「でも珍しいよね、ユナからサッカーの練習しようって誘って来たの」
『え、そうかな…』
「うんっ」

部活を終えた後、河川敷でサッカーの練習をしていた天馬と悠那。いつもなら、天馬が悠那を誘って練習を始める二人だったが、今回は珍しく悠那が天馬を誘っていた。そんな悠那を珍しく感じるも、天馬はやはり嬉しかったのか、その誘いに乗った。もちろん、帝国へ行って自分達の他に仲間が居る事もあったが、やはりどこか違った歓喜があった。
とは言っても二人しか居ない為、やる事は限られている。その限られた中でやっている事は攻防戦。天馬は今まさに悠那を抜こうと頑張って悠那に突っ込んでいった。

「えいっ!」
『っあ――…』

悠那がボーっとしていれば、天馬が隙を付いてボールを別の方向へと蹴り上げる。悠那は気付くのが遅くなってしまい、飛んで行ったボールをジッと見つめる。
ボールは誰も止める人が居ない為、中々止まらない。それでも悠那はそのボールを見ているだけで、取りに行こうとしなかった。そんな悠那を不思議に思ったのか、天馬はわざわざ悠那まで近寄ってきて顔を覗かせる。

「ユナ?」
『…ああ、ごめんごめん。取って来るねっ』

愛称を呼べば、我に返ったかのようにそう言って、転がっていくボールを悠那は急いで取りに向かった。

『はあ…』
「まだ帰らないのか?」
『あれ、守兄さん』
「監督!」

微妙な感情に思わず溜めた息を吐きながらボールを拾い上げれば、横から円堂の声が聞こえた。見上げれば円堂は手に買い物袋を吊下げており、買い物帰りだと直ぐに分かった。
円堂は徐々にこちらへと近寄ってきて、悠那の手に持つサッカーボールを見て、確信突いたかのように聞いてきた。

「必殺技の特訓でもしてたのか?」
『(ギクッ…)あ、あはははは…』
「?」
『必殺技では無いんですけど、私達もう絶対負けられないって思ったら…ねぇ?』
「うん!ジッとしてられなくて!!」

乾いた笑いを上げながら、必死に必殺技の事について考えていたのを隠す悠那。そんな悠那を知ってか知らずか、天馬は悠那の横に立って悠那の調子に乗せられていた。
むしろ調子に乗せられている事すら分かっていないだろう。そんな二人を見た円堂はハハッと笑った。

「力、入り過ぎじゃないか?」

円堂がそう言えば、天馬は眉を下げて、不安げな表情をする。それだけ天馬にとってプレッシャーを感じているのだろう。現に悠那もそうだ。
今日、いきなり自分達が革命を起こしていると言われても、どうも実感しない。だけど、負ける事を考えてはいけない事はよく分かった。もちろん、勝ち続けなくちゃいけないのは今日言われなくともしていた筈。プレッシャーを、どうしても感じてしまうのだ。

「でもまあ、気持ちは分かる。俺だってビックリしてるんだ。革命だぞ?」

まるで昔のように強敵を目の前にして戦うのが楽しみで仕方ないとでも言う位の無鉄砲さ。だが、今の円堂と天馬は感じ方が違う。
円堂は、監督として力をこちらに貸し、天馬や悠那は選手として皆や監督の期待に応えていかなければならない。

「俺も、ただ本当のサッカーを取り戻したくてやって来ただけだ。それがこんな大きな事になっているなんてな」
「はい…」

円堂は悠那に近付き、持っているボールに手を置いて撫でた。そして、「何だか懐かしかったよ」と、一言言う円堂に、天馬と悠那はえ?と顔を上げた。
すると、円堂は悠那が持っているボールを手に取ってそれをジッと見つめる。そして、彼の脳内の中には自分がまだ中学生だった頃の姿。思い出す度に、自分の片方の腕の中には一つのサッカーボールがあった。

「俺も普段の練習が終わったら、よく一人で特訓続けてた。
もっと強くなりたい、もっとスゴい技を身に付けたい、ってな」
「そうなんです!!」

懐かしそうな表情を浮かべて円堂がちょっとした昔の話しをすれば、円堂と同じ想いを感じていた天馬は表情を明るくさせ声を上げながら同意してきた。
そんな天馬に円堂は思わず目を見開き、自分の言葉を遮られ続けた。悠那もまた、あまりの天馬の変わりように呆気に捕らわれた。そんな二人を知ってか知らずか、天馬は身を引いていく円堂へと語り出した。

「これから敵ももっと強くなるだろうし、“そよかぜステップ”の他にもディフェンス技があれば色んな場面で約に立つと思うんです!!」

そう興奮しながら熱く語る天馬は円堂に詰め寄りながら話す。円堂は天馬の気迫に戸惑っているのか三歩程度後退る。天馬は熱くなるとこうなってしまうのか、と関心しているも、やはり近付かれている側は話しをまともに出来ない挙げ句、自分の意見も言えない。円堂など、「近い、近いな…」と苦笑しながら後ずさっている。
そんな二人のやり取りを見ていた、悠那は呆気に捕らわれるものの、おかしさを感じたのか、小さく笑った。

「ああ…シュート技の“マッハウィンド”を身に付けたじゃないか、あれだけじゃ足りないのか?」
「……“マッハウィンド”のスピードをディフェンスに応用出来ないかなって思って…」

