「やったあ!やったね!信助!ユナ!」
「うん!」
『…うんっ』
皆が無理だ無理だと言ってきた帝国学園。だが、そんな相手でも自分達は勝つ事を諦めずに戦った。タクティクスも完成し、剣城も正式な仲間になり、天馬も信助も悠那も必殺技を完成させた。極めつけには皆と一つになった。
色々な事が重なって嬉しさのあまり、興奮して天馬と信助は二人で大騒ぎしていた。その様子を優しく微笑みながら、見守る悠那。
そんな彼女に、ポケットに手を突っ込みながら近付いてきた。
「ユナ」
『…京介』
不意に名前を呼ばれた悠那が振り向けば、剣城は目を若干泳がせながら自分の方へと来ていた。
そして、何かを決したのか悠那を真っ直ぐに見つめてきた。そんな真剣そうな目をしてくる剣城を見た悠那はちゃんと答えねばと思ったのか、顔だけではなく体もちゃんと剣城の方へと向けた。
「あの時の言葉…」
『うん』
「俺の中で、かなり響いた…お前や松風のおかげで救われた…」
どうやら悠那が今まで伝えたかった事は優一を通してやっと伝わったらしい。
時間はかなり掛かってしまったが、何より剣城が戻って来た事が嬉しかった。
「ありがとう…」
『!』
剣城の思わぬ言葉に、悠那は驚きを隠せないでいた。人を嘲笑う事しか出来なかったあの剣城が、悠那にお礼を言ったのだ。
あまりの不意打ちに、悠那どころか周りに居た他の人達も目を見開かせていた。
「剣城がお礼言った!?」
「え、マジマジ?!」
「わあ!剣城!もう一回!」
「明日雨降りますね」
「何言ってんだ。槍が降ってくんだよ」
天馬のその一言で、剣城と悠那の周りに他の皆が集まって来た。ベンチに居た倉間も試合が終わった事によりこちらへ来ていた。
剣城は恥ずかしさのあまり、徐々に顔を真っ赤にしていく。せめて周りに人がいない所で言えば良かった、と後々後悔する剣城だったが、もう遅かった。
浜野はお礼を言った剣城を珍しい物でも見るかのようにテンションを上げ、信助はもう一度言ってと急かす。速水や倉間に至っては若干、失礼な事を言ってきた。
「黙ってろお前等は!!」
「っお、先輩に向かっていい度胸じゃねえか剣城」
先輩に口答えとはデカくなったな剣城、と倉間がそう言い始めれば、剣城は顔を真っ赤にさせながら、倉間は挑発するように剣城をおちょくる。
やがて、二人は喧嘩になりそうになり、天馬と信助が止めた。
何とか喧嘩はせずに済んだところで剣城は、周りの人達に冷やかせられながら改めて悠那の方へと近寄ってきた。
「…ん、」
『え…?』
剣城が視線を外しながら、ずっとポケットに突っ込んでいた手を出して、悠那の前へと出してきた。
小さく作られた拳を見て、悠那は疑問符を浮かばせていれば、剣城はその拳の表を見せて徐々に拳を開いた。
すると、剣城の手の平から顔を出したのは不格好な折り鶴。色も形も悪く、羽の部分も歪だった。
「…5歳の頃、」
『え?』
「本当は、紙飛行機じゃなくて…折り鶴を渡したかったんだ」
『な、にを…
…!』
いきなり過去の事を話題に出してきた剣城。そんな彼の話しに悠那は付いて行けず、頭が混乱しながら剣城の手の平にある折り鶴と剣城の顔を順番に見比べる。
何を言っているのか分からない。だが、それは次に剣城の顔を見た瞬間、言葉に詰まった。剣城の顔を見上げれば、先程よりも真剣なだけど、どこか悲しそうな目をしていたのだ。
だが、かなり動揺したのは剣城の口から出た“紙飛行機”。
『どうして、紙飛行機…まさか、』
覚えてたの…?と、戸惑いながら剣城を見上げてみれば、剣城は真剣な目をしながら小さく頷いた。
それを見た悠那はどこか嬉しいような、でもか罪悪感のようなものを感じていた。
「…いや、思い出したの方が正しい」
『…そっか』
どうやって思い出したかは聞かない。
思い出した、という事は今までは覚えていなかったという事になる。今、その事を聞いてしまって自分が平然としていられるか不安だ。
小さく呟いた後、悠那はそっと剣城の持つ折り鶴へと目をやった。雰囲気からして折り鶴を見れば、なんとなく自分が無くしてしまった紙飛行機の感覚に似ていた。
「…だから、今度はちゃんと約束させてくれ」
『え…』
「遠回りしたけど、俺も…
俺も、お前と…ユナとサッカーをやりたい」
今度は紙飛行機ではなく、折り鶴で約束させてくれ。と、剣城は悠那から視線を外しながら照れたように自分の手元に折り鶴を渡した。
