扉の向こうには雷門から出て行った久遠監督と帝国の監督である鬼道がこちらを待っているように立っていた。
フィフスセクターの支配下は見せかけの姿。本当の姿はレジスタンスを経営する組織。その事実を知った瞬間、皆の表情は自然と緩くなっていく。

「よく来たな皆、お前達の活躍はずっと見ていた。松風、西園、谷宮。頑張ってるようだな」
「ちゅーか頑張りまくりっスよ!」

久遠の言葉に、浜野は悠那の頭を、車田は信助の頭を、天城は天馬の頭を撫でてきた。
先輩からのいきなりの行為に、一年三人組はどう反応して良いか分からずただ黙って先輩達に撫でられていた。

「お陰で俺達、大事な事を思い出しました」

三国は先輩に撫でられる三人を見て微笑ましくも真剣な顔で言った。
最初は、天馬達の行動はかなり無責任過ぎるくらいサッカー大好きな少年少女。試合だって指示関係なく動いて、何度かフィフスセクターの目に止まっていた。
いつこのサッカー部が消されても良かったのに、敢えて放って置かれている状態。だが、その無責任な行動のおかげで今はこうして行動が出来ていた。

「それより鬼道、ここは何だ?」
「この先に“レジスタンス”の本部がある」

エレベーターを降り、着いた場所は左右に広がる廊下。奥が見えない所を見ると、まだまだこの先は長いのだろう。目を鬼道達に向ければ、二人の後ろにはポツンと佇む扉。
それらを含んで円堂が鬼道に聞けば、扉に目を移してそう言った。

「とすると“レジスタンス”の中心人物は久遠監督?」
「いや、私ではない」

三国の問いに、久遠がそう答えたのと同時に鬼道と久遠の後ろにあった扉が自動で開いた。
最初に見えたのはどことなく会議室みたいな机と椅子。円を描いて誰かがそれぞれに用意された椅子に座っていた。やはりその部屋は廊下と同じ、暗く電気はあまり点いていなかった。
よくよく目を凝らしてみれば、自分達の真っ正面には見覚えのある人達が座っていた。

「響木さん!!」
「雷門理事長、火来校長も!!」

見知った顔を見て、円堂と春奈が嬉しそうに中へと小走りで入っていく。
悠那もまた、驚きの目をその人物達に向けて、間抜けにもOの口にしながら開けていた。
そう目の前にはかつて二人の恩師とも言える人達が座っていたのだ。今は違うが、元雷門中の理事長を務めていた雷門。同じく元雷門中の校長を務めていた火来。かつてフットボールフロンティアの時、円堂達の監督を務めていた響木。
その二人はこちらに気付くなり、微笑んできた。

「元気そうだね音無君、この時を待っていたよ」
「久し振りだな円堂」

雷門は春奈へ、響木は円堂へと声をかけてきた。
それを見て、春奈はお久しぶりです響木さんと、答えた。
あまりにも唐突過ぎて、現況に付いていけない雷門。暫く呆然としていたが、改めて考えてみるとあの人が響木正剛と神童を始め、皆緊張の面持ちをしていた。

「皆、どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか?」
「すまなかったな円堂。帝国から完全にフィフスセクターの排除が済むまでは、迂闊に動けなかったんだ」

下手に動けば感づかれ、この人達は完全にサッカー界から抹殺されてしまう。
そうなれば少年サッカー協会の革命は不可能となってしまうだろう。

「その革命って…」

円堂達が一番気になっていた疑問を円堂が聞けば、後ろで話を聞いていた鬼道が口を開き、机を囲んでいた椅子の一つの背もたれを掴みながら説明した。

「フィフスセクターの絶対権力者、イシドシュウジから少年サッカー協会の総帥の座。即ち、聖帝の座を奪い取る」
「聖帝の座を?」

剣城は鬼道の言葉に出てきた単語に思わず眉間に皺を寄せた。
鬼道や雷門達が言いたいのは、響木を聖帝にして以前のような自由なサッカーを、取り戻す事が出来ると考えていると予想しているのだろう。

「ホーリーロードの全国決勝大会では、試合毎に勝ち点を自分達の指示者に投票する事になっている。聖帝を選出する選挙なのだ。我々はイシドシュウジを落選させ、響木さんを新しい聖帝に据えようとしているのだよ」
「お前達は今度の決勝に勝ち上がり、全国大会に行かねばならん。最早、負ける事は許されないのだ」

