「やはり神童さえ押さえれば、無力化出来ます」

今まで起きていた目の前の光景を見るなり鬼道の傍に居た佐久間そう言ってきた。確かに、先程の神のタクトや今の攻撃。全て神童の指示により行われた作戦だったが、それは帝国には通用せずにいた。
黙って見ていた鬼道は、笑みを止めて静かに呟いた。

「…攪乱しろ」

小さく呟かれたそれに、佐久間は躊躇もなくただ「はい」と答えるだけだった。そして彼の視線は鬼道から、フィールドに立つ帝国の選手へと行った。

「総員、オペレーション“δ3(デルタスリー)”だ!!」

佐久間のその指示を聞いた御門は「了解」と口角を上げながら言って、戻って行く。そんな彼等を見ていた鬼道はなにやら誰かの視線を感じていた。そちらを見てみれば、悠那が鬼道を見ていた。
悠那は口角を上げ、口パクで何かを言い、ポジションへと戻っていった。

「(負けない、か…)」

こちらはまだ雷門の知らない作戦を指示をしたというのに彼女のあの勝利を信じた笑み。まだ自分にも笑みを見せてくれるのか、と鬼道はふっと少し笑みを零した。
変わってはいないな、あの負けず嫌いは…

帝国学園は左右に選手を分け、中央をがら空きにするという大胆な布陣にして来た。

「何をしようとしてるんだ?」
「(鬼道…)」

自分達はナメられているのだろうか、円堂は真剣な顔でフィールドを見ていた。
帝国側の選手達が左右に行ったのを見て、雅野は龍崎にパスを出した。

「皆、ディフェンスを固めろ!!」
「「「はいっ!!」」」
「(“アルティメットサンダー”が完成するまでゴールを守るんだ…!!)」

警戒するように神童は皆に指示を出す。信助は完成されるのか分からないタクティクスを信じて、急いでDFへと入った。
上がってくる龍崎に倉間が止めようと近付くが、成田のいる逆サイドにパスが通ってしまった。それから速水の頭上を越えるパスを佐々鬼に出した。両サイドを使うロングパスに雷門は翻弄されていた。

「神童が前線に上げてしまえば中盤でゲームメイクが出来ず、防戦一方になってしまう」
「…これが雷門の弱点か」

鬼道は表情を崩さず、手を重ねながら試合を見た。すると、逸見へとセンタリングが渡ろうとした。

「貰った!!」

ボールはまだ高い位置。それでも逸見は霧野と車田をジャンプで交わし、ヘディングの体制になった。三国もシュートされると悟ったのか、自然に構えた。

「(今日までずっと練習して来たんだ…!!止めてみせる!!)ってぇぇぇい!!」

気合いを入れるようにかけ声を上げながら、信助は逸見のように踏み込んで飛び上がっていく。高さはお互いにほぼ同じ位置。信助のジャンプ力なら直ぐに奪えると思われた矢先だった。

「邪魔だ!!」
「うわぁっ!!」

跳んだまでは良かったが、信助は逸見に肘で弾き飛ばされてしまった。だが、信助のおかげで的が外れ逸見のヘディングはゴールポストに当たって弾かれた。
腕を伸ばして拳で弾こうとしていた三国だったが、ズレたのを見て安堵の息を吐いた。
ボールはそのまま転がっていき、フィールドの外へ。試合はそこで止まった。

『…あれ、』

信助のジャンプって、あんなにぎこちなかったっけ…?
ボールがゴールに入らなかったのは良かった。それは信助のおかげである。だが、悠那はどこか納得のいかない表情で地に伏せている信助を見て違和感を覚え始めた。

「次は無いと思いな」
『(んー…)』
「信助!大丈夫か…?」

ヘディングシュートを外した逸見が地面に手を着く信助を見下げながら不適に笑いそう言った。そして、自分達に背中を向けて立ち去った後、天馬と悠那は信助に駆け寄った。
見た目的にはどこも怪我をしていない。肘で押されていたものの、彼も手加減をしていたのだろう。