勢いが一時的に止まった天馬に、円堂は控え目に聞いてきた。マッハウィンドの威力は確かに強い。ただ、天馬が言いたいのはシュートだけでは、いずれ攻められた時に自分はどうする事も出来なくなってしまう。相手が強くなっていってるのならなおさらだ。
しかも、今回の帝国戦ではシードが四人も居た。願わくば、次の試合の時にはシードは出てきて欲しくないが、やはりそうはいかない。きっと、次もシードが何人か現れるに違いない。
なんだ、天馬も一緒だったんだ、と悠那が納得したと同時に円堂も理解したのか、身を引くのを止めて、天馬を見下げる。

「なるほど、更に上を目指すと言う訳だな?」
「はい!!」
「じゃあ、一緒に作ってみるか」

天馬の嬉しそうな表情を見た円堂はそう言って、持っていたボールを足の甲に落とした。それを見た天馬は「監督が?」と驚いたように目を見張った。
円堂を見上げれば、足の上で小さく揺れるボールに向けており、そのまま天馬の方へ目を向けた。

「俺が相手だ!ボールを奪ってみろ!」
「分かりましたっ」
「悠那、お前もだぞ」
『え…』

円堂のいきなりの振りで、悠那は間抜けな声を出してしまった。そんな悠那を見て、円堂はニカッと笑い、悠那のおデコを人差し指でつん、と押した。
あまりの事に、自分の顔は円堂が押した通りに後ろへと沿った。そして、押された部分を片手で抑えれば、円堂は片方の手を腰に当てる。

「お前も、必殺技作りたいって顔だな」
『嘘?!』
「ほら、やるぞ!!」

無意識に天馬を見ていた所為か、先程の誤魔化しも水の泡。
やっぱり、守兄さんの前では今のとさっきの誤魔化しは効かないようです。

…………
………

空もやがては暗くなり星も出てきた頃、街灯が付き始めた。天馬と円堂、悠那はボールを奪い合っていた。天馬と悠那がボールを円堂から奪おうとすれば、円堂は交わしてボールを蹴り上げて頭に乗せる。それと同時に、天馬の周りを風が吹いた気がした。
当の本人は円堂に突っ込んで転んでしまったが、悠那と円堂はちゃんと見えていた。

「今のは惜しかった」
「でもまだダメです。分かるんです、まだスピードが足りない」

確かに、あれではスピードも威力も足りない。これでは相手を吹き飛ばす事すら出来ないだろう。
そう言った天馬は転んだ拍子で顔に付いた泥を袖で拭いながら立ち上がった。

「課題点も見えて来た。悠那も後少しだ。今日はこのくらいにして明日また頑張ろう」
『「…はい」』

その円堂の言葉に、天馬と悠那は名残惜しそうに渋々返事をするが直ぐに姿勢を正しありがとうございましたと、二人は同時に頭を深く下げて円堂にお辞儀をした。

「なあ、家寄ってくか?」

その言葉に悠那は思わず、肩を小さく揺らして反応した。隣で頭を上げてキョトンと首を傾げる天馬に対し、悠那は頭を上げるのすら忘れて円堂の言葉をリピートしては顔を青くしていく。
この時間帯はどこの家族も、お腹を空かせている頃だ。もちろん悠那だって空いてない訳じゃない。でも、だからこそ早く帰って秋の作った暖かいご飯が食べたい。
どうか違いますように!と必死に願ったその時だった。

「晩飯食ってけよ」

ひぃっ!?
その言葉を聞いた瞬間、悠那は勢いよく頭を上げて急いで帰ろうとするが、いつの間に自分の目の前まで来ていたのか、円堂に腕をガシッと完璧に掴まれてしまい、身動きが出来なくなってしまった。おまけにいきなり頭を上げた所為で上がっていた血が一気に下がり、クラッと目眩がした。

「監督の家ですか!?良いんですか?!」

腕を掴まれ帰れない悠那を傍に、天馬は嬉しそうに目を輝かせていた。
あぁ、来いよ、とそう言って自身の携帯を取り出して電話をかける。悠那は悠那で顔をぶんぶんと横に振っており、家に行く事を拒む。
だが、そんな悠那の願いも虚しく、ブツッという音共に誰かが円堂の携帯に出た。

「あ、俺だ。今から客を連れてく。サッカー部の部員だ。晩飯二人分追加な。悠那も来るから」

その短い間で、一通り話しは終わったのか、円堂は電話の通話ボタンを切った。
そして、携帯をズボンに入れて悠那の腕を離し、キョトンとしている天馬へと目を向けた。

「よし、行くぞ」
「あの、今のって…」
「俺の奥さん」

円堂は自分を指してそうあっさりと言い放った。
あっさりとし過ぎて、天馬は状況が理解出来なかったのか、何とも言えない顔で黙っており、暫く円堂の顔を見上げる。

「ん?」
「監督、結婚してたんですかあっ!?」

思わぬ円堂の実はに、驚いた天馬の声は暗くなった空に響く程の大声で叫ばれた。
その事を元々知っていた悠那は叫ぶ事は無かったが、天馬の叫び声に耳を塞いでニヤニヤと天馬を見ながら笑った。
そして、諦めたように耳から手を離してトホホッと肩を落とした。

『(失礼だけど、お昼とか晩飯とか行きたくなかったんだけどね…)』

…………
………


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