得点差は2点。これ以上離されれば、逆転は難しいだろう。それが分かっていた神童は御門に付いていた。化身には化身という事だろう、だが全ては帝国の予想通りだった。

「化身を防ぐには化身が最も有効。予測済みだ!!」

御門は直ぐに逸見へとパスを出した。
ボールを持った逸見を止めようとする天馬と信助だが、強引に突破されてしまった。
そして、逸仁からシュートが放たれてしまい、天城は反応出来ず、シュートはそのままゴールへと向かっていく。

「そう簡単には入れさせないっ!!」

コーナーギリギリに向かったシュートを何とか弾いて外に出す三国。防いだ瞬間に、ポストへと肩を強く打ったのか、三国は顔を少しだけ歪めた。
皆の体力が限界に近い中、そこで長い笛の音がフィールドに鳴り響きだし、前半が終了した。

…………
………

「ちゅーか、何とか2点で済んだなあ…」
「でもこのままじゃ勝てないですよ…せめて“アルティメットサンダー”を成功させないと…

……ぁ、」

浜野に続き、速水は口を開くが、自分の発言に小さく声を上げ、倉間を見た。
倉間の顔を見てみれば、顔半分しか見えていないが、確かに悔しさで歪んでいた。“アルティメットサンダー”を打ち返せない自分に苛立っている。FWとして、自分がやらなければならない役割なのに、皆へと負担をかけてしまった。
そんな倉間の元に天馬が向かった。

「倉間先輩、もう一度挑戦しましょう」
「…天馬、」

倉間は少し驚いた様子で天馬を見た。真剣そうな天馬の表情に倉間は何も言えなくなった。だが、天馬の挑戦しなきゃ何も始まらない。お願いします、と頭を下げながら言われた言葉にどこかプレッシャーを感じたのか、直ぐに顔を背けた。

「これだけやっても上手く行かないのに、どうやって成功させるんだよ!!」

倉間は天馬に背を向けて、怒鳴るように言い放った。練習でも神童と交代しながら頑張ってタクティクスを成功させようとしていた。だけど、上手くいかずにぶっつけ本番に賭けた、
だが、本番でもまた挑戦しているにも関わらず成功出来ていない。もちろん、神童も倉間も手を抜いている訳じゃない。どうしても、あの四人分のエネルギーが溜まったボールを蹴り返せ無いのだ。

「諦めるな!!」

そんな様子を見ていた円堂がバインダーから目を離し、倉間にそう言った。それを聞いた倉間は少しだけ肩を跳ね上がらせて、円堂の言葉へと耳をやる。

「諦めない奴にだけ掴める物がある」
「…っ、」

諦めていないからこそ、自分達は今までチャレンジをしてきたのだ。諦めないからと言って今更神童や、倉間のキック力が上がる訳がない。円堂がそう訴えるも、今の状態が状態なので皆の表情は晴れなかった。
倉間もまた、目を逸らしてしまった。

「(…どうすれば、)」

もう、諦めるしかないのか…
と、皆がそう思った時だった。


「俺を出せ!!」


どこからか、酷く聞き覚えがあるものが聞こえた。正直、神童達にとっては口を開けば嫌味しか出て来ないような声。

「剣城…!」

だが、今ではそんな声も皆の不安を吹き飛ばすようにも聞こえた。天馬は驚いたような声を上げれば、帝国側も剣城の存在に気付いたようだ。雷門のベンチ側へ滑るように言ったのは、珍しく焦った表情を浮かばせていた剣城。そんな姿を見た悠那は横目で見ながら小さく呟いた。

…バーカ

「俺を試合に出してくれ!!」

この言葉に悠那以外、全員が驚いた。
悠那は寧ろタオルを頭から被っていて表情は見えないが、口角を上げて嬉しそうにしている。
今まで万能坂戦以来、練習に来なかった彼がこんなに焦って皆にこう訴えてきているのだ。驚かない方が難しいだろう。だが、そんな彼に神童は口を開いた。

