「行くぞ信助!!」

三年生も信助の特訓に付き合う事になり、三国は珍しくゴール前ではなく、天城と車田、天馬と悠那と一緒のDFへと入っていた。そして、準備が出来たであろう信助を見た三国はそう信助に声をかけた。

ゴールキックで鍛えた三国輩のシュート。これを止め先られなきゃ必殺技は出来っこない!信助はそう闘志に火を灯して力強い眼差しをこちらに向けてきた。

「お願いします!!」

「天馬!」
「はいっ!」

信助からの承知が来た瞬間、三国は天馬にボールを渡し、天馬は上がって行く。少し上がった所で天馬は三国にパスを出し、それを三国が蹴り上げる。それを見て、信助はチャンスだと思ったのか、ボールを取ろうと右の方へと移動をするがそれは天城と車田により阻まれてしまった。
それでも信助は必死にボールを取ろうと、ジャンプをするが…

「しまった!タイミングが合わない!!」

ジャンプのタイミングとボールの向かってくるタイミングが合わず、ボールは信助に思い切り当たってしまい、そのまま吹き飛ばされてしまった。

『「信助!?」』

それを見た天馬と悠那は直ぐに信助へと駆け寄っていく。地面で引きずられるように転がって行った信助を心配する二人に対して、信助そんなにダメージを受けていなかったのか、平気だよと苦笑しながらもそれだけ言って直ぐに立ち上がった。

「続けてお願いします!!」

…………
………

信助は中々、感覚が掴めずにボールが上がっては失敗しており、苦戦していた。ボールにはちゃんと高さも届いているし、頭にも当たっている。だが、予想以上厳しかったのか、ボールに当たっては地面へ直ぐに落ちて行った。三国がもう一度ボールを上げて、天城と車田がもう一度信助の前へと立ちふさがった。ここまでなら先程と同じだった。

「たあっ!!」

ボールを取ろうと、必死に飛び上がったはいいが、信助の目の前には悠那が。信助が跳ぶと同時に飛び上がったのだろう。その事で目を見開く信助に対して悠那は宙に跳ねたまま口角をニコリと吊り上げた。

「えぇ!?悠那何で…!?」
『気を抜いちゃダメだよ信助!自分が空中戦をやるっていう事は相手も空中戦で対抗して来る!』

ここで負けたら必殺技どころじゃないよ。と悠那は口角を上げながらそれだけ言ってボールを頭で弾いた。信助と比べればジャンプ力は低いが、身長差で頭までは届いたらしい。悠那が弾いたボールはそのまま地面に何回か跳ねた後、転がって行った。悠那は地面に足を付いた後、同時に地面で尻餅を付いた信助に手を差しだした。信助は打った所を痛そうに手でさすりながら悠那を見上げる。

『空中戦で遠慮はいらないよ信助』
「うん!!」

悠那の言葉を聞いた信助は差し出された手を頷きながら掴み取った。そして特訓は再開しだし、またボールが上がった。信助は何とか頭に当てるが勢いに負けてしまったのかバランスを崩してしまい、そのまま地面へと再び落ちてしまった。

「ハァッ、ハァッ…ダメだ…上手くいかない…っ」
「信助!」
『大丈夫…?』
「うん…」
「少し休憩しよう」

心配して悠那と天馬、三国が信に近寄るが皆の心使いも信助は首を縦に振らずに、まだいけます!と言い張り、休憩をしたがらなかった。そんな信助の姿を見た三国は「よしっ、分かった…」と、勘弁したように言った。信助の気持ちは分からなくも無いが、これでは信助の体も持たないに決まっている。悠那は無理をしようとしている信助に釘を刺すように言おうとした。その時だった。

「天馬ー!しーんすけー!ユナー!ランチタイムだよ――!!」

土手の上から葵と秋が聞こえて来た。そちらを見上げてみれば、二人が手にバスケットを持ち、こちらへと手を振ってきていた。恐らく差し入れに来てくれたに違いない。それを見た悠那達はひとまずここで、休憩をとる事になった。

…………
………

『「「いっただきまーす!!」」』

土手から降りてきた二人はシートを広げ、お弁当も開けだした。お弁当の中身を覗いてみれば、これはまた綺麗に並べられているおかず達。並ぶお弁当を見た天馬達は一斉に弁当に向かって手を付けて行く。運動部の彼等にとっては仕方がないが、かなりお腹が減っていたに違いない。

「美味しいです!」
『「でしょー!!」』

おにぎりを一口食べた信助のその言葉に天馬と悠那が自分の事のように言い張った。秋は木枯らし荘のアパートの管理人であるので、食事ももちろんちゃんと出来る。本当の母親みたいな秋が他人に褒められると何故か誇らしげになる。

「天馬と悠那が言ってた秋姉の味ってヤツだなっ」
『「はいっ」』
「え?何か言った?」
「い、いや!」
『皆美味しいって!』

三国のその言葉に天馬と悠那が照れたように笑って返した。そんな三人の様子が気になったのか、お茶を入れてた手を止めてこちらを向いてくる。それを見た天馬と悠那は慌てて誤魔化すように笑った。本人の前で言うのはやはり、二人にとって少し照れるらしい。だが、秋はそれ程気にはしていなかったのか直ぐに手を動かし始めた。

