試合は再び再開された。
ボールは先程悠那が剣城にボールを当てて、フィールド外に出した為、帝国側からとなっていた。帝国からのスローイン、小さく弧を描いたボールは佐々鬼へと繋がった。パスを胸で受け取った佐々鬼はそのまま上がっていった。

「おぉぉーッ!!」
「っ!?くそっ!」
「剣城!」
『やった…!』

だがそれは、背後から迫っていた剣城が佐々鬼のボールをカットした。直ぐに「神童!」とパスを出した。先程よりパスも、彼の威勢もどこか清々しく見える。
そんな姿を見る以上、どうやら剣城は自分が今まで敵視していた二人の言葉により吹っ切れたようだ。

「行くぞ!皆!」
「(兄さんの涙を、これ以上裏切る訳には行かないんだ…っ)」

神童の指示により、速水、霧野、天城が力強く頷く。そして、それに答えようと剣城も上がるのを止めて、振り返ってくる。彼の脳裏にあるのは、タクティクスの完成と小さい頃、陽が沈むまで近くの公園でサッカーをしていた自分の幼い姿とまだ足が健全だった優一の姿。
ボールを受け取れなかった京介を見て小さく微笑む優一の優しい笑顔。

「(もし俺が兄さんに償える方法があるなら…)」

兄さんの為に、ではなく

「俺と兄さんのサッカーをする事だ!!」

俺と兄さんのサッカーを!!

自分は今何をしなくてはならないのか。優一の足の事を悔やむのではなく、償わなければならない。そう言って、剣城は皆とは逆方向へと再び走り出した。
神童から速水へ、速水から霧野へ、霧野から天城へ続く流れるボール。その間に剣城が走っていき、天城からパスされる所で走るのを止めた。
そして、稲妻が走るボールへと勢いよく自分の足をぶつけだした。ぶつけると同時に、溜まっていたエネルギーが爆発するように弾けだした。だが、まだ剣城の足元にある。

「“アルティメットサンダー”!!

食らえーっ!!」

剣城が蹴ったボールは炎と雷を纏いながら敵陣地に落ちていった。地面にバウンドもせずその場で高速回転をし出して、そこからは衝撃波が発生した。その衝撃波で帝国陣は一気に吹き飛ばされていった。
つまり、タクティクスが完成されたのだ。

「これが“アルティメットサンダー”!!」
「スゴい!!」
「剣城…!」

天馬や信助、神童を始め、他の先輩達も成功したのを見て笑顔になっていく。遂に帝国の鉄壁のディフェンスを崩した。天馬はすぐさま威力を失ったボールを拾い、少し離れた所に蹴る。
それから猛スピードでボールの所まで走る。そして、もう一回離れた所に軽く蹴って近付いてシュートを撃った。

「“マッハウィンド”!!

ったぁぁああ!!」

天馬の新しい必殺技。
竜巻のように吹き荒れる風がボールを包み込み、そのままゴールへと一直線に向かっていく。

「はぁぁああっ!!“パワースパイク”!!」

天馬の新しい必殺技は雅野の必殺技に負けずに、そのまま破り、ゴールネットを揺らした。それと同時に、審判がホイッスルを鳴らして得点が入った事を告げた。
天馬の公式戦で初めてのゴール。雷門はここで一点を返したのだった。

「スゴいよ天馬!!」
「やったな!!」

信助と神童が天馬を褒めた。すると、天馬は剣城と微笑み合った。小さく微笑んだ剣城を見た悠那は、もう迷いが無い事を察して悠那もまた、小さく微笑んだ。

点を決めた雷門。それからの雷門は止まらなかった。相手からボールを奪った神童は左右の足で一回ずつドリブルをしていく。

「“プレストターン”!!」

左の方に一瞬消えたと思いきや、相手の右の真横に移動してそのまま風の如く抜き去っていった。

「ほっ“なみのりピエロ”!あーらよっと!!」

神童からパスを受け取った浜野。上がれば目の前にボールを奪おうとする帝国。それを見た浜野はボールを強く踏んだ。ボールが潰れたと同時に中心から波が発生した。浜野はボールの上に乗り、器用に敵を交わしていった。

「(感じる!さっきの一点は、ただの一点じゃない!!)」

皆が一丸となって取った一点なんだ!!