「……今度は逃げないのか」

沈黙の中に響いた神童の声は、少しだけ棘のある言い方だった。
もう、違うよね。
悠那はスポーツドリンクを飲みながらそう心の中で聞いた。すると、剣城は間さえも入れないで直ぐに答えた。

「シードじゃない、一人のサッカープレイヤーとして…

頼む!!」
「「「っ!!!?」」」

その言葉にまたもや動揺した。無理もない、今まで自分達を嘲笑い、バカにしてきた彼からは考えられない発言だったのだ。いくら万能坂戦の時があったとはいえ、やはりどこか違和感があるのだ。しかも、シードではなく一人のサッカー選手としてこの試合に挑みたいという彼の言葉。
あれだけフィフスセクターに忠実だった彼が、自ら裏切るような事を言い出した。

「剣城…」
「――信用出来る訳ないだろ!!」

だが、倉間はそう簡単に剣城を許したりしなかった。今まで剣城がして来た事を思い出せば、それは倉間達選手にとってもギリギリの綱渡りのようなものだった。体力を奪われ、精神力さえも簡単に奪ってきた剣城。部員だってギリギリ残ったのだ。剣城に痛めつけられた事実はそう簡単に忘れられる訳がない。
例え、フィフスセクターからの指令だったとしても、剣城はまた自分達を騙すつもりじゃないのか、という疑い。
これだけの疑いがかけられるのも、剣城が自分自身に嘘を吐き過ぎたからかもしれない。

「円堂監督…」

葵が不安そうに円堂を見上げる。剣城にされた事は忘れなどしない。葵もまた、大切な友達を直接ではないが傷付けられたのだ。
だが、円堂は変わらない表情で口を開いた。

「…決めるのはお前達だ」

円堂がそう言った後、ベンチは再び静まり返った。

『――っね、狼少年って知ってる?』

また静かになるベンチで、今度は悠那の声が響いた。さっきまで喋っていない彼女の口角は上がったまま。完全に疑問系の問いかけだった。だが、悠那は答えを聞かないと言わんばかりに、ドリンクをベンチに置いて、剣城に近付いていく。

『“狼が来た”っていう嘘を言い続けて、最終的に本当の事を言って、誰にも信じて貰えず狼に食べられちゃうって話』

誰の言葉も入らせないように、楽しそうにタオル越しに語り出す悠那。表情は見えなかったが、口角は相変わらず笑っていた。

『京介が、もしその少年の立場だったら、私達は村の住民かな〜、何度も何度も騙されて、京介に遊ばれる。そりゃあ、皆カンカンだよ』

最初はシードとして生きる剣城。次々と倒れていく雷門達。
悠那は物語を今までの事を思い出しながら当てはまらせていく。狼少年と、自分と皆に嘘を言い続ける剣城は少し似ているのかもしれない。皆はただ、黙ったまま悠那の言う、狼少年の話を聞いていた。

『それで、京介は信用を無くして、フィフスセクターっていう狼に食べられちゃうんだ〜』
「……」

あははっと笑いながら言う悠那。そんな彼女に剣城は何も言わず珍しく話を聞いていた。円堂もまた何も言わず、物語の結末を聞いていた。狼少年の結末は、確かそこで終わる筈だ。やはり、剣城も皆に信用して貰えず狼少年のようになってしまうのだろうか。
すると、悠那の口角がそこで下がった。

『でもね、』

そう呟いた悠那は全員が顔を俯かせる中、一人だけ頭上に見える大空を見上げた。空は相変わらずの碧さで、流れる雲もゆっくりと動いていた。

『私が京介を助けてあげるんだ』
「「「!!」」」

悠那の言葉に部員達は予想外と言わんような表情を浮かばせる人も居れば、小さく微笑む人も居た。俯かせていた顔を悠那に向けてみるが、相変わらず表情は見えなかった。そんな悠那を円堂はニカッと白い歯を見せながら笑った。

