛する者、皆の力が必要なんだ。そう言った神童の表情は、今までの彼からとは思えない程の意志の強さがにじみ出ていた。そんな彼を尊敬する眼差しで見やる天馬に、神童のファンである茜も「素敵〜」まるで花を咲かせるように微笑んでいる。茜には傍で聞いていた悠那もまた同感していた。
初めて会った頃は何でそんなに後ろ向きなのだろうかと思う程だったのに。
それを変えたのは紛れもない、

『(守兄さんなんだ――…)』

悠那は神童から目線を外して、密かに円堂へと横目で盗み見れば、言い切った神童を見るなり小さく口元を上げる円堂が見えた。神童や皆をここまで変えた円堂はやはり仲間思いで、仲間から慕われている。そして悠那達にも頼られている。
そんな事を思いながら、視線を円堂から再び神童に移せば、そんな神童に不満を感じた車田は顔を曇らせる。

「そ、そりゃあそうかもしれないが…」
「まぁ〜、良いんじゃないっスか?戻って来たんだから。やっぱ、仲間は一人でも多い方が良いんだし♪」

まだ怪訝そうにしている車田に終止符をかけたのはさっきまで舞い上がっていた浜野。両腕を頭の後ろにやり、車田を説得する。そんな浜野の言葉と神童の意志に折れたのか、車田は分かったよ…と、車田は渋々と頷いた。他のメンバー達も先程の表情も心なしか微笑んでいる。雷門サッカー部に、新しい仲間が増えた。

「ありがとうございます!!」
「俺達も全力で戦います!!」

一乃と青山もまた、先程の曇らせていた表情から嬉しそうに笑った。本当はこの二人も本当のサッカーをしたかったに違いない。今の表情からそう感じられた。

「よし、それじゃあ出発だ!!」

…………
………

ーホーリーロードスタジアムー

関東地区予選決勝、Bブロックを制した“海王学園”Aブロックを制した“雷門中”。ホーリーロード地区予選もいよいよ大詰めとなった。

「皆、準備は良いな!!」
「「「おう!!」」」

試合が始まろうとする中、その場で円陣を組むメンバー達。神童の言葉に続き、皆は気合いを入れるように声を上げた。一方、こちらが気合いを入れるように、海王もまた気合いを入れているのか、キャプテンらしき人を前に集まった。

「野郎共!!」
「「「おう!!」」」

その気合いの入れ方は海賊を連想させられるもの。両チームが気合いを入れた後、直ぐにポジションへと付いていく。目の前のチームは、こちらが緊張やら集中やらしている中、彼等はただ笑みを浮かべるだけ。決勝戦というのに、何故彼等はあんなに余裕なのだろうか、その理由は単純に彼等が全員シードだという事。視線を海王にやった後、天馬は一人不安げに肩を落とす速水へと移した。

「(速水先輩…)」
『――天馬!』
「――!

…ダメだ。試合に集中しなきゃ!」

速水を見ながら心配そうに自分も表情を曇らせる天馬。そんな天馬に悠那は気付いたのか、試合に集中するように声を上げる。それに対して天馬は我に帰ったように顔を上げた。そして、口パクで「ありがとう」と悠那に伝えた。すると、それを見ていた悠那もまた、「どう致しまして」と口パクで返した。

ピ―――ッ!!

やがてホイッスルが鳴り、海王からの攻撃で試合が始まった。浪川が喜峰にボールを渡し、喜峰は上がって来る。

「行くぜ!雷門野郎ー!!」

いきなりの速攻。
倉間がボールを奪おうと近付くが、彼のあまりの速さに抜かれてしまった。

「何だ!あのスピード!」
「天馬!」

ベンチで見ていた青山や一乃も分かるくらいの素早さ。そんな喜峰に神童と天馬が上がりだし止めようとする。…が、

「っふ!!」
「「!?」」

今度はドリブルで上がるのでは無く、空中へと信助に負けないくらいのジャンプで二人を交わした。そして、驚く二人を笑みを浮かばせながら見下ろした後、空中から海図にパスをする。海図は勢いを止めずにヘディングで党賀にパスを、党賀は凪沢にパスを、凪沢は湾田へとパスをしていく。次々とパスを繋いで行く海王。凪沢はそのままドリブルで上がって行った。

「行かせるかぁ!!」
「来たな裏切り者!!」

剣城はこれ以上行かせまいと凪沢に近付いていき、お互いに肩をぶつかり合う。

「シード同士の戦いか!」
「負けるな剣城ぃ!!」

暫くの奪い合いで剣城が隙を尽き、凪沢からボールを奪う事に成功。走る方向を転換し、海王の陣地へと上がって行く。ドリブルで上がる剣城。だが、そう簡単に通す海王ではなかった。

「甘いんだよ!!」

村上がスライディングで剣城からボールを奪い取る。
そしてそのボールは…

「喜峰!」

喜峰に向かって行くボール。喜峰の足元からは大量の水が溢れ出ており、その状態のままボールへと向かって行く。

「“フライングフィッシュ”!!」

助走の勢いのまま体を投げ出し、ボールを両足で思いっ切り押し出す。ボールの周りには何匹かの飛び魚が飛び、距離があるものの勢いは止まず、三国の居るゴールへと向かって行った。

「はぁぁああっ!!

“バーニングキャッチ”!!」

それを三国が止めに入る。拳に大量の炎を宿し、体を回転させてボールに叩き付けるが、それは一時的に抑えただけで威力に負けてしまい、ゴールネットを揺らしてしまう。海王に先制点が入ってしまった。

「三国先輩!」
「くっそぉ!!」

ピ――ッという笛の音が鳴り、一点入った事を知らせる。膝を付きながら、三国はゴールの中に転がるボールを見るなり、悔しそうに両手を地面に叩き付けた。

「これが、シードの力…」

呆然とするようにゴールに入ったボールを見る一同。DFですら素早く動けなかった事に驚きが隠せないでいる。そして、何より自分達と一緒に特訓してきた三国すら止められなかった必殺技。剣城がボールを奪って安堵したのも、本当につかの間だった。一気に不安が募り、春菜も表情を曇らせている。速水はそんな彼等を見た後に、ゴールへと目線を向けて怯むように低姿勢になった。

「だから言ったんですよぉ…革命なんて無理だって…」

速水の不安は、増えて行くばかりだった。


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