「(帝国勝利は決まったも同然。今更出て来た所でお前の仕事は無い)」

まだ彼が逆らう為に出て来た事を知らない逸見は余裕の表情を剣城に見せていた。後にその考えが誤っている事に気付くとも知らずに、逸見は自分達の目の前に現れた剣城を見ていた。きっと、彼の脳裏には帝国と剣城がタッグを組んで雷門を潰す光景を見ているのだろう。

「きっと、試合の流れを変えてくれる。剣城なら…!だよねっ、ユナ」

純粋すぎる程剣城を信じている天馬は近くにいた悠那に振った。悠那はそんな天馬に気付いたのか、ニコッと笑った。

『――私達の仲間だからねっ』

そう笑って見せるものの、まだ彼の中にある迷いには気付かないままだった。悠那は彼から一瞬匂った香りを思い出し、少しだけ不安そうに剣城の背中を見た。
だがそんな事を気にする事も出来ずに、激闘の後半戦の開幕を告げるホイッスルが会場に鳴り響きだした。
ボールは帝国からのキックオフ。開始早々剣城は逸見からボールを奪った。そんな彼の行動を見て驚く逸見や御門をよそに、剣城はそのまま駆け上がって行く。

「これではっきりした!剣城は完全にフィフスセクターを裏切った!」
「愚かな奴よ」
「だが、アイツが雷門に付いた所で結果は変わらん!

(勝利するのは我々帝国!フィフスセクターだ…!)」

途中から入ってきて、雷門に向けたあの言葉を若干疑っていた二人だったが、今の剣城の行動を見てフィフスセクターを裏切ったと確信した。だが、それでも余裕な表情が出来るのは帝国が勝利出来ると確信しているからだろう。
そんな彼等の思考を知ってか知らずか神童は剣城を信じて上がって行った。そして、十分な距離になった時、神童は自分の前を走る剣城にタクティクスのやり方は分かっているかどうかを確かめた。
タクティクスの説明の時には居なかった為、不安な部分があったが、剣城からはあぁ!!という、力強い声が聞こえてきた。そして、剣城は力強く返事をした後、踵でボールをバックパスを神童に向かってした。

「行くぞ!!」

神童のかけ声で“アルティメットサンダー”の体制に入った。剣城が逆走していく中、神童が速水にパスし速水は霧野、霧野は天城へとエネルギーを溜めさせながらパスをしていった。
バックパスが繋がっていくと同時にボールには四人分のエネルギーが溜まっていた。そして、いよいよ剣城が蹴る番。
走るのを止めて、その溜まったボールと向き合った。

「“アルティメットサンダー”!!」

勢いよくボールに足をぶつけた時だった。
不意に剣城の脳裏にはリハビリを一生懸命している優一が浮かんで来る。自分の所為で足をダメにしてしまった兄。リハビリをして転びそうになってしまった時は本当に心臓に悪かった。

「兄さんの為にも…

ッ!決める!!」

脳裏に出てきた優一を思いながら、剣城はエネルギーの籠もったボールを自分の足へ必死に力を入れて蹴り返した。あの倉間や神童さえも蹴り返せなかったエネルギーが溜まったボールを、剣城が返した。流石は元シードと言ったべきか、あの時力強く神童に返事を返しただけはあった。

「やった!」
「蹴りやがった…!」
「このキック力ならいける…!」
『…?』

何だろ、この違和感。蹴り返せて嬉しい筈なのに、スゴいと思う筈なのに。天馬、倉間、神童がそれぞれに驚きと喜びを口にした時、悠那は今のを見て何故か違和感を感じていた。どこか、と聞かれたら分からないが、自分のイメージしていたタクティクスとは違うのだ。
そんな事を思いながら見ていれば、ボールはそのまま帝国のディフェンスのど真ん中に落ちた。エネルギーの籠もったボールはその勢いで相手を弾き飛ばす。

…筈だった。

ボールは確かにエネルギーを纏っているが勢いを失しており、次には力無くボンッと跳ねるだけで帝国の人達を誰一人跳ね返していなかった。

「っ!?」
「え!?」
『…なんで、』

タイミングも見た所大丈夫だったし、剣城が手を抜いているとも思えなかった。
なのに、
アルティメットサンダーはまたもや不発―…しかも倉間や神童の時とは違った失敗をしている。それが何故なのか、それさえも考える暇もなく零れたボールは龍崎の足元に行った。
これでは本当にわざわざ相手にボールを渡すような行為でしかない。

