『拓人先輩!』

帝国学園との試合が開始され、雷門はいきなり攻められていた。悠那は御門へのパスをカットして、そのまま苦し紛れに神童にパスを空中から出す。神童へとパスが通ったのを見た悠那直ぐに駆け上がった。少し上がった後、神童は天馬にパスを回そうとするが、今度は龍崎がそのボールをカットした。流石に雷門の流れはここまでで呆気なく終わってしまった。
やはり、流れはそう簡単にくれないらしい。龍崎からの御門へのパスが今度は繋がった。

「止めろォ!!」

DFの四人に指示を素早く出す神童。霧野は御門に、それぞれがDFに付いた。だが、こちらに上がっている人数が多い為、一人だけマークが外れていた。
そちらに目を移せば、佐々鬼がノーマーク。
御門がそれを見逃す訳がなく、佐々鬼に躊躇なくパスを出した。しまった!と、神童や天馬もまた急いでそちらへと戻っていく。

「させるかあー!!」

天馬はディフェンスラインまで持ち前の俊足で戻り、勢いを止めずに、ドリブルで上がっていた佐々鬼からスライディングでボールをラインの外に出した。
それを見た悠那は、ナイス!と片手を上げれば、天馬も同じように手を上げ、ハイタッチをした。ボールを弾かれた佐々鬼は舌打ちをしながら自分のポジションへと戻って行く。それを悠那は感じ悪、と言わんばかりの表情で見ていた。

「やっぱりどうしても攻め込まれちまうな」
「これは厳しいド」
「守って凌ぐしかないか…」

試合が一時的に止まりだした頃、DFである車田、天城、霧野は、やはり無理だと言わんばかりに話していく。それは同じDFである悠那も感じていた。
いくらDFであっても、あれだけのパス回し、あれだけのスピードには付いて行けなかった。DF四人でも、これはかなり辛い状態だ。だが、神童はそんな彼等に対し変わらないあの勇ましい表情でこちらへと目線を移してきた。

「…いや、守っていても勝てない。まして相手は帝国学園。勝つには…“アルティメットサンダー”しかない!」

神童の言葉に速水、倉間、車田、霧野が驚いた顔をした。無理もない、そもそもアルティメットサンダーは練習でさえ、一回も成功していない必殺タクティクスなのだ。蹴り返すどころかこちらが力に耐えきれず跳ね返されてしまう。最強のストライカーも居ない、練習も成功していない、この状態でこのタクティクスを使うには無防備過ぎる。

「この状況でやろうって言うのか、“アルティメットサンダー”を…」
「無茶だ!この人数で帝国の攻撃を防がなくちゃいけないんだぞ!?」

車田や霧野もまたそう考えていたらしく、無理だと神童に訴えかけた。11人居ると言っても、相手の帝国は攻撃も守りもすさまじい。その強さは10年前とは変わらない。今の雷門では守るだけで精一杯だ。そして、何よりボールも中々奪えないでいる。攻撃する余裕なんて、こちらにはなかったのだ。

「運動量でカバーするしかない。少ないチャンスで決める為にもボールを取ったら直ぐ“アルティメットサンダー”だ!良いな!!」
「だけど、あの必殺タクティクスは未完成だぞ、フィニッシュは誰が蹴るんだ」

倉間のその言葉に神童は覚悟を決めたのか真っ直ぐに倉間を見つめてきた。その目は、希望に満ち溢れているような目。彼は、このタクティクスに賭けているのだろう。
そして、次には皆の驚くべき事を言い出した。

「俺が蹴る」
「神童…」

練習でも成功しなかったタクティクス。FWの倉間ですら失敗に終わったままだ。
神童も自分でも分かっていた。自分じゃこのタクティクスを成功する事は無いだろう。神童の思いが三国にも伝わったのか、皆にゴールは任せとけと伝えてきた。そこから、皆のやる気が一気に上がった。

『私達はそのチャンスを作ろっかっ』
「あぁ!走って走って走りまくって、相手のボールを奪ってやる!」
「天馬、悠那…あれだけ必殺技の練習をしたんだ、僕だって…!」

チャンスを作ろうという悠那の意見に、天馬頷き気合いを入れ直す。その二人の様子を見ていた信助は自分に言い聞かせるように静かに暗示かけ、試合開始を待った。
試合は帝国学園からのスローインで開始される。緊迫な空気の中、角馬の実況と共にホイッスルが鳴り響いて、帝国のボールで試合が始まった。
速水がスローインされたボールをヘディングでカットし、直ぐに神童へとパスを出した。