そんな彼を見た後、悠那は視線を自分の手元にきた折り鶴へと目をやった。
手触りからも、やはりどこかあの紙飛行機と似ていた。いや、もしかしたら…これは…
『これ…もしかして、紙飛行機…?』
「ち、小さい頃は器用じゃなかったから紙飛行機しか作れなかったんだよ…」
無くしたと思われたあの紙飛行機。だが、今は折り鶴の姿になってまで自分の元へと姿を現した。
ずっと、大切に持っていた紙飛行機。今は折り鶴となってしまったが、やはり紙飛行機の面影もあった。
渡された折り鶴、剣城との約束。
その光景は、いつからか見た幼い頃の時と同じ光景に見えた。悠那は小さく折り鶴を握り締めた。
「今度は無くすなよ」
『今度は無くさないよ』
だって、約束をしたから。
『京介…』
「何だよ」
『抱き付いていい?』
「はあ?!」
「「「Σ!?」」」
だが、悠那は聞いたにも関わらず剣城の返答を聞かずにバッ!と抱き付いた。不意に腰に巻かれた細く柔らかい腕。悠那の細い腕。
状況に理解したのはそんなに時間は掛からなかった。悠那が剣城に抱き付いて来たのだ。
その様子を一同は唖然として見ていた。
「お、おい!」
『…何度だって助けてあげるんだから、もう少し頼ってよね』
悠那はぶっきらぼうにそう言えば、直ぐに剣城から体を離した。すると、体を離した悠那は一度皆に背中を向けてマネージャー達が居るベンチの方へと向かって行こうとする。
少し走った後、悠那はこちらに振り返ってきて、ニカッと笑みを見せてきた。
『ありがとう!』
折り鶴を持つ手を高く上げて、そのままベンチで盛り上がっている葵達の方まで走って行った。
残された雷門イレブン。唖然とする剣城に、背後に立つ先輩達がニヤニヤと口角を上げながら冷やかすような目を向ける。
「……」
「行っちゃったね〜」
「行っちゃいましたね」
浜野と速水が横目で剣城を覗いてみれば、それが聞こえていたのか剣城は徐々に顔を赤くしていった。
そして、それを隠すように浜野と速水に向かって「うるせえ!!」と一言言った。
「つ、剣城!!」
「んだよ!!」
浜野と速水の冷やかしに、剣城は顔を赤くしながら天馬へとバッ!と振り返った。天馬の方へとを振り返れば、天馬は剣城の方を真剣な目をしながら見ていた。
そんな天馬を見た剣城は睨み付けるのを止めて、天馬を見下げた。
「約束とか、よく分かんないけど…
ユナはずっと剣城の事信じてたんだよ」
「…!」
言われなくとも、どこか自分の中で感じていたのかもしれない。いや、感じていた。自分を救う為にオウンゴールをした幼馴染み。自分の本当にやるべき事を教えてくれた怒り。
先程、誰よりも先に自分の事を認めてくれた彼女。
そして、あの紙飛行機の事とあの約束。
「…ホント、バカじゃねえの…アイツ」
自分勝手に動いて、自分勝手に生きてきた俺なのに、守る?約束?紙飛行機?
単純でバカなのは、昔から変わっていなかったらしい。
ベンチに居る葵とはしゃぐ悠那を見た剣城は苦笑いを浮かばすも、その表情はどこか嬉しそうな懐かしむような顔をしていた。
何年も月日が経ったというのに、悠那は悠那で居てくれた。
それが、嬉しかったのかもしれない。
そんな剣城の表情を横目で見た天馬は胸が痛くなるも、それに気付かないフリをして自分もベンチへと目を向けた。
「でも、それが剣城の知るユナなんだよね」
「…ああ」
あの空野葵っていうマネージャーが、俺を怒鳴るのもなんとなく、分かるような気がした。
あんなバカだからこそ、アイツは他人から愛されていくんだ。それは嬉しくもあり、寂しくも感じられる。
まあ何はともあれ、雷門は決勝戦へとコマを進めた。
…………
………
「おー、何やかんやで雷門勝ったわ」
病室で自分のベッドに座りながら、買ってきたパックジュースを飲みながらテレビを見る少年。中身のジュースをすっかり飲み干したパックを片手で潰し、近くにあったゴミ箱へと投げ捨てた。
それだけの動作というのに、彼の左耳に付いていた金色に輝くピアスはキラキラと光り、陽の光を反射していた。まるで、目の前から来る光を受け流すかのように反射したピアスは光を壁へと移す。
それを見た少年は、笑みを戻し、カーテンを揺らす窓へと視線を移した。
そうか、今日は晴天だったな。
ふと見上げた空は、いつも以上にキラキラしているように見えた。
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