「剣城を入れた甲斐もなかったようだな」
「っ、」

龍崎がボールを足で押さえながら言えば、剣城の表情には焦りが走った。

『どうして…』
「(“アルティメットサンダー”は敵陣に落ちたボールから衝撃波が放たれる事で完成する必殺タクティクス…何故成功しなかった…?キック力は上がってる筈なのに…!)」

幼馴染である悠那ですら分からなかった。神童はまるで自分を追い詰めるように考えた。
心配そうに天馬は剣城を見る。剣城はそれでも諦めず、今度こそ決めると言って再びチャレンジをする事にした。それを聞いた天馬と神童も頷いた。
神童は龍崎からパスが回った洞沢からボールを奪い、先程と同じように神童のかけ声でバックパスを始めた。

「“アルティメットサンダー”!!」

振り返ってエネルギーの溜まったボールに自分の足をぶつける。その瞬間、脳裏にはやはり優一の姿が出てきた。リハビリを懸命に頑張り、歩く事を諦めていない兄の姿。
無意識に優一の為と、剣城はボールを蹴り返そうとしていた。

「こいつでどうだーっ!!」

先程と同じように帝国のDF陣へ目掛けてボールを叩き込んでみるが、ボールはエネルギーを纏いながら少しだけ回転してはどこかへと跳ねていく。
また不発だった。そのこぼれ球は再び待ってましたと言わんばかりに足でボールを踏みつける龍崎。フッと剣城に笑えば、焦りを見せる剣城の姿。

『――まさか、』

先程の失敗と今の失敗。悠那の頭の中には一つの疑問がぶつかった。
さっき、話していた時に微かに嗅いだ事のある自分の嫌いな薬品の匂い。あれは病院独特の匂いだった。
そして、もう一つ。先程の剣城は自分の兄の為に、と言っていた。つまり、剣城がこの会場に来る前に居た場所は、

――優一の居る病院。

「また…何故だ?」
「チッ!」
「ちゅーか、どうなってんの…?」
「まさか、手を抜いてたりするとか…」
「そんなっ!?」

信じられないと言わんばかりに呟く神童。ベンチで座っていた倉間のどこから来るか分からない苛立ちからきた舌打ち。浜野の分からないと言わんばかりの言葉。焦る剣城を見た速水がまさかと呟けば、信助は驚きの声を上げていた。
剣城が入っていけると思われた後半戦だったが、どうやらそれは違っていたらしい。

「剣城…」
「アイツ、雷門を負けさせる為にわざとミスさせてるんじゃ…」

不安そうに剣城を見る神童に対し、ベンチで座っていた倉間がついにそんな言葉を言ってしまった。嘘を吐いてまで彼をフィールドに入れたのが間違いだったのだろうか、倉間は無意識に作った拳を力強く握り締めた。
そんな不穏な空気が再び漂い始めた。

「わざわざそんな事しなくても、間違いなく倒してやるよ」
「っ、」
『うっさいなあ』
「あぁ?」

そんな思考が倉間の中で生まれていた頃、暫く黙って顔を俯かせていた悠那。逸見が焦りを見せる剣城を嘲笑いながら言った言葉を、悠那は小さく呟いた。その呟かれた言葉は逸見に聞こえいたのか、どこぞの不良みたいに聞き返してきた。
だが、そんなのお構いなしなのか悠那は顔を上げて睨む訳でも笑う訳でもなく、逸見に振り返った。

『私達がアンタ達を倒してやるよ』
「…やってみろよ」

そんな表情を見せないような彼女の言葉を聞いた逸見は不適に笑った。

「(違う…俺は本気だ…本気でサッカーを…!)」

――雷門が勝てば、お前の兄の手術費、諦めて貰うぞ

――私が言いたいのは、そこまでして足を治したくないって言ってるの!

――兄の思いが、弟に伝わってないって事。

『京介』

キミはまだ、兄である優一さんの想いが伝わっていないんだね。

…………
………


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