「うん…(どうすれば止められるんだ…!!)」
『――あ、』

そっか…プレッシャーだったんだ、信助。
悔しそうに顔を歪ませる信助。天馬の心配にも浮かない返事で返すが、表情はそのままだった。怪我をしたからではないその表情は信助自身さえ分からない事。そんな彼の小さな背中を見た悠那は密かにエールを送った。

その後も雷門は防戦一方となってしまい、中々攻め切れない状況だった。ゴール前まで来た選手からボールを奪い、速水にパスを出すが、奪われしまう。そして、再び逆サイドの逸見にパスが出た。

『はあっ!!』

悠那は身体を思いっ切り間に倒して力一杯に踏み込んだ。逸見の前を横切る際にボールを奪い、サイドラインギリギリで止まった。足元にはしっかりとボールが踏まれており、それを見た皆の動きが止まりだした。

「何?!」
『…ハァ、ハァ…』
「(だが、体力は削られてるらしいな)」

ボールを奪われた事に意外にも驚いた逸見だったが、肩で息をする彼女を見た逸見は、冷や汗を掻きながらもニヤッと笑った。

『浜野先輩…!』

ボールを奪いに来た御門を交わして、浜野にパスを出す悠那。パスは上手く繋がり、浜野はボールを速水にパスを出した。これでなんとか再度タクティクスに挑戦出来た。
浜野から貰ったボールの勢いを止めずに速水は更にそのボールに自身の力を加えて霧野へとパス。更に霧野と天城のエネルギーが溜まったボールは四人の間を通る神童へと渡される。ここまでなら、先程と同じだった。

「“アルティメットサンダー”!!!!

っぐぁぁああっ!!」

再び“アルティメットサンダー”に挑戦するも、やはり神童はすさまじい威力に慣れないのか、また吹き飛ばされてしまった。そして、ボールは再びフィールドの外へと飛び出していき、ホイッスルが鳴った。

「どうするんだ神童、やっぱり守り切れないぞ?」
「“アルティメットサンダー”もダメだったしなあ…」

試合も一時止まり、皆で集まって短い時間で作戦を考えていた。頼みの綱であったタクティクスも、自分達の首を絞めるだけで何の役には立てていない。そう感じていたのか、霧野と浜野は難しそうな顔をして、考え直していた。

「……」

彼等が真剣に作戦を練る中、信助は後ろの方で無言のまま悔しそうに空を見上げた。
それを、悠那は何を言う訳でもなく横目で見た後、直ぐに視線を外した。


…………
………

――パサッ…

場所は変わり、雷門総合病院。どこかの病室から流れてくるテレビ。そのテレビに映っているのは中学サッカーの試合だろう、選手達が必死にボールに食い付いていた。これが、他人から見たらただの試合に過ぎないが、これは彼等にとって重要な試合だったのだ。
そのチャンネルを点けながら自分の頭に乗せていた漫画を落として、横目に見ていた青年が居た。
今は一時的に止まっている試合だが、どちらが攻めているのか攻められているのか彼には一目で分かった。

「うっわーピンチじゃん、雷門」

雷門のピンチ。青年はそれが分かった瞬間に今度は体ごとテレビに向けて、そう呟いた。体を傾けた所為か胸元にあった漫画は落ちてしまった。だが、そんなのは気にせずに青年はテレビを見続ける。
今はまだお互い0ー0のままだが、完全に攻められているのは雷門の方だ。その証拠に、余裕の表情を浮かべる帝国に対して雷門は誰もが厳しい表情を浮かべている。守るのが精一杯で攻める事が出来ていなかった。
そんな彼等の様子をテレビから見ていた青年は呆れるような表情をしてから、溜め息を吐いた。

「頑張ってもらわねーとな、

雷門には」

青年は画面の端っこに映る女の子の選手を見ながら、そう呟くように言うと、体をそのまま仰向けにした。そして、胸元の横へと落ちた漫画を掴みもう一度自分の顔へと乗せ直し、すぅすぅ、と寝息をたてながら浅い眠りについた。

…………
………


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