「――面白いんじゃね?」

思い切り勝機を無くしてしまった皆は、そのまま黙り込んでしまう。勝ち続けると言った先からこのように壁にぶつかってしまった。勝てる見込みは無い。だけど、戦わなければならない。そんな不安を持っていた皆の中に、一人だけこの場に合わず、面白そうに言う人が居た。それは先程、疲れたと言ってベンチへ豪快に座った浜野。
そんな浜野の言葉に、速水は信じられないとでも言うくらいに「えぇ…?」と声を漏らす。それは他の皆だってそうだった。

「どうせやんなら、そっちの方が盛り上がるじゃん。シードを揃えて来るって事はそれだけフィフスセクターもマジって事だし、ソイツ等倒したら一気に革命成功しちゃったりして!」

あはははははっ!!といきなり笑い出した浜野。
自分なりに考え方を変えたらしく、そう言いながら浜野はベンチから立ち仁王立ちして笑っていた。そんな豪快さと、ポジティブ思考になんとなく、彼は円堂の性格に似ていると思えた。すると、その意見に元気付けられたのか、三国は不安な表情から段々明るくさせていった。

「確かに勢いは付くな!!」
「…え?」

笑っていた浜野が三国の言葉にいきなり間抜けな顔をして、疑問符を浮かべた。

「一気に革命か!!」

三国の次には車田はしみじみとした様子で言い傍では、

「神童!!」
「あぁ!!」

神童と霧野は互いに鼓舞するように腕を当て合った。

「やろうぜ!」
「革命だド!!」
「流石浜野先輩!!」

張り切る車田と天城の傍で先程まで落ち込んでいたであろう天馬が浜野を尊敬の眼差しで見上げ、「さすが浜野先輩!」と言ってきた。その言葉には浜野は不意打ちを突かれたように、間抜けな声で天馬を見下げる。

「ま、まぁな!!」

どうやら本人はまさか皆がここまで乗って来るとは思ってなかったらしく、完全に呆気に捕らわれていた。浜野の調子を見ると、自分達が悩んでた事がちっぽけに見えて、悠那もまたうん、と力強く頷き両手を拳にする。

『よーし!それ聞いたら私もやる気が出て来た!』
「そうかそうか!」

そう言ってみれば、はははっと笑いながら浜野は悠那へと近付いて行くなりバシバシッと背中を叩いた。いきなり過ぎに、「うわっ」と声を上げる。浜野は悪気があってやっている訳ではない。流石の悠那もそんな浜野を恨める筈もなく、痛みに耐えながらははは…と乾いた笑みを見せた。

「そうと決まれば練習だ!!」

と車田の言葉を合図に皆はイキイキとしながら返事をし、グラウンドへと向かった。ベンチに座っているただ一人を除いて。そんな人物を、浜野は気付き振り返る。

「速水!なーにやってんだ?ほら、行くぞ!!」
「ああ…でも俺、ちょっと今日用事がありますから…」

浜野の言葉でやる気を出した皆。その勢いが無くならないように、グラウンドへ駆け寄っていく。浜野もまたグラウンドへ駆け寄るが、ベンチに未だ座っていた速水を見てそう声をかける。だが、意気込む皆に対して速水の雰囲気はいつもと変わらず、内気だった。
浜野に用事があると告げた速水はそう言うなり、浜野から目線を外した。

「用事?だったら信助来い!!俺が相手してやっから!!」
「あ、でも…」

速水に断られた浜野は近くにいる悠那と信助に目を向ける。そして、浜野は信助に目を付けたのか、そう聞いてきた。先輩の誘いに、信助は手首を回している悠那へと目を向ける。それに気付いたのか、悠那は信助にニコッと笑って見せた。

『私の方はもう感覚掴めたから行って良いよ』
「あ、うんっ!」
「よーし、まずはドリブルでグラウンド10周だ!」
『(うわあ…)』
「あ…はい!!」

信助頑張れ、と浜野と共に去って行く信助に口元を引きつりながら目で応援をする悠那。それを見送りながら腕を捻れば、視界の隅でベンチから立ち上がる速水。その様子からして、どうやら本当に帰るつもりらしい。

