「うぁああっ!!いってってぇ…」

空が赤く染まった頃、もう何度目かも分からない程の挑戦で、何度目になる天馬の転倒。それでも天馬は直ぐに起き上がって「もっかいだ!!」と練習を再開していた。それは、天馬から離れた場所で練習していた悠那も同じ様子だった。二人共、感覚は掴めているが、どうしても完成出来ないでいる。それどころか、悠那の場合はシュートをしても、ポストに当たって弾かれたり、三国に止められてしまうのが何よりも悔しい。

『もう一回、お願いします!!』

それでも、悠那も天馬と似たような事を言い、三国に無理を言って練習を再開。信助はジャンプしてボールをトラップ。神童と霧野はボールを競い合い、霧野がボールを奪った。肩で息をしているのを見ると、疲労している事が一目で分かる。
ふと、神童は階段の上を見上げた。昨日のように一乃と青山がいないのか気になったのだろう。だが、やはりそこには二人の姿どころか他の生徒達も居なかった。

空が茜色から藍色になり始めている中、グラウンドには今もまだ部員達が走っていた。

…………
………

辺りは気付いた時にはもう既に暗くなっており、街灯が疎らに点いている住宅地。そこを天馬と悠那は歩いていた。街灯が点いているだけで、自分達の歩く道は目を懲らさなくとも見える。そのおかげか、ふと悠那は自分達の目の前に居た人影に気付いた。

『天馬、あれ…』
「え?…あ、」

目が慣れ始めたのか、自分達の目の前を歩くその人影は段々、見慣れた後ろ姿を自分達に映し出した。
赤に近い髪色に緑色のヘッドフォンを首に下げ、サッカー部の二年生の中で一番背が高いだろうその少年。先程まで、一緒にサッカーの練習をしていた人物だった。

『「速水先輩!!」』
「っ…ぇ?」

速水だった。
天馬と悠那が声を掛けると小さく縮こまった速水の肩が跳ね上がってこちらを振り向く。不安げになりながらこちらを見る姿はやはり速水だったらしく、それが分かった天馬と悠那は笑顔で速水へと駆け寄った。

「先輩の家ってこっちだったんですね!」
「あ、うん…」

その天馬の言葉に速水は聞き取る事が難しいくらいの声の大きさで返事をして再び歩き出す。その後を、天馬と悠那もまた付いて行くように歩き出した。

「いよいよ明日ですね!絶対勝ちましょうね…!勝って本大会に行って、そこでも勝ち続ければまた出来るようになるんですよね。思いっ切り、好きなサッカーが!!」
『天馬、興奮しすぎ…』

天馬の一方的なトークに悠那は苦笑をしながら落ち着くように天馬の肩に手を置いてそう言う。すると、速水は顔を俯かせたまま足を止めた。

「――本当にそんな事が出来ると思ってるんですか…?」
「え?」
『?』

足を止めた速水は次に天馬と悠那の方を勢いよく振り向いてきた。その勢いが普段の速水じゃ想像付かなかった所為か、二人は思わず目を見開いた。

「そりゃあ俺だって少し思いましたよ?フィフスセクターの言う事なんか聞かないで、自由にサッカー出来たら良いだろうなって。
でも…いつの間にかどんどん話が大きくなって、皆どうかしてますよ!!」

速水もまた声を荒げながら、一方的に話していく。そして、遂には自分の両手を見て、頭まで抱えだした。速水の中にあったものが今、抑えきれなくなってしまい爆発し出した。

「ちょっとレジスタンスの人と会ったからって舞い上がって…“革命”だとか“レジスタンス”だとかって…そんな事出来る訳ないじゃないですか!!