負ける事が出来ない、その言葉を聞いた状態、神童は真剣な目を真っ直ぐに久遠へと目を向けた。

「もう俺達は、負ける事など考えていません」
「寧ろ心強いです。俺達だけが反逆の狼煙を上げてる訳じゃなかったんですからね」

神童に続き、三国も口角を上げながらハッキリとそう言った。車田は気合いを入れる為なのか、掌に拳を打ち付ける。
霧野もまた、凄い事になって来たな…と冷や汗を垂らしながら、小さく呟いた。
自分達の置かれた状態が、そんじょそこらの試合開場とかではない。試合でフィールドに立つ時よりもかなり緊迫とした状態だ。

「これもしかして、歴史が動く瞬間に立ち会ってんじゃねぇの?」
「立ち会ってる、思いっ切り!」

水鳥の言葉に茜も便乗してきてそう言えば、水鳥は満足げに頷いた。
確かにこのまま雷門が勝ち進んで行き、響木を聖帝にすれば自由なサッカーを取り戻す事が出来る。
負ける事は一切許してはいけないんだ。決して自分達だけで動いてる訳じゃない。こうして影ではあるが、自分達を支えてくれる人達が居る。

「(革命とか選挙とか、大人の人達が考えてるのは俺にはまだ良く分からない。
けど分かってる事は俺達が勝ち続けなくちゃいけないって事、それから俺達は皆サッカーが大好きだって事なんだ)」

彼等を見て、彼等のサッカーを愛する姿を見て、天馬は胸の前で拳を作った。

…………
………

帝国学園から戻ってきたその日の練習、皆はスゴいと言っていい程の気迫だった。いつもと同じような練習メニューの筈なのに、いつも以上に厳しく感じられた。
その皆のやる気を見て、何かを感じ取ったのか、ギャラリーにも雷門の生徒達が引き寄せられるように見ていた。

「皆、変わりましたね」
「変わった。ちゃんと戦う男の顔してる。心に強く決めた事がある奴ってのは良い顔になって来るもんだ!!」

雷門の生徒達が土手でざわめいている中、ベンチの方で彼等の練習を見ていたマネージャー達。彼女達もまた、帝国学園から戻ってどこか輝かしく見えた。
それを聞いた茜はカメラを手に、たまに吹く風が頬を撫でた瞬間、小さく微笑んだ。

「風を起こしてる」
「風、ですか?」
「雷門から吹く風」
「へぇ、カッコいい事言うじゃねぇか」

三人のマネージャーの会話にふと、春奈は目線を剣城とボールを取り合う天馬とその様子を何をやる訳でもなく見る悠那の姿が。
確かに、あの二人からはどこからか溢れ出そうな風を感じられる。ただ少しだけ違うと思うのは、二人の性別が違うからではない。
似てるようで似てない、そよ風と気まぐれな風。

「(風、か…確かにこれは革命と言う名の風…)」

彼等が起こし始めた風。

『天馬…』

帝国学園との試合で、新しい必殺技を習得していた天馬。
思えば、一年の中で自分だけ必殺シュートを持っていない。DFでおなじみの信助ですらブロックも兼ねたシュートを習得した。自分も必殺技を完成させる事が出来たが、あの時自分はシュートを決められる筈だった。いや、今までもそう出来た筈だ。
ノーマルシュートを打ってもただ止められるだけだろう。

『新しい必殺技かあ…』

でも昨日の試合で“真空カマイタチ”を習得したばっかりなのに、ちょっと欲張りかな。

バシッ!!

『い゙?!』
「お前もボサッとしてないで練習しろ」
『ら、蘭丸先輩…』

いきなり背中叩かないで下さいっ!と涙目になりながら言えば、何故か笑われた。酷いなあ、と拗ねるフリして視線を背ければ、土手の上で見覚えのある人の姿が見えた。

『(あの人達…)』

確か名前は、一乃先輩と青山先輩だっけ。
こちらを見下げる二人の先輩の目には遠くからでもなんとなく分かるような表情。
拓人先輩を探す時はお世話になったなあ。なんて思いながら見上げていればあの二人はグラウンドを見るのを止めて、校舎の中へと入ろうと歩き始めた。

「おい、悠那?」
『あ、はい!』

暫くその二人を見ていれば、後ろから霧野の呼ぶ声が聞こえ、急いで霧野の元に向かった。一瞬、あの二人がこちらを向いた気がするが、恐らく気のせいだろう。
そんな事を思いながら、悠那は革命の為、皆と同じように練習に励んだ。

…………
………


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