『用事、ですか?』
「…!?」

悠那が視線をグラウンドに向けたまま速水に聞けば、速水はビクッとしながら悠那に顔を向ける。

「そ、そうですけど…」
『じゃあ、また明日ですね』
「……、」

悠那の口から若干疑いの言葉がかけられた。だが、速水が自分の言った事に責任を持ち、そうだと、たじろぎながら速水が言えば、悠那はそれ以上何も言って来なく、また明日と告げる。そして、視線を速水に向けニコッと笑みを浮かべた。

『お疲れ様でしたっ』
「…お疲れ様、」

そう挨拶を言って、悠那はグラウンドの中へと入って行く。そんな彼女の背中を暫く見つめた後、速水はグラウンドに背を向けてその場から去って行った。

…………
………

ー次の日ー

二日目に続き、グラウンドに集まるなり皆のやる気は昨日となんら変わりは無く溢れていた。

「よーし!それじゃあ今日も張り切って行っちゃいますかー!!」
「「「「「おーっ!!」」」」」

何故か皆の前に出ていた浜野。言い出しっぺの浜野も、かなりやる気があり、そんな彼の言葉に天馬、信助、悠那、車田、天城が声を上げてその場の空気を盛り上げる。その後ろでは昨日とあまり変わらない表情の速水。そんな速水に気付く人は居なく、練習はそのまま開始となった。

霧野と神童はボールの取り合い。浜野は速水に向かって行き、あっさりと抜く。ボーっとしていた速水に、浜野がしっかりしろと言わんばかりに呼ぶが、やはり速水はどことなく不安げな表情だった。
そして、グラウンドの隅っこでは昨日と同じように剣城へと向かって風を纏ってボールを奪おうとする天馬。風を纏う事は昨日の内に出来るようになっており、威力も増している。だが、それでも風の勢いに天馬は負けてしまい、転んでしまう。ベンチでその様子を見ていた水鳥や葵も他の選手達の様子を見ながら天馬を応援する。

『はぁぁああっ!!』

一方、#name2#は三国を相手に特訓をしていた。ボールを自分でなるべく高く上げ、ほぼ同時に飛び上がる悠那。そして、ボールに届いた悠那は持ち前のキック力でボールを三国の居るゴールへと放った。悠那に蹴られ、ボールには少しだけだが風が纏い、威力は空気に触れる度に上がって行く。

「はあっ!!」

だが、それは三国のキャッチにより防がれてしまった。すっかり三国の腕の中で威力を無くしてしまったボール。それを見た悠那は、あー…と間抜けながらに口を開けて肩を落とした。

「惜しいな。新しい必殺技か?」
『あ、はい…でも難しいですね…』

ボールを手に持ちながら、こちらへと聞いてくる三国。それを聞かれた悠那はなんとなく気まずそうに苦笑して、頭を掻いてそう返した。天馬と比べて、自分の必殺技は威力が弱いし、風もどことなくぎこちない。挙げ句の果てに、三国には必殺技を使われないで止められている。これでは当分、完成出来なさそうだ。
そう肩を落として落ち込む悠那。そんな悠那に三国は持っていたボールを転がした。それは#name2#の爪先に当たり、転がるのを止めた。それを見た悠那は思わず三国へと目をやる。目が合った瞬間、三国はニコッと笑みを見せてきた。

「いや、後少しで完成しそうだ」
『そう思います…?』
「あぁ。
っさ、どんどん打って来い!!」
『は、はい!!』

不安げになりながら悠那が三国に聞けば、三国は笑みを止めずに、そう自信を持ちながら頷いた。三国が転がしてくれたボールに片足を乗せて、再び必殺シュートの練習を開始させようとする。

ずっと彼の背中を、彼等の背中を見続けた悠那の姿は、まるで空に憧れて、地を素早く走り抜ける馬のよう。
天馬(ペガサス)に憧れる一角獣(ユニコーン)のように。

『行きますっ!!』

そう言った悠那の瞳は、一瞬獣のように鋭くなったように見えた。

…………
………


prevnext


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -