円堂に思わぬタイミングで誘われた悠那と天馬は、とある一軒家の前へと立っていた。これはあるいみ、一般的な家より少し大きい家。
この家の中に円堂の奥さんが居て、その奥さんの手料理をこれから食べられる。横に居る天馬を見てみれば、楽しみにしている反面、どこか緊張しているみたいで息を呑んでいた。そんな姿がおかしくて、プッと笑う悠那。からかうように肩に手を置いてみれば、予想通り天馬はビクッと震わせてきた。

「お〜い、帰ったぞ〜」

そんな事をしていれば、黒い扉を開けて円堂は声を上げながら中に入って行った。天馬と悠那も慌てて続いてくように家の中へと入って行く。

「お帰り円堂君」
「こ、こんばんは!」

円堂の声に応えてきたのは女の人の声。その声が聞こえると、天馬は再び緊張の色を顔に出してきて、声の主の顔を確認しないまま頭をこれはまた綺麗に深く下げた。
その勢いの良さに、悠那と円堂は目を合わせるなり、苦笑をしあう。すると、奥の方からスリッパの足音が聞こえてきた。そちらへと顔を戻せば、これはまた懐かしい顔がそこにあった。

「ただいま。客っていうのはコイツさ。ほら、自己紹介」
「松風天馬君ね」
「はい!」

元気よく返事をして、頭を下げた時みたく勢いよく上げてきた天馬。どれだけ緊張しているのだろうか、肩は少しだけ上がっていた。
表情は円堂の奥さんに名前を知られていた事に驚いたらしく、呆気に捕らわれており、改めてその奥さんへと視線を送った。

「いらっしゃい。円堂夏未です。いつも円堂君から聞いてるから直ぐに分かったわ」
『夏未姉さん』
「悠那ちゃん…?」

ニコリと小さく微笑んだ夏未に、円堂の影から出て来た悠那はそう声をかけた。夏未はそんな悠那を見れば、一瞬誰?と聞かんばかりに拍子抜けた表情をしたが、徐々に懐かしそうに目を輝かせた。
そして、悠那は天馬の横に立てば、夏未に両手を掴まれ、上下にゆっくりと揺らした。

「久し振りね!」
『はい、久し振りです』

懐かしそうに、目を細めたあと、夏未は悠那の頭を猫のように撫でた。

…………
………

「わあ〜〜…!」
「はあ〜、ホントに頑張ったなあ…」

テーブルの上には料理、料理、料理。量はこれから大食い大会でもするのか、というくらいに、皿から溢れ出そうなモノばかりだった。
煮物、エビフライ、ハム、カステラの様なモノ、魚が丸一匹のモノがいくつも重なってトマトやレモン、貝とクレソンらしきモノや、特大ロールキャベツらしきモノ、バーベキューメニューにパイ。
大食い好きにはたまらない光景だが、あくまで見た目だけが良い物。(少しアレな物事もあるが…)
あぁ…目眩が…と悠那は顔を青くしながら肩を落として苦笑の笑みを浮かべる。

「育ち盛りさんが来るんだもの。このくらい食べられるわよね?」

夏未の手には懐かしく感じる山のようなおにぎりが。爽やかな笑みは円堂からの受け入りなのだろう素晴らしい程の笑顔だ。
円堂も量を増やしてくれとは言ったが、ここまでは予想していなかったんだろう。この苦笑の表情。溜め息を同時に吐く二人。その傍では目の前の料理に目を輝かせる天馬の姿。夏未の言葉に、

「食べます!」

何も知らない天馬は素晴らしい程に元気良く答えた。ここまで来たからにはもう覚悟しなきゃ。はあ、私…夏未姉さんの料理…軽くトラウマなんだよなあ…
と、心中で何回目になる溜め息を吐いて自分の手前にあったお皿へ、一番まともそうな肉じゃがとおにぎりをよそった。

「すっげぇ〜、美味そう!」

天馬は机に広がる料理達を見渡す。どれを食べようか迷っているらしい。
そして、しっかり手を合わせて挨拶する。

「お〜、食え食え。練習の後の飯は美味いもんなっ」

確信犯め…!
と、悠那が軽く円堂に睨み付ければ、円堂はそれを流すかのように目の前にあったバーベキューの串を持ち、一口で食べる。ああ、そんなに食べて。
守兄さんの栄養がすっごい気になる。
すると、天馬もマネするようにエビフライを一口食べた。と、途端に天馬の顔色は悪くなり、いつぞやの守兄さんみたく、歪んで涙目になってきた。(可愛い…)
薄ら冷や汗が浮かんでおり、口からはエビの尻尾が出ている。

「どう?天馬君、美味しい?」

夏未の期待の眼差しと声色に、答えにくくなってしまった天馬に、左斜め前に座っていた円堂は口をもごもごと動かしながら、気付かれないように天馬の左足の臑を食べながら蹴った。
もちろんテーブルの下の為に、夏未は気付かない。天馬は涙目になりながら円堂を見れば、くわえていた尻尾を落とした。
円堂も顔色こそ悪いが、笑顔だ。汗と額に怒りマークが見えるが、正に無言の圧力。それを見た天馬は不安そうに表情を曇らせていた夏未へ直ぐに笑顔を向けた。

「美味しいです!」

その言葉で不安げだった夏未さんの表情は輝いた。

「良かった!じゃあもっと持って来ちゃうわねっ」

すると、夏未は嬉しそうに席から立ち上がってキッチンへと向かった。
そんな夏未に「お気遣いなく」とも言っても持って来るのでもう悠那は何も言わなかった。
天馬、同情するよ。

「監督、この味…」

キッチンに行ったとはいえ、普通に喋れば夏未に聞こえてしまうので、天馬があまりの味に小声で円堂に話しかけて来た。

「男なら黙って食え…美味いと思えば何とかなる」
「何とかなるの使い方間違ってます…」

確かに。
では、そんな憂鬱になっている天馬に私が良い事を教えてあげよう。

『天馬、食べる屍になればなんとかなる』
「ユナも使い方違う…ってか、生きた屍じゃなくって?!」

天馬、声がデカい…と悠那は口元に人差し指を立たせながら言えば、天馬はハッとしたように口元を抑える。
それを見た悠那は、うーん…と考えるようにうなり、っあ、と声を上げた。

『じゃあ…暗示』
「…どんな?」
『これを食べなきゃ殺される(守兄さんにより)』
「それはそれで監督と夏未さんに失礼だよ…」

しょうがないじゃんか…と悠那は呟きながら自分のお皿によそったおにぎりを一口食べ始めた。

『…しょっぱい、』

なんて事をしていれば、夏未がこちらに来る足音が聞こえてきた。
顔をそちらに向ければ、料理とは言い難い料理を持った夏未の笑顔。

「はい、バランス良く食べないとね」

戻って来た夏未の手にはサラダらしきモノ。
レタスやブロッコリーは分かるが、苺やメロン、煮干しに、たくあんが。
サラダには似つかわしくない物が点々としていた。この料理達のラスボスはサラダかもしれない。
それを口を動かしながら、ジト目で見ている二人の足を仕方なく悠那が蹴った。

「「……はい…」」

二人は口の中に入っていたモノを飲み込んで返事をした。

…………
………

食事は終わり、今は食後のティータイム。とは言っても悠那と天馬はジュース。
あのなんとも言えない料理を何とか食べ終えた後のこのジュースは何だかホッとするような感じがする。

「今日、お義父さんに会ったよ。ビックリしたなあ〜」
「そう、帝国の地下に入ったのね」

夏未はカップを受け皿に置き、言った。その言葉に円堂は肝を抜かれたような表情で夏未を見た。

「っな、知ってたのか?」
「お父様から聞いていたわ」
「何だよ、知らなかったの俺だけ?」

乙、守兄さん。

「黙っていてごめんなさい。革命の体制を固める為にも、雷門が孤独な反乱を始めてくれた方が都合が良かったの」
『敵を騙すなら味方も、って事?』
「そう取ってくれても良いわ」

悠那はストローから口を離し、分かるだけで会話の中に入る。その言葉に夏未は少し微笑んで、また表情を真剣な顔に戻した。

「孤独な反乱か…」
「そうすれば雷門に注目が集まって鬼道君達が動き易くなるわ。帝国に本部を作って準備を進める事が出来たのよ」

準備が出来たから良いか、と円堂はそう開き直っていつものように笑った。終わりよければ全て良し、とはこの事だろうが、やはり円堂は敵にも味方にも踊らされていた。
そんな円堂に、夏未は頬を緩めて、全部貴方のお陰、と本当の夫婦みたいで見ていたこちらは何となく目のやり場に困ってしまう。

「いや、俺じゃない。雷門イレブンのお陰だよ。俺一人じゃこの革命はなかった」

そう言い、円堂は天馬と悠那の方を見てきた。その円堂の視線に、天馬もまたストローを口から外して円堂を見上げる。

「雷門の皆がサッカーへの想いを見つめ直してくれたからだ」
「そうね、貴方のいた時代のサッカーが今、天馬君達に受け継がれているんだわ」

時間はかかってしまったけれど、皆の気持ちが一つになった今、自分は今まで憧れていた雷門のサッカーが出来る。円堂達が今まで築き上げてきたサッカーが、本当のサッカーが、鬼道や佐久間、帝国学園の人達や、レジスタンスの人達の影からの応援のおかげで自由なサッカーが出来る。
それが何だか嬉しくって、照れくさくって、悠那はストローをくわえる。

「うん。頑張っていこうな天馬、ユナ。この戦いまだまだ長いぞ」
「はい!」
『…うん、』

円堂の言葉に、天馬が元気良く返事をして、悠那は少し微笑みながら返事をした。

…………
………


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