「浜野!!」

速水から貰ったボールを、神童は浜野にパスを出してから練習と同じく逆走して行った。

「神童!」
「やるぞ皆!」

“アルティメットサンダー”をやる。その言葉に霧野、浜野、速水、天城の顔に緊張が走った。だが、迷っていても次に進めないのも事実。練習ではダメだったが、本番で成功する事を祈ろうではないか。
浜野にボールが渡ったのを見て神童は今の内に、指示を出す事に。

「倉間、天馬、悠那!!お前達は上がれ!!」
『「はい!!」』
「神童…」
「よーし、神童!」

天馬と倉間、悠那に指示を出した後、浜野が向かって来た敵を交わして速水にパスを出した。タクティクスをやる合図。ボールを受け取った速水は霧野へと向かってバックパスを繋げていった。

「あのフォーメーションは…」
「やる気だ、“アルティメットサンダー”を…」
「ほお…」

そんな彼等の様子を観客席で見ていたのは青山と一乃。二人は見覚えがあるフォーメーションに思わず声を漏らした。そして、自分達も何故か観客席にいながらも緊張している。
鬼道もまた、ベンチに座りながらそのフォーメーションに少し興味を持っていたらしく不適に笑みを浮かべながら様子を伺った。

「神童!」

四人分のエネルギーが溜まったボールが背中を向けている神童に迫ってくる。最後は神童が蹴る事になっている。振り返って、改めて自分に迫る四人分の膨大なエネルギーを溜めたボールの勢いに息を飲んだ。

「行くぞ…!“アルティメットサンダー”!!」

そのボールを蹴り返そうと神童は勢いよく足をボールにぶつけだした。すると、膨大なエネルギーが神童の足に襲いかかり、エネルギーが反発していく。
ボールを受け止める事は出来たが、やはり返す事が出来なかったのか、神童の表情は険しくなっていた。そして――…

「うわぁぁっ!!」

エネルギーに負けてしまい、神童は練習の様に吹き飛ばされてしまった。しかし、ボールは以前よりも前に進んでいた。フィールドを跳ねるボールはまだ生きている。
跳ね返された神童は反動で転がっていく。その時に頭をぶつけないよう、庇うように受け身を取り、直ぐに起き上がる。神童の居る距離ではボールは取りに行けない。そこで、先程上がらせた天馬に指示を出した。

「まだボールは生きてるぞ!!押さえろ!!」
「あ、はい!!」

神童は何とか天馬に指示を出した。
天馬は弾かれたボールを直ぐに押さえる。だが、それをみすみす渡す帝国ではなく、飛鳥寺がボールを奪いに来る。

「“そよかぜステップ”!!

ユナ!」
『うんっ』

それでも飛鳥寺を必殺技で抜いた天馬は直ぐ傍で上がっていた悠那にパスを出した。ボールを貰った悠那はそのままドリブルをして上がって行く。

「これ以上の突破は許さん!!」
「攻撃する!!」

すると、悠那の前に先程、倉間のシュートを止めたであろう大瀧ともう一人のDFの成田が来た。

舐めないでよ、
私だってやる時はやるんだから

不適に笑った悠那は走るのを止めずに両足でボールを挟み、宙へと跳んだ。それはまるで鳥のように跳ねて、蝶のように華麗に舞っていた。
空中を舞う悠那は逆様になりながら、視線を相手から離さずに地面へと足を付けた。
空中で一回転した悠那は地面に着地した途端、また上がりだした。

「何?!」
「…スゴい」
「…あ、こっちだ悠那!」
『はいっ!』

皆が悠那から目を離せなかった時、神童は思い出したように上がりだし、悠那からボールを貰った。そして、神童の視線は帝国学園のキーパーへと向いた。シュートを決める“少しのチャンス”が今まさに来た。

「(これで決める…!!)“フォルテシモ”!!」

ゴール前まで上がった神童は、自身の必殺技を放った。決まる、と思ったのも束の間、バシッとグローブに受け止められボールが少し回転して収まってしまった。神童の必殺技を、相手は必殺技で止めずに止めた。絶好のシュートチャンスも虚しく、嘘のように勢いを失ったボールは目の前の彼によっていとも簡単に止められてしまった。

「…神童拓人、この程度か」

シュートを受け止めたキーパーである雅野。
止めたボールを片手で持ち、嘲笑うかのように唖然とする神童を見てきた。それを見た神童は悔しそうな表情を浮かばせる。
こちらは必殺技で挑んだ筈なのに、彼は必殺技を出さないでシュートを止めた。彼のキャッチ力は自分達が想像していたより上回っていたらしい。これでは本当に一筋縄ではいかない。これが、帝国の鉄壁。

「帝国の壁はお前が思っているよりも遥かな高く、熱く、固い。帝国のサッカー、甘く見るなよ?」

不適に笑みを浮かべる彼に、神童は悔しさにまた表情を歪めた。


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