「そう?いっぱい食べてね!」
「「はーい!」」
「って、ユナ!?その手、どうしたの?!」
『え?あ、これ?』

おにぎりを持つ悠那の手を見た葵は驚いたように見てくる。それに比べ悠那はいつもの様子で手に持っていたおにぎりを食べ始める。いつものように、悠那に誤魔化された葵はムッと拗ねるように眉間に皺を寄せた。そして、悠那の手を無理矢理掴んで葵はよくその手を見てきた。

「真っ赤じゃない…」
『えへへ、ちょっとね…』
「後で湿布貼るから逃げないでね」
『だ、大丈夫だよ!これく「逃げないでね」…あいさ…』

悠那の手を掴みながら黒い笑みを浮かばせてそう言ってきた。手を掴む力もどんどん力強くなって来ている気がする。…何か、段々葵が春奈姉さんみたいになっていくのは気のせいだろうか、と悠那は内心思っていた。

「…っあ、どう?必殺技は出来そう?」

葵と悠那の様子を苦笑しながら見ていた秋は信助にお茶を渡しながら必殺技について進展があったかを訊いて来た。お茶を受け取った信助は少し戸惑いながらそれを一口飲む。秋の期待に答えられるような程、自分の必殺技は進展していない。

「いいえ、まだ上手くいかなくって…」
「信助のジャンプとヘディングが噛み合わなくてさ、」

答えずらそうな信助を見た天馬は信助の代わりに答える。すると、秋はうーんっと顎に人差し指を当てて考える素振りを見せてきた。

「ジャンプとヘディングかあ…二つは欲張りかもね」
「欲張り…?」
「どっちか一つにするって事?」
「ん〜、行き詰まったらシンプルに考えてみると良いかなって思っただけよ」

流石元雷門イレブンのマネージャーだっただけはある秋の意見。何人もの必殺技を見てきて何人もの必殺技の特訓を見てきたのだ。その秋がそう指摘をするなら、その意見も間違いではない筈。それを聞いた天馬達は秋の意見で必殺技を考える事に。

「シンプルにかあ…」
「ヘディングだと、シュートの威力に負けちまうんだよな」
「はい、僕のパワーが足りないのかも…」

信助もどこか自分の力不足を感じていたのだろう。おにぎりを食べる手も止まっており、かなり息詰まっていた。

『信助の場合は足の力が強いからジャンプだけに絞ってみたら?』
「そうだな。ジャンプの脚力を活かしてみたらどうだ?」
「ジャンプの脚力?」

思い出したように悠那の言った案に三国がそれに乗っかきて、真剣に信助に案を出して言った。今までの信助の様子からして、ジャンプ力は皆以上にあった。もちろん高くジャンプ出来るという事は脚力があるからだ。そこで三国がだした案はキックでボールを防ぐ、という事だった。それを聞いた信助は思い出したように、そして嬉しそうな表情を浮かべてきた。

「!そっか、キックならいけるかも!」
「キックで…!」
「でも今よりもーっと高く跳ばないとダメだド」
「…やります。僕絶対に高く跳んでみせます!!」

…………
………

辺りが赤く染まって行く中、信助の特訓はまだ続いていた。信助はDFに来た車田と天城を抜いて跳ぶがボールがお腹に当たって、再び飛ばされしまった。だが、直ぐ分かった事があった。

『信助、ジャンプ中々良くなって来てるよ!』
「もう一度…お願いします!!」
「ああ…!」
「今度こそ、出来るさ!」

悠那の言葉に信助は頷き、三国も天馬も肩で息をしながら信助を励ます。皆の体力も流石に夕方までやれば限界が来ている。それだけ信助の為に頑張っていたのだ。今度こそ出来ると信じてもう夕方だ。普通なら誰もが諦めてしまっている所だが、信助は違いむしろ闘志に火を宿していた。

「諦めるもんか!“何とかなる”“大丈夫”っていつも天馬と悠那が言ってるだろ!」

信助のその言葉に天馬と悠那は何も言う訳でもなくただ黙って力強く頷いた。そして、また特訓が再開する。三国からのボールが上がった。

「今度こそ!!“ぶっとびジャンプ”!!」

車田と天城をジャンプした反動で大きく踏み込み、ロケットのようにボールの所まで行った。空中で体制を立て直し、体を小さくして足の裏でボールをジャンプの様に思いっ切り蹴った。そのボールはゴールネットを突き破りそうな勢いでゴールに入った。

「ぃやったあ―――!!」
『beautifull!!』

天馬は飛び上がりながら大袈裟じゃない?と思う位喜んでいた。悠那もまた喜ぶ天馬の傍で両手を頬に当てながら喜んでいた。「やったな」「今のだよ」と三国、車田も出来たと言うが、当の本人はボーっとしており疑問符を浮かばせていた。

『出来たんだよ!“ぶっとびジャンプ”!!信助だけの必殺技』

悠那が何やかんやで信助より嬉しそうに喜んでいるように見えたのはきっと、気のせいじゃない。それを見た信助は自然と自分の頬が緩んでいくのを感じていた。


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