俺達ただの中学生なんですよ!?」

天馬と悠那は呆然とした表情で速水を見る。そんな二人を見てか、速水はハッと、いつもより僅かに見開いていた目を、更に見開かせて二人な背を向ける。
頬は興奮してか、高揚して僅かに赤くなっていた。

「…何でこんな事になっちゃっうんでしょう…もう訳分かんないですよ…」

さっきと比べ、若干落ち着いた様子で速水は小さく肩を震わせながら言う。それを聞いて天馬は自分の頭に何か浮かんだのか、ハッとして速水の前に出た。

「もしかして速水先輩、辞めちゃうんですか!?」
「…辞める?ふん、そんな勇気があったらとっくに辞めていますよ」

今にも部活を辞めてしまうような勢いの速水に、天馬はもしかして、と聞く。だが、速水はまるで天馬に嫌味を言うような感じで返した。そして、速水はそれ以上何も言わずに、二人を置いて帰ってしまった。

「先輩…」
『天馬、そっとしておこう…?』

これは速水先輩の気持ちの問題だから。悠那がそう言えば、天馬は納得したのか頷いて悠那と共に木枯らし荘へと帰った。

…………
………

ー試合当日ー

場所は変わり、サッカー部の皆は雷門中の駐車場へと来ていた。周りに他の車は無く、代わりに悠那達の目の前には、先程着いたサッカー部用のキャラバンバス。これから、これに乗って試合場所まで行くんだ。全員が揃った頃に、円堂と春菜が来て、皆の前に立った。

「よしっ、皆揃ったな?お前達なら、絶対に勝てる!自信を持って行け!」

円堂の言葉に、皆は「はい!」と返事をした。

「海王なんかに負けないド!!」
「俺達の力を見せてやるぜ!」
「革命っ革命っ」

自由なサッカーをやる為に今日まで手を抜かないで練習をしてきた。やる気を出して気合いを入れる天城と三国。その近くでは、まるで小さな子供みたいに小さく跳ねる浜野。その様子からしてあまり緊張感を感じられないが、本人はそれでもやる気はあるらしい。
そんな彼等を見ながら、不意に視線を反らしてみれば、皆が盛り上がっている中、一人だけ肩を落として顔を俯かせていた人物が居た。それは誰と言わずとも分かる速水。普段の彼が彼だからなのか、誰も彼を不思議がらない。だけど、昨日速水と話した天馬と悠那はやはり心配せずにはいられなかったのか、お互いに表情を曇らせる。

「頑張ろうぜ、革命♪」
『っえ、あ…はいっ』

先程まで革命っ革命っとハシャいでいた浜野が、悠那の思考を遮るかのように悠那の首へと自分の腕を回すなり、そう言ってくる。それが、ボーっとしていた悠那にとっては唐突過ぎたのか、大雑把に肩を震わせてどもりながら浜野の言葉に答えた。それが、浜野に疑問を与えたのか、浜野は唇を尖らせてまるで小さな子供みたいに拗ねるような顔をして「なんだよー、もうちょっと盛り上がれよー」と悠那の頬を軽くつまみ、そう言ってくる。
今日の浜野先輩はテンション高いなあ…なんて苦笑しながら「い、痛いです…」と言った。これが霧野や倉間だったらもう少し声を上げるが、浜野は悪気があってやっている訳じゃないので、何も言えなくなってしまう。そんなこんなで、悠那は浜野の絡みを耐えていれば、話しをしている部員達のざわめきの中から自分達とは違う音が聞こえてきた。
その音は神童も気付いていたのか、直ぐにそちらへと顔を向ける。それが誰なのか、それは直ぐに分かった。

「青山、一乃」
『あ…』

あの時の先輩だ。
悠那の脳裏には、彼等が部活を辞める時に出て行った時の事や、神童がキャプテンを辞めてしまう頃の事やこの前の練習の時にこちらを見ていた時の事が思い出されていた。キャプテンを探す時はかなりお世話になった気がする。
そんな二人の姿が見えた所為か、浜野は悠那の首に回していた腕を静かに引っ込めて彼等を改めて見る。どうしてあの人達がここに居るんだろう、と思っていれば、春菜がきょとんと不思議そうに彼等を見る円堂に「元サッカー部です」と教えた。
そう“元”サッカー部。なら尚更、何故ここに居るのかが疑問だ。不安げに表情を曇らす一乃と青山。こちらへと目を向けるのも申し訳無さが伝わってくる。
その時だった。

「何か用か?」

車田が若干棘のあるような声色で、二人に問い詰める。先程まで気合いを入れてテンションが上がっていたのに、随分な変わりようだ。そんな車田の言葉に、二人は怯えるように肩を上げて目を瞑り、「は、はい…」と言った。

「…俺達、またサッカーがやりたいんだ!」

意を決したように一乃の口から出た言葉に、その場に居た皆は驚くように目を見開かせた。


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