…………
………

『うっわ…』

音が響いてきた所をそのまま真っ直ぐ進み、やっとそこらしき所に着いたのはこの学校に入ってきて目に入ったグラウンド。
そこには悠那がいつも目にしている男の子と、不良みたいな格好をした少年がサッカーグラウンドのど真ん中でボールを取り合っている所だった。グラウンドは自分がさっき見た時とは違い、不良少年から道標みたくゴールまで伸びる焦げ目。ゴールネットは若干焦げた跡が残っており、きっと自分が聞いた音の元となった跡に違いないと確信出来た。
何故こんな風になっているのやら、と思いながら視線を徐々に下ろせばベンチに目が行った。そこにはチームらしき人達と顧問らしき女の人が居た。チームの人達の腕やら足やら体の所々を見る限り怪我をしているらしく、かなりボロボロだった。

『あの、何があったんですか?』

周りを見て悠那は近くに居た恐らく自分と同じ新入生だろうその少女にたじろぎながらも聞いた。その少女は土手越しに半目ながら目の前でボールを取り合う少年達を見ながら悠那を横目で見た。そしてその視線を再びグラウンドに戻す。相変わらず天馬はあの不良少年に遊ばれていた。

「なーんか、あの不良君があの少年に勝負挑んだらしいよ?」

サッカー部を賭けた。
少女は目をグラウンドにやりながらそれだけ言った。悠那はふうーん、とこの場に合わない声を出しながら、グラウンドを見た。
目をやれば、天馬は限界が近付いたのか、地面に尻餅を付きながら肩で息をしていた。

ガコンッ…

『?』

すると直ぐ近くにあったゴミ箱の中が動いた。そちらを見てみれば、ゴミ箱の中に先程自分が使っていたボールと同じ形をしたサッカーボールが。何故こんな所に入っているのか、サッカー好きにとってはこれを見ていてあまり気持ちの良いものでは無い。悠那は眉間に皺を寄せながら、ゴミ箱に入っているボールを取り出した。少しだけ汚れが付いたボールを手で払い、そのまま目線をグラウンドに移した。
すると、不良君(仮)が何か一言言い、ボールを片足に乗せた。ベンチに居た人達が何やら騒ぎ始める。
何かするつもりなんだ、あの不良君。

「“デスソード”!!」

黒に近い藍色のオーラを纏ったボール。そのボールは不良君が腕で殴るように触れば、一直線に天馬の方へと向かって行った。
天馬といえば、ヨロヨロになりながらも直ぐに立ち上がり、何かを叫んで向かって来る必殺技を背後から何やら黒い靄を出しながら頭で受け止めた。若干痛そうだなーと思いながらも内心は結構驚いた。

「……と、取った…!」
「(…何だと…?!)」

頭から跳ね返ったボールは天馬の近くに転がって来た。必殺技が頭に当たってくらくらしているのか、フラフラしながらもそのボールをちゃんと足で踏みつけた。数秒何が起こったか理解していなかった天馬だったが、徐々に実感が湧いて来て、嬉しそうに言った。そんな天馬を不良君は先程の余裕そうにしていた表情からは思えない程に目を見開いて信じられないと言わんばかりに驚いていた。
今まで無理だ無理だと言っていたサッカーチームのメンバー達もその様子に唖然としていた。

天馬が不良君からボールを取った(或いは奪った)と言う事は、不良君が自分で言ったであろう約束。つまり天馬が勝ったらサッカー部はそのままという約束が守られるのだ。それを理解した顧問の先生であろう女の人は手をパンッと鳴らしながら喜びを表した。
天馬の勝ち。天馬は自分の手、いや、足でサッカー部を救ったのだ。

『ナイス天馬!!』

「…これでサッカーが出来る!」
「サッカーサッカーうぜぇんだよ!!」

天馬の勝利に喜ぶ悠那、ベンチで喜び合うサッカー部員達、そして大人ながらも子供みたく笑う先生。はしゃぐ天馬。だが、それが気に食わなかったのか、不良君は天馬に向かって思いっ切り蹴り出した。そのボールは先程の必殺技とは違い、迫力さは無いが勢いだけは必殺技に負けず、天馬に迫って行った。

『天馬!?』

危ない!そう悠那が叫ぼうとした瞬間だった。自分の顔の横から風を切るように何かが飛んで来た。出掛かった言葉を飲み込み、その何かの行方を目で追えば、今不良君が蹴ったボールに勢いよく当たり、ボールの軌道を変えた。天馬の目の前で軌道を変えたボールは顔の横スレスレで通り過ぎ、何とか天馬に当たらずに済んだ。

「…っ!」
「え…?」

『―あ、』

当たらずに済んだ天馬を見て、ホッと一息を吐いた悠那はボールが来たであろう自分の後ろを振り返った。
振り向いた直後、風が吹き自分の髪を揺らし視界を塞いでしまう。自分の髪が目に入らないように手で髪を抑えてそちらを改めて見れば、黄色と青が目立つ中、赤い何かが見えた。

「―お前達!サッカー部の神聖なグラウンドで何を騒いでいる!」

ああ、確か彼の名前は…

「神童君!」

土手の上で勇ましく立つその姿は凛々しく、サッカー部のキャプテンであろう神童。後ろには同じユニフォームを着た恐らくこの神童のチームのメンバーである人達だろう人達が居た。角度的に天馬達はこの人達は見えないとは思うが、そのメンバーの中には先程神童と居たツインの人も居た。…この人達今の状態を変えてくれるのだろうか?悠那は止んだ風と共に手を下ろした。

「あの人は…」
「フンッ、やっと出て来たな…」

状況が分からない天馬に比べニヒルを浮かべた不良君。この人達を待っていたような口を叩くが、その為に何人もの怪我人を作るとは、かなり傍迷惑な話しだ。このサッカー部達もサッカー部達だ。何故もう少し早く登場出来ないのだ。とは、思ったが元はと言えば自分があそこでモタモタ話しなんかしてたから仲間を呼ぶのが遅れたんだな、と少し反省。だけど、もう少し早かったら天馬達が怪我をする事は無かった筈。

「俺は、雷門サッカー部キャプテン神童拓人!そしてここに居るのが…

雷門イレブンだ!!」

「ええ…っ!」

『……』

話しは自分がボーっとしている内にどんどん進んでいた。



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