「勝つぞ!皆!!」
「「「おぅ!!」」」

「(そうだ、お前達のサッカーをするんだ!!)」

神童のその一言で皆が意気投合したように答えた。自然と、今まで感じていたプレッシャーやら緊張が解けたように無くなり、楽しく感じるようになっていた。
ベンチへと戻ってしまった倉間も、無意識にその試合を見る事により楽しそうに感じているみたいだ。この試合を倉間ともやってみたいと思う程、楽しかった。

「こいつ等、さっきまでと動きが違う!?」
「俺が止める!!」

御門はそう言い、浜野からスライディングでボールを奪って自身の化身、“黒き翼レイブン”を出して来た。

「はぁぁああっ!!“奏者マエストロ”!!」

神童もそれに対抗するように、化身を出した。再び化身と化身の対決。ボールを挟んで競り合う。さっきは負けてしまったが、今度は神童が勝った。

「やった、キャプテン!!」
「剣城!」

不完全だと思われた化身だったが、今度は完璧に使いこなしていた。背後から御門が来ている事に気付いた神童は勢いを止めずに剣城へとパスを出した。
ボールを受け取った剣城。そのままドリブルをしながら上がってゴールを決めようとするが、龍崎が止めに来た。

「お前には決めさせん!」
「フンッ…ユナ!」

剣城は龍崎を見て、フンッと笑い、後ろに自分と上がっていた悠那に踵を使い、ボールを渡した。後ろを見ずに悠那へ渡し、悠那もまた突然の事にも関わらずそのボールをこぼさずに受け取った。

「ボールを寄越せぇ!!」

そこへすかさず逸見がマークに付こうと目の前に来た。

『いいよ?』

ただし、

『一点入れたら、だけど』
「なっ?!」

悠那はそのまま大きくボールを蹴り上げた。逸見は呆気を取られていたが、飛鳥寺がボールを取る為に高く飛んだ。
悠那はそれでもまだニコッと笑っていた。

――飛ぶんだ!誰よりも高く!!

「“ぶっとびジャンプ”!!うぉぉおお!!」
「ぐっ!!」

悠那が狙っていたのはこれだった。
飛鳥寺より高く跳んだ信助は“ぶっとびジャンプ”で飛鳥寺を弾き飛ばし、挙げ句の果てに雅野の“パワースパイク”も打ち破ってしまった。

「ゴォォ―――ルッ!!」

「やった…決めたんだ…」

ピーッと長いホイッスルが鳴り響いた。ゴールを決めた本人は未だに信じられないのか、ボーっとしていた。元々、ディフェンス技として日々頑張っていたが、ここで信助の判断により、あの必殺技はブロックが出来るシュート技となっていた。
信助の初ゴール。それが雷門にとって貴重な同点となった。

「やったなっ!信助!」
『やったやった!』
「とうとう出来たか!!」
「はい!!」

天馬に飛びつかれ、悠那にはしゃがれた事に、信助はようやく自分がゴールを決めた事に改めて感じた。三年生や天馬、悠那達にとってはかなり喜ぶべきの事。
車田の言葉に、信助は嬉しそうに返事をした。

「(これ以上は失点出来ない…シード全員で守備だ…)」

点数は同点。はしゃいでいる雷門を見ながら御門はこれ以上帝国に点が入らないよう逸見、龍崎、飛鳥寺に振り返り頷き合った。
もうすぐ試合が始まる。四人は急いでディフェンスを下げて守備に専念出来るようにした。

「皆行くぞ!!勝って!!」

―俺達の!
―サッカーを!
―守るド!!

「「「「「絶対に!!」」」」」
『「勝つんだ!!」』

神童、浜野、霧野、天城、三国、車田、速水、倉間、信助、天馬、悠那…そして仲間になった剣城。
この場で、皆の気持ちが一つになった。

「速水!!」
「霧野君!!」
「天城さん!!」
「行くド!!」
「“アルティメットサンダー”!!」

再び、“アルティメットサンダー”を繰り出す。
四人分のエネルギーが溜まったボール。剣城は次も蹴り返す事に成功し、エネルギーが膨張したボールは敵陣のど真ん中へと勢いよく落ちていく。

「ぐっ…さっきより威力が上がっている…!!」

先程蹴り返した威力より、今の威力の方が高い。
炎と稲妻の渦を巻ながら回転して帝国のディフェンスを弾き飛ばすボール。先程より帝国のディフェンスが多かった所為か、それとも皆の想いが強かった所為か、ボールが回転する度に炎は燃え上がり、炎がシード四人を残して弾き飛ばしていく。

「チームが一つになったから、パワーアップしたんだ!」

何てベタな展開なんだと思う人もいると思うが、実際こんな状況になると、嬉しさが溢れてくる。これが、チームが一つになったと証明してくれているような気がした。

「シードが、フィフスセクターが負ける訳には行かないっ!…うわぁぁああ!!」

必死に耐えようとするシードの四人。だが、それはボールがダイナマイトにでもなったようにその場で大爆発をした所為で、その場に必死に耐えて残っていた四人もまた、吹き飛ばされた。
帝国のディフェンスの陣は崩れた。

『っ!』

四人を弾き飛ばしたと同時にボールは力を失って焦げ目を残しながら転がる。
だが、それを見逃さなかった悠那が拾い、ドリブルをしていく。シュート技は持っていないが、上がる事は十分に出来る。だが、それを阻止すると言わんばかりに逸見が現れた。

「今度は奪わせて貰うぜ」
『どうでしょうね』

逸見が不適に笑いながら立ちふさがる。それを見た悠那は上がる足を止めて、これから悪戯をするかのように口角を上げた。
すると次には太股までボールを上げて、その上でリフティングするように操る。

「くっそ!」
『おっと』

明らかにバカにされているように見えた逸見は苛ついた来たのか、ファウルを覚悟して悠那からボールを無理矢理ボールを奪おうとしてくる。
ボールは確かに逸見の足に触れ、悠那からボールを離す事に成功。だが、それでも悠那は緊張感の無い声を出して、ボールの行く末を見る。
ボールが自分と逸見の間へと落ちた時だった。

『残念、ボールは…』
「!?」

触れたボールはいつの間にか消えており、悠那は視線を別の方向へと向けていた。

『行け、京介!!』
「…あぁ!」
「いつまに…!?」
「ここまで上がって来ていただと…!?」

悠那がボールを剣城へと蹴り、それを受け取った剣城。唖然とする逸見と飛鳥寺を余所に、口角を上げる悠那と剣城。
十分な距離まで上がってきた剣城は踵でボールを蹴り上げると、オーバーヘッドでボールを叩き落とすようにシュートを打った。

「“デスドロップ”!!」

デスソードみたく藍色のエネルギーを纏い、ゴールへと向かっていく。雅野は自分の必殺技で対抗したが、抑えつける事さえも出来ずにゴールを許した。
そこで、試合終了のホイッスルが鳴り響き、得点は3ー2と雷門は逆転勝利を収めた。

雷門関東地区予選決勝進出。
皆は笑顔で勝利に喜んでいた。

「(兄さん…)」

剣城も最初フィールドに入ってきた時よりも自然とすっきりした表情だった。
小さくガッツポーズをしながら、雷門の方へと追加点が入ったのを見ている。そんな剣城を見た天馬が名前を呼び、近寄っていく。
そして、

――パンッ

天馬と剣城がハイタッチをした事により、乾いた音が観客席から聞こえる騒がしいくらいの歓声より、強く短く自分達の耳に届いた。


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