『うわっ、おっきー…』

悠那にとっては初めて見る場所、サッカー棟。ここはきっとサッカー部の為に出来た場所だと思うが、あまりの大きさに開いた口が塞がらない。そして中に入るなり大きく広いサッカーグラウンド。外にあったグラウンドがセカンドチームが使う場所だったらここはファーストである神童達が使っているに違いない。
もう少しゆっくりと見たかったが、これから試合という事ど観客席に移動した悠那。

「それでは、練習試合を始める。雷門イレブン対…ええっとお…?」

雷門サッカー部と不良君率いるチームがコートに並んだ時、白い髪を生やした古株がフィールドの中心に入り、審判の役割をしようとする。が、相手のチーム名が分からないのか、言葉に詰まる古株。それどころか彼等の中学校すら分からなかった。このままでは試合が始まらない。と、古株がどう言うか迷った時、自分達の後ろから誰かが口を開いた。

「ひとまず、“黒の騎士団”とでも呼んで貰おうか」
「…あの?」

口を開いたのは彼等のベンチ側に居る、恐らく彼等の監督であろう人だった。今までグラウンドのどこにも居なかったので影からずっと見ていたのだろう。古株の誰ですかとでも言う顔にその男は黒木と名乗り、チームの監督と言った。黒木と言う人の言葉に納得した古株は改めて自分の両側で向かい合っている彼等の中心で片手を上げた。

「これより、雷門サッカー部対黒の騎士団の試合を始める。両者とも、フェアなプレイを心掛けるように!」
「はいっ」
「勿論だ」

その言葉と共にそれぞれがそれぞれ自分のポジションである場所に走って向かって行く。そんな中、天馬は不安げな表情でフィールドを見た。一方悠那は面白そうじゃんと、ボールを自分の足元の近くに置き、顎を腕に乗せながらこれから始まるであろう試合を見下げた。

「南沢さん、行きます」
「ああ、お手並み拝見と行くか」

試合の始まりを告げたホイッスルに神童は南沢へパスを出し、試合が始まった。
二人の的確なパス回しでどんどん相手を抜き去り、相手陣地に上がって行く。牛島のスライディングを神童は上手く交わし、南沢へとセンタリングを出す。大門のマークが付く前に南沢はセンタリングを直線シュートを放った。ボールはキーパーの手の届きそうに無い場所に向かって行った。

「やった!」

誰もが入ると思った矢先、キーパーの鉄雄田はあっさりとそのシュートを片手で受け止めた。そう受け止めたのだ。
普通のキーパーでも今のは片手ではパンチングでシュートを決めさせなかったが、取った。いくらノーマルシュートでも威力は必殺技に近い程なのに顔色一つ変えないで受け止めた。そして良いドヤ顔だ←

「何っ!?」
「ふん、当然だ」

止められて当たり前、と言わんばかりの顔。不良君も不適に笑った。
受け止めたそのボールを鉄雄田は不良君に向かってダイレクトパスをし、不良君はまた天城を越えて、伊勢屋へと。伊勢屋は稲葉へと次々とダイレクトパスを繋いで行く。その姿はまるで10年前にも見た事のあるようなタクティクス。だが、あれは地面にボールを付けないでのパス回し。若干似てはいるが、これはタクティクスではない。

すると、いつの間にか先程までこちらが有利だったのが今ではDFも越されてしまい、黒の騎士団が有利となっていた。
勢いの止まらない黒の騎士団。ボールは貴崎に渡り、霧野を抜いてそのままゴールにノーマルシュート。ここまでは先程の南沢と同じパターンだったが、キーパーの三国はそのシュートに反応しきれず、ゴールを許してしまった。
点は呆気なく黒の騎士団の先制点。

『へえ…』

皆が驚く中、不良君はまだ不適な笑みを浮かべていた。キーパーの三国は霧野に油断したと言うが、一点は一点だ。取り返しは付かない。今は練習試合とは言え、サッカー部を賭けた試合なのだ。油断をしている暇は無い。それとも一点なんて直ぐに取れると思っているのだろうか。
悠那はそう思いながら神童に何かを言っている不良君に目線を向けた。どこかで見た事のあるような顔立ち。


――ユナ!


『え…?』

不意に自分の頭の中に自分に笑い掛ける幼い子供が現れた。思えばその子供は今の彼と逆とは言えどこか似ている。
髪型は昔より若干尖っており、目つきも鋭くなっているが、そこからはどこか昔らしさを持つ何かがあった。
いや、そんな筈がない…そんな事を思いながら再び試合に目を向けた。

ボールは相手が決めた場合自分達からの攻撃となる。点を取り返す為には絶対ボールを渡してはいけないが、神童がボールを南沢に渡そうとした時、不良君は一瞬にしてボールを奪った。一同が驚いている中、不良君はそのままスピードを上げて一気にマークに付こうとした人達を吹き飛ばした。

「止めろお!!」
「行かせないド!!」

天城が剣城に付こうとするが、やはりこれも一瞬で抜き去った不良君。もう自分の目の前にはDF陣は居ない。監督の黒木に不良君は目をやり、黒木は何かを伝えた。
それを見た不良君はニヤリと口角を上げ、シュート体制に入った。
そこで天馬は何が来るか予想したのか、かなり焦っていた。

「まさかあの時の!?」

『あの時の…』

と、言われて思い出すのは天馬が変なオーラで受け止めた“あれ”。
悠那も思わず息を呑んだ。すると不良君はボールを足の上に乗せ、藍色のオーラを纏ったボールに一発殴るように放った。

「“デスソード”!!」
「やらせるか!!はああああ!!“バーニングキャッチ”!!」

あの時の必殺技が再び放たれ、一直線にゴールまで向かう。必殺技なら必殺技と、三国は拳に炎を宿し、空中を回りながら近付いて来たボールを止めようと地面までボールを押し潰そうとする。回転が収まらないボールは摩擦を起こしてグラウンドに生える草を撒き散らしていく。それでも収まらない回転。必殺技で止めようとするも、回転が収まらなかったボールは三国を跳ね飛ばし、ゴールへと入っていった。

結局油断したとは言うが、あっても無くても変わらなかったのだ。

「三国!」

車田が三国を心配するように焦った様子で走り寄る中、不良君は相変わらず冷徹な笑みを止めずに鼻で笑った。
一同もかなり焦った様子で三国が止めきれなかったボールを呆然としながら見ていた。


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