『何度も何度も騙されたって、私は京介の言葉を信じて京介を助けに行くよ』

もし京介が狼に食べられそうになったら、

『私が、狼に手足が噛み千切られようとも…京介を、狼から助ける』

完全にフィフスセクターの元になってしまったって、私は京介が目を覚ますまで殴ってやる。
フィフスセクターに戻ってしまうなら、絶対止めてやる。
悠那はそう言うなりタオルを頭から取り、左手をグーにして剣城の前に突き出した。意外な物語の結末になってしまった。

「ユナ…」
『言ったでしょ、私がさせないって。信じてたよ、ずっと』

信じるんじゃない。私は、京介を信じてたんだよ、ずっと。そう言って悠那はやっと剣城にニコッと笑いかけた。
そんな言葉に剣城は何故か心が軽くなるのを感じられた。そして、悠那が言っためい一杯の嬉しいを表現する言葉、

『遅いんだよ、バーカ』
「…うっせえな、バーカ」

突き出された拳に剣城は自分の拳を軽くぶつけた。
そんなやり取りだが、これが彼女達なりの幼馴染みの在り方だったのだ。

「お、俺は信じてる!信じるよ!!剣城を信じます!!」

天馬が少し興奮しながら悠那と同じ住民へとなった。そんな彼の言葉に、隣に居た信助や剣城もまた驚いていた。だけど、やはり天馬にもちゃんとした理由があるのには代わりない。
だが、それを聞いた倉間は表情を崩さずにポツリポツリと言葉を紡いだ。

「剣城はいつも俺達を苦しめて来た。前の試合で少しは信じられるかと思ったが、その後は練習にも来ない、今日の試合には遅刻する。それで信じられるか!!」
「信じます」
『天馬…』

天馬は倉間の言葉に何の迷いもなく即答した。

「思い出して下さい、剣城のプレーを。サッカーが好きじゃなきゃあんな凄いプレーは出来る筈ないです。だから俺、信じます!!」

その言葉に剣城は何とも言えない表情だった。真っ正面からというのもあるが、悠那といい、天馬といい、彼等の頭は単純過ぎている。それを知ってか知らずか、天馬は京介を見て頷いた。

「俺も信じる」
『「キャプテン…!」』
「うん!!」

神童に続き、信助も力強く笑顔で頷いた。そして後から三国、速水、浜野、天城、車田、霧野と笑顔で頷いて剣城を受け入れていった。

「チッ、仕方ない…

俺はさっき足を怪我した。剣城、代わりに出ろ」
「!」
『「先輩…!」』

皆に背を向けながらそう言った倉間。足元へと目線をやれば、これはまた怪我をしていますと言わんばかりにワザとらしく右足を爪先だけ地面につけていた。直ぐに剣城を出す為の言い訳だと分かった天馬と悠那はお互いに顔を見合わせるなり、小さく微笑んだ。
剣城の方をチラリと見てみれば、彼もまた唖然とするも直ぐに真剣な顔に戻した。

「少しでも変な動きしたら許さないからな!」
「剣城、出ろ!」
「はい」
「頑張ろうぜ!剣城!」

倉間の言葉に剣城は頷き、円堂の言葉には返事を返した。天馬の頑張ろうという言葉に少し笑いながら剣城は頷いた。
そこまでは、良かった。

「京介が笑ったあ…」
「っ!?」

悠那の言葉に、天馬と信助も「ホントだーっ!!」と面白そうに見ていた。キャイキャイと騒ぐ三人に若干苛立ちを覚えるものの、何故か心は軽かった。

『人騒がせな狼少年だったね』
「お前も人騒がせな住民だな」

二人はそう皮肉っぽく言い、後半が始まるのを待った。話している途中、あの病院独特な匂いがした気がした。

…………
………


prevnext


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -