いきなり過ぎる神童達の登場に呆然とする天馬。だが、逆に不良君は何かを企むような笑みでその人達を見上げていた。
持っているボールに自然と力を入れる悠那もまた、神童達をただただ見る出来なかった。

「…神聖なグラウンドでお前達は何をしているんだ!!」

「“サッカー”、見て分かんねえの?」

お前達と言う事は天馬も入っているのだろう。神童の問いに天馬はどう答えたら良いか分からずにまだ呆然と見ている。
そんな天馬とは逆に不良君は済ました顔かつあくまで相手が先輩にも関わらずタメ口で答えた。神童の直ぐ隣に居た人から小さく悔しそうな声を出していた。確かに自分より年下であろう人物にここまでバカにされたのだから仕方ない。

「…礼儀を知らない一年が。セカンドチームを倒したからって良い気になるな!」

どうやらあのベンチで座っていたのはサッカー部のセカンドチームだったらしい。神童はボロボロのセカンドチームの人を庇ってか知らないが、今の発言は少しだけ失礼だと思う。セカンドチームの人達だって一応サッカー部員の人達には変わりない。もう少しオブラートに包んで言えないのだろうか?と悠那はどこかズレた事を思いながらも小さく溜め息を吐いた。と、溜め息を吐いた瞬間、神童達は土手からグラウンドまで階段を使って降りて行った。途中あのツインの人と神童と目が合ったのはきっと気のせいだろう。

「倒した?ちょっと遊んでやっただけさ」

彼からしたら今までのは遊びかもしれないが、悠那や他の人からしたらボロボロのセカンドチームの人達は倒されたとしか言いようがない。
セカンドチームでも力はかなりあるかもしれないが、これだけボロボロにされれば改めて不良君の力を見せ付けられている気分だ。
あちらがサッカー部で二番目に強いチームだとしたらこちらは一番強いと言うべきか。あまりその光景に怯んでいない。
神童は恐らく監督であろう人に話しかけ、何やら話しを始める。残念ながらこちらからはあまり聞こえない。

『(そういえば、あの子…)』

“あの子”という表現はあまり彼には似合わない不良君に目線を移す悠那。少年は相変わらず涼しい顔をしており、半分興味無さそうに神童達の会話を横目で見ていた。目が合う事は絶対無いが、少しだけこちらに向いて欲しいと思った。
別に一瞬で好きになったとかそうではない。見覚えがあるのだ。どこかで見た事があるような。まあ目が合ったら合ったでこちらから目を反らしてしまうだろうから意味が無いが。悠那がそんな矛盾した事を思っていれば、不意に自分の耳に聞き覚えの無い単語が聞こえてきた。

“フィフスセクター”

『…?』

その単語の意味は分からないが、あまり良い予感がしない。これが世間で言う女の勘と言うものか。嫌な予感ばかりして気が気でならない。
不意にボールを持つ手に再び力が加えられた。ただあの不良君に関わっている事は分かる。

『やっぱりどっかで見た事があるよーな…』


気のせいだろうか、あの不良君からは懐かしい感じがしてきた。
本当に気のせいかもしれないが、自分の頭に映える記憶が何かを自分に呼び掛けてくる。ハッキリしない自分の記憶に段々と苛立ちを覚えてくるが、この苛々を自分が持つボールで頭をガンガンッとぶつけた。傍に居た人達がそんな自分を見て何だ何だと珍しいものを見るかのように見てきた。さっきまでグラウンドを見てた癖にこういう時に限って自分を見るんだ。とまあ、話しがズレたが悠那は頭にボールをぶつけるのを止めて、若干痛さの所為でクラクラする頭の中、再び記憶の中を探るがやはり見当たらない。

「何しに来た」
「雷門サッカー部は指示により一新される。お前等は全員お払い箱と決まった」

監督らしき人の声で我に返った悠那。直ぐにそちらに目を向けて、なるべく耳を澄ませて話しを聞けば不良君からの報告。その報告に信じられないと言わんばかりに思わず声を上げた神童。話しがまるで噛み合っていない様子に眉を潜める。
そして不良君の言った後半のお払い箱。神童達の実力は分からないが、何故か気にくわない。
すると、自分がボーっとしてる間にも、彼は自分の仲間であろう人達を呼んだのか彼の後ろには黒に大きな黄色い雷マークが入ったユニフォームを着た人達が居た。

『何、あの人達…』

「これが新たな、雷門イレブン。お前達の代わりのな」
「嘘…」

天馬も天馬で状況が分かっていないながらも理解出来た。要するに自分が入ろうとしているサッカー部はこの少年の言葉により潰され、サッカーが出来なくなってしまう事。やっと憧れていた学校に入学する事が出来て大好きなサッカーをやろうとしていたのに、こいつ等に潰されるなんて嫌だ。勿論悠那だってそうだ。自分の従姉が通っていた場所。世界にまで輝いた場所がこの訳の分からない奴等に潰されるなんてもっての他。

「俺達の代わりだと?真の雷門イレブンは俺達だ!!」
「ああ、待ってたぜ。さあ、本番を始めようか」

本番と言う事は今までのは全て本気の勝負じゃなかったと見える。そう考えると不良君が一人でこのセカンドチームを潰したのがどれほどの力を持っているかが、改めて分かる。きっと不良君が率いるチームもかなり強い事も分かる。そんな彼等と神童達のチームは勝てるのだろうか、と思っていたが神童はその申し込みを断った。

不当に暴れていた相手などと勝負する訳が無い。そう言いはしたが、そんな言葉で彼等が「はい、そうですか」なんて言う連中でも無さそうだ。すると、不良君はボールを足で軽く蹴り上げ、片手で鷲掴みした。

「どうやら、自分達の置かれた状態を理解していないようだな」

何をする気なのだろうか…少年はどこかへと向かってボールに渾身の蹴りを入れた。不良君が蹴ったボールは天馬の顔の横を通り過ぎ、旧雷門サッカー部のドアを破壊し、木製で作られていたサッカー部と書かれた看板を半分に割った。何が当たったかはここからじゃあまり見えない。
見えないけど分かる。分かるから、今自分の顔を怒りで眉間に皺が寄っているのだろう。
そしてよくここからあそこまでボールの勢いが落ちなく撃てたものだ、という驚愕。それは天馬達も同じようで、唖然としていた。
そんな彼等を興味が無いように神童へと向かい、神童の肩に手を置いた。

「くくくっ、良く聞け。これは提案じゃない。

命令だ」
「…貴様っ」

肩に手を置かれた神童は不愉快そうに顔を歪め、少年は睨むが少年の言葉にもっと悔しそうに眉間に皺を寄せた。
少年は肩から手を離し、冷徹な笑みをしながら神童の前を通り過ぎた。
じゃあ始めますか、キャプテン。
その言葉にどれだけの人が納得をせずに悔しそうにしていたか。そんな事、不良君にしてはどうでも良かった。歩き出した不良君の後を仕方なく神童達も歩き出した。

『私も行こっかな…』

勿論試合の結末や天馬の事も気になるが、一番はあの少年の存在。絶対自分はあの不良君を知っている筈なのに全く覚えがない。
まあ、理由は何であれ行ってみないと状況は分からないままだ。
悠那は移動し始めた神童達の後を追って行った。

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